47 仲人と花見。
ヒナちゃんは久し振りに会うと、と言ってもたった1週間空いただけ、ですが。
とても成長していた。
「凄い、仲人ですね」
『まだ、結婚はしてませんが』
「では仲人見習い、ですかね、幸せな縁を繋げましたね」
『2人は幸せになれるでしょうか』
「不安ですか?」
『あんなに怖がっていたんですし、ネネさんも少し怖がっている事です、もしかすれば野生の勘が警告を出していたのかも知れません』
「でも、失敗しても不幸にはならない。良い案だと思います、消すだけじゃなく記録に残す、とても良い案だと思います」
『ネネさんも消してあげます、そして本にします』
「もし相手が悪かったら、ついでに全世界に配ってやって下さい」
『はい、分かりました』
愛が怖いバンシーと、愛し続けるシルキーの間に育った人種の子は、過保護に育てられ愛を恐れた。
けれど知識を活かし、ヒナちゃんの支えも有って、何とか愛を受け入れた。
「はぁ」
『ネネさんは嫌な目に遭いました、躊躇うのも分かります』
「ありがとうございます」
司書の子と私が違うのは、実際に経験したかどうか。
火傷は怖いけれど、実際に火傷をしたとなると、火への反応は変わる。
しかも、面積が大きければ大きい程、痛みの長さも強さも変わる。
でも今、もしルーイ達に裏切られたら、そう考えると大した事には思えない。
以前の痛みは遥かに小さく、浅く薄い。
けれどもし本当に裏切られたら、今回こそ、殺してしまうかも知れない。
『他に、何か懸念が有りますか』
「もし私が殺そうとしてしまったら、止めて下さい、その前に消してくれると助かります」
『はい、分かりました』
安全装置も有って、直ぐに良く効く痛み止めが有るのに。
まだ、躊躇っている。
いや、この問題は別問題だ。
切り分けて、良く整理しないと。
「それと、そうなったら地獄で暮らしたいと思います」
『はい、大賛成です、全面協力します』
立場の安全性は勿論、逃げ場も有る。
「後は如何に相手を信じるか、ですが、どうして彼女は受け入れられたのでしょうか」
『家族によると考える事、話し合う事が好きだからだろう、だそうです』
「成程、他に何が分かりましたか」
『敢えて秘密にします、少し難しい問題ですから』
秘密。
秘密を持てると言う事は、成長の証でも有る。
「成程、成長なさいましたね」
『はい、成長したと思います』
素直は可愛い。
可愛いは正義だ、と言うのに。
自分は。
本当に可愛げが無い。
「私も、成長したいです」
『出来ます、生きてる限り、人種は成長を続けます』
成長とは何ぞや。
そうです、確かに髪は伸びるし脳の皺は増える。
「ですね」
『お花見は嫌いですか』
「あ、いえいえ、鑑賞に切り替えます」
『はい』
地獄で花見。
国立公園内部に、様々な種類の桜が咲いており。
ヒナちゃんに花見に誘って貰ったんですが、まぁ風流なんです。
皆が明るい色合いの服装で、穏やかに楽しげに過ごしている。
あぁ、少しは休まないと。
知恵熱を出す世界なのだから、少しは頭を空っぽにしないと。
《眠って、しまわれたみたいですが》
ネネさんはボーっとお重をつまんでから、灰色兎を枕に眠ってしまいました。
『飽きてらっしゃるのでしょうか、私はずっと、目が離せません』
窓から少しだけ見た雪みたいで、ふわふわしてとても綺麗で。
他の桜は色が濃かったり、生え方が違ったりしていて。
殆ど匂いはしませんが、優しい綺麗で。
ずっと見ていたいです。
「お疲れなのかと、慣れない場所で、今でもお勉強なさっているのですから」
『ネネさんは勉強熱心です、大人なのに』
「勉強が趣味の方も居ますから、もしかすれば好きなのかも知れませんね」
『真面目に真剣に取り組んでいるのなら、そうなのかも知れませんが、私の勉強はいつ終わるのでしょうか』
人種の育児手引き書を読み終え、恋と愛の違いについて分かり易く描かれている物語を読み、2人の理想の家庭についても聞きました。
やはり私の家は、他とはかなり違います。
凄く変で、おかしかった。
何となく分かります。
少なくとも、私は守られてはいなかった。
「いつでも、終わらせて構わないかと」
『あまり中途半端は良くない事だと思いますが』
「ネネ様は出来るなら、殺し方は知って欲しくは無い、と仰っていました。僕もそう思います、知った分だけ、傷付ける事も出来てしまうのですから」
私が、誰かを傷付ける。
『考えてもいませんでした』
「知るだけでは無く、理解すればこそ、敢えて傷付ける者も居ます」
『何故』
「僕は詳しくは無いので、そうですね、来て頂くのはどうでしょうか」
『はい、お願いします』
紹介所の出張所が公園に来ています。
人種も悪魔も精霊も、このお花見が大好きですから。
『あぁ、どうもどうも』
『ロノヴェですか、成程』
『はい、Ierathel、天使としての能力。ですね』
『中傷者から解放するには、中傷や攻撃に詳しくなければならない』
『はい、そして敵味方の区別無く好意を得るには、好意を理解していなければならない』
『そして好意では無いモノも理解していなければ、使いこなす事は難しい』
『はい、そして、残虐で利己的で過剰な者を好む』
『何故、知りながらも傷付けるのですか』
『先日のアレと似た様なモノです、構われたい、それが大半ですよ』
『では、もう半分は何ですか』
『苦痛に歪む顔が堪らなく愛しい、生きている実感がそうした事でしか得られない、制御の為には仕方が無かった』
『奴隷、束縛に関係しているのですね』
『はい、しかも暴力とは何も手足を使うだけでは無い』
『弁論・演説・説得も司る悪魔』
『平和とは、混乱を知らなければ単なる日常と変わりが有りません』
『そして正義も、解放と保護、自由を知る悪魔であり天使』
『はい』
『分かりますが理解が出来ません』
『では、お試しになられますか、夢の中で』
『はい、試してみます』
そうしてヒナ様は灰色兎の膝で眠ったのですが、直ぐにも起き上がり。
『理解、出来ましたか』
『あの場は、ですがコレは要りません、消して下さい』
珍しく、息を荒げてらっしゃったのですが。
消えた後は、直ぐにもいつも通りになりました。
『どうでしょう』
『良く覚えていませんが、理解した事で更に不快感が生じた事、分かるべきでは無い事が有ると理解しました』
『快が不快に、不快が快になるモノも居る、それだけで今は十分かと』
『はい、ありがとうございました』
『はい、では』
ヒナ様がどんな夢を見られたのかは分かりませんが、僕も少し覚えが有ります。
何故、どうしてこんなにも出来無いのか、と。
人種に苛立ち、害を加えそうになった事が有りました。
あの時、利益より感情を優先しようとした。
立場や周囲より、自身を最優先にしようとしていた。
『アズールは、自分を優先しようとした事は有りますか』
「はい、何度か」
『ですがしなかった』
「はい、協調を乱す事は、幼稚で愚かな行為ですから」
『愚かだからなのか、抑制が出来ず行ってしまう、私はそうなりたくは有りません』
「ご記憶が消えていないのでは」
『いいえ、当事者の記憶は消えました、ですが心の声を聞いていた傍観者の私は残っています』
分からせる為、どう傷付けようか。
あんなにも愚かしい思考を何度も味わいたく無いからこそ、僕は愚か者を遠ざける。
自分を守る為。
周囲を守る為に。
「んんっ」
『私は優しくします、穏やかで温かい方が好きですから』
「はい、僕もです」
眠ってしまった。
と言うか、ヒナちゃん。
「あの、お昼寝は」
『勿体無いので出来ませんでした』
当たり前が当たり前では無い。
それが当たり前だと分かっていたのに。
「申し訳」
『コレからは毎年見ます、庭に植えて飽きるまで見ま。あ、そう言えば庭に熊が来たので食べました、意外と美味しかったです』
「そん、大丈夫でしたか」
『はい、何も壊されませんでした』
「どうやら養われていた熊が逃げ出したそうなんですが、お礼も頂きました」
『熊を養うには大金と場所が必要なんだそうですが、無理になってしまったそうです』
「成程、そんな事が」
『はい、ですが1頭だけは可哀想なので、次は番の方が優しいと思うと言っておきました』
「ですね、番や群れを必要とするなら、そう養うべきですから」
『人種は難しいです、群れたがる者も居たり、単独で居たがる者も居ます』
「そうですね、個体に合わせ養わなければならない」
『はい、コレはアズールの記録の一部です』
「ベジタリアン・リキッダリアン・ブレサリアン」
『はい』
「どうぞ、僕の幼少期の記録の様なものですが、宜しければお読み下さい」
『凄いです、未だに私には分からない考えです』
「成程、お借りします」
「はい、どうぞ」
話を敢えて遮る。
敢えて、話しの方向を変える。
本当に、ヒナちゃんは成長している。




