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【挿話】 第二魔王リラティヴィティス(2)


 ――九天魔城。


 今日も七棟の高層ビル群が地獄の空を貫いている。


 その中央にそびえる二棟はいずれも110階建てのスカイスクレイパーであり、ガラス張りの壁面の内側を、高出力の魔力で駆動する超高速エレベータが駆け上がっていた。


「この法案で103兆6800億4521万1438本目か……」


 そんな高速エレベータの中には、ストライプのスーツに身を包んだ一本ツノの魔人がひとり立っていた。


 第二魔王、法の支配者アルコンリラティヴィティスである。


 高級ドラゴン革の手帳を開き、エレベータのわずかな時間も惜しんでペンを走らせている。


 手帳の最後のページには、『屋内の廊下で自転車を走らせてはならない』『学校の屋上で鍋パをしてはならない』などと法案が書きしたためられていた。


「リラティヴィティスさま……」


 そんな時。


 誰もいないはずのエレベーターの中で、声が響いた。


「どうした?」


 リラティヴィティスは自らの影へ目を落として尋ねる。


「……エイガ・ジャニエスのことです」


 その影が彼の動きとは別のモーションをとって、口を開いた。


 そう。


 彼の副将シャドーである。


「ヤツのことはナーヴァス君に任せてあったはずだが?」


「そのナーヴァスが、エイガ・ジャニエスに脳改造を施し、自らの操り人形にしようとしていたのです」


「……なるほど」


 確かにエイガ・ジャニエスのことは任せていたが、ナーヴァスが自らの戦力補強に使うとなると話は違ってくる。


 あれだけの男が手駒となれば、第一魔王ゼノス、第二魔王リラティヴィティス、第三魔王ナーヴァスという三魔皇のパワー・バランスが崩れる恐れがあった。


「幸い、脳改造は不完全で終わり、エイガは記憶を失っただけにとどまりましたが……」


「珍しいな。ナーヴァス君が手術を失敗するとは」


「邪魔が入ったのです。やったのはユウリ、クロスのコンビでした」


 ほう。


「ユウリ君は有望だな。あとは本当に魔王となれるかどうか」


「人間が魔王になるだなんて前代未聞ですが……」


「ふっ、魔王の資質に種族の違いなど関係ない。門地、出自による差別など、そもそも偏見を持つ人間の業ではないか」


「それもそうですね。おっと、わたくしはこれにて……」


 ――チーン……♪


 エレベータが到達すると、影は口を閉ざし、また影としての役割を演じ始めた。


 リラティヴィティスは手帳を閉じると、議場へ足を向ける。


 今日はダボダボ会議と呼ばれる、世界的課題が話し合われる年に一度の総会であった。


 ざわざわ……


 議場には、選ばれた知識人やジャーナリスト、多国籍企業経営者や国際的な政治指導者など、各国の要人が一堂に集まっている。


 魔人、悪魔、鬼、人間、エルフなど種族は様々。


 そんな中、向こう側の席に第三魔王マッドDr.ナーヴァスの姿も見えた。


「このように。世界には数え切れぬ種類のやまいが生まれては消えておるのじゃ」


 ダークビキニアーマーの幼女は、魔動スクリーンにて図を示しつつプレゼンしている。


「よって、わざわざ病を作り出す必要などないのじゃよ。『病名』を流行らせるだけでヤツらは生活様式を変え、薬を求める。家畜どもには、これが一番のやり方じゃのう」


 ――おお……!!


 歓声を上げる各界の実力者たち。


 その中には人間もいるというところに恐ろしさがある。


(できれば彼女と敵対はしたくないな……)


 と、リラティヴィティスは思った。


 人間集団をコントロールする才覚はナーヴァス、というよりその副将であるゼルに勝る者はなかなか見あたらない。


「ナーヴァス君」


 会議が終わると、リラティヴィティスは幼女悪魔の肩をそっと叩いた。


「のじゃ……? おお、リラティ。儲かっておるか?」


「ぼちぼちだ。それよりも……エイガ・ジャニエスのことはどうなったかね?」


「あ! ええと……その」


 ナーヴァスはこちらの意図がわかってか目をそらした。


「ヤツと勇者をぶつけるという話だったな?」


「そ、そう! そうなのじゃ!」


「君には期待しているぞ。ゼノス殿もな」


 そう釘だけは刺して、議場を去った。



 ◇



「あれだけでよろしかったのですか?」


 執務室へ帰ると、シャドーが影から口を開いた。


「未遂だからな。彼女の功績も合わせて今回は不起訴だ」


「左様ですか……」


「それよりも、あの五感を再現するVR魔道機器の大量生産はすばらしい。関連法案を作っていくぞ。手伝え」


「はっ!」


 そんな折である。


 クルックー……


 一匹のハトが、執務室に飛び込んできた。


「電話バト、か」


 リラティヴィティスはハトを手に乗せる。


『もしもし、私です』


「上の世界では、電話口で名を名乗るよう法制化されている。詐欺の温床だからな」


『……す、すみません(汗) 大賢者エルです』


 わかってはいる。


 次元をまたいで、電話バトによる即時通信を成立させられる者など、エルくらいのものだ。


「要件を簡潔に述べろ」


『は、はい。次の魔王級クエストについてですが、次回は少々お待ちいただきたいのです』


「む、何故だ?」


『それが……魔王級クエストに当たれるパーティの多くが活動休止中でして(汗)』


 なるほど。


 勇者クロスがユウリと行動を共にし、女勇者パーティも仲間に加わり、エイガ・ジャニエスが記憶喪失。


 S級の有名どころはグリコ・フォンタニエなど少数を残すのみとなる。


「わかった。しばらく待とう」


『恐れ入ります!』


「だが、あまり長引かせずにS級パーティを用意しておけ。人間どもはすぐに忘れる生き物だからな」


 プチン……クルックー、クルックー……


 ハトを手放すと、通話は切れて、飛んで行った。


「大賢者エル……使えぬヤツですね」


 影が言う。


「冒険ギルドに国境を越えた権限を持たせるために、わざわざこちらから魔王を降臨させ、時と場所を教えてやっているというのに……この茶番を成立させるS級パーティの準備もままならぬとは」


「まあな。しかし、そもそも無理があるのだよ」


 リラティヴィティスはすでに法案を書き進めながらシャドーに答えた。


「下の世界へ行く魔王は一体に限られている。だから、このような間接的な影響しか及ぼせぬのだ。抜本的な解決が必要であろう」


「……次元軸移転ポールシフトですか」


「うむ。ユウリ君が魔王となり、魔王が八体になれば次元軸移転ポールシフトが起こる。それで、すべての魔王で一斉に下の世界へ降臨することができるはずだ」


「クックック……そうなれば、下の世界の人間どもは滅亡ですね」


「バカを言うな」


 リラティヴィティスは影をたしなめて言った。


「人類を滅亡させて何になる? 幻想ファンタジーを捨てきれぬ下の世界に、文明の光を授けてやるのだよ」


 執務室には、法案を綴るペンの音が響き続けた。


※いつもお読みいただきありがとうございます!

今回で200エピソード目となりますので、次回からは目次3ページ目になります。

(次回は第165話ですが、主人公視点でのみ話数をナンバリングしているので数がズレています)


完結まで頑張っていきます。

次回もお楽しみに。

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This was informative, so that Elf really needs to fall twice now. That seems like a task fit for Tia…
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