46 友人候補への見舞い。
『アンバー、友人候補が寝込んでいるらしいのですが、どうすべきでしょうか』
《それは、容体によるかと、どの程度なのでしょう?》
『分かりません、保護者はただ首を横に振るだけで、何も語ってくれなかったそうです』
《それは、かなり難しい状態ですね、其々に》
『はい、ですのでアンバーならどうするのか訊ねに来ました、元気でしたかアンバー』
《はい、お陰様で》
ヒナ様が学園に来て下さいました。
けれど、それはあくまでも私の送り迎えの為。
こうして相談の為に、来て下さった。
『新しい編み込みですね』
《はい、本を読んで、1番下の兄がしてくれました》
『そう知る事や家族は良いモノの筈ですが、件の友人候補は喜んでいませんでした』
《それは、一体何が有ったのでしょうか》
『ざっと言うと意地悪をされていたと思ったら違った、しかも理由が好きだから、です』
《成程》
『アンバーに好きな相手は居ますか』
《いえ、お力になれずすみません》
『いえ、ですがココで謎が増えました、何故私達は好きな相手が居ないのでしょうか。アンバーは原因について何か心当たりは有りますか』
《まだ、そうした知識と、知識を越える魅力的な相手に、出会っていないのかと》
『成程、私もそうかも知れないと思っています』
《あ、その友人候補の方のお年は》
『私達より上で、結婚は出来るかどうかの年齢だと思います』
《成程、では悩み多き年頃の方、なんですね》
『はい、初めて聞いた単語ですが、そうなのだと思います』
《あぁ、コレは1番上の兄が良く言う言葉なんです。きっと、恋を知る様になる悩み多き年頃になったら、僕や家族の相手は大してしてくれなくなるのだろう。って、お洒落をするとそう言って私を抱き締め、少し悲しそうにする時が有るんです》
『あの、野性味溢れる男性の権化の様な方が、そう悲しまれるのですか』
《はい、恋を知れば愛を知り、より大切な家族が出来てしまう。それが悲しいんだそうです》
『家族に家族が出来る事は、良い事では』
《はい、ですけど寂しいんだそうです。まだまだ先の事なのに、既に寂しくなるんだそうです》
『ご自身も、いずれご結婚なさるのでは』
《ですが私が結婚するまで、家に居るんだそうです、長命種ですから》
人種が好きな精霊種の家系に生まれ、私以外の家族の殆どは精霊種。
主な属性はセイレーン属やナイアス属、水に関わり、人種が好きな精霊種。
『家族にまで執着するとは思いませんでした』
《安心出来ないと結婚は考えられないんだそうで、はい、私も少し困っています》
兄達と結婚したいが為に、私に婚約者を宛がおうとしてきた方が何人も居て。
今でも定期的に来るので、兄達が見もせず返すのが忍びなくて、出来るだけお詫びの手紙を出させて頂いているのですが。
それも怒るので、諌めるのが少し大変なんです。
『書き慣れているので字が綺麗なんですね』
《ありがとうございます、かも知れませんね》
『手紙を出す事を思い付きましたが、読んで貰えるでしょうか』
《では、ハガキはどうでしょう?》
『お見舞いに大丈夫でしょうか』
《はい、ですが出来るだけ短文で、お伺いするだけで控えた方が良いかと》
『ありがとうございます、そうしてみます。あ、お土産です、どうぞ』
《ありがとうございます》
『ではまた』
《はい、また》
私は頼られる事が好きです。
家では頼ってばかりだからかも知れませんが、喜んで貰える事が好きです。
コレは、もしかすると精霊の血が少しだけ、関わっているのかも知れません。
《うぅ、申し訳無いのに、返事が出せない》
何か手伝える事は有りますか。
アレから3日、私は部屋に引き籠り続けています。
でもヒナ様は、詳しく訊ねずに心配してくれている。
情けない。
仮にも年上なのに。
本の中の事なら、大概の事は知っているのに。
『ごめんなさい、私が』
「僕も賛成したんだ、ごめん、こんなにも苦しませるつもりは無かったんだ」
《分かる、分かってるけど、ごめんなさい》
家族ともマトモに話せていないし。
頭の中も何もかもがぐちゃぐちゃで。
全然、纏まらない。
いや、本当は分かってる。
分かりたくないから、考えられない。
こんな風になるなんて思わなかった。
向こうの事だって、こんな事にはならなかったのに。
やっぱり自分の事になると、どうしても冷静じゃいられなくなる。
私、冷静じゃない。
当たり前だけど、冷静じゃない。
なら何故、どうして、どう冷静じゃないのか。
嫌だから。
怖いから。
でも、本当にそれだけ、なんだろうか。
『あ、誰かが』
「僕が行くよ、後でゆっくり話し合おう」
《うん》
怖いだけで、本当に私は冷静じゃないんだろうか。
『大丈夫では無さそうですが』
《ううん、確かに大丈夫じゃないけど、話し合いたいと思って》
『そうですか』
ベッドの上で、今にも泣きそうな顔をしていますが。
何故、そんなにも悲しいのか分かりません。
《ハガキ、ありがとう》
『友人候補に聞きました、どうすれば良いか』
《良い友人候補をお持ちですね》
『はい、ですが悩みも増えました。いつどの様な条件になったら友人とすべきなのか、分かりません』
私の悩みの何が影響したのか、彼女はポロポロと泣き始めました。
《鈍感だったり、愚か者な人種が嫌いなんです》
『はい、そう伺いましたが』
《私が、そうだった》
『何故、そう思うのですか』
《だって、好意に気付けなかったから、答えを知れれば直ぐに分かった事なのに》
『私には分かりません、幾ら捻くれていても、もっとアナタに好かれる様に接する事が出来た筈です。なのに彼はしなかった、敢えて、そうしなかった事が全く分かりません』
《私も、でも知ってる、偶に男の子は好きな子に意地悪がしたくなるって》
『何故ですか』
《防衛機制の1つ、反動形成だそうです》
『本来の気持ちとは裏腹な行動をする事により、行動抑制や心的負担を抑える、ですか』
《はい、それと構って欲しいから》
『ですがそれは、無知無能で幼稚な者の場合のみ、では』
《でも、精霊は時に癖の有る行動をします》
『アズールも何か有りますか』
「いえ、特に思い当たる事は無いですが、精霊の性質としては分かります。やっぱり世話をしたい、構いたい気持ちは、精霊の特性とも言えますから」
《ウトゥックは監視する悪霊、では何故、どうして監視するのか》
『興味が有るから』
《その、どう興味が有るかを、深く真剣に考えなかった》
『怖いから』
《何故、怖いのか。何故を何度も繰り返すと、本来なら問題の本質に辿り着く筈なんです、なのにどうしても辿り着かなかった》
『それは何故でしたか』
《解決に利を感じなかった、若しくは損が上回るだろうと思った》
『でも辿り着いたのですよね』
《彼には人種の特徴も有る。人種は不器用で、精霊種と同様に癖が有る、彼は精霊種と人種から生まれた通りの存在だから。だから私の事が本当に好きで、不器用で、私に考えて欲しかった》
『知っている事と理解は違うと分かっている筈です、しかも身を守る為に回避をするのは当たり前、どうして自身を愚かだと思っているのでしょうか』
《条件は揃っていたのに、私は私の為に、相手の気持ちを無碍にした》
『罪悪感ですか、なら間違っています、彼は敢えてそう行動した筈なのですから』
精霊種には知識が有る。
その血脈や種に蓄えられた知識が、其々の体に合わせ引き継がれる。
だからこそ同じ者は居ない。
同じ知識を持つ者は居ない。
《じゃあ、何故》
『今までの会話の中で予測しますが、良く考えて欲しいだけ、では』
暫く考え泣き出すと。
今度は、笑い始めました。
《あんなに頭が良いのに、おかしい》
何だか嬉しそうです。
『嬉しいですか』
《嬉しいし、怖い》
『なら守ってあげます、もし嫌な目に遭ったら記憶を消して、赤の他人の物語としてアナタに渡します』
怖いは良く分かりませんが、嫌な事なのは良く分かります。
嫌な事はどうにか避けたいです。
なら、嫌な事は消す。
全部。
《良いのかな、普通は滅多に消して貰えないのに》
『誰のでも消すワケでは有りません、それと前払いです、私が何か失敗した分の前払い』
《じゃあ、もし何も失敗が無かったら》
『他の誰かに渡しておいて下さい、私は困らないので』




