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最終話 故郷は……

 数日後、ギルドの応接室では父ナナシと長姉ケイトが顔役と対話していた。


「まさか下の娘さんが街を救ってくれるとは。やはりあなたの家族は素晴らしい働きをしてくれますな」


 顔役は上機嫌である。


「いやはや、依頼を受けておきながら何も出来ず情けない限りです」


 苦笑する父とは対照的に長姉の表情は硬い。

 自分達がもう少し早く少女を捕捉していれば妹は傷つかなかったのだから。


「まあ、お宅とは今後ともよい関係を築いていきたいものですな」


「ああ、それなんですけどね……」


 ナナシが指を鳴らすと応接室に警備兵達が乱入して顔役を取り押さえる。


「なっ、これは……どういうことだ!?わ、私を誰だと思っている!?」


 すると顔色の悪い中年男性が部屋に入ってくる。

 ナナシの友人でありギルド幹部であるセドリックだ。


「あなたには以前から黒い噂がありましてね。ナナシ殿の依頼で調査をしていたのですよ。そうしたらヘルヘイムから元奴隷の少女が現れるという謎の事態が起きた。それで、おかしいと思いましてね」


「な、何がおかしいんだ!?」


「高難度のダンジョンは冒険者ギルドが管理していて厳しい入場制限が掛けられています。勿論、入場者や行方不明者の記録も。でも過去にゾフィーなんて少女があのダンジョンで行方不明になった記録は無かった」


 ケイトが顔役を睨みながら言う。

 セドリックがそれに続く。


「あなたはかつてあのダンジョンの入口の管理をしておりましたな。あなたは若い頃、本来なら入場資格のない者を記録に残さず入場させる代わりにわいろなどを受け取っていたらしいですな。それは金であるとか或いはそう、荷物持ちの奴隷少女を弄ぶ権利であるとか」


「引退した冒険者を問い詰めたら話してくれたよ。奴隷少女をあのダンジョンで下層階に置き去りにしたって。そいつは罪の意識に苛まれて冒険者を辞めたらしいな」


「そ、それはその冒険者たちが勝手にやったことで……」


「あんたは報告を受けたけど報告しなかった。『奴隷のひとりやふたり、居なくなっても誰も気にしない。無かったことにすればいい』って言ってたらしいな。あんた、人じゃないよ」


 だが尚も顔役は反抗する。


「と、当時はそれでよかったんだ!奴隷は合法だったし、私が差し出されたものをどうしようと……」


「あなたの声はもう聴きたくない。きっとあなたは罪を悔いることもしないと思う。だけど少なくとも、あなたが手を汚しながら手にしたその地位は奪わせてもらいます!」


 長姉に睨みつけられた顔役は怒りで震えながら叫ぶ。


「青臭いガキの癖に分かった風なセリフを吐くな!私の知り合いが放っておかんぞ!!!」


「まあ、貴殿は結構なお年ですからな。病を得て療養のため姿を消しても……不思議ではありますまい?」


 セドリックが呟く。


「ま、待てセドリック。お前を取り上げて幹部にしてやったのは誰だと思っている?」


「ああ、すいませんな。最近物忘れが出てきまして……いやはや私も歳を取りましたな。お恥ずかしい」


 その言葉に顔役は青くなり今度は慈悲を求めだす。


「私も子を持つ親のひとりでしてね……だから……『貴様』に慈悲は与えません。連れて行きなさい」


 冷たく言い放ったと同時に顔役は猿轡をされ連行されていった。

 


 ノウムベリアーノ内にある霊園。

 その一角に小さな墓が建てられていた。

 墓石にはこう刻まれていた。


――――――――

 ゾフィー

 ~1239


 無慈悲な運命より解放されしレムの友人よ。

 眠れ、汝の故郷にて。

 共に過ごした短くも輝いていた想い出と共に。


――――――――


 墓石を見下ろすメールの傍に母アンジェラが立つ。


「あたしは……救えなかった。折角仲良くなれたのに結局、『終わらせる』ことしか……」


「…………調べたらね。彼女は『ココの民』だったの」


「ココの民?」


「あたし達のルーツ。西方の国に住む民族よ。あなたのおばあちゃんは『ココの民』だったけどまあ、色々あってこの国に来たの」


「それって……」


 母は小さく頷き肯定する。

 かつて奴隷として連れてこられた少女は逃げ出し冒険者となった。

 同じパーティの仲間と恋に落ち女の子を生んだ。

 その女の子は異世界から転生してきた男性と恋に落ちそして………


「彼女は親戚……だったかもしれない。少なくともおばあちゃんと同じ民族であった事は確か。彼女は多分、最後に自分の故郷に戻って来れたんだと思う。自分と同じ民族の血が流れるあなたの所にね」


 そうだとしても自分が背負ったものは……


「もう一度話がしたいよ。ゾフィーちゃんと、お菓子を食べ歩きながらそよ風の中で話がしたい」


 

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