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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第一章(蒼海星)、雪の季節と海上同棲生活の変化。
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第八話、開き直りとポルターガイストの原理。

 世の中、意外と開き直りというものが重要だったりする。


 例えばそれが、突然の怪異であったり。

 例えばそれが、話の通じない化物であったり。

 例えばそれが、急に襲い掛かってくる化生であったり。


 それがどんなものであっても、"まあしょうがないか"と開き直ってしまえば気は楽になることも多い。うじうじと考え続けても起きてしまったものは変えられないので、しょうがないと諦めて現実に対処していく方が楽だ。人はこれを処世術と言う。もちろん僕の嘘だ。


『――それで君はいったい何者なんだ』

『シー。わたしはツキ。共星種の【伝え聞く者】です。ツキとお呼びください』

『……初耳な部分もあるけどわかった。僕は甚伍。ただの甚伍だよ』

『シー。タダノジンゴですか。了解しました』

『違うから。甚伍が名前。甚伍だけでいいよ』

『シー。わかりました。ジンゴ様』


 普段通りにリィムさんの近く上空を漂う僕の目の前、宙空に静止する謎の物体があった。菱形で、大きさは手乗りサイズ。手のひらで包み込めてしまうほどのミニサイズだ。


 見た目は当人から申告があった通り、共星種のツキさんに似ている。青白く光るラインが菱形を縁取り、喋る度に点滅する。身体の周りを公転する光の衛星も健在だ。こちらも大きさは比較にならないほど小さいけれど。

 どこか海外のアクセサリーショップにでも売られていそうな見た目をしていた。


『……ところでツキさん』

『シー。はい』

『なんで小さくなってるの?』


 共星種の人から話しかけてきたのはちょっと前に予兆っぽい雰囲気があったからわかる。さっき大きい方のツキさんと目が合ったような気がしたのも、僕を認識していると思えば納得がいく。でも、どうしていきなり目の前にこんなミニチュア形態になって現れたのかがわからない。本体のまま念話のような形で話をすることはできなかったのだろうか。


 僕の疑問を聞き、ツキさん(ミニ)はピカピカと弱く点滅して返事をしてくる。声からは意外にも人工っぽさは感じられず、男とも女とも取れる中性的な声色をしていた。性別なさそうだし当然と言えば当然か。


『シー。本来ならわたしも元の大きさを保ったままでいる予定でした。しかし、ジンゴ様の存在する位相に合わせようとすると元の身体を維持するのは困難でした。結果、このような姿となりました。単純な世界同士の隔たり以上のものが感じられました。興味深いです』

『なるほど。じゃあちっちゃいツキさんと大きいツキさんはどちらも意識を共有してるの?』

『シー、ニー。わたしたち共星種は情報のみを共有しています。あなたの言う"意識"、という単語は適切ではありません。人間で言い換えるならば、記憶のみを共有し、個としては完全に独立を果たしています』

『つまり、生まれたばかりってこと?』

『シー。ある意味では正しくあります。つい先ほど"わたし"がジンゴ様の発する力場を観測したので、急遽新しく"わたし"を作り出しこちらへ送り込みました』

『それって分身っぽく聞こえるけど、違うんだよね?』

『シー。はい。分身とは異なります。わたしはわたし。あちらの"わたし"もまた"わたし"ではありますが、意識は別物です。現在も情報の共有は行っていますが、不確定情報体――ジンゴ様に対する情報収集はわたしに一任されています』

『ふむ……』


 顎に手を当て考える。

 眼下では落ち着いた空気で話し合いが続き、議論としては停滞している様子だった。


 対してこちら。

 超展開過ぎて逆に気分は落ち着いている。状況としては、とりあえず僕に話し相手ができた。夢の世界で一人きりワールド満喫ひゃっほぅ!というあれやこれやからはおさらばだけど、こうなったものはしょうがない。情報集めが捗りそうだ。それに……いや、うん。まだいいか。この気持ちが本当に恋心かどうかなんてわからないんだし。


 長く一緒にいた相手の手助けをしたいと思うのは間違いなんかじゃないはずだから。源泉がどんな想いであれ、その気持ちだけは間違っているはずがない。僕の思春期云々を省いても、単純にリィムさんの手助けはしたい。うん。今はこれでいい。


『ええと』


 意識を戻して、目の前のちんまりツキさんを見る。

 この可愛らしい菱形種族は、向こうで会議に参加しているツキさんとは別物らしい。


『改めて聞くけど、こっちのツキさんってまだ生まれたばかり?』

『シー、ニー。正しくもあり間違ってもいます。情報は始めから共有しているので、生まれたばかりとは言えません。しかし、共星種としては生まれたばかりとも言えます』

『ふんふん』


 なるほどなるほど。

 じゃあ最初にすることは決まったね。


『君、ツキさんとは違うんでしょ?』

『シー、ニー。"違う"、の定義によります。おそらくジンゴ様の言いたい"違う"には肯定を示すでしょう』

『うん、わかった。じゃあまずは君の名前を考えよう』

『……シー。何故でしょう?私は【伝え聞く者】。ツキです』

『ふふ、うん。わかってるよ。でも向こうのツキさんもツキさんでしょ?どちらもツキさんじゃ紛らわしいじゃん。個が違うならちゃんと名前も別であった方がいいよ。本名はツキさんのままでいいからさ。僕からのニックネームみたいなものって考えてもらえれば。ね?』


 僕の言葉を聞いて、仮称ツキさんは無言でピカピカと点滅する。心なしか旋回している光の動きが速まった気がする。


『シー。ニックネーム……あだ名ですね。了解しました。ジンゴ様、名付けをお願いします』

『うん。そうだなぁ……』


 ツキ。ミニツキ。ミツキ。これだと安直すぎかな。どうせなら異世界風な名前にしたい。ツキ、月は英語でムーンだよね。


『ムッキーとか』

『シー。拒否します』


 即答だった。そりゃそうか。僕だって嫌だもん。

 しょうがないのでもう一度ツキさん(ミニ)を見つめる。


 形は菱形。造形はやっぱり綺麗だ。外周を縁取る青白い光のラインも、回転する光線も、まるでダイヤモンドみたいな形の――ダイヤモンドか。

 ダイヤ。ツキ。ムーン……。


『ツィヤは?』

『……シー。良い名前です。わたしはツィヤ。ツィヤです。これからはツィヤとお呼びください』

『うん。よろしくね。ツィヤさん。というかさっきから敬語使ってないけどよかったのかな、これ』

『シー。よろしくお願いします。構いませんよ。自然体のあなたである方がわたしは助かります。それと敬称は不要です。ジンゴ様』

『あはは、そっか。ありがとう。なら僕も甚伍でいいよ。ツィヤ』

『シー。わかりました。ジンゴ』


 ツキさん――ツィヤも少し嬉しそうに見える。気のせいかもしれないけど、そう見えるだけでいい。異種族コミュニケーションはこうした些細なことから始まるんだ。


『シー。ところでジンゴ。わたしの名前の語源は何でしょうか?』

『僕の世界に君たちみたいな菱形を代表的な形とした宝石があるんだ。名前はダイヤモンド。それと君の名前、ツキを混ぜてツィヤにした。悪くなかったでしょ?』

『シー。肯定します。ジンゴ、ありがとうございます』

『いやいいよ。それより僕も聞きたいんだ。さっきからそのシーとか最初に言うのにはどんな意味があるの?』

『シー。意味、ですか。"シー"はレメイラの言葉で"はい"を意味します。これはご存知でしたか?』

『……うん。初耳』

『シー。そうですか。それはさておき、共星種は言葉の始まりに肯定の意味を示す単語を発する癖があります。これは声を使った会話のみならず、思念や音の波、力の強弱で対話を行うこともあるからです。最初に短く明確な意思を示すことで、後の対話を円滑に行うことが可能となります。わたしたちの経験則です』

『結構ちゃんとした理由があったんだね。うん、納得した。ありがとう』


 最初に単純な言葉を発することで、わかりやすい対話に繋げる、か。ずいぶんと合理的なことで。地球でも取り入れてくれないかな。世界共通語でも作ってさ。そしたら翻訳要らずなのにね。


『ちなみにだけど、ツィヤってレメイラの人に干渉できる?話しかけたり触れたりとかそういうやつ』

『シー、ニー。不可能です。ジンゴとの位相を合わせているため、ジンゴが干渉できないようにわたしもレメイラには干渉できません。むしろジンゴ、あなたはどのようにしてこの場、ずれた位相からレメイラに干渉したのですか?』

『え?そうだね。見せた方が早いか。干渉って言っても大したことじゃないんだ』


 ツィヤに伝えながら、指先を空中に置いて念力を纏わせる。念力による微振動は言った通り大したことなく、空気が揺れているかどうかすらわからないもの。ただそれでも。


『――シー。興味深い。とても興味深いことです。ジンゴ』


 今日一番に興味津々な声だった。

 その気持ち、よくわかるよ。


『シー。それはどのような原理で成り立っているのですか?』

『うーん、正直、僕にもわかってないんだよね。使い過ぎるとこの身体が動かなくなるってだけで、それも時間経過で回復するし原理なんてさっぱり』

『シー。なるほど。もう一度やってもらえますか?』

『いいよ』


 いくらでも、と指先に念力を纏って宙を走らせる。光の軌跡が残ることもなく、通った後が真空になって風が吹くこともない。目には見えない部分で空間の大気は動いているかもしれないが、その程度だ。


『シー。次元跳躍……空間干渉、よりも高位的な。いえ、干渉の仕方が違いますか。位相の遷移を行っている段階で世界の隔たりを越えています。ならばやはり、次元跳躍の形が最も近いでしょうか。それにしては空間への影響が低すぎます。極小規模であろうと世界跳躍を行えば空間の破砕程度は起きるはずです。何も起きていないということは、限りなく薄まった干渉をしているか、影響を抑えた干渉をしているかですが……。いえこれは、世界のレイヤーを重ねているようにも……ジンゴ』

『え、うん、何?』


 何言ってるか半分以上わからなかった。言葉ってすごいよね。夢の世界だと言語知らないから聞いても全然わからなかったけど、僕の知ってる言語でもわからない時はわからないんだから。


『ジンゴはレメイラをどのように捉えていますか?』

『あぁ、そういえば言ってなかったっけ』

『シー。はい』

『夢だよ』

『シー。夢、ですか』

『あぁ、うん。そうだね。ついでだし、さっきはツィヤのこと色々聞いたから僕のことも伝えておこうかな』


 というわけで、ツィヤにはレメイラにおける僕の状況を簡潔に伝えることにした。

 リィムさんと日常を過ごしているアレコレ。リィムさんに話しかけても無視されるアレコレ。リィムさんと一緒にいて楽しいアレコレ。リィムさんの心の声が聞こえるアレコレ。他リィムさんとの毎日云々。ついでにポルターガイストのこと。


『――そんなわけでリィムさんに毎日癒されながら過ごしてきたわけだ』

『……シー。ジンゴはシィステラ様がとても好きなのですね』

『はは、うん。ずっと一緒にいたからね』


 例えそれが一方的なものだったとしても、僕にとって共に過ごしてきた時間は真実だから。


『――だから僕は、彼女の助けになると決めたんだ』


 表情は凛々しく、遥か遠く壁を越えて海の先を見据えて言う。

 決意を込めた言葉はツィヤの心にも響くことだろう。


『シー。そうですか。それよりジンゴの言う干渉の基礎原理がわかりましたよ』

『え、うん。そうなんだ』


 さらりと流された。何だろう。こんな展開何度も味わったことあるような気がする。おふざけはやめておけってことかな。そうだろうね。


『ええと、基礎原理って?』

『シー。はい。ジンゴはシィステラ様を位相の基軸――目印としてポルターガイストを発動させています』

『ふんふん。やっぱりリィムさんが土台になってるんだね』

『シー。はい。ジンゴ自身がポルターガイストを使っているように見えても、実際はシィステラ様の存在を通して力が作用しています』

『へー。でも僕、リィムさんと関係ない場所で念力使えてるよ?』


 ほら、と上空に念力付与の指を振る。相変わらず見た目じゃ一切わからない。


『シー。確かにその通りですが、あくまでシィステラ様は起点になっているだけです』

『……つまり?』

『シィステラ様がこの世界に存在しているだけで、ジンゴがポルターガイストを使うのに必要な物は揃っているのです』

『あーなるほど。そもそもリィムさんが僕にとって依代みたいなものだから、ポルターガイストを最初から使えるのは当たり前って話だね』

『シー。はい、その通りです』


 なるほどなぁ。その考え方はなかったかも。幽霊だからポルターガイスト使えるでしょって解釈で深く考えてなかったけど、厳密には僕自身が夢の世界に干渉してるわけじゃなかったんだ。


 例えるならこう、僕はゲームをして宇宙戦艦育成してるけど、現実の石海甚伍が宇宙戦艦を育成してるわけじゃない。ゲームの中のジンゴって名前のアバターが宇宙戦艦を育成してるんだよって話だよね。たぶん。


 直接的か間接的かの違いだとは思う。細かい部分は……わからないからいいってことで。


『ツィヤ、ポルターガイストそのものの原理はどうなの?』

『シー。ジンゴの干渉方法がわかっただけで、何故干渉できるのかはわかりません』

『まあそうだよね』


 点滅する手乗り菱形を見つめ、しょうがないと頷く。

 ポルターガイストについて他人を交えてまともに考察なんて初めてなんだし、そう簡単にわかるわけがない。


『――ですが』


 もう少し考えてみようかなと思ったら、ツィヤが真剣な声で言葉を放った。無言で続きを待つ。


『ジンゴの力であれば、粒子雲霊種との対話も可能かもしれません』


 へー。


『…………ん?』


 もしかして今、すごいこと言われた?

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