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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
12/40

第11話 戦闘系以外は……?

短めですが投稿です。

 歩くこと数分。俺の住む東区の中心から離れて、町を囲む森の近くまで来た。

 自然に溢れ、ほとんど人気のないところである。こんな場所に、本当にスキルホルダーがいるのか……?


「いた。あそこだよ」


 先を行くフェアルが指を差す。思わず身構えながら視線を前へ飛ばした。


 生い茂った森林の中に、一際大きな木が立っている。スキルホルダーはその根元にいた。


「……え? 何してんだ?」


 中学生だろうか、俺より一回りか二回り小さい男子。目の前の大きな木を凝視する彼は、上半身裸だった。

 剥き出しにするほど良い筋肉はしていなく、むしろ色白で細く、あまり人に見せつけられるものではなかった。いやこんなところだから見せつけるつもりもなかったのだろうが。


「いける……! これまでの俺なら、こいつには怯えていたかもしれないほど強大な存在だ……。だが、今の俺ならいける! やってやるぜええええええ!」


 少年漫画よろしく熱血な台詞を言い放ったかと思うと、それまで親の仇のように睨み付けていた木に、飛びつく。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 そして四肢を存分に使い、彼はあの黒光りするGの如く、大木を登り始めたのだ。


「……はい?」

「……あれはね、物事に挑戦する心を強くするスキル、『挑戦勇心(チャレンジブレイブ)』だよ」


 前にいるフェアルの顔をゆっくりと覗き込む。彼女もまた苦笑いをしていた。


「いやいやいやいやいや! 何だそのスキル! 「挑戦する心を強くする」!? ありゃただのわんぱく少年じゃねぇか! 木登りをさせるスキルか!」

「う、うるさいわね!」


 木の半ばあたりで、少年は落下した。しかし諦める気配もなくまた挑んでいく。


「スキルっていうのは、何も超常的な特殊能力に限った話じゃないの。精神に変化をもたらしたり、あるいは地味で目立たなかったり。あの『挑戦勇心(チャレンジブレイブ)』はその両方だね」

「そういうことだったのか……」


 少年は幹から枝を掴んだが、細すぎてぽきりと折れ、尻から落ちた。


(いった)そ……」

「ちなみに、ああいうスキルは自動的に発動されるものが多くて、これをパッシブスキルって呼ぶよ」

「その対となる、能動的に使うものはアクティブスキル! だよな!?」

「う、うん。合ってるよ」


 聞き覚えがあるどころか、いつもゲームでお世話になっている単語だ。


 各種ステータスを上げたり、状態異常を弾いたり、あればあるほど嬉しいのがパッシブだ。

 だが実際のファンタジー事情では、スキルは2つ以上持つことができないようだから、アクティブとパッシブの両立という夢のゲーム仕様にはならないみたいだな。残念。


「ていうか、なんで挑戦心上がって木に登るんだ?」


 最も気になっていたことを聞いてみる。フェアルは乾いた笑い声と共に答えた。


「日常生活の中で勇気を出すシチュエーションがなかったんじゃない? だからあんな、無駄な挑戦を……」

「だからといって、発想がおかしいだろ……」


 俺も段々と呆れ口調になる。

 これからも下らないスキルを回収する時は、こんな微妙な気持ちにならなければいけないのか。


「じゃあ回収してくるね」


 今の透明化の条件では見つかってしまうので、フェアルはこっそりと接近し、少年の背後につく。


 怪我を気にせずなおも挑もうとする彼の後頭部に、小さな手がかざされる。

 その一瞬で少年は力が抜け、倒れ伏した。……倒れ伏した!?


「無事成功したよ~」


 なんでもない顔で戻ってくるフェアル。


「おい。あいつ気絶したけど良いのか……?」

「あれはしょうがない。ほっとこう」

「軽いな!?」

「いちいち気にしてらんないよ。さぁ帰ろ! 私のぱそこんが待っている~っ!」


 お前のじゃねぇよ、というツッコミを入れる暇も与えず、うちの居候娘は帰路に着いた。


 あぁもう、溜め息しか出ねぇよ……はぁ……。

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