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Chapter.66

 それから、一緑と華鈴は休日やタイミングの合うときに、お互いの家族との顔合わせや式の打ち合わせ、新居の内見などをして、忙しい日々を送っていた。

 入籍の日も決め、独身生活も終わりに近付いてくる。

「あとちょっとで出てっちゃうとか信じられんなー」

 橙山が眺めている赤菜邸のリビングに掲示された予定表(ホワイトボード)には、一緑と華鈴の引っ越し予定日が記入されている。

 橙山は自分の予定を書き込みながらほぅと息を吐いた。

「もー、最近ずっとそれやなぁ」

 寂し気な橙山の声を聞いて、青砥が笑った。

「やってさ~、可愛い妹がヨメに行っちゃう気分なんやも~ん」

「まぁそれはわからんでもないけどさー」

「そんな風に思ってんのやったら、逆に晴々と祝福したげたらええやん」傍らで聞いていた黒枝が口を挟む。

「祝福はしてるさ。してるけど、そのうえでさみしいな~っていうハナシ」ホワイトボードマーカーのキャップを閉め、ホワイトボードに貼り付けてから橙山がソファに座る。

「結局どんくらいいてくれたんやっけ」

「に……さん年?」黒枝の問いに青砥が指折り数えるが

「指4本出てんで」

「ありゃ」黒枝に指摘されて小指を折りたたんだ。

「早いなー、もうそんな経ってたんやー。そりゃ結婚もするよなぁ~」背もたれに身体を預け、橙山が両手を伸ばす。「オレらなーんも変わってないなぁ」

「みんなおっきい仕事、いくつももらったやろ~?」橙山の嘆きを青砥が優しくフォローする。

「仕事はステップアップさせてもぅたけどさぁ、私生活がさ~」下ろした手を背もたれの上部にだらりと置き、上半身をしなだれさせて橙山がため息交じりに言った。

「カノジョとかのことゆうてんの?」黒枝が問うと

「うん~」なんとも情けない声と顔でうなずいて、そのままズルズルと座面に寝転んだ。「うちで一番(いっちゃん)若いいのりんがケッコンしてんのにさ~。焦らん? 二人とも」

「おれは別に」

「俺も。子供は欲しいなー思うけど」

 青砥に続き、黒枝も表情を変えずに答える。

「えー? 焦ってるんオレだけ~?」

「いや、他のヤツらは知らんけどな?」黒枝は後頭部の髪を手でバサバサはねさせながら答える。

「キイロはまだ時間かかりそうやし、眞人くんは興味なさそうやなぁ」

「しぃちゃんは?」

「あいつはあかん。理想が高すぎる」幼馴染の黒枝が一刀両断した言葉に

「えー、そうなんや~!」橙山が身体を起こして食いついた。

「三ツ指ついて三歩下がって着いてくるような女性(ヒト)がええねんて。今時そうそうおらん! そんなヒト」黒枝は怒ったような口調で言い放つ。

「確かにムツカシそやな~」青砥が笑う。「年上の女性とかのがええのかな~」その口調はどこか楽しそうだ。

「でもさぁ、そういう人がおったら急展開ありそうよね」

「あちらさんが紫苑を好きになるかっちゅう問題もあるからさぁ」黒枝は家族のように紫苑のことを気に掛ける。

「そうよな~」楽しそうにしていた橙山は、思い出したようにしょんぼりした顔に戻ってしまった。「あんまりもう会えんくなるんかな~」

「そんなことないやろ」

 橙山の嘆きを否定したのは、トイレから出てきた赤菜だった。

 トレーナーの中に手を入れ、腹をさすりながらリビングへやってきて会話に合流する。

「え? どういうこと?」不思議そうに橙山が問う。

「あいつら、こっから歩いて15分くらいのマンション住むから、来よう思えば来れるやろ」

「えー! そうなん?!」橙山はしょんぼりムードから一転、満面の笑みを浮かべた。「えっ? なんでそんなこと知ってんの?!」

「あいつらが住むん、俺のマンションやから」

「「えー!」」赤菜の答えに、橙山と黒枝が驚きの声をあげる。

「なに? お前。マンションまで持ってんの?」黒枝が問う。

「おん。ゆうてなかったっけ」

「えー? そんなん知ってんのやったら、もっと早く教えてくれたら良かったのに~!」橙山が駄々をこねるが

「なんでお前らにいちいち報告せなならんのや」ソファに座った赤菜に一蹴された。

「そんで、なんで(シュウ)ちゃんは驚いてへんのん?」

「え? おれどっちも知ってたから」

「「えぇ?!」」

「えっ? なんでシュウちゃんだけ?!」

「お前、俺のが付き合い長いやろ~!」

「別に長さ関係ないやろ。アオがたまたまその場におっただけや」

「そーそー。いのりとカリンちゃんが眞人くんとしゃべってるとき一緒にいただけよ」

「なんなら紫苑もおったし」

「そうなんや。じゃあ二人とも近所に住むん知ってたん?」

「うん」

「なによシュウちゃん、教えてくれても良かったやん」拗ねたように口を尖らせる橙山に

「いやぁ。プライベートなことやし、おれから言うんはちゃうかな~?  思って」首をかしげながら青砥が答えた。

「まぁそりゃそうやなぁ」自分の膝の上で頬杖をつき、黒枝が同意する。「むしろ良かったん? 顧客の個人情報やない?」

「……まぁええやろ。そのうち本人から言うやろし」

「知らんフリしてたほうがいいかな?」

「トーヤマくんは絶対ワザとらしくなるやろから、やめといたほうがいいと思う~」青砥が言って、橙山に微笑みかける。

「ワタワタしてるんも面白そやけどな」笑いながら言う黒枝に

「ちょっとクロちん、そこ楽しむんやめて~?」不服そうに橙山が頬をふくらませた。

「別になんも思わん思うけど、一応あいつらから言ってくるまで黙っといて」赤菜が少々バツが悪そうに片目を細めると、

「うん、わかった」橙山は素直にうなずいた。


* * *


 八人で囲む食卓もあとわずか。それでもいつもと変わらず賑やかな団欒の時間。

「そうや。引っ越しんとき、誰か手ぇ空いてたら手伝ってほしいんやけど、いいかなぁ」箸を置いて、一緑が住人達に問いかける。

 皆の返答はもちろんイエスだ。

「業者さんには頼まん?」紫苑の問いに

「うん、近いし、華鈴が来たときみたいに自分で軽トラ運転するわ」

「えっ? そうなん? 近いん? どのへん?」上ずった声で聞く橙山に、青砥、黒枝、赤菜が薄く笑う。

「あれっ! ごめん。ゆうてなかったっけ。ここから歩いて行けるトコにある、マコトくんのマンションやねんけど」

「あ、そーなんや」答えるその声も上ずっていて、キイロはいぶかしげに橙山を見やる。

「なに? とーやまくんなんか変やない?」

 一緑は目が合った青砥に聞くが、青砥は口の端を上げて「さぁ~?」ゆっくり首をかしげた。

「なに~? 別にええねんけどさ~」

 一緑が言って、食事を再開する。

「ゆうて、そんなに荷物ないんちゃうん」今度は黒枝が問う。

「そうなんよねー。家具は一人分やしさー」

「新居用に買うん?」聞いたのは紫苑だ。

「うん。いくつかはもう買ってん。家電が全然ないからさ。な」一緑が隣に問うと

「うん」華鈴がうなずく。

「いつ届くん? 受け取っとく?」

「いや、だいじょぶ。もう新居にあるから」

「え? お家賃二重に払ってんの?」

「いや……」橙山への返答を濁して、一緑が赤菜をちらりと見る。

「新居のほうはここ出るまでいらんゆうてる。知らん仲やないし」きんぴらごぼうを口に運びながら、赤菜はこともなげに言った。

「たまにはかっこええことすんなぁ」感心する黒枝に

「“たまに”は余計じゃ」赤菜がにらみを利かす。「半月分じゃ祝儀にもならんわ」

「いやいや、めっちゃ助かるよ~。なにかと物入りやしさ~」

「本当にありがとうございます」

 一緑と華鈴が頭を下げる。

「いい、いい、そんなん。サクラにはずっとメシ作ってもうてたし、二人とは、ここ出てったら終わりってもんでもないやろし」イカフライをザクザクもちもち噛み砕きながら、そっけなく聞こえるように赤菜が言う。

 誰の目から見ても照れているのが明らかな態度で、皆微笑みながら赤菜を見ていた。

「キィちゃんさっきから全然しゃべってへんやん。やっぱ寂しいよなぁ」仲間を見つけようとした橙山の問いに

「え? 会おう思ったらいつでも会えるやろ」

 キイロがきょとんとして答えた。

「えっ?」

「えっ?」

 橙山の疑問にキイロがオウム返しをして

「あっ、いやっ、ちゃう! そういう意味ちゃうで!」慌てて一緑に否定の言葉を投げた。

「うん、だいじょぶ。眞人くんから聞いて知ってるから」優しく笑った一緑がうなずく。

「個人的にやりとりとかするつもりもないし」

「別に用事があるならええよ。信用してるし、二人のこと」

 にこりと笑う一緑に、キイロも安心したように笑い返した。

 不思議そうに見つめていた橙山は「…なんかハナシがよぉ見えんのやけど…」唇に箸を押し当て、ぽつりとつぶやく。

 黒枝、紫苑、青砥も同様に不思議そうな顔をしている。

「あ、えっとー」その表情に気付いた一緑が、キイロを伺った。

「ええよ、隠すようなことでもないし」キイロは前置きをして「おんなしマンションに俺の仕事場があんねん。フロアは違うんやけど。やから、エレベーターとかで会うかもわからんし、なんか急用できたら行き来できなくはない、っていう話」

「えー! いつの間に?!」驚く橙山に向けて

「俺のが先に借りててんけどな」白米を口に運びながらキイロが続けた。

「ええなー。オレもスタジオ用に借りようかなー」

「お前は必要ないやろ」紫苑が橙山にツッコミを入れる。

「えー、だってさー」

「別にうちに遊び来たらええやん。落ち着いたら声かけるしさ」

 一緑の提案に橙山がパァッと笑顔を見せた。「ええの?」

「うん。俺らも多分、ちょいちょいここ来るし」

「えー、じゃあいっかぁ」

 一転して上機嫌になった橙山が、止まっていた箸を進めた。

 七人は顔を見合わせて、おかしそうに微笑みあった。

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