終話、家族の団欒と異種族たちの団欒(自分を異種族に含むものとする)②
『ジンゴ』
『はいはい』
『われのたんじょうびをきめていいぞ』
『話が急すぎるって』
静けさにうっとりしようと思ったところで、屋根を貫通してクゥレがやってきた。僕の前、空中に止まって話しかけてくる。
お互いに重力を意識せずいられるから動きが自由だ。横になっていた僕の前で平然とこちらを向いて横になってきた。とりあえず目の前にはいないでほしい。微妙に雪が身体を貫通して降ってきて変な光景に見えるんだよね。
『われにたんじょうびはないから、ジンゴがきめていいよ』
『なる、ほど?』
誕生日か。そういえばそんな話してたかな。
リィムさんが誕生日だからクゥレもとか何とか。微かに脳が覚えている。
『まあいいけど……そうだなぁ』
決めるって言われてもなぁ。
ちらっとクゥレを見ると、わくわくとした面持ちに瞳には期待をいっぱい詰め込んでこちらを見つめてきていた。子供らしい表情が微笑ましく、リィムさんフェイスに妙な緊張感も生まれる。複雑な心地だ。
しかし、誕生日か。
クゥレの名前は誕生日を意識して付けたわけじゃないから難しいな。ツィヤもそうだけど、名前を付けるのと誕生日を考えるのはまた別な気がする。
こういうのは深く考えない方がいいような気もする。順当にいこう、順当に。
『二十月十二日はどうかな』
『にじゅうがつじゅうににち?』
『うん。君が僕らと出会った日。初めてその姿になった日でもあるから、誕生日とも言えるでしょ?』
『うん。……うん、いいよ。ジンゴ、ありがとう』
『どういたしまして――それとツィヤ』
『シー。なんでしょう』
『あー、やっぱり傍にいたね』
身体を起こし屋根に腰かける。
クゥレと同じく屋根を貫通してふよふよやってきたツィヤはクゥレの横に並ぶ。僕の目の前で二人が並ぶ形だ。
同じ世界の狭間にいるだけあって僕らは互いに肉体的接触がある。正確にはクゥレは謎能力で、ツィヤは謎技術で、僕はポルターガイストを纏うことで接触できる。とにかく普通にぶつかるので、僕が身を起こすのと同時にスィーと移動して目線が合うように二人とも移動した。
『ツィヤ、クゥレの誕生日を決めたんだけど君も同じでいいかな。二十月十二日ね』
『シー。構いませんが、わたしはツィヤという個体名を得ただけの情報群体です。ジンゴの認識する誕生日はわたしには適しませんよ』
『うん。わかってる。それでもいいんだ。僕がツィヤをツィヤだと思っている、それだけのことだから。ただの我儘さ』
『シー。ならばわたしから言うことはありません。"わたし"の誕生日を二十月十二日と定義しましょう。――――ジンゴ、あなたはおかしな人間ですね』
『あはは、それ褒めてるでしょ』
『シー。肯定します』
『われとツィヤのたんじょうび、おそろい』
『シー。はい、お揃いです』
喜んでいる妖精とピカピカ光る菱形を前に、自分自身も含めて現状を思って軽く笑う。
場所は世界の狭間とかいう意味のわからないところで、集まっているのは幽霊と高次元生物と世界間移動可能な情報群体の三人。それが家族だなんだと言っているのだからおかしいに決まっている。世界にたった三人だからこそ、とは言ったけれど、この調子ならまた新しく人が増えてもおかしくない。
名前もなければ誕生日もない人だったら、また僕が考えるのだろうか。それとも三人で考えることになるのだろうか。わからないけど少なくとも誕生日は――。
『――あぁ!ツィヤ、今日リィムさんの誕生日じゃん!』
『シー。どうしましたか。今さらですが』
『ジンゴ、頭わるい』
『悪い言葉使うのやめようね。クゥレの罵倒は威力が強いんだ』
『うん。わかった。きをつけるね』
『ありがとう。……それで、だ』
一度息を吸って吐く。
今さらだけど、僕は完全に忘れていた。伝えたと思い込んでしまっていた。精霊として、自称であっても守護霊らしく伝えておきたい。
『僕さ、リィムさんにお誕生日おめでとうって伝えたいんだよね』
『あ、われもリィムに言いたい』
『シー。わかりました。繋げましょう』
結構簡単に繋げちゃうんだね。知ってたけどさ。
電話中のツィヤの声はレメイラ語なので僕には理解できな――。
『シィステラ様。おはようございます。ツィヤです』
「あぁ、おはようございます。ツィヤさん、どうかしましたか?」
『ご家族でお話中失礼します。ジンが誕生日を祝いたいそうです』
「え?ふふ、そうなんですか?ありがとうございます。あの子、どんなこと言っていましたか?」
めっっっっちゃ理解できる!!!!!!!
『え、何?なんでリィムさんの声聞こえるの?すごい日本語なんだけど。ていうかリィムさんの声めちゃくちゃ可愛いんだけど。天使か。天使だったね。成仏しそう……』
半分冗談半分本気で言っていたらツィヤがピカピカ光って意思表示してきた。
『シィステラ様、少々お待ちください』
「ふふ、はい。待ちますよ」
『ジンゴ、思考加速を』
『え?うん。いいよ』
説明しよう!思考加速とは幽霊の肉体を存分に活用して現実の数十倍の速度で頭を回すことだ。頑張って集中しないと使えない能力だったが、頭にポルターガイストを纏って使えば容易く扱えることに気づいた。また一つ賢くなってしまったな。
ちなみに、ツィヤとクゥレは当たり前のように加速空間で会話をしてくる。どうなってんだよこの二人。基本スペックが違い過ぎるって。
ぶつくさ考えながら自分の頭に念力を集中させる。これやると疲れるんだよね。あとSPの消耗も早い気がする。気のせいかもしれないけど。気持ちだよ、気持ち。
『シー。ありがとうございます。これでシィステラ様にどのような言葉を伝えるか考える時間ができました。ジンゴ、何を伝えますか?』
『うーん。誕生日だもんねぇ……――って違う!違くないけど違う!なんでリィムさんの声が僕理解できるようになってるのさ!嬉しいけど!嬉しいけども!もっとこう、ロマンティックな状況で感動を味わいたかった……』
感動も何もなかった。あるのはただ嬉しいという現実だけ。……悪くないな。
『シー。共星種として"わたしたち"で翻訳機能を強化しました。ジンゴ自身はわかっていないかもしれませんが、わたしたちにとってあなたという存在は一個の世界以上に興味深い存在なのです』
『ええ……。いつの間に僕そんな興味持たれる存在に?』
『シー。理由は複数ありますが今はそれを伝える時間ではありません。シィステラ様に伝える言葉を考えてください』
『待って待って。もう僕が直接伝えればよくない?翻訳機能どこまで進化したの?』
『シー。そうですね。そこだけお伝えしましょう。通信先の言葉は"日本語"としてわたしの近くに広がる形となりました。ジンゴの知るスピーカーと同じと思っていただいて結構です。世界の狭間からレメイラへはわたしの声しか届きません。通信先には通信先――レメイラの言語として届いています。相互翻訳と考えてください。また、ジンゴは変わらず精霊の"ジン"のままなので、人間の幼い子供と同程度の思考能力です。ご理解ください』
『ご理解くださいじゃないんだよねぇ』
『シー。ご了承ください』
『言い方変えてって意味でもないんだよね』
『シー。そうですか』
まとめるとつまり、基本的には今までと変わらない。けど、リィムさんたちの話し声が日本語として理解できるようになったってわけ。最高か。
正直、リィムさんの声が言葉として認識できるようになったってだけで十分過ぎる。
『ちなみにだけどさ、それって普通に近くでリィムさんたちの会話聞いている時もできるの?』
『シー、可能です。ですが、ジンゴには二重で声が聞こえるようになりますよ。わたしにはあなたの聴覚を遮断する能力はありません』
『……うん。やらなくていいよ。ありがとうね』
そりゃ無理だって。距離取ればいいんだろうけど、それはちょっとね。違うから。
切り替えよう。
『ツィヤツィヤ』
『シー。なんでしょう』
『さっきからなんのはなしをしてるんだ?』
『シー。クゥレはどの言語も"言葉"として認識しているのでしたね。言語の違いについて説明しましょうか』
『うん』
聞こえてくる会話は無視して、リィムさんだ。
精霊として伝えるなら……どうしよう。"僕"としてなら無限に言いたいことあるのに、言語野が失われたら急に伝えたいことも伝えられなくなった。
ありがとう、おめでとう。これからも見守るよ。人生応援隊です。疲れたらよく寝てね。寂しい時は僕らが一緒にいるから一人じゃないよ。たまには話しかけてね。やっぱり話しかけないでね。伝わらないから。僕は結構話しかけてるんだけど……。
…………もう、普通でいこうか。
『ツィヤ』
『――シー。はい、決まりましたか?』
『うん。普通に"お誕生日おめでとう"でお願い』
『シー。わかりました』
何事も時にはシンプルが良いって言うもんね。こういう時もあるさ。ポルターガイスト使うの止めておこうか……あ、やっぱりこれ結構疲れる。身体が重い。
『シィステラ様』
「はいっ」
『ジンは"お誕生日おめでとう"と言っていました』
「ふふ、そうですか。ジンにはありがとうと伝えておいてもらえますか?いつか直接私に言いに来てね、とも」
『シー。はい。伝えておきます』
「それともう一つ、あの時に雪でキュステュールの魔法術使ってくれたのがもしもジンなら、その時のこともありがとうと。いつもありがとうって、そう伝えてくれたら嬉しいです」
『シー。しっかりと伝えておきます』
「ふふ、ありがとうございます。お願いしますね」
……あぁ。
『ツィヤ、なんでジンゴはないているんだ?』
『シー。嬉し泣きというものです』
リィムさん。全部聞こえていましたよ。ちゃんと聞きました。あの時の雪人形のこと、覚えていてくれたんですね。ありがとうございます。僕の方こそ、あなたにはいつもありがとうと言いたいんですよ。あなたのおかげで、僕は日々のストレスから離れ、怪異を忘れて過ごすことができるんです。あなたの存在そのものに癒されているんですよ、僕は。
リィムさん、お誕生日おめでとうございます。僕はもう……幸せです。
『ふーん……嬉しくてもなくんだ?』
『シー。はい。人はそういう生き物です』
『そっか。かなしくないならいいや。それよりツィヤ、われもリィムにおめでとうって言いたい』
本当、今日は良い日だったな。ハッピーバースデーだ。
『……ふぅーー』
息を吐いて、幸せを嚙み締める。
リィムさんとお話してしまった。一瞬成仏するんじゃって本気で思ったけど、全然そんなことなかった。まあ僕の身体たぶん幽霊でもなんでもないし成仏なんてするわけないよね。
『――あ、リィム?きこえてる?』
「え?クゥレさん?どうしてこの深創物に?」
『ふふーん、われすごいから。ツィヤのにわりこんでリィムとおはなししてる』
「そ、それは本当にすごいですね……どうやってやっているか聞いても?」
『がんばってるっ』
「は、はい。そうですか……」
『うん。リィム、おたんじょうびおめでとう。われ、しゅくふくするよ』
「あ、ふふ、ありがとうございます」
……なんだろう。後ろの会話聞き流したいのに聞き流したくもないこの矛盾した気持ちは。
『リィム、われのこともリィムのおとうさんとおかあさんにしょうかいしてほしいな』
「ああそうですね。――お父様、お母様。今話しているのがさっき伝えた粒子雲霊種のクゥレさんです」
羨ましさと諦めと微かな優越感を胸に秘め、そっとその場から離れる。
空中を漂い、改めて空を見上げる。ずっと変わらない、灰色の雪雲に覆われたレメイラの空だ。降ってくる雪は純白。真っ白な雪の結晶が十七都市を冬色に染めていく。
『ホワイトクリスマスならぬ、ホワイトバースデーか……』
呟いてみて、こちらにはクリスマスもないかと小さく笑う。クリスマスだけでなく、毎年雪が降るならホワイトバースデーだなんてわざわざ言ったりしないはずだ。日本の東京が雪の少ない地方だからこそ、ホワイトクリスマスなんて言葉が出来ただけ。
どこかの誰かがロマンを込めて作ったのだろう。
頬を緩めながら振り返り、リィムさんと電話を続けるクゥレとツィヤの二人を見る。静かで穏やかな雪街に比べ、幾分か騒がしくなった僕の居場所。
視線に気づき、僕が緩く笑っているのに気づいてか、電話中にもかかわらずクゥレが"どうした?"と聞いてくる。もう一度笑って、なんでもないと首を振り二人に近づいていく。
リィムさんに僕の声は届かないけれど、ツィヤとクゥレの話に混じることはできる。それだけで十分――いや十二分に楽しかった。
皆でリィムさんの誕生日を祝いながら、さっき少し考えたことをもう一度頭の隅で思う。
一年以上レメイラで過ごしてきて、知らないことも色々知った。同じ日々が続く平和な生活だと思っていたけれど、意外にも起伏だらけの忙しい生活になってきた。もう新しいことなんてないだろうなと思っていたのに、どうにも、僕の夢見る異世界はまだまだ知らないことに満ち溢れているらしい。
退屈なんてする余地もないくらいこれからの夢見生活が楽しみになってきて、ついつい笑ってしまう。
でもまあ、やっぱりとりあえずは。
『リィムさんとお喋りすることが第一目標かな』
色々と考え笑いながらも、幽霊らしく精霊らしく、守護霊らしく僕らしくと。改めて取り憑き相手のことを一番に想って呟いた。
一章にお付き合いくださりありがとうございました。次章はもっと長いです……。
よろしくお願いいたします。




