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壊崩のベレンガリア ~不本意なあだ名(暴虐皇妃)で呼ばれていましたが、死に戻ったので自由に生きます~  作者: 長篠金泥
2章 朱く染まるは己か刃か

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第46話 やはりこいつら、ややこしい裏事情を抱えているな

 軽い食事を済ませ、露店《ろてん》と屋台《やたい》が雑然と並ぶマーケットを離れる。

 再びレオンに先頭を任せて、元ホテルを囲む高い壁をぐるりと一周。

 分厚《ぶあつ》い壁には歩哨《ほしょう》が移動するための通路や、監視塔《かんしとう》が設《しつら》えられていた。

 主な客は上流階級の連中であるし、建物内に賭博場《カジノ》も存在している。

 犯罪者の侵入を警戒して、往時《おうじ》は軍事施設並の警備だったのだろう。


「通用門が無いようだな」

「防犯面を考えますと、出入口は少ない方が宜《よろ》しいかと」


 私の呟《つぶや》きに、ミナが正論で応じてくる。

 歓楽街《かんらくがい》の宿であるし、娼婦《しょうふ》などを部屋に呼ぶケースも多かったはず。

 そうした者たちは裏口を通らせるのが慣例、と聞いていたが。

 もしかすると、ホテル側で専属の女たちを雇っていたのだろうか。


「この辺りは、壁沿いが仮設小屋《バラック》だらけだ」

「一面だけでも頑丈な壁があれば、小屋も作りやすいでしょうね」

「ここらに住んでんのは大体、親のいねぇガキ共ばっかだよ」


 レオンの表情には「だから見逃してくれ」とのメッセージが滲《にじ》んでいた。

 私は曖昧《あいまい》に頷《うなず》き返して、生活感たっぷりな集合住宅を眺めて歩く。

 何人かの子供が、好奇心と警戒心を綯《な》い交《ま》ぜにした視線を向けてくる。

 衛生状態も栄養状態もだいぶ悪い、というのが一目でわかってしまう。

 聖女とやらは、子供らをこの環境から救い出そうとはしないのか。

 そんなことを考えながら正門近くに戻ると、怪しげな連中が屯《たむろ》っている。


「……あれが善導隊《ぜんどうたい》か」


 憲兵の制服に似たデザインの、茶色系な服を纏《まと》った男が五人。

 黒い帽子と暗灰色《あんかいしょく》のマスクも装着し、聞いていた通りに揃《そろ》いの姿だ。

 これは偶然の遭遇ではなく、待ち構えていたと考えるのが自然だろう。

 足を止めずに進んで行くと、複数の足音が近付いてくる。


「後ろからも四人――いえ、五人来ます」

「たぶん、あんたらに用があんだろうけど……どうする?」


 レオンに訊かれて、どうしたものかと迷う。

 マスクで表情が読みづらいが、雰囲気からして友好的とも思えない。

 逃げてもいいのだが、いずれにせよ善導隊とは接触する必要がある。

 最初から対立してしまうと、何をするにも手間が増えそうだ。


「とりあえず、話してみるか……お前は逃げても構わぬぞ」

「あんたらを無事に帰さないと、オレが怒られるんだって」


 因縁《いんねん》のある相手だし、本音では関わりたくないのだろう。

 自分も残ると宣言したレオンは、わかりやすく顰《しか》め面《つら》だ。

 そして正門前に辿《たど》り着けば、善導隊は私たちを遠巻きに囲んできた。

 コチラを逃がすまいとする姿勢が露骨《ろこつ》すぎるな――

 警戒を一段階強め、胸のワッペンが一人だけ他と違う奴に声をかける。


「我らに何の用か」


 居丈高《いたけだか》に問われると思わなかったのか、相手は僅《わず》かに怯《ひる》んだ様子を見せた。

 しかし、すぐに気を取り直したようで、一歩進み出て応じてくる。


「不審な女の二人連れが、野良猫団のガキと一緒にウロついてる、との通報があったんでな。どこの誰が何しに来たのか、確かめさせてもらわんと」

「お前らにそんな権利などあるまい。憲兵の真似事《まねごと》で遊ぶにしても、時と場合を選ばねば本物が出てくるぞ」


 偉そうな態度が腹立たしかったので、冷えた目で見据《みす》えて警告を発する。

 破滅的に察《さっ》しが悪くなければ、貴族を相手にしているのだと気付くはず。

 そんな計算もあっての対応だったが、善導隊の連中は引く様子を見せない。

 強気の理由は数を恃《たの》みにしているからか、女子供を相手にしているからか。

 レオンの事前情報からすると、誰に対しても不躾《ぶしつけ》な可能性も否めないが。


「当方《とうほう》はメービウス侯爵家の関係者で、本日は新たに侯爵家の所有となった物件の確認に参りました。そちらの手を煩《わずら》わせることは御座《ござ》いませんので、どうぞお引き取りを」


 このままだと拗《こじ》れるだけだと判断したのか、ミナはホテルを指し示しながらメービウスの家名を出す。

 大貴族の名を騙《かた》るのは文字通りの自殺行為だし、家紋の入った指輪と短剣もあるので私の身分は証明できる。

 ここに至っては、謝罪するなり有耶無耶《うやむや》にするなりして、サッサと退散するしかないというのに、善導隊の連中は不遜《ふそん》さと不穏《ふおん》さが丸出しのままだ。


「侯爵サマの一族を名乗るとは、何とも恐れ入ったな。こいつは予定よりたっぷりと、詰所《つめしょ》で取り調べる必要がありそうだ。二日や三日は寝かせてやれんなぁ」


 指揮官らしい男の言葉に、下卑《げび》た響きの追従《ついしょう》笑いが広がった。

 破落戸《ごろつき》のような口ぶりなのだが、あまり板についていない。

 どことなく演技臭いというか、作為的《さくいてき》な雰囲気が見え隠れしている。

 やはりこいつら、ややこしい裏事情を抱《かか》えているな。

 正体を知るには、詰所とやらについていくのが手っ取り早い気もするが、不確定要素が多くてリスクが高すぎる。


「マズい雰囲気だけど、どうするよ?」

「こうなる前に、この場を脱して団の仲間を呼ぶべきだったな」

「うっ――」


 小声でされた質問に答えれば、迂闊《うかつ》さに気付いたレオンが言葉に詰まる。

 場馴《ばな》れしているとは言え、子供にそこまでの機転を求めるのも酷《こく》か。

 慰《なぐさ》める意味で頭をポンと軽く叩き、銀のコップが入った包みを預けた。

 そうして両手を自由な状態にしてから、先方がどう動いてくるかを窺《うかが》う。


「……何事だってんだ、オォイ?」


 緊迫《きんぱく》した雰囲気の中に、妙に気の抜けた発言が放り込まれた。

 見れば、買い物帰りらしい中年男が、訝《いぶか》しげにコチラを見ている。

 スキンヘッドに、伸び放題のヒゲ――これがレオンの言っていた管理人だろう。

 状況を把握《はあく》できずにいるそいつに、指揮官が怒鳴るようにして問う。


「こいつらはどこぞの貴族サマで、そのホテルの新しい所有者なんだとよ! 事情は聞いてるか、フロリアン!?」

「いや、そんな話は知らんぞ、まったく」


 トボケているのか本当に知らないのか、判断が難しい感じに応じてくる。

 すると指揮官は、マスク越しにもわかる満面の笑みで、私の方へと向き直って言う。


「だ、そうだが……申し開きはあるか?」

「どう説明しようと、端《はな》から聞く気もなかろうに」


 呆《あき》れ気味に返せば、指揮官は私の背後を見ながら何らかの合図を出す。

 肩越《かたご》しに振り返れば、手枷《てかせ》らしきものを持った隊員が近付いてくる。

 二つの金属の輪を鎖で繋いである、見るからに重たそうな代物《しろもの》だ。

 他の隊員たちも、ジリジリと包囲網《ほういもう》を狭《せば》めてきている気配。

 指揮官は目を細めながら、浮かれた調子を隠しもせずに言う。


「わかっているだろうが、抵抗しない方が身のためだぞ」

「まぁ、お前らの身についてはその通りだ」


 言い捨てながら上体を捩《よじ》り、背後から伸ばされる右手を躱《かわ》す。


「ふぉっ――」


 透《す》かされてバランスを崩した隊員が、片足立ちでトトッとつんのめる。

 肩を掴《つか》もうとしていた相手の右手首を握り、捻《ひね》りながらの足払い。

 手首が極《き》まったままに倒れた男は、右の肩から異音《いおん》を発した。


「んがぁああああああああっ、はぅ」


 けたたましい悲鳴は、後頭部を踏み潰して強制停止に追い込む。

 この事態にどう対処するべきか、私の行動で理解したミナは即座に動いた。

 そして、最も近い場所に立っていた隊員の下腹に、左の踵《かかと》をめり込ませる。

 私は地面に転がった手枷を爪先《つまさき》で跳ね上げると、空中でキャッチ。

 それをクルクル回して勢いをつけると、サーベルを抜こうとする長身の隊員の側頭部を横殴る。


「ぇげっ!」


 こめかみを弾《はじ》き飛ばせば、受け身も取らず無様《ぶざま》に転がった。

 どいつもこいつも、反応がやたらと鈍《にぶ》い。

 それなりに鍛錬《たんれん》はしているようだが、実戦経験には乏しいようだ。

 三十秒ほどで三人の部下が倒されているのに、指揮官は呆然《ぼうぜん》とするだけ。

 このまま流れで制圧できるか、と思ったところで怒声《どせい》が響く。


「手加減は考えるな! まずは無力化しろっ!」


 別動隊の方にいた筋肉質の巨漢《きょかん》が、見た目に似合わぬ冷静な指示を出す。

 そこで我に返ったかのように、他の隊員たちは戦闘態勢を整え始める。

 単体での危険性は低くても、集団が相手だと何が起こるかわからない。

 投げ矢(ダート)を持ち出しているのもいて、中々に対処が厄介そうだ。

 さてどうする――善導隊の連中を見回せば、不意に包囲の輪が二箇所で途切れた。


「あれ、こいつら殴っても大丈夫なヤツか!?」

「殴ってから言うのはどうなのかな」


 赤髪の少年の疑問に、暗茶髪《ダークブラウン》の眼鏡が疑問で返した。

 コンラッド(ラッド)とテオドール(テオ)のコンビは、二手に分かれての奇襲で一人ずつを沈《しず》め、間髪《かんはつ》を入れずに次の標的に向かう――

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コミカライズ版『壊崩のベレンガリア ~不本意なあだ名(暴虐皇妃)で呼ばれていましたが、死に戻ったので自由に生きます~』は、コチラで連載中です!

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