表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第13章 神の花を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/115

第13章 神の花を求めてⅡ ~ 怨嗟の代償①

「あいつは帝国兵だっ! ガイル団長とファルヴィス副長の仇だっ!」


 その叫びと同時に、兵士は殺気を全身にみなぎらせ、槍を突き出した。


 ゼイロスはその動きを見ていたにもかかわらず、避けようとはしなかった。

 あえて一歩も退かず、そのまま躰で受け止める。


~本文より

 ゼイロスに気配を殺させ、見つからぬよう潜ませていたオルクスは、深く溜息をついた。

 この城塞には、かつてゼイロスが帝国獣人兵として攻め落としたシルヴァ・カストラの生き残りが、大勢いる。

 ここはゼイロスにとっては、死地であった。


 それなのに、王狼の証を前にした途端、そのことを忘れたかのように姿を現し、よりにもよって大声まで上げたのだ。


 案の定、詰めていた焔鳥の刃騎士団の兵士が叫んだ。


「あいつは帝国兵だっ! ガイル団長とファルヴィス副長の仇だっ!」


 その叫びと同時に、兵士は殺気を全身にみなぎらせ、槍を突き出した。


 ゼイロスはその動きを見ていたにもかかわらず、避けようとはしなかった。

 あえて一歩も退かず、そのまま躰で受け止める。


 鍛え抜かれた剣猫族の肉体を完全に貫くことは叶わなかったが、槍の穂先は半ばほどその胸へ沈み込んでいた。


「……今はこれで勘弁してくれ。まだ死ぬわけにはいかんのだ」


 低く漏らした声に、虚勢はなかった。


 オルクスは瞬時に動いていた。

 ゼイロスへ襲いかかった王国兵たちを三人ほど、怪我をさせることなく無力化している。

 武器を奪い、足を払い、投げ飛ばし、動きを完全に封じる。流石というほかない、まさに伝説の剣聖の手並みであった。


「やめいっ。まずは話を聞けっ。殺し合いはその後じゃ!」


 英雄の怒気を帯びた一喝が、その場を重く貫き、皆、息を呑んで黙した。


 槍を握ったまま荒い息を吐いていた兵も、投げ飛ばされ床に転がった者たちも、それ以上は動けない。

 怒りは消えていない。

 だが、オルクスの前でそれを押し通せる者などいなかった。


 オルクスは胸に槍を受けたゼイロスを睨みつける。


「馬鹿者が……何のために潜ませておったと思うておる」


「悪かったとは思っている」


「思うておる顔ではないわ」


「だが、出るしかなかった」


 短い言葉だった。

 その声には、珍しく虚勢がなかった。


 胸元から血が滲み、衣を濃く染めていく。

 避けようと思えば避けられた一撃だった。

 それでも避けなかったのは、この場に現れた代償を、せめてもの形で受け入れたのか。それとも、自らに課した罰のつもりか。


 ルミナリスは百眼で傷口を観測する。

 致命には至らない。だが浅くもない。

 剣猫族の強靱な肉体がなければ、肺腑を損ねても不思議ではない深さであった。


「処置を。失血が進行しています」


 静かに告げるルミナリスへ、ゼイロスは首を振った。


「後でいい」


「死にます」


「今は死なん」


 それは意地であり、執念であった。


 焔鳥の刃騎士団の兵がなおも憎悪に目を燃やし、吐き捨てる。


「貴様が何人殺したと思っている……! ガイル団長を、ファルヴィス副長を……!」


 ゼイロスはその兵を見た。

 いつものように嘲ることもなく、ただ正面から受け止める。


「……忘れてはいない。俺は帝国追跡急襲部隊ベルセクオールだ。帝国の敵を沢山殺した」


 低い声だった。


「お前たちの仇だ」


 その一言に、広間の空気がきしんだ。


「……この首をお前たちに渡す覚悟は……ある。逃げも隠れもしない」


 ロアンは銀月の爪を握ったまま、視線を上げた。


 神威の残光。血の匂い。兵たちの怒り。

 継承の場であるはずの広間は、あまりにも無惨に戦争のただ中へ引き戻されていた。

 ロアンもまた、他の兵士同様に剣猫族の男に強い殺意を抱いていた。


 ガイル……お前の仇が目の前いる。

 今すぐこの手で八つ裂きにしてやりたい。

 だが、銀狼族としての魂の印が勝手を許さない。

 この証は重い。重すぎる。


 今ここに満ちているものすべて——

 敬意も、憎悪も、喪失も、報復も—— 全てを受け止め、なじられようと恨まれようと、そのどれからも逃げぬ者でなければ、背負う資格はないのだと、銀月の爪そのものが告げているかのようだった。


 オルクスが槍を取り上げ、石床へ放る。

 乾いた音が広間に響く。


「ここは戦場ではない。少なくとも、今はな」


 誰も答えない。


「王国の守護剣聖としてこの場のもの全員に命じる。剣を収めよっ。恨みも怒りも今は儂が預かる。良いなっ」


 オルクスの躰から途轍もない剣気が怒気とともに立ち昇り、周囲を圧倒する。


「この守るべき場所で、喉笛の食い合いを始める気なら、容赦なく、全員叩きのめす」


 静かな声であった。

 だがその眼光には、一切の冗談を許さぬ凄みがあった。


 その時、広間の奥から低い声が響いた。


「ならば、そうなる前に終わらせましょうか」


 王国生き残りの反乱軍を率いるランバートが声をあげていた。


次回、王狼の証の重さが語られます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

面白く読んでもらえたなら、とても嬉しいです。

コツコツと心を込めて描いていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ