56 なんでー。ガキが何用だ?
宿へと向かう僕たち。
念のため2人に「個室とか…」と聞いた瞬間睨まれる。
分かっていたけど確認は大事。
そしてそれなりに良い3人部屋、プチスイートトリプルという部屋を1か月分借りた。お値段なんと金貨90枚。王都に比べればかなり安い。そしてプチとは言えスイートというからにはかなり広い!
洗面所はもちろんお風呂も広く「これなら3人で入れるね」とリーゼに揶揄われるほどだった。ベッドはやはり大きなベッドが一つだったが、宿のスタッフにクラウが細かく確認をしていたので分かっていた。
どうやらベッドが3つのプチスイートトリプルというのもあるようだったが、クラウがしっかりと一つの部屋は?と確認していたからね。まあその方が歌うのに丁度良いし、それにくっついて寝るのは楽しいし…
きっと気にしたら負けなんだと思う。
結局その日は夕食を宿の4階、ビッフェ・ウロボロスでウロボロ御膳を頂いた。メインの大エビがプリプリで甘くておいしかった。名前の由来は何度でも来たくなるお店、そして単純にカッコいいから!という事がメニューの一口メモ欄に書いてあった。
そのまま部屋に戻ると、いつもの様に歌って眠る。
こうして初めてのベイリン子爵領での一日が終わった。
翌朝、旅の疲れもあったのか少し寝坊してしまう。
ダラダラと支度を終わらせると、魔法のバッグからサンドイッチを取り出し3人でお腹を満たす。そしてまずはオーダーメードのお店へ行こうとメモを頼りに宿を出た。
「ここかな?」
「ここなの?」
「ここで良いと思いますよ。あそこに剣と魔方陣のマークもありますし」
クラウの言う通りそんなマークが掲げてあったので、多分そうなのだろう。だがどう見ても古い民家のようだった。これは知る人ぞ知る名店の予感!
「なんでー。ガキが何用だ?」
開いている玄関を抜け、店内に入ると草臥れて見えるおじさんが一人、小上がりに座っていた。
僕は「付与してほしいものがあるんですけど…」と言って盗賊偽装のブレスレットを見せた。
「ちょっと貸せ!」
そう言ってブレスレットを奪うとそれをジッと見る。
「それなりに高い偽装魔道具だな。盗賊用だが…」
そう言って僕にそれを投げ返すと、僕の事をジッと見ている。これは、あれだよね?
「お前は…、それに、お嬢ちゃんたちも…」
僕と、そしてリーゼとクラウも覗き視たであろうおじさんは、深いため息をついていた。
「分かった。これに何を付与する?耐物か?耐魔か?」
「両方おねがいします」
「ああ。いいが、結構値が張るぞ?それなりの素材も必要だし、事情は察するがタダというわけにもいかん」
「大丈夫です。できれば2人のにも同じものを…」
そうして白金貨を10枚ほどそばにあるカウンターへ置いてみる。
「どっかのおぼっちゃん、てことでもなさそうだが、まあそのステータスなら稼いでるんだろうな。わかった。白金貨なんざいらんぞ。金貨60で良いが1週間待て。素材を確保したら一日預かる」
「分かりました」
そう言っておじさんが一枚だけ白金貨を取ると、釣りであろう金貨をじゃらりとカウンターへ置いた。僕はすぐにそれをバッグにしまった。
「ドルクネスだ。一応王国では一番の鍛冶師を自負している。品質は任せてくれ」
「アレスです。よろしくお願いいたします。ドルクネスさん」
背が低いと思っていたが、やっぱりドワーフ族の人だったようだ。そして自己紹介を終わらせると、身につけている魔法のバッグを外し、これと同様の者があと2つ無いか聞いてみた。
「あるが、まあこれを持っているということは価値も分かっているだろう。色は何がいい?」
そう言って後ろの棚から5つほど同じようなサイズのバッグを取り出していた。その棚、同じように収納が付与されてるように見えますけど?初めてみる棚タイプの収納に驚いていた。
出された赤、青、桃、緑、黒なバッグに、2人ははしゃぎならが選んでいた。
「これって全部、時間停止と対物・対魔の大が付与されてるんですか?」
「ああ。あと、一つ言っておくが俺は鑑定Lv3だからな。俺からはその偽装の魔道具は効かない。同じように高レベルの鑑定持ちもいるから、一応だが気を付けろよ」
僕はうなずきながら、ミューズさんの事を思い出す。
2人がブレスレットを嵌めているのに係らわず、スキルが増えていることを見抜いた時のことを…鑑定レベルによっては効果がないことを初めて知ったのだ。
ちなみにドルクネスさんの方ではさらに強い偽装のブレスレットが出来ないか確認すると、できないことはないがそこまでする必要はないんじゃないかと言われた。そもそも鑑定持ち自体が少ないのだ。
Lv3以上ともなれば、本当に極少数しかいないらしい。「そう言う奴に会っちまったら、不運だと諦めろ」とのこと。
結局、リーゼは赤、クラウは緑を選んで購入した。お値段は白金貨72枚と少しオマケしてくれたようだ。それぞれ金具もつけてもらって僕と同じように左の脇腹付近につけていた。
なんだかお揃いの様で少し恥ずかしい。
こうして暫く後に来ることを約束し、お店を後にした。
次は、どうしよう。
「ねえ、小規模だけど迷宮もあるって!」
「そのようですね。ベイリン迷宮は小規模ですが、他にはいない魔物もいますので、今日は時間もないしそちらを覗いてみませんか?」
「よし!じゃあ、夕刻まで少し狩ってみよう!」
こうして僕たちは、夕刻までの短い時間とは言え、ベイリンでの初めての冒険に繰り出した。
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冒険者ホテル・トーキュオイーン
東の国の文化が入り混じった安らぎある宿。ベイリンシティの冒険者ギルドからすぐ近くで利便性も高い。人気のプチスイートトリプルは一泊金貨3枚と豪華な内装にもかかわらずリーズナブル。ベッドが3つのプチスイートトリプルAルームと大きなベッドが1つのプチスイートトリプルBルームがそれぞれ10室ある。他にもスイートルームやロイヤルスイートといった豪華な部屋から銀貨8枚のシングルタイプまで取り揃えている人気の宿。
4階の『ビッフェ・ウロボロス』ではプリプリな大海老の甘煮と揚げ野菜もたっぷり入った『ウロボロ御膳』というメニューが人気。名前の由来は何度でも来たくなるお店、そして単純にカッコいいから!という事がメニューの一口メモ欄に書いてある。
ドワーフ・ドルクネスの武具と付与の店
民家を改装したこじんまりとした店舗。剣と魔方陣のマークが目印。武具の販売から各種付与の提供をしている知る人ぞ知る名店。だが気に入った仕事しかしない偏屈店主のため、一般の冒険者は門前払いされる。店主であるドラクネスは数百歳のドワーフで鍛冶や付与技術も一流。鑑定スキルもLv3となっている。
ベイリン迷宮
冒険者ギルドの裏手に存在する小規模な迷宮。王都と同じように周りを壁に囲まれているが、飛翔タイプが湧かないため簡易な防壁に守られているだけのようだ。10階層ではあるが、弱い魔物が湧くので新人冒険者の訓練の場になっている。
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