第10話 フェアルちゃんは現代人!
『もぉう、ちゃんとお弁当食べてよねリュウトお兄ちゃん! 私が真心込めて作ったのに……。明日は完食すること! いーい? 約束だよっ、リュウトお兄ちゃん!』
「……フェアル」
「ぷっ、くく……! も、『桃色恋物語えっくす!』……! リュウト、あんた、こ、こんなゲームしてるのぉ~……? ぷーっ!」
「――勝手に人のパソコンをいじんなぁぁあああああ!!」
「きゃああああああ!?」
どうしてこうなった。俺が半日学校に行っていただけなのに。
与孤島町には、与孤島町立北高等学校と、与孤島町立南高等学校という2つの高校がある。俺達が通うのは北高だ。
北高の生徒も今朝晴れて進級したわけだが、俺ら幼馴染3人は、奏介のリーク情報通り、見事2年B組に固まっていた。
他にも見知ったやつらがたくさんいて、どうやら俺の学校生活が退屈になることはなさそうだった。
始業式やら何やら、活動の半分以上を寝ていた俺にはどうでもいいことを終え、明日が入学式だということを知らされると、本日は午前中に放課後を迎えた。
俺は帰宅部なのだが、奏介はサッカー部、鈴音はバレー部に入っているので、あいつらは午後部活へ向かった。
それぞれが活躍している中、俺だけが家でゲームに熱中しているのを時々思い出し、虚しくなることがないわけでもない。
でもこれからは、そんな微妙な思いに苛まれることはない。
何故なら、俺にはスキル回収という重要な任務があるのだから!
……って、中二心にも少なからず感謝していたのに。
「どうしてこうもイタズラが過ぎるのかなぁ?」
「すっ、すごいねリュウト! まさかこの妖精に拳骨を落とせるなんて!」
「話を逸らすなっ!」
現在、フェアルは机の上に正座させられている。俺に殴られた頭をさすりながら。
「だってさぁ~! パソコンというヒトの叡智の結晶だよ!? 究極の発明品だよ!? 触らずにはいられないじゃん!」
「その認識は正しいが、許可を取らずに使用した上、勝手にギャルゲーをダウンロードして俺の名前でプレイするのは完全にふざけてるよな!?」
「そんな! 私はただ、リュウトに妹属性が効くかどうかを試したかっただけなのに!」
「はい確信犯!」
こいつ、午前中ずっとパソコンをいじっていたせいで、余計な知識を仕入れちまったみたいだな。
「でも残念。効果は薄いみたいだね。じゃあツンデレかな? 委員長タイプ?」
「……お前、今叱られてる立場だってのを分かってんのか?」
能天気極まりない。
というか、こんなゲームで俺を貶められると思ったのかよ。
……偶然にも奏介に薦められていたギャルゲーだったんだが。
「とにかく! お前はパソコンの使用禁止! パスワード設定します」
「えぇー!? そんな殺生な!」
「お前はいつかウイルスソフト作りそうで怖いんだよ!」
しかしフェアルは、マウスを抱え込むようにして動かし、操作権を死守する。使っている時もこんな感じだったのだろうか。
でも涙ぐみながらって、本気すぎるだろ……。
「つーかーうーのー! つーかーうーのー!」
「ああぁもう……。分かった! 分かったから!」
このままだといつまでも騒ぎ続けそうなので、妥協策を取る。
「仕方ねぇ。お前専用のユーザーを別に作ってやるから、それを使え」
「ほんと!? パソコンしても良いの!?」
「ああ。その代わり、俺の許可なしにゲーム機やアカウントをいじるな。これが守れなきゃお仕置きだぞ」
お仕置き、という単語にはいろんな意味を含めて言ったが、それはフェアルに通じたようだ。
「う、うん。分かった!」
イタズラ好きでも、妖精なのでバカではないはず。もう危険なことはしないだろう。
早めに手を打っておけて良かった良かった。
「ゲーム機やアカウント「には」、手を出したらダメなんだよねぇ?」
「……は?」
言質を取ったとばかりに、深い笑みを見せるフェアル。
これからの生活に嫌な予感しかしない……!
「ちょっと待てフェアル! 私は条約の改正を要求する!」
「あっ! スキルホルダーが現れたみたいだよ!」
「見え透いた嘘をつくな!」
「嘘じゃないって!」
ぱっととある方向を向き、フェアルは遠くを眺めるように眉間を寄せた。割と真剣な面持ちである。
「……え? マジ?」
「マジ。よし、特定したよ」
そう言うと、ふわふわ浮かんで部屋を出ていく。俺も少なからずそわそわして後を追う。
全世界に散らばったって言っていたけど、意外と毎日スキル回収あるのかね。
「いや待てよ? 今特定できたってことは、スキルが発動されて混乱が起きてんじゃねぇのか!?」
俺が相手にした『戦闘中毒』みたいなスキルだったら、下手すりゃ死人が出るぞ!
「いやいや大丈夫だよ」
「え?」
「昨日、スキルには暇を持て余した神様のお遊びもあるって言ったのを覚えてる?」
「あぁ、スキルの説明をされた時か」
階段を降り、玄関で靴を履き、家を出る。
「お手伝いを頼んだり、私達が戦うことになる人のスキルは戦闘系スキルって言うの。でも回収対象の大半は、戦闘系以外の、実害が少ないスキルなんだ」
「今回はそれだから、急ぐ必要はないと?」
「その通り」
騒動が起きないならとりあえず大丈夫か。俺はフェアルについていく足を遅めた。
「ん? それじゃ、俺はどうすんだ?」
「リュウトの手は借りないよ。戦うのは、暴走で波動が乱れて妖精が干渉できなくなるからすることなの。そうそう暴走しない戦闘系以外は私だけで回収できるんだ」
「……つまり、今回は俺戦えない?」
無言で視線を逸らされた。
町民に被害が出ないのは喜ばしいものの、項垂れる俺であった。




