第二十話、フラワーガーデンとバラとマリーゴールド。
『ねえねえねえ!さっきから見えてたこの可愛いお花はなあに?』
(ふっふっふ、それは見なくてもわかるのさ。マリーゴールドだよ)
『まりーごーるど……マリーゴールド?』
(うん。その発音で合ってる)
木造アーチの下から戻り、左右に分かれた道で右側を選ぶ。
少し進めば左手にミニガーデン1への入口があった。先のアーチと同じく黒塗り木製で、扉の縁だけを象ったかのように曲がった木が設置されていた。数本の木が交差して網目模様っぽくなり、さらに木の柱とアーチを伝うように緑が繁茂して花が飾られていたりカボチャがちょこんと置かれていたりする。そんな素敵な扉がミニガーデンへの入口となっているのだから、わくわくするなって言う方が無理がある。
ちなみにマリーゴールドは扉の近くに置かれた鉢植えにも生えていたし、壁に飾られた小さな鉢植えにも生えていた。黄色、橙色、金色。明るくて秋っぽくて、本当に綺麗で可愛かった。
『マリーゴールド綺麗ね……ねえ甚伍』
(あ、先に言っておくけどお花に関しては僕全然知らないからね。花言葉も知らないし花の種類も知らないから)
『……』
短く息を吐き、しょうがないと切り替える。どうしてマリーゴールドがこんないっぱいあるのかなんて、先に断られちゃったらどうしようもないわ。
ミニガーデン1に入り、人一人か二人分しかない道幅を歩いていく。
私が霊体だからいいものの、これが生身の肉体だったら結構歩きにくかったかも。お喋りしながらだとね、結構大変な感じあるもの。
日本語が読めずどんな花が咲いているのかと、立て札だったり小さな看板だったりに書かれた文字を読んでもらいながら進む。
ミニガーデン1は中に入ると緑と花に囲まれ、ふんわり甘い香りが漂う。内部は狭い通路が入り組んでいるように見えたけど、上に浮かんで空から見てみれば、意外に意外、すんなり円を描くように道は繋がっていた。
空から見てもマリーゴールドがいっぱいで私はにっこりしちゃった。
(バラなんてめったに見ることなかったから、こうして見るとすごい綺麗だな……)
『でしょー?』
(どうして守護霊さんが自慢げかな)
『ふふ、なんとなく?』
(なんとなくかー)
『おかしい?』
(ううん。ふふ、いいと思うよ。なんとなくで)
いつもより気持ち穏やかさの増した表情でバラを見つめている。色は薄い赤色。
バラは私の世海にもあるのでわざわざ聞くことはなかった。聞かなくても見た目と香りと、あと棘でわかるもの。
あんまり立ち止まっていると後ろの人に迷惑だから適度に歩き見ていく。
ミニガーデン1はバラとマリーゴールドと、他いろんな花と。それに大きな鉢植えを挟んだ二つの長椅子が特徴的だった。
鉢植えには輝く金色のマリーゴールドが植えられ、カボチャがちょこんと収まりよく入れられていた。椅子はゆるりと弧を描き、庭園に合ったおしゃれな石で作られている。それぞれ三人も座ればいっぱいになってしまうほどの大きさなので、ここに長居するというよりは、庭園作りの一つとして置かれたものなのかもしれない。
甚伍も長居する気はないようで、ぱぱっと携帯で写真を撮ってその場を後にしようとする。
『ねえねえ』
(はいはい)
『今の写真、私も写り込んでいたりしない?』
「ちょっ」
何か言いかけて、慌てて口を塞いで携帯を確認する。私も覗き込んでみたら、特におかしなところはない普通の写真だった。ついでかさっきから撮っている他の写真も確認していく。どれも可愛いお花が綺麗に写っているだけで、霊や妖怪が入り込んでいるものなんて一つもなかった。もちろん私も写っていない。ちょっぴり悲しみ。
「……はぁ」
溜め息を一つ。それから。
(守護霊さん)
『はい』
(驚くようなことはやめてください)
『ふふっ、はーい』
(まったく……)
「ほんとに写ってたらどうするつもりなんだろ……。最初は直接見たいでしょ普通。相棒だしパートナーだし……守護霊さんだし……」
ぶつぶつと何か言っている少年を置いて、私は少し先に行く。
個人的にはいつまでもマリーゴールドとかバラとか甚伍の瞳とか見ていたいところだけど、フラワーガーデンの広さを考えるとここで長々時間を使うわけにもいかない。
ミニガーデン1の次はミニガーデン2よ。数字は4までだけど、ミニガーデンとは別にブリスローズガーデンがあるから実際は五個のガーデンがあることになるわ。
緑に包まれた木のアーチを抜け、広い道に出て真っ直ぐ先がミニガーデン2となっていた。通りを挟んで二つのミニガーデンは繋がっているとも言える。
頭上は木のアーチが等間隔で並び、緑の屋根が生い茂って太陽光を薄めていた。
屋根として広がる葉は、完全にアーチを覆うというよりも弓張りの木に手を伸ばすかのように育っているため、本格的な屋根としては機能していない。見上げれば空の色ははっきりと目に映り、薄い緑色の葉と蔓に掴まるようにカボチャやお化けカボチャ、ハロウィンを思わせる小物が飾られていた。
(守護霊さーん!)
『はいはーい。なにー?』
いつ明かりが付くのかなと見ていたら、後ろの方から大きな声が聞こえてきた。
ミニガーデン1の出口を見るとちょうど少年が顔を出すところだった。近寄り、声をかける。
『なに?』
(あ、守護霊さんいた)
『ふふ、いるわよ。何か用事あったんでしょ?』
(え?あー……いや)
尋ねると気まずそうに、妙に恥ずかしそうにして言葉を濁す。
ほんのり頬が赤くなってる。可愛い子。この子のこんな表情久しぶり――でもないか。でもま、嫌いじゃないわよ。むしろどんどん見せてちょうだい。
(えっと……ちょっと心細くて?)
『あら』
なんて可愛らしいことを言ってくれるのかしら。でも。
『どうして?私、すぐに声かけてくれればいつでも返事してるでしょ?』
(そうなんだけどさ……今小声で話しかけてたら返事なくて……)
『……私からはともかく、あなたからの言葉もそういうシステムだったっけ?』
(僕もさっき気づいた。普段小声で話しかけることなんてないし、いつも傍にいてくれるから……ちょっとね)
『ふむふむ……思念は飛ばせる?』
(それは、うん。できるよ)
『じゃあそうすればよかったじゃない』
(や、そこまでするほどじゃないかなーって)
『ふふっ、まあいいけど。しょうがないわね、近くにいてあげるわよ』
(……うん、ありがとう)
可愛い子の可愛いお願いを聞いてあげることにした。
周りは大人ばかりの知らない場所で少し寂しかったのかな。この子、最近私のいる場所なんとなくでわかるようになっちゃったみたいだし、それで近くに私がいないのわかって余計に寂しかったり怖かったりしたのかも。
これから見知らぬ場所に行く時はできるだけ傍にいてあげましょうか。少なくとも妖怪とか霊体とか怪異が関わる場所はね。
「キュェ」
『「あ」』
声が揃っちゃった。私、完全に忘れちゃってた。
「ご、ごめんミドリ。完全にミドリのこと忘れちゃってた。そうだよね。君もいたよね」
「キュェエ」
「うん、うん。ありがとう」
甚伍も私と同じだったみたい。ミドリはぽやんとした顔のまま、か細い鳴き声だけを出してる。どう考えても甚伍に返事をしているので、たぶん言葉は理解できている。
『ていうかこの子、私たちの話聞いてたりしない?』
(あ、確かに……)
話っていうか、私の声っていうか。
じーっと二人でミドリを見つめると、ただでさえ眠そうだった目が閉じられちゃった。鞄の中に収まって羽毛があったかそうで、一人ならぬ一羽幸せそうだった。
『……どっちにしろ鳥だし、お話はできないわね』
(……だね)
からりと笑い合って、次行こうかと歩き出す。
ミニガーデン1からミニガーデン2へ。甚伍が入場券と同時に受け取ったパンフレットにはそれぞれのミニガーデンについて簡単な説明や絵が描かれているので、植えられている草花の種類が違うとわかる。
どんな庭園になっているのか、見る前から既にもうとっても楽しかった。




