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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第二章(地球)、私と少年と秋の怪異。(前編)
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第八話、カエンタケとヒクイドリと私たち。

 宇美花中央公園の花時計広場にて。

 私と甚伍はついに夕枯れ現象の手がかりを発見した、たぶん。


『ねえどうするの?あれ捕まえるの?』

(捕まえる……捕まえるかぁ。いるかどうかすらダメで元々だったから、そこまで考えてなかったよ。どうしよう。守護霊パワーでどうにかなったりしない?)

『そんな力あるなら私が教えてほしいわ』

(だよね、知ってた)


とりあえず聞いてはみたけど、甚伍に案はないらしい。

 捕まえる云々は置いておくとして、色々と問題がある。


「わーこのとりさんなんていうの?」

「いやーわかんないねぇ。ダチョウじゃないし、パパも初めて見たよ」

「ふーん、ごはんたべるかな?」

「おっと、勝手にあげちゃだめだぞー」

「むぅ、しょーがないからあたしにごはんたべさせて?」

「ははっ、はいはい任せてくださいお姫様」


 じーっとヒクイドリを見ていると、まずはその大きさが目に飛び込んでくる。

 インターネットで見た写真よりも大きく感じる。私と同じか、それより少し大きいか。人と同じくらいの鳥はなかなかに威圧感がある。あと、この鳥花時計の花壇に顔突っ込んでるから私達より高い位置にいるのよ。必然的に見上げるはめになった。


「ツーショットいえーいっ!」

「私とじゃなくて鳥と撮るんかーい」

「あはっ、別にいーじゃん。あんたも撮ろ?ほらスリーショット!」

「わわっ……まったく……はぁ、いえーい」


 次に、さっきからわいわいがやがやと騒いでいる観光客たち。ヒクイドリを見て写真を撮ったり餌をあげようとしたり、元気に触れ合いしようとしている人もいる。肝心のヒクイドリ本人ならぬ本鳥が見向きもしていないからいいけど。


(みんなに見えてるにしては、騒ぎになってないね)

『そうねー。ちなみにだけど、あんな鳥いたら普通どうなる?』

(大騒ぎだと思う。とりあえず公園管理の人が来て封鎖とかするかな。ヒクイドリって危険な鳥みたいだし)

『……とするとあの鳥、危険だとは思われてないってことね』


 他の人たち、霊力を持っていない人たちはあのヒクイドリを正しくヒクイドリとして認識できていない。

 それはつまり、幻惑のような何か、人を惑わす怪異としての側面を持っていることになる。誰かからそういった術をかけられている可能性もあるけれど、それだとわざわざ人に見えるようにしている意味がないからその線は薄い。


 ヒクイドリ自身が持つ何かによって、現状が成り立っていると考えるのが妥当なはず。


(そうだね。少なくとも周りの人は危険だなんて思ってないみたいだ)

『……どうしようかしら』


 悩む。

 ヒクイドリが実在してたのはいいにしても、周りに人がいたんじゃ強引な手段には出られない。見かけ本物のヒクイドリでも、中身は絶対に違う。霊的物質的はともかく、怪異に関わる何かであることは間違いない。


(……守護霊さん)

『なに?』

(ヒクイドリ見つけたはいいけど、あれと夕枯れが関係してるってどうやって判断するの?)

『……』


 確かに。言われてみたら確かにそう。ヒクイドリに聞いてみるとか……ただの鳥だからお喋りできない――いえ、あれは鳥に見せかけた怪異よ。ならお喋りできてもおかしくないわ。


『甚伍、まずは普通に話しかけて聞いてみたらどう?人が集まっても誰も危害を加えられていないなら、あなたが近づいても危険はないはずよ』


 私の霊感も問題ないって言ってるから、危険はないと思う。たぶん。


(いいね。ちょっと待ってて。聞いてみる)


 肯定の思念を投げ、無言で付いていく。待っててと言われて大人しく待っている守護霊はいないわ。


 とことことヒクイドリ(暫定)の下へ向かう少年の後ろに憑き、ちょっとした人混みの上空を漂う。小さめの写真撮影会っぽくなってる花壇前にたどり着き、人の隙間を縫ってヒクイドリすぐ側まで行く。


 大胆な動きながら鳥の脚に蹴られないよう横に位置度っているのはさすがの安全意識だった。


「こんにちは。僕は甚伍。あなたは?」


 挨拶と名前と、流れ的に自己紹介をしたっぽい。

 小声なのは周りの人に聞かれないため。ちら、と周囲を見渡せば誰も気にする様子がなく、ただ写真撮影だけは止めていた。なんとなく不思議パワーが働いているような気がする。


 甚伍から声をかけられ、花壇に顔を突っ込んでいたヒクイドリは鳥らしく人より長めの首を揺らして振り向く。

 (くちばし)から喉元にかけて青色で、色の濃さは嘴だけ濃紺のような色合いをしている。あとは鮮やかな空の青色。綺麗だけど、私の方が綺麗ね。もっと言うなら甚伍の方が綺麗。


「……」

「……」


 一人と一匹、見合っている。

 ヒクイドリの姿をじっと観察していると、調べた通りに喉の一部が細長い花火のように赤く染まっているのがよく見えた。

 身体は艶のある黒い羽毛で覆われ、異様にゴツゴツした脚と鋭い爪が威圧的だった。


 背中とかふわふわしてそうなのに、そもそもの大きさと脚部の力強さのせいで可愛くない。まあ顔も可愛くないけど。どっちかって言うとかっこいい系の鳥ね、この子。鶏冠(とさか)もひゅるって波打つみたいに伸びてるし。


 ヒクイドリの鶏冠、橙色と黒色を混ぜたみたいな色してるからインターネットで見た写真と結構違うのよ。形も違うからその辺個体差があるのかも。


 私が細かく見ている間にも人と鳥の睨み合いは続き、三分くらいは経って痺れを切らして私が声をかけた。


『ねえ甚伍。いつまで鳥と見つめ合っているの?楽しい?それ』


 危ない。危うく私と見つめ合った方がいいわよっておすすめしそうになった。事実だけど言うべき時と場合があるわ。少なくとも甚伍が私を見られない状況で言うことじゃない。不公平だもの。


(全然楽しくないよ。ヒクイドリが――)

「――あ」


 私が話しかけたからか、こちら(宙空)を見てヒクイドリから目を逸らす。すぐさま見合っていたことを思い出し視線を戻すも、相手はじっと少年のことを見たままだった。甚伍の額に汗が滲む。


(守護霊さんのせいで目逸らしちゃったじゃん!?どうしてくれるのさ!)

『そういうこともあるわよ、ごめんなさいね』


 謝りながら私もヒクイドリを見つめる。

 当然のことだけど、鳥の目が私に向けられることはない。


 ヒクイドリの瞳は鶏冠の色をより赤に近づけたような、それこそ薄緋色、火色とでも言えるような綺麗な色をしていた。火色の目の真ん中にちょこんと黒い瞳孔がある。

 ガラス玉みたいな鳥の目に見られている甚伍はすごく居心地が悪そう。


「キョエエエ……」


 ふい、っと何事もなかったかのように花壇に向き直るヒクイドリ。

 残ったのは甲高くも弱々しく、掠れたような鳴き声だけだった。残響が耳に留まっている。


 少年を呼び、二人でその場を離れる。入れ替わりで写真撮影を開始する人たちを遠目に、こそこそと会話をする。もちろん現実に声は出さない。


『あの鳥元気なさそうだったわね』

(そうだね……。守護霊さん見た?)

『何を?』

(ヒクイドリが口もごもごさせてたところ)

『え?見逃したかも。あの鳥何か食べてたの?』

(うん。たぶんだけど、カエンタケ食べてた)

『……それ、本物?』

(ううん、偽物の方)

『偽物の方かー』


 また不思議度合いが上がっちゃった。

 甚伍の見間違いじゃないとしたら、ヒクイドリが例の偽カエンタケを食べてたってことになる。怪異が怪異由来のものを食べるのは普通だからいいんだけど、ヒクイドリは人に見えていて偽カエンタケは人に見えていないって点がどうにも引っかかる。


『むーん……』


 そりゃヒクイドリが怪異に関係しているなら霊的キノコを食べるのも不思議じゃないんだけど……そもそもの話、ここにいるヒクイドリみたいな存在に食事が必要なのか疑問だったり。


 ヒクイドリが現れたから偽カエンタケも出てきたのか。

 偽カエンタケが生えたからヒクイドリが現れたのか。


 偶然?それにしては出来過ぎな気もする。なら必然として、二つの怪異の在り方がやっぱりおかしく見える。必然にしては雑というか曖昧というか、ヒクイドリが元気ないのも変な感じするし。


(守護霊さん。ヒクイドリと偽カエンタケってやっぱり関係あるのかな)


 と、考えを止めるように声が聞こえてきた。

 声の側に頭を傾けると、私と同じように難しい顔をした男の子がいた。じっとヒクイドリのいる場所を見つめている。


『関係あると思うわよ。思うけど……どんな関係なのか全然わからないわ』

(捕食者と被捕食者の関係じゃ)

『そう単純かしら?』

(じゃあ餌と動物)

『ふふ、あまり変わっていないじゃない』

(まあねー。僕もちょっと考えてみたんだけど全然わからなくてさ。今まで部活で調べてきたことって妖怪とか神話とかだったから、現代の動植物に出てこられても困るんだよ)

『調べ物にヒクイドリなんて出てくるはずないものね』

(うん。火を喰らう鳥なら――……いや待てよ?)

『甚伍?』

(守護霊さん)

『ん』

(少し試したいことができた)

『危ないこと?』

(……たぶん大丈夫)

『あなたのたぶんは信用できないけど……いいわよ。なんでも付き合ってあげる』

(はは、うん。さすが守護霊さんだ。ありがとう)


 会話の途中で何か思いついたようなので、快く頷いてあげた。笑顔のお礼には笑顔をお返し。誰かに見られていたら恥ずかしいくらいの満面の笑みを見せてあげた。


 甚伍の意思に従って場所を変える。

 階段を下り、温室の横を抜ける小道へ。高い樹木の枝葉に太陽が遮られた場所まで来て、歩調を緩めて辺りを見回す。何を探しているのか聞けば、偽カエンタケと返事があった。


 なんとなく察しがつき、私もふよふよ動き回って偽カエンタケを探す。霊体の身体は木も草も貫通して動けるから物を探すのには適している。

 どこにあったかなーと記憶を探りながら飛んでいると、一本の樹木の陰に薄赤いものが見えた。


『甚伍ー。あったわよー!』


 少しだけ声を張り上げて、近くを歩く少年を呼ぶ。

 すぐさま落ち葉を踏む足音が聞こえてきて、木と木の間からひょこりと男の子が顔を出した。まだ幼さは残っているものの、以前より大人びて見える。時の流れは速く、今の幼ささえすぐになくなってしまうと思うと寂しさが……。


(守護霊さん?いる?)

『うぅ、甚伍が大人に……』

(ええ……。なんで泣いてるのさ。いや言わなくていい。むしろ言わないで。それより偽カエンタケあったんだね。ありがとう)

『ぐす、甚伍が冷たいわー』


 適当な嘘泣きもさらりと流されてしまった。

 小芝居に付き合ってくれてもいいのに、という思いは今の状況を考えて捨て去った。気を取り直して偽カエンタケに向き直る。


 目の前に生えているのは三本ほどの赤いキノコ。

 木の根元から隠れるように伸びていた。

 大きさは手の指一本より少し長い程度。見た目はキノコというより葉のないニンジンみたいな感じ。赤色で、よく見ればじんわり薄赤のオーラを垂れ流している。見るからに危なさそう。


『……見つけたはいいけれど、これをどうするつもり?』

(ヒクイドリのところに持っていって餌付けする)

『そうかと思ったらやっぱりそうだったわね』


 そんなことだろうと思ったらその通りだった。

 可能不可能で言えば、甚伍の見たヒクイドリが偽カエンタケを食べていた事実を考えると可能。元気なかったし、普通に付いてきてくれるかもしれない。すっごく目立ちそうだけど。


 やってみる価値はある。ヒクイドリ自体に危険性がないって私の霊感が言っているのもあるし、夕枯れ現象解決のために出来ることはしていきたい。けど、問題が一つ。


『餌付けはいいけど、どうやってこの偽カエンタケ持って行くのよ』

(……それなんだよねー)


 困った、とでも言いたげな声を発する。

 甚伍の顔を見れば声の通りに困った顔をしていた。たはは、と空笑いをしている。もしかしなくてもこの子。


『持ち運びのこと何も考えてなかった?』

(考えてたよ?何も思いつかなかっただけで)

『それ考えてないのと同じじゃない……』


 呆れの息を一つ。

 どうしましょうか。どうしようもないわね。やれること色々試していきましょう。


『やれるだけやりましょうか』

「うん」


 頷く少年に頷き返し、話をしながら手法を考えていく。


 一、私が持ち運ぶ。×。

 二、鞄を使ってみる。×。

 三、衣服で包んでみる。×。

 四、布越しに持ってみる。×。


 結論、キノコとはいえ霊的存在なので、霊力を介さないものじゃ触れることさえできなかった。

 呪符でいけるんじゃって思ったけど全然だめで、相性か何かがあるのかもと二人で話し合うはめになった。服も布も貫通しちゃうけど、霊力纏わせた甚伍の手ならいけるらしい。さっきちょこっとだけ触っちゃったからそれはわかっている。ただ霊力越しとはいえ素手は素手なので、やっぱり怖さはある。


『……私は諦めることを勧めるわ。素手はさすがに危ないわよ。ただでさえカエンタケなんだもの』

(偽カエンタケだけどね。……いや、やるよ。さっき触れた感じ大丈夫そうだったし。カエンタケだって触っただけじゃ死なないんだ。たぶん平気。頑張る)

『……本当、しょうがない子』

(……ありがとう、守護霊さん)


 小さなお礼には無言で肯定の思念を投げて、ただただ私は私の取り憑き相手を見守る。怪我しませんようにと小さなお祈りだけを捧げた。


 そうして、甚伍は一人偽カエンタケを両手で掴み引き抜いた。

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