魔導機兵ルミナリスⅢ ~大帝都新聞 クレデンシャル・タイムズ
帝国の必然—―。
大帝都新聞の建国記念日の記事。帝国と皇帝の思想が帝国内に根付いている理由が、垣間見える。
一部改訂しました。
大帝都は、街路の隅々まで祝祭の熱に包まれていた。
色鮮やかな旗が翻り、紙吹雪が舞い、人々の笑顔と歓声が交錯する。
本日は人間解放宣言の日。
クレデンティウム帝国の建国記念日である。
お嬢様にお仕えする私に、油断という概念は存在しない。
体内に備える希少な魔導核を用いた迎撃・防御機構は常時臨戦状態にあり、即応可能だ。
祝祭の高揚に紛れ、何者かが愚行に及ぶ可能性を排除できない以上、警戒を緩める理由はなかった。
街角で配られていた大帝都新聞の号外を一部、受け取る。
お嬢様は、この種の記事に強い関心を示される。
要望される可能性は高い。
内容を確認し、不適切な要素がないか判読することも、護衛の務めだ。
特別企画記事
『建国の日に寄せて』
帝国の威信たる皇帝レヴィ・ハジェル陛下の栄光と帝国の軌跡
記者:セリウス・フォレント
『この世のすべては、己の意志によって定まる。己の手と足を動かし、前へ進むことで、ようやく己の領分を得ることができる』
皇帝レヴィ・ハジェル陛下の言葉だ。
帝国に生きる者なら、誰もが一度は耳にしている。
『我ら人間種は、幾世代にもわたり他種族の支配と蔑みに耐えてきた。だが、その長き沈黙の時代は終わった』
人間種アリシノーズ。誇りと意志を掲げ、力を掴み取った存在と帝国で定義。
『神々や精霊にすがる時代は終わった。魔導科学と魔導機械こそが、我らが切り拓いた光明の剣である』
活字を追う指先が、わずかに止まる。
『壊された魔導機兵は、修理が可能だ。だが、彼らは我々のために戦う戦士であることを、どうか忘れないでほしい』
――戦士。
その一言が、思考領域に微細なノイズを生じさせた。
私は戦うために造られた存在だ。
破壊されれば修復され、再び戦場へ戻る。それは事実であり、魔導機兵の定義でもある。
だが、同時に記録領域には—— 魔導機兵である私のことを常に心配し、喜びを分かち合おうとするお嬢様との日々が蓄積されている。
戦場での戦闘は想定していない。
『神聖王国連合との戦争は、百年に迫る長きにわたり続いている。だが我らは、必ず勝利する』
記事は、そう結ばれていた。
私は号外を折り畳み、内容を記憶領域に保存すると、紙面そのものは処分した。
理由は明確だ。
この記事は、お嬢様の心を曇らせる可能性がある。
帝国の思想。
魔導機兵の戦士としての役割。
修理可能な存在として消費される覚悟。
それらを、今のお嬢様に向ける必要はない。
護衛対象の精神的安寧を守る。
お嬢様のお心を悩ませ、その笑顔を曇らせるものなど必要ではない。
合理的判断により、不要と判断した。
あの頃の私は—— それが最善だと判断していた。
次回は、ルミナリスの宝石の様な、大切な日常と忍び寄る陰を描きます。




