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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(後編)
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終話、夕枯れの終わりと新しい出会いと私たち。

「――ご両人、話は終わったのか?」


 軽いお喋りをしたところで、部屋の入口から渋い声が聞こえてきた。

 ずっと気づいてはいたけれど、敢えて無視していた。


 はぁ、と溜め息一つ。


『残念だけど、私と甚伍の会話は永遠に終わらないのよ。でも……しょうがない。ほんっとうにしょうがないから、あなたの釈明を受けてあげようじゃない』


 入口すぐ横の壁に寄りかかってかっこつけていた人――骸骨男に返事をする。


 骸骨男。

 名前は(おおとり)さん。ちゃんと名字も名前もあるって本人?本骨は言ってたけど、下の名前は思い出せないらしい。記憶はしっかりしてるのに自分の下の名前だけ思い出せないんだって。怪しい。

 見た目は骸骨……なんだけど、身体の下半分が透明になって消えてる。私よりちゃんと幽霊してる。


 悪魔を退治し終えて、さああなたたち誰!?ってなった時にある程度話はしてもらった。

 名前とか、状況とか、甚伍に取り憑いてどうするのとか。


 鳳さんはそもそもが"そういう契約"だとか言っていた。甚伍が疲れてたから詳しくは帰ってからでいいかって聞かれて……まあ頷いちゃったわよね。

 甚伍ってばお風呂もこの骨と一緒に入って――鳳さんは霊体だからお風呂に浸かれてないと思うけど――勝手に仲良くなっちゃって。危機感が足りないわ。ここは私がしっかり警戒しておかないと。


「ふむ……そうだな。確かに守護霊殿の言う通りではある。甚伍、お前にも改めて我が輩のことを話しておこう」

「うん。よろしく」


 この骨、やけに親しげね……。


「先にも伝えたが、我が輩の名は(おおとり)。およそ千年前に宇美花の地にて、美花(みはな)様を主として戴いていた。そこの少年、石海甚伍の遠い先祖もまた我が輩同様美花様に仕えていた身である」


 これは聞いた通りね。

 昔々、美花様っていう巫女さんがいたんだって。その人に仕えてたのがこの鳳さんと甚伍のご先祖様。


「我が輩自身死の瞬間を克明に記憶しているわけではないが、何かの争いで命を落としたことは覚えている。当時は霊地の奪い合いが多く、強大な怪異が跳梁跋扈していたからな。――あぁ言うまでもなく、甚伍や守護霊殿の知る怪異とは別の、今で言う妖怪のようなものだ」


 一瞬甚伍と目配せして、すぐに大丈夫と安心した。

 もうね、世海中怪異だらけとか普通に笑えないから。千年前人に厳し過ぎるでしょって思っちゃうところだった。


「死に瀕した時、我が輩は宇美花様と契約した。これは鮮明に覚えている。我が友、我が主に(えにし)ある者が危難に直面した時、どれだけ時を離れようとも己の矜持に懸けて手を貸そうと」


 ふーむ……さすがは昔の武士?なだけはあるわね。友達のため、主のため、それが例え本人じゃなくて子孫であっても力を貸す。なかなかできることじゃないわよ。


「無論条件はある。宇美花様との契約であるため、まず一定以上の縁が必要だ」

「あ、それ僕クリアしてたんですね」

「うむ。甚伍、お前は我が友甚八郎(じんぱちろう)の直系の子孫である」

「甚八郎……」

『あなたに似てるわね。名前』

「理由は定かではないが、名付けの伝来が成されてきたのではないかと我が輩は推測している」

『ふーん……』


 あとで父さんに聞いてみようかな、と呟く甚伍を見ながら鳳さんに続きを促す。


「縁が必要であることに加え、最低限霊力を持たなければならぬ」

「あー……今の時代、そういう人少ない感じ?」

「うむ。美花様の子孫もこの時代に居られるようだが、既に血は薄れ巫女としての資質も霊力感知能力すらも失っているようだ」

『……そんな遠くの人のことわかるの?』

「あぁ。我が輩に縁がある者のことならわかるのだ。一番縁が強いのは甚伍、お前だぞ。さすがは我が友だな。がっはっは」

「そっか。……あれ、今代の巫女の桔葉さんは?」

「がははは!……ふーむ、お前の視界からも見てはいたが、桔葉殿は完全に新時代の巫女だな。旧来の血筋とは一切関係ない。当人の資質のみで我が主、美花様と同等の巫女として在られる。素晴らしいことだが……。我が輩とは一切関係ないため宇美花様との契約にも一切関知せぬ。まあ桔葉殿には巫女らしく宇美花神社の守りがあるから問題はなかろう」


 なるほど。ここは聞いてなかったから普通に聞けてよかったかも。

 鳳さんの話鵜吞みにすると……桔葉さん、めちゃくちゃすごい子になるのね。や、神器扱ってたからすごいのはもう十分わかってるんだけど。今まで以上に、ね。


「話を戻すが、まだ宇美花様との契約には条件がある」

「結構多いね」

「がはは、神との契約というものは強力な分、それだけ縛りも大きいということだ。お前も気をつけるのだぞ」

「うん」

「守護霊殿もな。両人とも、他人事ではいられぬぞ。契約ではなくとも宇美花様の試練を受けているのだから、大きな縛りを受けていることを頭の隅に置いておくべきであろう」

『はいはい、言われなくてもよ』

「うん。わかってるよ」

「なら良い」


 縛りって言われてもね……。自覚はしててもそれがどんな縛りなのかわからないものはわからないし、考えてもしょうがないわよ。私の直感だけど、こういうのその"時"が来たらわかる気がするの。今は待ちの時間なのよ。たぶん。


「我が輩の縛りは、我が輩の肉体の一部を勇あるものが持つことだ」

「肉体の一部……」

『勇あるもの……』


 どこかで聞いた覚えがある――ていうか、どう考えたって私たちが最初に遭遇した怪異だった。


「甚伍、お前の左手の薬指には我が輩の骨がはめられている」

「まあうん。だろうと思ってたけどやっぱり?」

「ああ。お前がどのようにして自我のない我が輩を押さえ込んだのか知らないが、よくやってくれた。お前が我が輩を止めたからこそ、今日の助力が可能であった。改めて礼を言おう。ありがとう甚伍、ありがとう我が友よ」


 神妙な様子の鳳さんは別にいいし、照れ照れしてる甚伍もいいんだけど……。色々聞きたいわね。うずうずする。聞きましょうか。


『ねえ鳳さん?』

「うむ、何用か守護霊殿」

『自我がなかったってどういうこと?』


 状態は理解できるのよ。あれよね。私たちが逃げ回った危険な骸骨のことよね。結局甚伍が薬指切り落として渡して解決に持ち込んだやつ。だから理性なく暴れ回ってた――それにしてはおばか過ぎた気もするけど――ことはわかる。けど、自我がないって何?


「そうさな。理由は二つある。一つは単純に時間経過によるものだ。何せ千年も眠っていたようなものだからな。我が輩、何も考えられなくなっても仕方なかろう。がっはっは!いや笑い事ではないのだが」

『はいはい。それで二つ目は?』

「うむ。二つ目は縛りの一つだ。先ほど勇ある者と伝えたが、これは我が輩に真っ向から立ち向かう勇気を持つ者のことを指す。甚伍、お前があの時我が輩の前で礼を尽くした時、お前も守護霊殿も気づかなかっただろうが我が輩は自我を取り戻したのだ」

「え?そうだったんだ」

『気づくも何もそんな余裕なかったもの。ね』

「あー、そうだね。余裕なかったね……」


 二人で苦笑する。

 まだ一年も経ってない出来事のはずなのに、ずいぶんと前のことのように感じてしまう。懐かしいような、遠い昔のような、不思議な感じ。


「自我を取り戻した我が輩は、己のものとなったお前の指を返すことにした」

「え……え!?じゃあもしかして、鳳さんが自我取り戻してなかったら僕の指戻ってなかったの!?」

「わからん。あの空間はおそらく宇美花様との契約が生み出した代物なのだ。遠い昔の契約を現代に持ち込んだわけだ。何が起こるかなど予想もつかぬ」

『……とりあえず、話を進めましょうか』


 もう終わったことだもの。今さら恐怖体験思い出したって仕方ないわ。済んだことは流してさっさとお話続けましょう。


「そうだな。一目見てお前が甚八郎の――石海の子孫だとわかった。だからこそ指を返した。我が輩の肉体の一部を渡せばこそ、いつか契約の条件をすべて満たせる時が来るのではないかと思ったのだ」

「ふむふむ……えっと、鳳さんに縁があって、霊力持ちで、勇気があって、身体の一部も持ってて……。これ全部満たすの、相当きつくない?」

「あぁ。神との契約とは得てしてそういうものだ。どれほどの時であろうと越えられる、それほどの契約が簡単なものであるはずがなかろうよ」

『ちなみに他に条件あったりするの?』

「ある。最後に一つ」


 と、そこで鳳さんの空っぽの目がこちらに向けられる。

 何かしら。そんな何も色のない目で見られても嬉しくないわよ。見せるなら甚伍の瞳にしてちょうだい。ほらほらその綺麗な目を――うん。今日も綺麗いつも綺麗。私だけの宝石。素敵、見惚れちゃうわね。


「……甚伍、お前の守護霊殿はこの方で良いのか?」

「……うん。いいんだ。この人でいいんだよ。この一面は最近知ったけど、普段はすごく頼りになるんだよ」

「そうか」

「そうそう」

『そこ!好き勝手言わないでもらえるかしら?』


 二人(一人と一骨)して肩をすくめるのやめてちょうだい。

 やっぱり変に息が合ってるわね。ご先祖様とか関係あるのかしら……。


「最後の条件は、願いだ」

「『願い?』」

「ああ。純粋な願い。助けを求める声を、心の底から助力を求む願いこそが最後の縛りであった」

『だから私を見たのね』

「うむ。守護霊殿の声がなければ、我が輩は甚伍の助けへと出ることすら叶わなかった。むざむざ目の前で友を死なせるところだったのだ。感謝する、守護霊殿」

『別にいいわよ。こっちこそ……甚伍を助けてくれてありがとう』


 色々と話してなんだか絆されちゃったような気もするけれど、甚伍が嬉しそうだからそれでいいかなって思う。


 鳳さんがどんな経緯で甚伍の下に来たのかはこれで終わりだった。

 今は幽霊骸骨みたいな謎存在になってるけど、甚伍に薬指を渡した段階でずっと傍にはいたらしい。甚伍の視界を通して世海を見ているような、テレビを見ているような、そんな感じだったとか。

 だから現代知識も結構知ってるし、甚伍の肉体を共有していたようなものだから日本語も聞き取れて私以上に地球については知ってるみたい。ちょっぴり嫉妬。


 これからは薬指に引っ込んだり外に出たりは意外と自由で、霊体になっている時は私と違ってこの世海の妖怪とか霊力持ちには認識されるから気をつけなくっちゃって話になった。

 ちなみに実体化も結構容易らしい。甚伍の血を薬指に流す必要があるらしいけど。最初の実体化は魔法陣に血が垂れたからできたことで、あれがなかったらもっと時間かかってたみたい。危なかった。

 条件もう一個あるじゃない……というのは言わぬが花。まあ私は言ったけど。豪胆に笑われちゃった。


 今後はもう魔法陣が出てくることはないと聞いた。血は必要だけど、一度契約が成ったからその辺応用が利くとかなんとか。


 甚伍の身体に宿っているから私の声も聞こえるし、パスを繋げたら相手の言葉もこっちが理解できるようになってる。

 急に話し相手が増えてちょっぴり混乱したのと、甚伍がほんの少し寂しそうな気持ち垂れ流してて嬉しかったりした。

 

 骸骨(おおとりさん)のお話が終わり、じゃあ悪魔と戦った時のもう一人ならぬもう一匹の功労者はというと。


「わう?」

『ふふっ、呼んでないから大丈夫よー』

「わう」


 少年の影から顔を出した犬が可愛く鳴いた。

 私の言葉を聞いてそぉっと影に沈んでいく。


 そう、送り犬ことゴールデンレトリバーは甚伍の影に居着いた。正直犬とはお話できないので何がどうなってそうなってるのかわからないけれど、私のこと認識してるの見るに原理は鳳さんと同じ。甚伍の身体の一部、みたいな。知らないけど。


 話が一段落つき、犬も骨もいなくなって(見かけは)部屋は静かになった。

 長々繋いでいたパスを切って、二人で小さく深く息を吐く。


『……ふぅ、疲れたわね』

(疲れたね。……急に僕の周りが賑やかになってきてびっくりだ。桔葉君もこんな気持ちだったのかな)

『ふふ、どうかしら。あの子はもっと大変だったかもしれないわよ』

(そうかなぁ。……そうかもなぁ)


 しみじみと呟く少年を見て、ようやく、なんとなくの実感が湧いてきた。


『夕枯れ、終わったのね』

(うん)

『……よかったぁ』

(あはは、守護霊さん疲れた声してる)

『あなたもよー』

(うん。……終わったね)

『終わったわね』


 やっとようやく、長い長い長ーい夕枯れが終わった。

 安心したら力抜けてきちゃった。本当、やっと全部終わった実感出てきた。


(守護霊さん)

『ん』

(今回も色々ありがとうね。お疲れ様)

『こちらこそありがとうよ。よく頑張ったわね。お疲れ様』


 二人で労い合って、前より少しだけ深くなった縁を確かめる。

 大変だったけど、危ない場面も多かったけど。でも、今目の前で微笑んでいる子とまた少し距離が近づいたことだけはよかったかな、なんて。


 このままいけば、私のことを直接目にすることができる日もそう遠くないかもしれないわ。


(あー、そうだ守護霊さん)

『うん』

(結局さ。あの悪魔って――)

「――お兄ちゃーん、もうお話終わったのー?」


 かちゃり、と部屋の戸を開けて少女が入ってくる。

 見覚えしかない甚伍の、石海甚伍の()ちゃんだった。


「あぁうん。終わったよ。ごめんごめん」


 軽く謝る甚伍と、私不満ですポーズで腰に手を当てる妹ちゃん。ちょっぴり頬膨らましてて表情だけでもう可愛い。私もこんな妹が欲しいわ。


「まったく。お兄ちゃん話長すぎ。疲れてるんだから早く寝なさいってお母さん言ってたよ?」

「あはは、ごめんって。もう寝るからさ。アマミも早く寝なよ?」


 微笑む少年の表情は完全に妹に向けるそれで、妹からの眼差しも当たり前に兄に向けるそれで。特におかしなところはないけれど。でも、私たちは普通じゃないから。私も、甚伍も。全然まったく、普通だなんて到底言えなくなっちゃってるから。


 小さく溜め息を吐きながら部屋を出ようとする妹ちゃん――アマミに甚伍が声をかける。


「――それでさ、アマミ。君は、誰?」


 穏やかな口調のまま告げた言葉は、部屋全体に静かに響き渡った。

これにて第二章(地球)は終わりです。

ずいぶん長引きましたが、これで書き溜めはなくなったので次章完成次第投稿しようと思います。それなりに時間は空くかもしれません。

今後とも「オカタマ」をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃ引き込まれる終わり方!続きが楽しみ!
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