78 えーと。なんか面倒なのでごめんなさい。
目の前の5人、特にバリアントの様子を伺いながら睨み合う。
『アレス、やっちゃいましょう。あの男、かなり強いですから手加減をしている場合では無いようです!』
『そうだよ!腕の1本や2本、叩き落してやればいいんだよ!』
『分かった。じゃあ、やろう!』
僕は再度[睨む]と[恐慌]を使うが、5人は表情を崩さない。能力値が高いのかスキルか魔道具で耐性があるのか、力で一気に押し切るしかないかも。そう思ってカマイタチを広範囲でばらまく。
それに合わせるようにリーゼも[竜巻]と一緒に[火炎]を使うと、風を巻き込み炎を巻き込み渦を巻いている。その中をバリアントが突っ込んできたので、仕方なしに[黒牙]を左右の足に目掛けて放つ。
左足の[黒牙]は外殻に阻まれたのか砕き散ったが、右足には被弾してバリアントの「うぐっ!」と呻く声が聞こえた。
だがその勢いは止まらず、こちらへ剣を振り下ろされるので、拳での[突く]を大剣を握る手に横から叩きつけるように撃ち込んだ。
ガキンという大きな音と共に大剣が地面へとぶつかりホッとするのもつかの間、バリアントが大剣を捻るようにして横薙ぎの攻撃を繰り出してきたので、[残像]で避ける。
追加で[黒牙]を足に2度か放てば、足に付けていたガードを突き破り、バリアントの膝をつかせることに成功した。「ぐうぅ」と呻く声が聞こえた。
周りを見るとリーゼが双剣男と斧男の2人を相手にしているようだ。だが余裕がありそうだ。すでに相手の2人は傷だらけだ。
クラウはローブの男女2人を相手に、[竜巻]と[火炎]で距離を取って戦っているようだ。こちらも危なげは無いようだ。
「もう、やめにしませんか?」
膝をついたままのバリアントにそう声をかける。
「それほどの力があれば、近いうちにSランクになれるだろう。そうなればあの男爵なら護衛に雇うだろう。このまま国に迫害されるより良い人生を送れるんじゃないか?大盗賊」
「そこまで知ってるんですね。でも、僕たちは迫害と呼べるほどの何かを受けたことはありませんよ?王都に行きづらくなった程度です」
「それが迫害じゃないというなら、甘いと言わざるえないな!王都は、王国内のどこよりも稼げる狩場だ!そこに大っぴらに入ることが許されないなんて、迫害以外のなにものでもない!」
段々とバリアントの声が荒くなり、目が血走っているように見えた。
「今からでも遅くない。いや、俺を手玉に取ったと報告すりゃー好待遇間違い無しだ!なんなら帝国組にも入れるかもしれんぞ!帝国は王都以上に稼げるんだ!俺であっても難しいがな。
だがお前たちなら帝国組の猛者どもにも肩を並べることができるだろう!あっちの異界は湧く魔物がかなり違うからな。俺たちは王都で荒稼ぎする。そしてお前たちは帝国で荒稼ぎする。
いずれ男爵なんか捨て、帝国の上位貴族に乗り換える!地位も名誉も酒も女も!全部手に入れることができるんだ!なあ、俺と一緒にてっぺんまで成り上がってみねーか?」
黙って聞いていたが、これはかなりの情報ではないだろうか…
思いがけず得た情報に少し戸惑う。だがこの人達より強い冒険者が帝国にはいるようなので、今後はそう言った人たちからのちょっかいも考えられる…
あー面倒だ。
そう思いながらリーゼとクラウの様子を伺うと、すでにそれぞれの相手を制しきったようで、ロープで雑にグルグル巻きにしていた。回りで座り込んでいる男たちもすでに戦意は失っているようだし、大きな問題はなさそうだ。
「おい!聞いてるのか!俺と、一緒にやってやろうぜ!」
「えーと。なんか面倒なのでごめんなさい」
「は?面倒?」
「はい。僕たちはゆるーく平和に楽しめれば良いので、誰かに従って汗を流したいわけじゃないんですよ」
バリアントは困惑しているのか口を開けたまま固まっている。
「今は依頼で俺たちのこと探ってるんだろ」
ぼそりと言った言葉に息がつまる。
「いや、そうなんですけどね。不本意ながらそう言う流れになっちゃって、これが終わればもう依頼は受けないつもりですよ。のんびり森にでも入って魔物と遊んでおきます」
「のんびりできるといいな」
またもぼそりとつぶやかれてしまった。今度こそのんびりとできるといいな。僕も常々そう思ってるはずなんだけどね。
「大人しく、縛られてくれるとありがたいんですけどね」
「勝手にしろ」
バリアントはそう言うと、杖代わりにしていた大剣を手放し、膝をついて目を瞑った。
警戒しながらもロープでぐるぐる巻きにすると、前回と同じようにリーゼが「行ってくるね!」と言いながら僕に抱き着いた後、街へ向かって走り出していた。クラウもそばにやってきて抱き着いてきた。
2人で座りながら待っている間に、3人ほど逃げ出そうとした男が居たのでクラウが[竜巻]を放って牽制していた。今回の事で僕も軽めの範囲攻撃をLv1で覚えておかないとと思った。Lv5は殺傷能力が高すぎる。
[カマイタチ]はLv1が丁度良かったからLv5にあげたことを少し後悔していた。ベイリン子爵領に戻ったら最果ての森の方に篭ってみよう。それでも狩ってる間に勝手にLv上がるしな、と贅沢なことで頭を悩ませる。
「なあ、また1年程度だろ?なんでそんなに強いんだ?やっぱりスキルを奪っているのか?」
黙っていたバリアントが話しかけてくる。
「人からは奪えませんよ…」
それだけは返しておいた。
「魔物から…ということか。羨ましい限りだ…」
「そのせいで家を追い出されましたけどね」
つい愚痴ってしまったが、それを聞いてバリアントは「そうか」と小さく返し下を向いていた。
ほどなくしてリーゼが衛兵を10名ほど連れてこちらへ走って戻ってきた。
その衛兵の何人かがこちらを睨みつけるように見ていたので、ため息をつくしかなかったが、何事もなく僕たち以外をしっかりと縛り上げ、数珠繋ぎにして街の兵舎まで連行するという。
報告に来た冷たい目の衛兵に「後はよろしくお願いします」と伝えギルドまで戻ることにした。
戻って早々、ネビルさんに軽く報告すると「聞いてるよ。ギルマスが話がしたいって」と言われ、カウンター裏のギルドマスターの部屋へと案内された。
「今回は、すまんな」
ため息をつきつつギルマスのバラクネスさんがそう言って話し始めた。
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この世界の犯罪について
一般的に殺人や暴行、窃盗や迷惑行為にいたるまで、その領土内の衛兵が対処する。各領土を治める領主により管理されているため、領主が黒と言えば黒。というのが一般的だ。もちろん王族への反乱を企てた、などというものは国の管轄となり、領主でさえも対抗することは出来ない。一般的な刑罰としては、罰金から公開での鞭打ち、死罪、犯罪奴隷などがある。
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