最終話 静寂
巨大な地下中枢。
無数の演算機。
低い唸り。
世界の均衡。
その中心。
セナが歩く。
赤紫の機体、バスティトの残骸の向こう。
白い機体、アルテミスは沈黙している。
フィーナが立ち上がる。
ふらつきながら。
セナの背中へ向かう。
「……待って」
セナは止まらない。
フィーナが駆け寄る。
そして。
背中から抱きとめる。
力なく。
必死に。
「お願い」
声が震える。
「やめて」
涙が落ちる。
「お願い……」
「それだけは」
セナは止まる。
沈黙。
数秒。
そして。
その腕を振りほどく。
フィーナが床に倒れる。
力なく。
セナは振り返らない。
ただ言う。
「言ったよね」
声は冷たい。
「気持ち悪いって」
フィーナの呼吸が止まる。
セナは続ける。
「フィーナが言おうと」
「誰が言おうと」
少しだけ振り返る。
その目は静かだった。
「こんな退屈で」
「気持ち悪い世界」
「つまんないから」
セナが中枢へ歩く。
巨大なジェネレータ。
LNS中枢。
セナがジェネレータの前に立つ。
巨大な装置。
世界の残響。
世界の均衡。
セナは少し見上げる。
「……これか」
足元に落ちている。
アルテミスのブレードテイルの破片。
それを拾う。
軽く回す。
「ちょうどいーね」
フィーナが息を飲む。
セナは振り向かない。
「じゃ」
一歩踏み込む。
そして。
叩きつける。
装置が砕ける。
光。
衝撃。
世界の残響が消える。
⸻
光。
衝撃。
静寂。
⸻
世界は変わった。
いや。
戦争は変わった。
残響のない世界。
LNSは消えた。
すべてのREV。
すべてのGRASP。
リミッターは消えた。
残響も。
制御も。
消えた。
接続値。
100%。
人は壊れない。
機体も壊れない。
ただ。
戦う。
戦争は激化した。
帝国の軍事力は強かった。
共和国への侵攻。
都市は落ちる。
戦線は崩れる。
共和国が消えるのも。
時間の問題だった。
その要因の一つ。
アルテミス。
REVR-IV。
その接続者。
フィーネリア王女。
彼女は。
行方不明となった。
カルネア連邦も変わった。
LNSのない世界。
DCの価値は消えた。
セルド研究所。
均衡。
管理。
すべて意味を失う。
カルネアは交易国として存在を保とうとした。
だが。
やがて。
消えた。
それはまるで。
霧のように。
⸻
荒野。
赤紫色の大型二輪。
バスティト。
強行離脱形態。
砂煙を上げて走る。
遠く。
砲火。
帝国軍。
共和国軍。
戦争。
セナが笑う。
「やってるねー」
「うんうん」
背後。
フードを被った少女。
白髪。
セナが言う。
「ほら」
「フィーナも見なよ」
フィーナは小さく言う。
「……なんで」
セナが首を傾げる。
「んー?」
フィーナが続ける。
「なんで私を」
「連れ回すの」
沈黙。
風が吹く。
フィーナが呟く。
「レイがいない私なんて」
「もう」
「何もないのに」
セナはあっさり言う。
「退屈しないから」
フィーナが呆れる。
「……なにそれ」
少しだけ笑う。
セナが言う。
「あたしの退屈しのぎに」
「付き合ってもらおうと思って」
フィーナが聞く。
「何かするの」
セナは肩をすくめる。
「さーね」
遠くの戦場を見る。
「今はまだ」
「変わってる途中だし」
「やりたいことは」
「あとで決める」
フィーナが小さく笑う。
「計画性ないね」
セナが言う。
「あるよ」
少し笑う。
「退屈しないって計画」
戦争は激しくなった。
人は多く死ぬ。
非人道兵器も増えた。
世界は。
むしろ。
壊れた。
それでも。
セナは空を見る。
静かな空。
そして。
小さく呟く。
「……ようやく」
風が吹く。
セナが目を細める。
「静かになったにゃあ」
⸻
完




