24話目
━━ブロディ山岳都市南部 冒険者ギルド━━
「依頼達成確認しました。では、推薦状に書かれてあるとおり、品物を依頼主様までお願いします。採取ご苦労様でした。」
ギルドの受付嬢へ報告を済ませ、カッツはこれからクーネ達と同行するための手続き行うためにいったん別れることとなった。
二日後の昼に北部のギルドで待ち合わせの約束をすると、ネィルに引き連れられ依頼主の元へと向かう。
「ところでネィル、その依頼主って誰なの?知り合いってことはやっぱり元魔王軍の誰か?」
「うむ、クーネならば知っているだろう。最後の戦いでただ一人生き残った四刑衆よ。」
かつて、魔王軍には特に強い4人が『四刑衆』と呼ばれ、絶大な発言力を持っていた。
単純な戦闘力においてはバルギスを凌駕すると言われた、『戦闘卿』アンサール。
アンサールに対し、魔力方面でバルギスを凌駕すると言われる、『魔道博士』ロンク。
残酷な性格で目的のためには手段を選ばず、味方すらも利用する策士、『神知鬼心』コルエスドゥ。
そして、あらゆる武器を作成し、あらゆる武器を使いこなすことの出来る、『武器師』ルシール。
だがルシールを除き、アンサール達はジグラッドとその仲間達によって倒されていた。
「つまりルシールがこの街にいるって事?あぁ、でも確かに彼女ならここはいい場所かも知れないわね。好きなだけ武器を作っていそう。」
ブロディ北部は鍛冶屋が多い。その中に紛れて鍛冶屋として生計を立てるのなら、もってこいの場所である。
「あぁ、今でも武器を作っているよ。ゲルグムの奴にルシールがここにいると聞いてな、以前頼んでおいたものを受け取りに行ったという訳だ。
だが、完成にはこのポータリーフが足らなかったらしい。しかし完成間際で私が死んで魔王軍が無くなってしまったから、そこで止まっていたとの事だ。」
話ながらどんどん進んでいくネィル。ついには街並みをはずれ道も無くなり、とうとう山を登り始めるところまできてしまった。
「ちょっと、どこまで行くのよ・・・。」
「ここで暮らしているとはいえ元魔王軍だ。さすがに街の近くには住めないだろう?山を登って少し行ったところにひっそりと暮らしているのさ。」
「そういうことは早めに言って・・・。」
山を登り、ブロディ北部の西側、もはや街の中とはいえないような場所に煙突の立った一軒の家が見えてきた。
ネィルとエルミスはその家を目指して歩いていくが、クーネは逆に家が見えたことで安心し力が抜けてしまった。
「あ、ごめんネィル、先に行ってて・・・。もう限界・・・。そこの木の所で少し休んでから行くわ・・・。」
「では私がクーネさんと一緒に残りますからネィルさんはお先に。」
「そうか?まぁ普通の能力でここまで来れただけでも合格か。わかった、後からゆっくり来るといい。」
そういうと振り返ることなく足早に家の方へと向かう。クーネは息を吐きながらゆっくりと腰を下ろし、その隣にエルミスも座る。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫。ただちょっとここまで離れてると思ってなかったからペース配分を間違えただけ。ふぅー・・・。」
大きく深呼吸をして息を整える。
一息ついたところでエルミスは指先に魔力を込め空中に小さく円を描き、その円の中へと手を入れる。するとその円の先から腕は消え、しばらくして引き抜いた手には水袋とコップがあった。
エルミスはコップに水を注ぎ、それをクーネへと手渡し、受け取ったクーネは喉を潤した。
「エルミスも空間収納できるのね。そういえば異界者はみんな出来る設定だったわ。私も出来る様にしちゃおうかな・・・。」
「今そんなことしたらカッツさんに怪しまれますよ?これからはカッツさんもご一緒な訳ですから。」
「そうだったぁ・・・。勢いで同行許しちゃったけど、よく考えたらカッツがいる以上、無敵モードとかも使えないじゃない・・・。
あっ!もしかしてネィルはこれを狙ってたんじゃ!?」
クーネの疑問にあり得そうと言う意味で頷くエルミス。二人の間にほくそ笑むネィルの姿が思い浮かべられ、揃って笑ってしまった。
「あはは、これはネィルに問いただしてみないといけないわね。さて行きましょうか。」
立ち上がりしゃがんでいるエルミスへと手を差し出す。その手を取り、立ち上がろうとして、
「・・・!?」
思い切り引っ張りクーネを抱きしめる。
「え、エルミス・・・!?」
思わず声が裏返ってしまうが、直後に背後で何か重いものが落ちる音が響く。
クーネが振り返ってみると、そこには自分と同じ位の高さの巨大なオノが地面に突き刺さっていた。
ぞっとしたのも束の間、
「人間の女がこんなところで何をしている?ここはお前のようなやつが来る場所ではない。さっさと立ち去れ!」
「誰ですか!こんなもの投げつけてクーネさんを殺す気ですか!」
聞こえてきた声に向かって怒鳴るエルミス。だが突き刺さっていたオノが徐々にこちら側に倒れてきて、慌ててクーネを抱えたまま立ち上がりその場を離れる。
オノが倒れ砂埃を巻き上げ、その向こう側には身長140センチに届かないくらい小柄だが、その背に反して大きなバスト。
頭に手ぬぐいの鉢巻を締め、袖なしのシャツにズボン姿。ドワーフと呼ばれる種族の女性だった。
その姿を確認したクーネは一言。
「あの人は・・・、武器師ルシール・・・。」
「ほぅ、アタイのことをその名前で知ってるのか。ならばどんな目にあっても覚悟は出来ている、と言うことでいいな?」
倒れたオノを軽々と持ち上げ肩に担ぎ、クーネとエルミスを睨む。
そのまま目を逸らさずにオノを構えなおしながら近づき、不意に足を止めた。
「んー?そっちの女、お前・・・、いや、まさかあなたは、エルミス、様・・・なのか?」
「あなたがルシールと言うのなら、私のことを見たことがあるようですね。残念ながら私はあなたの事は知りませんが。えぇ、私はバルギスの娘、エルミスです。」
表情の青ざめるルシール。そして時を同じくして小屋の扉が開き、中からネィルが出てきてこちらへと向かってくる。
「なんだ、中にいないと思ったらこんなところにいたのか。ん、どうしたルシール、顔色がよくないぞ?」
「あ、いえ、大丈夫です・・・。」
「クーネにエルミス、いらんと思うが紹介しておこう。こいつが元魔王軍四刑衆の一人、武器師のルシールだ。」
気まずい空気が流れ、不思議そうな顔をするネィル。そしてそんなネィルとエルミスをアワアワと交互に見比べるルシール。
「・・・なにかあったのか?」
「いいえ、ちょっとクーネさんの身に危険が迫っただけです。もう去りました。」
少しトゲのある言い方をされ、肩を竦めるルシール。それで全てを察したネィルは、何事もなかったように小屋へと戻り、ルシールも後に続く。
エルミスも後に続こうとして、
「エルミス、もう大丈夫だから、降ろして欲しいなぁ・・・。」
「あっ!ごめんなさい。怪我とかは無いようですね。安心しました。」
クーネをそっと降ろし、軽く全身を見て確認する。
「うん平気。ありがとう、助けてくれて。」
「いいえ、運よく気付けたから良かったです。もし気付かなかったらと思うと・・・。」
「大丈夫だったと思うよ、彼女、元々殺す気無かっただろうし。そうじゃなかったら『立ち去れ』なんて言わないでしょう?
それに性格変わっていないなら、少なくてもネィルの意に反することは絶対にしないはずだよ。」
言い切るクーネに疑問を持ち、理由を聞いてみると、
「だって彼女、バルギスに好意を持ってたんだから。」
驚きと納得の答えを口にしたのであった。
次話以降、1月中旬あたりまではリアル都合により不定期投稿になります。
ごめんなさい。