第1章 魔導機兵ルミナリスⅣ ~ルヴェリア家とお嬢様
ルミナリスの日常……何気なくそして大切な日々の1ページ
「お嬢様。それでは次の問いでございます。
『この世界を治めるべきは神々の摂理でもなく、大精霊の意思でもない。我ら生きとし生けるものの意思である。我ら人間種は力を振るい、世界に我らの意思を示す。人間種こそ至高であることを遍く世界に知らしめるのだ』
——この御言葉は何と呼称され、どなたの御言葉でしょうか?」
「ルミナリス、私をそんな簡単な問題で揺さぶろうとしても、その手には乗りませんわ。皇帝陛下の……『人間至上の御言葉』ですわね」
帝国貴族の子女が通う学園では、まもなく歴史の試験が控えていた。
お嬢様はその対策として、私に模擬試験役を務めさせておられる。
この試験は口頭質疑で行われ、教師はわざと感情を揺さぶり、動揺を誘う物言いをするという。
私は情報を収集し、その口調を完全に再現した。
魔導機兵である私は、感情の機微を完全に理解しているわけではない。
それでも、お嬢様にとっては少々大げさな演習であることは理解していた。
もちろん、そのことを口に出すことは決してない。
必ず満点を取っていただく。学友の前でも誇り高く笑っていただく。
そのための演習であるなら、私は全力で応じる。
そう決意した矢先、お嬢様は不思議なお言葉をおっしゃった。
「ルミナリス……どうかお手柔らかにお願い致しますわ。貴女のその“表情”の時は、とても手厳しいから」
表情?
私の顔には、表情と言えるほど柔軟な機能は存在しない。
なぜお嬢様はそうおっしゃるのか。
疑問が生じると同時に、思考領域に小さな乱れが走り、演算処理速度が不思議と向上した。
「では続いての質問です。世に変革をもたらした『人間至上主義の宣言』は、それまで虐げられてきた人間種に希望を与え、他種族に衝撃を与えました。この宣言によって引き起こされた社会変革について、要点を三つにまとめてお答えくださいませ」
「一つ目は……私たち人間種の奮起、ですわね。それまで虐げられるだけだった人間が立ち上がり、新たな国々が誕生しました。国名は……ユニティアとアルモニアですわ」
答えた瞬間、お嬢様の瞳がきらりと輝いた。
だが――試験では正式名称が必須だ。
「お嬢様。それでは不正解でございます。——正式名称をお答えくださいませ」
「あら、言葉足らずでしたわね。正しくは、ユニティア王国連邦とアルモニア共和国。
二つ目は、文化の交流と文明の衝突。帝国が征服国家を併合したことで異種族同士の交流が生まれ、相互理解と同時に敵対も進みました。新進の魔導機械技術と、伝統の魔法・魔術がぶつかり合った……文明戦乱ですわね?」
「はい。正解でございます。では、残る一つは?」
「三国滅亡……か、神聖王国連合の設立……それとも、大精霊と魔術の対抗宣言?……どれか、かしら……?」
少し不安げに私へ向けられた視線。
ヴェリットお嬢様は誰よりも聡明であられる。
しかし、完璧であってほしい。
お嬢様の微笑みを守ることこそ、私の最優先事項。
厳密にいえば、学習効果を損なう行為である。
だが、私の行動優先順位はただ一つ――助ける。
「はい。お答えの最後の方に、正解が含まれております」
「ああ、そうでしたわ。対抗宣言、ですわね!他種族と精霊を崇めるアリシノーズまでもが加わって、大陸を二分する戦いの火種となった……あの宣言ですわ。ありがとう、ルミナリス」
お嬢様は花が開くように笑われた。
その笑顔を守るためなら、どのようなことでも厭わない。
思考領域の片隅に「教育の厳しさは人間種の侍女長に任せるべき」という結論をそっと保存しながら、私はお嬢様の満足げな表情を、宝物のように記憶へと刻みつけた。
次回、予感と共に、物語は動き始めます。




