第167話 据え置き端末カフェ
「ハイジャックって……本気なの?」
ティアナが赤いメガネを光らせて言った。
「だってー、それ以外ないじゃないですかぁww」
「でも、人を傷つけるようなことはしたくないわ」
俺もそう思う。
この三つ編みメガネの女、けっこう真面目でいい子なんだな。
「乗客に危害は加えません。考えはこうです……」
デリーはそう言って、ハイジャックの計画案を話した。
「……なるほど」
「だから飛空艇の便の時刻を正確に把握しておく必要があります。今日のうちに調べて、明日の便に乗っていきましょう」
「えー、ずいぶん慌ただしいんだなあ」
とモリエ。
「お金がないんですよ……」
「ボクたちお金持ちだよね?」
「ぷふふーww そんなの、こっちのお金じゃなきゃ通用しないに決まっているじゃないですかー(笑)」
この栗毛の娘は本当に冷笑系だな。
「ってことは、所持金ゼロってこと?」
「ふふーん! アタシたちがむかし家出した時に持っていたぶんがあります。感謝してくださいww」
「ありがたやー」
威張るエマへ、素直に拝むモリエ。
「とは言っても魔法中学校時代に持っていたお小遣い程度です。この”宿”も何泊もできません」
「モタモタしてはいられないわね。行きましょう」
そういうワケで、俺たちは一旦ホテルを出て、街へ出た。
相変わらずスゴイ文明だ。
公道や柵は、石でも木でも鉄でもないような、見たこともない素材で出来ており、ビル群は空を見上げなければそのてっぺんを見ることができない。
――カッコー、カッコー♪
交差点の魔灯信号により歩行者がせき止められ、対面のビルのガラス壁に映る俺たち5人の姿は、あまりに膨大な社会の流れに取り残された孤独な若者グループにも見えた。
「空港の場所と便の時間だっけ?」
「ええ……」
とは言え、この世界出身のエマとデリーもまったく知らない街であったから、たったそれだけの情報を得るのにも苦労した。
「端末があれば簡単に調べられるんですけどねー」
という話だったが、その端末とやらを使うのにIDが必要なのである。
「デリー。何か考えはあるのか?」
「……一応、据え置き端末のネットカフェがあればと思って探しています」
そう言って、デリーはしばらく行くと、これまたガラス張りの扉のビルの一階にある、店のようなモノに入っていった。
「いらっしゃいませ。会員証はお持ちでしょうか?」
「いいや……」
とデリー。
「当店は会員証の作成をお願いしております。こちらにご記入のほどお願い致します」
店員のお姉さんは、笑顔でそう言う。
「身分証を忘れてしまったんですけど」
「IDナンバーをご記入いただいても大丈夫ですよ」
「いや、記憶していなくて……会員証がなくてもオープン席なら大丈夫ということはないですか?」
デリーがそう言うと、店員のお姉さんは笑顔のままで「それはちょっと……ございません」と言うので、諦めて店を出た。
「どうしようか?」
「会員証を作らなくても使えるネットカフェを探しましょう」
それから何軒か店に入って、会員証が必要かどうかを尋ねて回る。
しばらくして、ビルの高さが低くなっていくような地域に出ると、そのうちの一軒がオープン席なら会員証なしで据え置き端末を使えると言うので、デリーとエマだけが入店し、俺とモリエとティアナは外の道端で待った。
郊外のあまり人気のない道であったから、逆に人が通るとそのガラはあまり良くない。
「よお、ねえさん。ちょっと時間くれよ」
「大丈夫さ。ほんの二、三時間だから」
そんなふうにティアナにちょっかいを出そうとするチンピラもあらわれ、そのたびに俺が追っ払うことになる。
俺の肉体は一応一般人など相手にならないくらいは鍛えられているらしい。
「な……?」
デカく見えるチンピラも、襟首を軽く持てばふわりと持ち上がってしまう。
「なんだオマエ……」
「チッ! 行こうぜ」
幸い、それだけで戦意を失くしてくれた。
「……ありがとう。エイガ」
「わーい! お師匠すごーい♪」
ただ、となりのモリエやティアナも俺以上の一流の冒険者のはずだが……
俺がチンピラどもを追っ払うのを妙に嬉しそうに眺めて、自分で動こうとはしなかった。
「お待たせしました……」
ようやく、デリーとエマが店から出て来た。
「調べはついたか?」
「はい……」
デリーは数枚の印刷物を差し出した。
「こっちの世界の字は読めないよ」
「すみません。空港はこっちです」
地図の載った紙の方を見る。
俺の左腕にモリエがぶらさがるように覗き込んで、右腕にそっと寄り添うティアナが地図に指をさした。
「ここね。南東方向だわ」
「便は明日の午後3時。予定機体番号や離陸滑走レーン番号、パイロットの個人情報まで把握しています」
「そんな細かくわかるのか?」
「ぷふーww そんなのハッキングに決まってるじゃないですかw」
?
「エマが得意なんです」
「そ、そうか……今度俺にも食わせてくれよな」
そう言うと、めずらしくクールなデリーが噴き出した。





