幼い日の記憶
昔、父さんが私に話してくれたことがある。
父さんと母さんは昔ベンガンサおじさん達と旅をしていたこと。それぞれの目的を持って同じ旅路を往ったことを。ベンガンサおじさんは世界と力を求めて旅をしていたらしい。それじゃあ父さんは?と聞いた。父さんはこう答えた。
「万物を打つ槌が欲しかった」
どうしてそんな物を欲していたのか聞いた。すると今度は抱きかかえられ、ある場所へと連れていかれた。
そこは湖に面した古びた倉庫だった。だが、中は全く埃っぽくなく、今でも使われている痕跡が見て取れた。幼い私は、ここで父さんが何をしているのかわからなかった。けれど、夜な夜な家から出ては、汚れて帰ってくる父さんをいつも見ていた。
父さんは奥から何か引っ張り出してきた。それは大きな布を被せられて中身は見えない。だが、長さを見るに何か片手剣のような物だった。
それは何?と父さんに質問した。
父さんは笑って答える。
「これは僕の人生をかけた武器だ」
武器……?父さんは旅をしていた頃から全く戦えない男なのは知っていた。それ故に母さんに惚れられたとも言っていた。そんな父さんが武器を持っているなんて思ってもいなかった。
「父さんはこれを完成させたいために旅をしていたんだ」
「だから父さんは、ばんぶつをうつつち?がほしいの?」
「ああ、そうさ」
でも、わからない。この街で暮らす限り、戦いとはほぼ無縁のはずなのにどうして父さんは武器が必要なのだろう。
その疑問に答えるかのように父さんは語りかけてきた。
「父さんは未来が見えるんだ」
「みらい…?」
「ああ、そうさ。それはある日のことだ。いつものように眠った時の夢でそれを見た。荒れ狂う大地と海。そこには凶暴な魔物が世界を支配しようとしていた。けれどね、ある女性が武器を持っていたんだ。それは剣にも見えるし、銃にも見えた。その女性はその武器を使って魔物を倒していき、平和な世の中が訪れた。そんな未来をね」
「うーん……?」
その時の私は意味がわからなかった。どうして世界に魔物が溢れるのかわからないし、何よりどうしてその女性が武器を使って平和を築くのかもわからなかった。そして、何より今までの武器の話と今の未来の話がどう繋がるのかがわからなかった。
「わかりやすく教えてあげよう」
そう言って父さんはその武器を台座に起き、布を取ってみせた。
「わぁ……!」
その刀身は青く鋭い片手剣。だが、鍔から後ろ、つまりは柄の部分が通常の剣と異なっている。
「じゅうみたい!」
「ああ、そうさ。これが僕の人生をかけて作っている武器、ガンブレードだ」
鍔にはシリンダーと銃口が搭載され、グリップは銃のよう。きちんと射撃できるようにトリガーも備わっており、本当に銃と剣が混在している武器だった。
「僕はいつか世界を救うであろう女性のために今、作ってるんだ」
「へー…?」
「だからね、アナ」
その時、父さんに何を言われたのかは思い出せない。だが、私はその日から機械をいじるようになった。父さんと共にあの倉庫で。父さんが亡くなった後もあの倉庫で。そしてアベンジャーを作り、そして今ここに来た。
武器をベンガンサから受け取ったのは偶然だ。というのもガンブレードの存在を忘れていたからだ。だから護身用としか思っていなかった。それを目にするまでは。
「なんていうか、これが運命ってやつ?」
背中の得物を掴み、布を剥ぎ取る。それはまごうことなき、あの日倉庫で見たガンブレード。
「私に打てって言うの、父さん」
目の前にあるのは黄金に輝く槌。その槌には花や鳥などの様々な意匠が込められている。そして、その槌を掴んで離さない銅像が1つ。上半身が裸で髭面の男。それは昔、父さんに見せられた文献と一致している。どうやら太古の昔に信仰された神らしい。そして、その男が持つ槌こそが。
「万物を打つ槌、ねえ。まさかこんな所にあるだなんて」
世界を見る旅で私は出会ってしまった。父さんの願い。未来を守る最後の鍵を。
「この未来も見えていたの、父さん」
私は少し父さんを恨むように呟いた。




