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オカルト科学"界"の僕と多次元魔法"海"の私  作者: 坂水 雨木
第一章(地球)、私と少年と夏の怪異。
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第五話、少年と夏祭りと影①

 夏祭り観光中に謎の獣耳付き少年……少女……子供を見つけて数秒。

 甚伍(じんご)は子供を眺めて眉を寄せ、難しい顔で視線を逸らす。


「……守護霊さん、僕はどうすればいいんだ」


 悩まし気に話しかけてくる少年にどう返そうかと迷う。だって私、この子の言葉理解できないし。私、日本語できないのよ。


『……わかんないけど、甚伍の好きなようにしたらいいと思うわよ』


 ごめんね。また無難な答えで。

 一方通行の言葉だと汎用性あるのが使いやすいのよ。それこそ言われた側が好きなように受け取れるようなやつ。


 守護霊(わたし)からのお告げを聞き、少年は"好きなようにって……"と表情を強張らせた。視線を耳付きの子供から外し、それでも視界には入れておく。何気に相手を観察する時の高等テクニックを使っていて驚いた。

 私の取り憑き相手が進歩していて嬉しいやら悲しいやら。少なくとも学生か身に着ける技術じゃないはず。


 甚伍は散々に怪異に遭遇してきたから、こうした人が大勢いる場所での行動に迷っているのだと思う。普段は人気(ひとけ)のない場所で逃げたり走ったりしているので、私もこれはどう対処すればいいのかがわからない。


 実のところ、私たちから積極的に怪異にかかわろうとしたことなんて一度もなかった。全部受動的で、相手が一切こちらに絡んでくる要素ないのにいきなりこっちに火花飛んでくるとかたくさんあった。それこそほぼ全部と言えちゃうくらいに。


「はぁ……はむ……」


 小さく息を吐いて、気を落ち着かせるためかケバブを口に運ぶ。


 甚伍って食べ物美味しそうに食べるし、獣耳の子を視界の外に置けばとっても平和な光景なのよね、これ。今は顔色よくないからちょっとアレだけど、お祭りの人混みに当てられたと思えばおかしくないわ。


 少年のお食事に和み、現実逃避をしている間にも子供の並んだ列は進んでいった。串焼きを購入し、顔いっぱいに喜びを宿して振り向き歩き出したところで攫われた。


『え?』

「え?」


 私と甚伍の声が重なる。

 状況がわからない。急に影から生えた変なのが子供を捕まえたから……。

 急いで宙に浮かび、影の向かった先を見る。そこには人の流れをかき分けるように進む黒い影の姿があった。脇に袋を抱え、大きな袋が激しく揺れ動いているのが見える。


 人間は誰も気にしていない。まるでそれがそこにいないかのように無視している。ううん、実際に普通の人にとってはいないみたい。


『……甚伍。あの子供、攫われたみたい。坂の先ね。影が走っているのが見えたわ』

「っ!」

『やめなさい』

「なんでっ」

『わかっているでしょう?行って何になるの?あなたには何もできないわ。自分の身を守るので精一杯なんだから諦めなさい。さっきのはいつもと違う怪異よ。明確な意思があった。絡んだら絶対あなたも巻き込まれる。甚伍、死ぬわよ』

「……」


 口を噤む少年に、そっと息を吐く。

 固い顔で、嫌だとでも言いたげな顔をして。


『私はあなたに怪我をして欲しくないから言っているのよ』


 先ほど私が"攫われた"と伝えた途端に駆け出しそうだった甚伍へ、再度の言葉を送る。


『幸いこれまで大怪我はしてこなかったけれど、誰かを守りながら無傷でいられるほど、妖怪も霊体も、怪異は甘くないでしょう?』


 静かに私の話を聞く少年の瞳を見て、海色の瞳の奥に宿る炎を見て。


『――それでも』


 諦めと喜びと期待と不安と悲しみとを綯い交ぜにした心地で、深く息を吸って告げる。


『それでも行くのね?』

「うん」


 こくりと頷く少年に、私はしょうがないなと首を振った。

 この子はこういうところ、本当に頑固なんだから。


『なら私が先導してあげるから、指示に従いなさい』

「ありがとう。守護霊さん」

『お礼はいいから。ほら駆け足!』

「はいっ!!」


 笑顔でお礼を言う甚伍を促し、勢い良く走らせる。人の隙間を縫うように素早く移動できるのは少年の小柄さ故と、非日常の中で培った安全確保技術があるから。甚伍のスタミナはこの程度の走りじゃ切れたりしない。


『まだ真っ直ぐよ。私には背中が見えているから安心しなさい』

「ふぁい」


 何ならケバブを食べながら走っている。……意外と余裕ね、この子。


 もぐもぐしている甚伍にちょっぴり頬を緩め、前を向き高度を上げて人の群れの上を抜けていく。人の流れの先には黒い影――正確には黒い影のような服を着た灰色頭の生き物が走っていた。よく見れば服から出た手足も頭と同じ色をしている。どう見ても人間じゃなかった。


『……』


 走る甚伍をちら見し、ほんの少しだけ、本当に少しだけ迷った。

 私が今ここで道をわざと間違えれば、この事件にこの子がかかわることはなくなる。甚伍は夏祭りを意気消沈して終える。でも怪我はしない。死ぬこともない。――――なんてね。私は石海甚伍の守護霊。彼の身体だけじゃなくて、心も守ってあげないといけない。助けようと手を伸ばす少年の手を叩き落とすのは大人のやることじゃないわ。……まあ、私ってまだ私の世海(レメイラ)だと全然大人じゃないんだけど。それでもね、私、生きてる時間はちゃんと甚伍より長いお姉さんなんだから。


『甚伍、そこの道を右よ』

「はい!」


 忘れているかもしれないけど、私の言葉って精神干渉なのよね。だから甚伍には見えてない道でも"そこ"とか"あっち"とかの指示語で伝わる。普段は不便しか感じない能力だけど、こういう時は便利だわ。存分に役立ってくれてる。


 塾への道より手前で屋台の間をすり抜け脇道に入る。開けた道の先では黒い影がはっきりと目に映った。

 甚伍の足が速かったのか、それとも向こうが遅かったのか。今なら空を飛んでいる私だけでなく、甚伍の目にも(あやかし)の姿がしっかりと目に映っているはず。


「見えた!」

『たぶん見えたとかいたとか言ってるわよね!』


 走りながらも頷く甚伍から前方へと視線を移す。真っ直ぐ行った先の右手にはお墓がある。怪異と言えばお墓が定番だけれど、どうにもそれは違うような感じがする。


 じっと影の背を睨んでいたら、やはりお墓には見向きもせず直進した。


『甚伍――危ない!』

「え?っとぉぉぉお!!」


 ぐぅぅっと足に静止をかけて急ぎ止まる。同時に弱いブレーキ音を立てた自動車が私たちの前横で止まった。運転手が頭を下げ、甚伍もまた頭を下げる。

 私の声かけがなくても運転手が一応は気をつけていたからぶつかりはしなかったかもしれないけれど、それでも甚伍が事前に止まったおかげで転倒すらせず済んだ。


 そして私は、急ぎ車の上を飛び越え影の行く先を見る。

 お墓を無視して通り過ぎ、前へ前へ。この先に何があるのか。スーパーが一つと、ドラッグストアが一つと。それと――神社が一つ。


 ぞくりと、背筋に嫌な緊張が走る。


『甚伍……あの妖怪。神社に向かっているのかもしれないわ』

「なっ!!?」


 声を上げ、すぐさま納得と同時に焦燥を顔に浮かべる。きっと今は私も、甚伍と同じような表情をしている。


『……急ぐわよ』

「……うん」


 左右から自動車が来ていないことを確認して、改めて走っていく。


 向かう先は神社。祀られている神は知らない。でも、人……じゃなくても子供を無理やりに連れて行くような輩がやろうとしていることは碌なことじゃないと思う。


 もしもそれが、荒神や悪神のようなものを呼び出すものだとしたら。


 私たちは絶対にそれを止めなくちゃいけない。甚伍も大怪我なんかじゃ済まない。というか、私の()()()()()霊的悪存在相手なら、本当に町が滅んじゃうので何が何でも止めないと。これまでの怪異とは比にならないわよ、これ。


『甚伍、気を付けなさい。神様がかかわる事件かもしれないわよ』

「……神様か」


 私の真剣な声を聞いてか、ぽつりと呟いて。


(そういえば、あの神社も宇美花様――縁結びの神様を祀ってるんだよね)


 あーーー!それさっき聞いた!!まさかの相手は縁結びの神様なの!?もう縁切りの神様になってるとかやめてよね!私と甚伍の縁を切るとか絶対許さないわ!!絶対の絶対よ!!!?


『甚伍!何が何でも止めるわよ!?いいわね!!』

「う、うん……なんか僕の守護霊が勘違いしてる気がするけど、まあいいか」


 何かぼやく甚伍を置いて、私は不埒な影妖怪を追って宙を駆ける。

 待っていなさい、縁結びの神様。縁切りどころか私と甚伍の縁を強化してもらうんだからね。

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