プロローグ 伯爵様の護衛と馬は今すぐ転職したい
「ふ、風圧で死ぬううううー!?」
土魔術師のディルクは土偶のように全身を出発前に即席で作った土の鎧で覆ったまま、御者台で命の危機を感じていた。
「ブヒヒーン!?(伯爵様、飛ばしすぎぃー!?)」
「ヒヒイーン!!(ブーツを履かされてても、足があつーい!!)」
親が軍馬だった馬たちは、ディルクが即席で作ったヘルメットと蹄ブーツを履いて、ターボ馬車を爆走させられていた。
「もっと急ぐぞ。明後日には到着させる。お前は馬の足を守れ」
無茶である。普通は馬を昼間走らせて1ヶ月はかかる距離なのだ。
それにもかかわらずエドガルドは、馬車の中でメイド長特製のふかふかクッションに座りながら、馬車の後方から丸太級の炎を2つ吹かしていた。
「ぎゃああああー!!車軸も守らなきゃ、バラバラになりますからー!?」
ディルクは車軸や車輪などにも薄い土の膜を均一に張り付け、折れないように、摩擦で無くならないように必死だった。
(ルチル。離れてから君への気持ちに気がつくなんてな……)
エドガルドは彼女の微笑んだ姿を思い浮かべ、切なげな表情をしながら目を閉じた。
「いやあああー!!右に曲がりたいのに、ガンガン後ろから押されてるー!?エドガルド様、お願い、お願いだから弱めて!お願いします!!無理ーー!!?」
「お前らならできる。安心しろ」
エドガルドはルチル一色になっていたところを邪魔されてイラつき、心なしか火力が強まった。
「「ヒヒィーン!!(ぎゃあああ、ぶつかるううぅー!!)」」
「頑張るんだウマーっ!!俺たちの命のためにいぃ!?」
馬車の左端がギャリリと崖に擦れたが、なんとか曲がることが出来た。
(もう無理、仕事辞めてお布団の中でぬくぬくしたい…)
伯爵家の馬車は金属板の継ぎ目の上から金属棒が溶接されているとは聞いていて、その部分が擦れたんだろうと理解はしていたものの、ディルクは死の危険に苛まれていた。
「そろそろ昼飯の時間だな、吹かすのを止める」
(((カーブの時にそうしてーーぇ!!)))
だが、馬達は急には止まらない。寸前まで全力で吹かされ走らされていたのに足を止めれば、そのまま轢かれてしまう。やっと止まった時にはディルクと馬たちは全身ガクガクになっていた。土偶スタイルは馬車から降りた途端、荒野の土に返ってしまった。
「ご苦労だった。みんなで分けろ。成人男性は1日3回コップ1杯、馬は1日2回だが、桶1/3まで入れてから飲み水と混ぜろ」
エドガルドは高級ポーション1リットル瓶を荷台から取り出してディルクへ手渡した。
「サンドイッチをバスケットに料理長が詰めてくれたから、ディルクも食べろ。馬にはトマス特製の高級ニンジンがあるからな?果物も全員分あるぞ」
(((怒りたいけど怒れない。転職したい……)))
ディルクと馬達の心は一つになっていた。




