第11話 戦闘系以外は……?
短めですが投稿です。
歩くこと数分。俺の住む東区の中心から離れて、町を囲む森の近くまで来た。
自然に溢れ、ほとんど人気のないところである。こんな場所に、本当にスキルホルダーがいるのか……?
「いた。あそこだよ」
先を行くフェアルが指を差す。思わず身構えながら視線を前へ飛ばした。
生い茂った森林の中に、一際大きな木が立っている。スキルホルダーはその根元にいた。
「……え? 何してんだ?」
中学生だろうか、俺より一回りか二回り小さい男子。目の前の大きな木を凝視する彼は、上半身裸だった。
剥き出しにするほど良い筋肉はしていなく、むしろ色白で細く、あまり人に見せつけられるものではなかった。いやこんなところだから見せつけるつもりもなかったのだろうが。
「いける……! これまでの俺なら、こいつには怯えていたかもしれないほど強大な存在だ……。だが、今の俺ならいける! やってやるぜええええええ!」
少年漫画よろしく熱血な台詞を言い放ったかと思うと、それまで親の仇のように睨み付けていた木に、飛びつく。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして四肢を存分に使い、彼はあの黒光りするGの如く、大木を登り始めたのだ。
「……はい?」
「……あれはね、物事に挑戦する心を強くするスキル、『挑戦勇心』だよ」
前にいるフェアルの顔をゆっくりと覗き込む。彼女もまた苦笑いをしていた。
「いやいやいやいやいや! 何だそのスキル! 「挑戦する心を強くする」!? ありゃただのわんぱく少年じゃねぇか! 木登りをさせるスキルか!」
「う、うるさいわね!」
木の半ばあたりで、少年は落下した。しかし諦める気配もなくまた挑んでいく。
「スキルっていうのは、何も超常的な特殊能力に限った話じゃないの。精神に変化をもたらしたり、あるいは地味で目立たなかったり。あの『挑戦勇心』はその両方だね」
「そういうことだったのか……」
少年は幹から枝を掴んだが、細すぎてぽきりと折れ、尻から落ちた。
「痛そ……」
「ちなみに、ああいうスキルは自動的に発動されるものが多くて、これをパッシブスキルって呼ぶよ」
「その対となる、能動的に使うものはアクティブスキル! だよな!?」
「う、うん。合ってるよ」
聞き覚えがあるどころか、いつもゲームでお世話になっている単語だ。
各種ステータスを上げたり、状態異常を弾いたり、あればあるほど嬉しいのがパッシブだ。
だが実際のファンタジー事情では、スキルは2つ以上持つことができないようだから、アクティブとパッシブの両立という夢のゲーム仕様にはならないみたいだな。残念。
「ていうか、なんで挑戦心上がって木に登るんだ?」
最も気になっていたことを聞いてみる。フェアルは乾いた笑い声と共に答えた。
「日常生活の中で勇気を出すシチュエーションがなかったんじゃない? だからあんな、無駄な挑戦を……」
「だからといって、発想がおかしいだろ……」
俺も段々と呆れ口調になる。
これからも下らないスキルを回収する時は、こんな微妙な気持ちにならなければいけないのか。
「じゃあ回収してくるね」
今の透明化の条件では見つかってしまうので、フェアルはこっそりと接近し、少年の背後につく。
怪我を気にせずなおも挑もうとする彼の後頭部に、小さな手がかざされる。
その一瞬で少年は力が抜け、倒れ伏した。……倒れ伏した!?
「無事成功したよ~」
なんでもない顔で戻ってくるフェアル。
「おい。あいつ気絶したけど良いのか……?」
「あれはしょうがない。ほっとこう」
「軽いな!?」
「いちいち気にしてらんないよ。さぁ帰ろ! 私のぱそこんが待っている~っ!」
お前のじゃねぇよ、というツッコミを入れる暇も与えず、うちの居候娘は帰路に着いた。
あぁもう、溜め息しか出ねぇよ……はぁ……。




