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9話目

 睨みつけるクーネの元まで来ると目の前でパンッと両手を叩く。その刺激に目をパチクリさせ途端に落ち着くクーネ。


「クーネよ、落ち着いたか?」

「え、あれ?ネィル?なにが・・・?」

「馬鹿者!怒りに忘れて大暴れして。お前がエルミスを危険にさらしてどうするんだ!」


 言うと同時にネィルはジャンプしてクーネの頭を叩く。痛くはないのだが反射的に「痛い!」とクーネが呻く。


「とりあえず、クーネへの説教はまた後だな。気が進まぬがエルミスへ少々荒治療をすることにしよう。」


 ネィルはうずくまっているリーダーを踏みつけつつ、エルミスを手招きで呼び、


「エルミスよ、この男を力の限り、それこそ今までの恨みを晴らすがごとく殴るが良い。身動きが取れないよう、私が押さえつけておくから怯えることはないぞ。」

「・・・え?」

「お前はこの世界の人間共に捕らわれて以降苦手意識を持っているようだが、本来の我らの力が出せればこんな連中は文字通り虫けらに等しいものだ。つまり特殊な条件下で力が抑えられぬ限りはこんな連中は恐るるに足らん。」


 ネィルの命令に困惑し、リーダーとネィルを交互に見る。そして意を決してリーダーへ向き直り、拳を振り上げ


「ところでエルミスよ。よく目を凝らしこの男を見てみよ。何か見えぬか?」


 振り下ろそうとした拳を止め、言われたとおりにリーダーをじっと見るが特に変わったものは見えない。首を横に振ると「そうか」と一言。

 再びリーダーを殴るように促すと、エルミスは拳を振り上げ、


「あぁそうだ、クーネよ。もしエルミスの一撃でこの男が死んでも文句はないな?」

「え?えぇ、それはかまわないけど・・・。」

「おっとすまん、エルミス。中断させてしまったか。さ、やってくれ。」


 二度も止められたことに少々ムッとするものの、三度覚悟を決め、拳を振り上げ・・・


「そういえばクーネの探していた荷物の場所はわかるのか?わからないのなら殺す前にこいつに聞かなければな」

「それは大丈夫、ここに来るまでの間に荷物のまとめてある部屋があったから多分そこに・・・。」

「そうか。じゃあやはりこいつは始末してもいいな。また止めてしまったな、エルミスよ思い切りやってくれ。」


 ネィルに促されるものの、三回も止められてはさすがに文句を言いたくなったエルミス。


「ネィルさん!一体何がしたいのですか!殴れというから覚悟を決めて実行しようとしてるのに、そのたびに邪魔して!」

「いや、すまん。今はこいつが唯一の生き残りだからな。死んでしまう前にいろいろ聞いておこうと思うのだが、直前になって何を聞くか思い出してつい邪魔をしてしまった。さ、今度は大丈夫だ。遠慮しないでやってやれ。」


 じと目でネィルを見つめ、ため息をつき、拳を振り上げ、そしてネィルは男を押さえつけていた力を緩め、圧迫の少なさを感じたリーダーはチャンスとばかりに、


「俺を舐めるんじゃねえぞ女どもぉぉ!!」

「あっ!?」


 驚きのあまりとっさに手を引っ込めようとしてしまうが、勢いをつけた分すぐには止まらず、結果としてゆっくり振り下ろされた拳にリーダーが自分から当たりに行ってしまう形となった。

 しかし、弱弱しいエルミスの拳だがカウンター気味に直撃してしまったリーダーは、「ぷきゅう」と言う変な悲鳴とともに再び地面に倒れ気絶する。


「ふむ、イラつかせて加減を抑えられなくするつもりだったが、まずはこんなところか。」


 ネィルがつぶやくが、気を失ってしまったリーダーを呆然と見ているエルミスの耳には届かず、数秒の間をおいた後に


「ぷっ・・・、うふふふ。ちょっとまって。ぷきゅうってなんなのその変な声!あっはははは!」


 エルミスの笑い声が響いた。

 力の乗り切ってない中途半端なエルミスの拳に、頭が当たっただけで気絶してしまったリーダーをお腹を押さえながら見下ろし


「え、なんで?どうしてこんなに弱いの?あのときは力負けして何も出来なかったのに?」

「どうだ、さっきも言ったが力を抑えられるか、あるいは行動を制限される結界か何かがあったんだろう。

 そうでなければいくら未熟とはいえこの世界の人間の、しかもこんなクズ共にそんな簡単に負けるなどあるか。」

「ヒドイですね、ネィルさん。いえ、確かに未熟だったのは認めますけど・・・。」


 頬を膨らませるエルミス。一方でネィルの説明を聞きつつクーネは


(ごめんなエルミス。あの話の中でお前を捉えてたのは能力制限の結界と行動封じの札だった。そしてその後に起きたことも・・・)


「はは・・・、なんてことない、私も同じクズだったってことじゃない。いいえ、それ以下の最低な人間よ!ごめん、ごめんなさいエルミス!私のせいであんな目に・・・って、ネィル・・・?」


 お腹に違和感を感じ見下ろすと、ネィルがクーネの腹を殴りつけていた。


「痛みもダメージも無いのだろう?お前がエルミスに悪いと思うなら気が済むまで殴られ続けろ。」

「ネィル・・・?」

「どうせ、あの出来事も元を正せば自分がそうするようにしてしまった、とか考えているのだろう?そんな自分に嫌気が差しているのだろう?」

「そ、それは・・・。」


 思っていたことを的確に言い当てられ、言葉を無くす。その間もずっと殴り続けるネィルは


「あまり我々を舐めるな、神よ。確かに悲惨な出来事ではある、そのことで命を無くすものもいるだろう。だが我々はそれを糧に成長する生き物だ!

 神なら神らしく我々の成長のために試練の一つを与えたとでも思え!いちいち過去を振り返るな!」

「ネィル・・・。」


 クーネを殴り続けるネィルを後からエルミスが優しく抱きしめ


「ネィルさん、いいぇ、お父様。ありがとうございます。そのお父様の言葉で私は救われます。必ずご期待に沿えるよう精進します。」

「・・・ふん!」


 殴るのを止め、抱かれたエルミスの両手を払い、気絶しているリーダーの元へ移動するネィル。


「ふふ、照れちゃってますね。ネィルさん可愛い。」

「エルミス・・・。」

「クーネさん、気にしないでください、とまでは言いませんが、そこまで自分を責めないでください。原因があなただったとしても、私を回復させてくれたのもあなたなのですから。」

「エルミス、ごめん・・・ごめんなさい・・・!うわああああん!!」


 エルミスに抱きつき大泣きするクーネ。エルミスもクーネが泣き止むまでずっと抱いてあげていた。

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