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アッシュとオーレリアの結婚式から、それなりに月日が経った。
その頃にはイルザとカイン、ふたりは結婚後の挨拶回りがようやく終わり、落ち着くことが出来るようになったのだった。
ひとまず肩の荷が下りたふたりは、屋敷にて穏やかな休日を過ごす。
「お疲れ様、イルザさん」
「お疲れ様です、カインさん」
屋敷の中庭にて、紅茶とお菓子を楽しむカインとイルザ。
「一時はどうなることかと思ったけれど、人間やればそれなりに出来るものだね」
「そうですね、無事に終えて何よりです」
小さなテーブルを挟み、向かい合ってふたりは笑う。
そして、他愛も無い話に興じるのだった。
「明後日は、エリーゼさんのところへお邪魔しに行こうと思います」
「へえ、そうなんだ。気をつけて行っておいで」
「はい。カインさんはウィル様とは遊びには行かないのですか?」
「うーん、俺は仕事で時々、ウィルとは会っているから別に構わないかなあ」
「そうでしたね。でも、たまには息抜きも必要と思いますよ」
「うん、確かにそうだ。ありがとう。今度彼を遊びにでも誘ってみるよ」
とても穏やかな時間だ。彼らの周囲の時間だけが緩やかに経過しているように思えてくる。
「その、そう言えば、聞きましたか……?」
「ん、何のことかな?」
「この前、エリーゼさんが教えて下さったのですけど……アッシュ様とオーレリア様が仲直りをしたそうです」
「そ、そうなんだ……思ったより早いね。いや、仲違いしたのも早かったけれど……」
カインは反応に困る。
それなりに時間が経っても未だに、呼ばれた結婚式での光景は衝撃的すぎて、鮮明に覚えている。
「もしかしたら、また同じことになるかもしれないから、一応警戒しておこう」
「私も、それがいいと思います……」
イルザも同意した。
ウィルと懇意にしている商人いわく、彼らの愛は不滅であると。ゆえに、彼らはいくら共倒れしようと不死鳥のごとく何度でもよみがえるのだった。
♢
夫婦ふたりだけの会話を楽しみながらイルザは、カインを見つめる。
それに気づいて、カインは微笑む。
イルザも微笑み返す。
笑みを浮かべるイルザは、ふと思うのだった。
自分たちは、夫婦として上手くやっていけているのだろうか?
分からない。
円満かと言われれば、疑問が湧く。しかし、不満があるかと聞かれれば、特に思い浮かばない。
彼と夫婦になって、まだ日は浅い。
当然まだ、分からないところだらけだ。至らないことも多い。
だから、イルザは思う。
もっと、相手を知っていこう。
自分たちは恋愛結婚ではない。
だから、お互いのことを良く知り、良く考えていかなければならないのだ。
大丈夫、まだまだ時間はたくさんある。先は長いのだから、焦ることなくゆっくりとお互いのことを知っていけばいいのだと、イルザは思う。自分と会話しながら楽しそうに笑う彼もおそらく、そう思ってくれているのだろう。
「このクッキー美味しいね」
「はい。とても」
そしてイルザとカインは、徐々に日常の中でお互いを知っていく。
楽しみながら、穏やかに。
小さな幸せを感じながら、ふたりは、ゆっくりと本当の夫婦になっていく。
これにて本編は終了です。
今までお読みいただきありがとうございました。
未定ですが、気が向いたら番外編でも更新するかもしれません。