第106話 試作鉄道
俺の領地に鉄道を敷設する。
そういう話で、さっそくリヴに試作機を作ってもらった。
ゴトゴトゴト! ……プシュー!!
テスト走行は俺ん館の前の空地で行われている。
まだミニサイズで構造のむき出しになっている機関部だが、ちゃんと魔鉱石の魔力で駆動しているのはさすがだ。
「キャー!」
「動いてるー!」
「すごーい!!」
機関部は小さなトロッコと連結されており、その上ではしゃぐスイカ、マナカ、イコカのメイド三人を乗せて、銀のレールをスムーズに走っていた。
ゴトゴトゴト……ゴット……ゴットン……
しかし、あくまで試作段階であるから、レールは100ヤードルほどしか作っていない。
「あれ、止まっちゃった……」
メイド三人はしょんぼりとした。
しかし、タバコを咥えた女鍛冶がイコカの頭をクシャクシャと撫でると、
「ふふ、また動かしてやんよ」
と格好よく笑って車両の向きを変える。
こうしてトロッコはメイド少女たちを乗せて、逆方向へ走り始めた。
「「「わーい!!」」」
しかし、なんつーか。
これじゃあザハルベルトの街中にあるとかいう遊園地のようなもんだな。
「いや、ここまでできればなんでもできるということでもある」
と評するのは吉岡将平。
コイツは魔道鉄道に興味があるらしく、このテスト走行の話を聞くや飛んでやって来たのだそうな。
「遠雲の土地は山側の北から海側の南へ傾斜しているから東西に水路を通すのはなかなか難しい。そこで東西には鉄道を通すというのは理に適っている」
同じようなことは五十嵐さんも言っていたし、土木や領地の地形に詳しい将平のお墨付きも出たので、的のはずれた普請道楽にはなっていないはずだ。
「それにしても、これは技術が安定したらぜひ山の方にも導入してもらいたい」
「山? 山に鉄道を敷いて誰が乗るんだよ」
「山というのは地下のことです」
将平が言うには、山の地中内部を調査するためのアキラの掘削は途中まで順調だったが、あまりに坑道が長くなりその往来だけで作業の大半の時間が取られてしまうようになっているのだと言う。
なるほど。
坑道に魔道トロッコを引けば、山をさらに奥まで掘り進めることができるってわけか。
「ってことらしいんだけど、リヴ。できそうか?」
「ふん、アタシを誰だと思ってんだい」
と、女鍛冶が肘を張って髪をかき上げると、ぱっつんぱっつんのタンクトップに乳房の形がくっきりと映って、みなぎる自信が象徴されるようである。
「……でも、さすがに今の工房の規模じゃ、時間はずいぶんかかっちまうかもねえ」
「そりゃしょうがねーよ。部隊の装備も更新中だったしな」
「じゃあ、大工の棟梁みたいに弟子を独立させて下請けを作ってみたらどうッス?」
「下請け?」
ガルシアの言うように、大工、建設の方ではすでに~組、~組というようにいくつかの組への「のれん分け」が起こっている。
それは新港に始まるさらなる建設需要の増大に伴って、大工集団が元々の30人から100人以上まで大きくなり、棟梁の高弟がそれぞれ20人ほどを率いるという形でこれを統率し始めたことから始まった。
ちなみに、俺が建設系へ経験値を送るときは、この組を基準にバランスよくレシーバーのマーク期間を配分するようにしている。
「外村の銀行システムも構築したところなんで、工房の増設や設備投資も今ならお手頃ッスよ。ケツは旦那(領主)が持ってくれるし、利率も今なら超低金利ッスから!!」
「うーん、じゃあちょっと考えてみようかねえ」
なんだか昔かたぎの職人をあやしげな商人が言いくるめてるみたいだな。
「エイガ様」
なーんて考えていると、ふいに美女の吐息がフッと首元にかかるのを感じて振り返る。
「五十嵐さん……」
いつものことではあるけれど、今のなんかマジで直前までまったく気配を感じなかったぞ。
なんだかこの人の職性は、実は忍者かなんかなんじゃないかとマジで思われて、反射的に女神の瞳を開く。
が、やはり彼女は厳然として【お嫁さん】だった。
「……なにか?」
俺がボケーッと見つめていると、鋭い目つきの女秘書は首をかしげ、鞭のようなポニーテールをしならせる。
「いや、なんでもないよ。……それよりどうしたの?」
「はい。そろそろ出発のしたくの頃かと」
「え、もうそんな時間?」
「はい」
と言うわけで今日のテスト走行はお開きだ。
「えー!」
「もっと乗りたいです!!」
トロッコのメイドたちはブーブー言った。
だが、「悪いな、もう出発だから」と返すと、根は働き者のメイド少女たちは「あ、そうか」「いけない」という感じで飛び出て、俺よりも早く館へ走っていった。
そう、出発。
S級に昇格した俺は、今日の船で出発するのだ。
あの、死にたいくらいに憧れた花の都大ザハルベルトへ向けて。





