70 あっ、今腕がピクリと動きました!
襲ってきた男たちを警戒しつつ睨み合う。
暫くしてあの黒神官みたいな男が動き、他の男たちに向かって手を突き出していた。何かしらの強化を付与しているのだろう。
『面倒だから一気にやっちゃおうか』
『そうですね』『はーい』
多少強化されたところで大丈夫だろう。
そう思って動き出す。
とりあえず殺傷力のある範囲攻撃は不味いと思うので、[疾風]から[突く]を連続してあの王都のなんたら3人組の肩を砕いてゆく。その間にクラウは[風牙]の矢であのリーダーと思われる男以外の足を打ち抜いていた。
リーゼはあの男の傍まで瞬間移動をしたように一気に距離をつめると、拳でその男の肩を打ち抜いた。
多分[突く]を使ったであろうその一撃で、大きな音と共にくるくると回りながら吹き飛び壁に激突するリーダーと思われる男を、少し可哀そうだなと思いながら眺めていた。
「あれ死んでないよね?」
「あっ、今腕がピクリと動きました!大丈夫だと思います!」
リーゼもさすがに不安だったのか、クラウの言葉に「よ、良かったー」と言いながら胸を撫でおろしていた。
クラウが足を打ち抜いた男の一人が、痛みに堪えながら何かを取り出していたのでその手を足で蹴飛ばした。帰還札だったようなので一人だけ逃げようとしていたようだ。周りの男たちも睨んでいた。
「これ、どうしたら良いのかな?」
呻く男たちがまた何かしないよう警戒しつつ、魔物の素材を纏める時などに使うロープで縛り上げる。全員を縛り上げると「この後どうしようか?」とクラウに相談してみた。
「アレスが歌って眠らせちゃえば?」
「却下で…」
リーゼの提案を速攻却下する。こんな奴らの前で歌えるわけがない。
「入り口の衛兵に報告してもらえば良いのではないでしょうか?」
「そうだね。じゃあ、僕が行ってくるよ」
「アレスは残った方がいいんじゃない?」
「そうですよ。一応縛ってますが、何があるか分かりませんし…リーゼ、頼めますか?」
そう言いながらクラウは帰還札をリーゼに投げ渡す。
リーゼはそれをキャッチするとすぐに使って消えて行った。
それから30分。
男たちは何度か騒がしくしていたが、その度に[睨む]と[恐慌]を使っていたら「もう勘弁してくれ」と大人しくなってしまった。繰り返すと心が持たないのだなと思った。
これは頑張って両方共Lv5にしてしまおうか?
そんなことを考えていると、ほどなくリーゼが5名の衛兵を連れて帰ってきた。きっと分所に常駐する人たちが応援でやってきたのだろう。
「じゃあ、僕たちは先に戻りますので」
そう言って衛兵の敬礼に見送られながら帰還札を使い入り口まで戻る。大した距離では無かったがあまり動きたくなかった。
乗合馬車で分所まで戻るとすでにシャルロットさんが待っていたようで、すぐに談話室へと通され、詳細を求められた。
◆◇◆◇◆
「ありがとうございます。とりあえずこれで依頼は終了という事で良いでしょう。恐らくですが1週間程度で一定の進展があるでしょう。全て本部と依頼主に報告しますが、何かあれば連絡しますね」
素敵な微笑みを見せたシャルロットさんは談話室を出ていった。
「はあ。やっと終わったね」
「うん」
取りあえずは終わりだということで、気が抜けてしまう。
「やっと終わりましたが、これからどうしますす?」
「どうしようか?」
もちろん他の場所に行ったりしたいけど…
「何か面白い依頼とか受けたらいーんじゃない?」
「うーん、また依頼とか、大変じゃない?」
リーゼの提案にそう返しておく。少しゆっくりとしたい気もする。
「でも今回は指名依頼でしたが、普通の依頼ならそこまで大変ではないのでは?」
「たしかに!」
暫くまともな依頼なんて受けてなかったので忘れていた。
そもそも僕たちはあまり依頼をこなしていない。
たまに狩り終わってから依頼を確認して「あっ、これ持ってるな」って時にこなす事後報告の素材納品依頼ばっかりやっていた。ただ素材を売るより依頼を通しての方が儲かるし、楽だったから。
「じゃあ、ちょっと見てみようか」
重い腰を上げ、2人の元気な返事を聞きながら談話室を後にする。
シャルロットさんがいなかったので、ラクーシャさんに談話室を空けたことを報告し、依頼の掲示板を確認する。
Cランクの依頼を見ていると、最果ての森の浅い層の探索に3日間付き合ってほしいとの護衛依頼があった。護衛依頼か…エド殿下の護衛依頼を思い出すが、流石に同じような展開にはならないだろう。
そう思ってクラウに相談してみる。
「クラウ、これどう思う?」
「最果ての森の浅い層の護衛ですか。これ薬師ギルドですが、採取の依頼ではないのですね」
クラウに言われ再度確認すると、確かに薬師ギルドになっていた。
「ほんとだ。じゃあ現地での調査とかそう言ったものなのかな?」
「そうかもしれないですね。やってみても良いんじゃないですか?報酬は安いですけど、採取の知識も得られそうですし」
クラウはどちらかというと、報酬よりも薬師の生の知識が得られることの方が嬉しいのかもしれないと感じた。
「これ見てー!」
今度はクラウが1枚の依頼書を指差していた。
「これは…リーゼ?」
「リーゼ?ドラゴンは無理だと思います。それにSランクの依頼ですよ?」
「えー?グリーンドラゴン、今なら1匹ぐらいなら狩れるんじゃない?それに、白金貨50枚だよ?」
興奮気味に話すリーゼに、確かにもしかしたら何とかなるかも…とも思ってしまう。いやいや、無理だよね?冷静になってやっぱり無理だと自答する。
でもあれからレベルも少し上がったし、スキルもかなり増えて…
「いや無理だよ。それに無茶してケガでもしたらどうするのさ」
結局無理だとリーゼに返答する。
「えー、無理なら深層に戻ったらいいんじゃない?」
「それは、確かにそうだけど…」
リーゼはなんでこんなにヤル気なんだろう?前回のあれもあったし、怖くないのだろうか?
「確かに一度、試して見ても良いかもしれないですね。深層では楽に狩れていたのですし…でも層を抜けるリスクもありますし…」
クラウも割と本気で悩んでいるようだ。
確かに通常は層を越えない。だけど攻撃を受けた場合は稀に抜ける場合がある。それが怖いと言えば怖いけど…
「1回だけだよ?」
「やった!」
「アレス、大丈夫でしょうか?」
リーゼは大喜びしてるけど、クラウは少し心配顔だ。
「じゃあ、明日1日は深層で猿を狩ろう。[黒牙]をMaxにしておきたいからね。それから試してみてダメならすぐに撤退しようね。さすがに2つの層を抜ける事はないだろうし…万が一には中層まで逃げ切れば大丈夫だよきっと」
「分かった!」
リーゼが笑顔で抱き着いてくるので、ぽよよんと柔らかなものを感じ思わず頬がゆるんだ。そしてクラウの冷たい視線を受けて慌てて引きはがす。
こんな公衆の面前で、いつもの様にリーゼに対抗して抱き着くほどの度胸はクラウには無いようだ。
今日のところはそのまま部屋へと戻り、明日へと備えて歌い、眠りについた。
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ギルドについて
この世界は冒険者達の依頼を管理する冒険者ギルドのほかに、商人たちの登録する商業ギルドが販売に関する税の徴収や銀行機能の管理している。その他、各ジャンルでも正式な組織ではないが、薬師ギルドや鍛冶師ギルド、錬金ギルドに執事ギルドなど、各クラスの人達が集まりお悩み相談をする互助会のような組織が存在する。
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