252 本と手紙。
そうして私には、祝福と呪いが掛けられた。
不死と言う、祝福と呪い。
愚かだった。
浅はかだった。
あんなモノばかりを寄せ集め、あまりにも都合の良い物語ばかりを書き過ぎた。
後の影響を考えず。
誰かに与える影響を考えもせず。
私は、今も居るのだろうか。
まだ、私は書き続けているのだろうか。
『まだ居ますか、オリアス』
『いいや、とっくに死んで交代しているよ、似た様な事をする者は多かった。しかも、原本が来たからねぇ』
「そうでしたか」
『恐れる事も、愛する事も、誰にも害が無いのなら自由だ。さ、そろそろ移動しておいた方が良い、サボりがバレちまうよ』
『はい』
「はい、ありがとうございました」
私には、まだ色々と納得出来ない事が有りました。
ですがシルキーが怒られるのは望みでは有りません。
ですので、疑問をこの日記に残しました。
愛する事は諦める事が出来るのでしょうか。
私は、どんな愛を望んでいるのでしょうか。
『さ、大丈夫、おいでシイラ』
「はぃ」
本当なら、私もジュリアさんの家に行きたかったんですが。
ジュリアさんとバンシーが、ヒナちゃんだけでは無く、私の人生の酷さまで実感すると衝撃を受け過ぎててしまうかも知れない。
それと、慣れない場所へ行くには、もう少し間を空けるべきだと。
だから、納得したのに。
慣れない場所に連れ出されてしまっている。
『今日は踊らないから大丈夫だよ』
今日は。
つまりは。
「やぁサレオス、彼女が例の女性かな」
『あぁ、Vasariah、そうだよ』
Vasariah。
正義と寛大さ。
その真反対に位置するのは復讐と裏切り、激怒と情欲、色欲の悪魔。
「アスモデウス」
「良くご存知で」
『君はかなり有名だからね』
「そうだね、しかも異名も多い。どうぞ、お見知りおきを、マドモアゼル」
夫殺し、リリスの夫、トバルカインとナアマの子。
友情の王子、復讐の王子。
激怒と情欲・色欲の悪魔。
怒れる悪魔・滅ぼす者・破壊する者。
悪戯心と風刺の天才であり
悪魔憑きの代名詞。
「はい、どうも」
「いや、実に君のお相手らしい女性だね、幾人もが望んでいただけはある」
『そうだろう、僕は実に幸運だったよ。けれど君も、幸運に恵まれた筈』
「まだ、泳がせているんだ、直ぐに捕まえるにはとても難しい子だからね」
『あまり彼女に誤解を与えないで欲しい、時期を待っている、そう言う事だろう』
「そうとも言えるね」
茶目っ気が有る、でしょうか。
定期的にウインクなさる。
流石、悪戯心と風刺の天才と呼ばれる悪魔、だからでしょうか。
「すみません、碌な反応も出来ずに」
「構わないよ。笑いとは緩急、そして慣れ、だからね」
『そう言えば、君では無くボティスが対応したそうだね』
「そうなんだよ、そうした時こそ私だと言うのに、そのままボティスが受けてしまった」
『レンズが顔に悪戯描きをされた事が有ったのを、覚えているかな』
「あ、アレ、そう言う事だったんですね」
「全く、私に相談せず、そのまま任せてくれれば良かったと言うのに」
『頼られて嬉しかったのだろうね、ふふふ』
悪魔でも、悪魔に頼られると嬉しい。
「あぁ、邪魔したね。では、また」
『あぁ、また。さ、甘い物にしようか、それともメインを食べてしまおうか』
「あ、はいじゃあ、サイドディッシュからで」
『じゃあ行こう』
それは悪魔による、地獄への案内でした。
「あっ」
『大丈夫、彼女に僕らは見えないから』
似非天然系と呼ばれている、マリアさんが会場に居た。
レヴィアの身内だけで行われる、小さな社交界だと言うのに。
「知っていましたねレヴィア」
『勿論、彼女は選ばれた悪しき見本だからね』
「選ばれた、悪しき見本」
『さ、僕らは裏方、良く鑑賞しよう』
それはとても滑稽でした。
彼女は明らかに浮いた煌びやか過ぎる衣装で喜んでいて、それが尚更、滑稽でした。
「あら、素敵なお衣装ね」
『本当に、とっても煌びやかね』
《ありがとうございます~》
彼女がいつも通りに返すと、笑いが生まれる。
しかも冷笑、けれど彼女は全く反応しない。
「何か、魔法を」
『いや、彼女や周囲には、1つも魔法は掛っていないよ』
マナー本で知りましたが、ドレスコード違反は1発で愚か者認定され、直ぐにハブかれる。
なのに、まさか、気合いで乗り切るつもりですか。
マリアさん。
《失敗した、失敗した失敗した失敗した。許さない、絶対に許さない》
言われた通りに着飾っただけなのに、明らかに浮いてた。
誰、何処で間違えたの。
何で、どうして。
「あら、顔色が悪いわね」
『あ、夫人、すみません急に』
「良いのよ、慣れない場所で大変でしょう」
まさか、このババァが。
いや、そんなワケ無い。
本当に嫌味は言わないし、優しくて親切で凄く褒めてくれるし。
きっと使用人か何かが間違えたんだ。
絶対に、許さない。
『あの、夫人、この衣装』
「そうね、この衣装、どうした事なのかしら」
ほら、やっぱりそうだ。
誰かが間違えたんだ。
『私、違うんじゃないかって言ったんですけど』
「何処かで誰かが指示を間違えてしまったのね、急いで調査させるわ。あらあら、可哀想に、泣いては可愛らしい顔が台無しよ」
『すみません』
「大丈夫、控えの衣装は用意して有るわ。さ、いらっしゃい」
『はい、ありがとうございます』
絶対、同じ目に逢わせてやる。
大勢の前で恥をかかせてやるんだから。
《ふふふ、本当に面白いね彼女は、ふふっ》
自称天然系も陰で笑っていたので、自分は本当に性格が悪いな、そう思っていたんですが。
甘かった。
ルーイの方が遥かに性格が悪い。
初めてですよ、こんなに楽しそうに笑う姿。
「そんなにお気に召したなら、また、引っ掛けてやれば良いのでは」
《もうネネ以外に触れたくは無いんだけれど》
「あ、嫉妬では無いですからね、あまりの性格の悪さを改めて痛感していただけですから」
《だとしてもネネ以外には触れたくない》
レオンハルトの姉妹ですら本気で避けて、完全にオモチャにされても諦めなかった。
拘りが強いと言うか、最早信念、いや執念では。
「凄い執念ですね」
《あぁ、大丈夫。コレは性根が悪いから笑うんじゃなくて、頭が良くて性格が悪いから笑う、それだけだよ》
まぁ、私って性格が良いの、なんて微塵も思ってはいませんが。
にしても本当に、ヒソヒソ笑いの多い事。
流石に気付いてますよね。
なのに、相変わらず媚を売り続け、滅茶苦茶表情を崩しまくっている。
「動物園、ですか」
《あぁ、そうだね、しかも芸をしてくれる》
人種だからこそ、でしょうか。
面白い人が居る、ただ、それだけ。
「同族だからでしょうか、今は笑えない」
《優しいね、目の前で見ると笑えない》
「ですがアナタ方は笑えるんですよね」
《既に、行いを知っているからね》
「どう」
《コレだよ、ほら》
今までの彼女の行いが、挿絵付きで書かれた本。
しかも、ヒナちゃんの事まで。
「コレ」
《大丈夫、次代の女王にも許可を得ていると書いて有ったし、他は誰が誰だか分からない様になってるよ》
確かに、スズランとも何も書いてはいませんし。
彼女の同郷、とだけ書いて有る文は読み取れましたが。
「コレが、既に先行していたんですね」
《数日前に招待状と共に、コレが来たからね、ふふふ》
「ご丁寧に本までお届け、ですか」
《僕は、実際に居るのだろう、そう想定していたけれど。ココに居る殆どは、まさか、こんな者が居るワケが無いだろう。だと思うよ》
ミスター◯ーンが実際に、しかも目の前で話して動いている。
「いや、寧ろドン引きする案件では」
《道化師は語った、そう書かれていると、ついね》
そんな枕詞で笑えちゃいますか。
「やはり上流の方とは合わなそうですね」
《そうだね、合うのは僕かレオンハルト位だよ》
「口説かれる気分じゃ全く無いんですが」
《半ば演技だろう、そう思っている者も多いだろうね》
やっぱり、ミスター◯ーン。
「庶民なので、やはり落とし穴に綺麗に落ちてくれる方が、遥かに笑えますね」
スロー再生は無いでしょうが、笑われる為の。
成程、だから道化師。
笑わせる為に、敢えて演技をしている。
そう見ていれば、少しは笑えるんでしょうか。
《ネネが飽きたら、移動しよう》




