55 なんだか大きくて立派だね!凄いね!
翌朝、いつもと同じように目を覚ます。
すでに2人は起きていたようで、左右を見ると僕を見つめる2人と目が合った。どうしよう。もう暫くこのまま寝ていたい。
「そろそろ、起きる?」
リーゼは僕を見ながらそう言うが、左腕を離すつもりはなさそうだ。
「そろそろ起きても良いのではないでしょうか?」
クラウも僕を見ながらそう言うが、なぜ掴む手にギュッと力がこめられるのか?
「起きようかな?あまり寝ていると、リオールさんたちに伝えていた出発時間に間に合わなくなりそうだし…」
僕がそう言うと、2人はゆっくりと僕から離れてゆく。
手早く支度を終え食事を済ませると、あっと言う間に出発の時間となっていた。
ギルドから歩いて10分ほどの町はずれから出る乗合馬車で、ベイリン子爵領の南部にある主街地、ベイリンシティの中心地を目指す。
見送りにはギルドのリオールさんが見送りに来て「ミューズ会長からよ」と僕用の偽装のブレスレットが手渡された。
さらには「ベイリンでは腕の良い鍛冶師などが居るようなので、できれば耐物耐魔の付与をしてもらう様に」との伝言も受けた。
ベイリン子爵様は一応容認してくれてはいるが、一般の人達の目は厳しいだろうから早急に付与してもらおうと思っている。
さらにはエドとマルチスも来てくれて、力不足を謝られたが、それよりもエドが必死で擁護してくれたことについて、お礼を伝えることができた。お互い泣きながら抱き合ってしまった。
エドからは「僕は絶対に王になる!そしたらまた、王都に戻って来てよね!」と言われさらに泣き笑いしてしまう。本当に可愛い弟だ。年上だけど。
そして馬車は出発する。
途中で名もなき小さな村の近くで野営して、明日にはベイリンシティへと到着する予定だ。ここで何事も無ければ、なんてフラグは立てない。立ててないからね?
夜営地では他の冒険者パーティと少し距離をおき、テントで一夜を明かしたが、夕食時には昨晩宿で夜食用にと数日分を注文したステーキ定食を、魔法のバッグから出したことに感づかれジロジロと値踏みされた。
そりゃーまだスープからは湯気が立ってたからね。とは言えあまり見られるのは良い気分ではない。
夜襲を警戒していたが、何かあれば[危険察知]があるだろうと思い眠りについた。
眠る際はもちろん[回復]のみで、歌うのは拒否したから周りに迷惑はかけていないはずだ。
結局は何事もなく夜が開け、無事に到着した。
乗合馬車を降り、凝り固まった体を動かす。お尻の痛みに「やっぱり高い貸し切り馬車で行けば良かったね」と後悔する。お金はあるんだし護衛も頼めば安心だし…
とは言え後の祭りなので、まずは冒険者ギルドで良い宿を紹介してもらおうと思い、御者さんにギルドの場所を聞いた。
そして向かった冒険者ギルド。
さすが北部に魔物ひしめく森がレイリン領、その建物は王都より大きかった。
森の近くには遺跡もあるし、最初からここまで来ても良かったのかも、と思ってしまったぐらいだ。でもそうなるとザックさん達との再会も、エドとの交流もなかったのだから王都で良かったのかと思い直した。
「なんだか大きくて立派だね!凄いね!」
リーゼが建物の上の方を眺めている。
「地方都市だから土地代が安いのでしょう。それと、冒険者の数が多いですからね。私たちも負けずにバンバン稼ぎましょう」
クラウが何時になくヤル気を見せている。
そして中へ入ると、お昼を少し過ぎた時間帯という事もあり、人はまばらであった。長い受付カウンターには女性が3名、男性職員も1名いたので少し新鮮に感じた。
並んでいる冒険者がいなかったこともあり、一番右の男性の受付へと向かう。
「やあこんにちは。登録かな?」
にこやかな笑顔でそう言う男性に「いえ、今日越してきたので街の情報を、と思いまして」とやんわりと否定し冒険者カードを見せる。
「これは失礼。アレスくん、ですね。僕は僭越ながらこのギルドの長を務めている、クライフ・ベイリンだよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いし…えっ?ベイリン様?」
僕はその名前に戸惑っていた。
「そうだよアレスくん。僕はベイリン子爵の息子、と言っても五男だけどね。それにすでに独立しているから、気さくにクライフって言ってよね」
「そうなんですね。では、よろしくお願いします。クライフさん」
いきなりギルマスに遭遇したのもびっくりだけど、まさかの子爵家の関係者に遭遇したことにまだ心臓がドキドキしていた。
「という事で、そちらの可愛いお嬢ちゃんたちは、リーゼロッテちゃんとクラウディアちゃんだよね。よろしくね。クライフって呼び捨てで良いからね」
そう言って笑うクライフさん。これは子爵様も用意周到な体制で、ということで良いのかな?一応は僕の事は容認すると言ってくれている様だし、その為の下準備も整えてくれているのだから問題はなさそうで…
彼是と考えている間に、リーゼとクラウも自己紹介を済ませていた。
「じゃあ、僕はたまにしかこうやって立たないから、次からは綺麗なお姉さんたちに頼ってね。じゃーねー」
そう言ってその場を離れ後ろにある階段を上ってゆくクライフさん。やっぱり僕たちを待っていたということだろう。
「じゃあこの後は、私が変わるわね。宿と武具や雑貨店などの案内、それと装備品の手入れやオーダーメイド関係の情報、ということで良いのかしら?」
そういって隣の綺麗なお姉さんが話しかけてきた。
そのお姉さんは並んでいたはずの冒険者に、目線を合わせずシッシと追い払う仕草を見せていた。そう言うのは止めてほしかな?追い払われた冒険者たちが僕らを睨んでるから…
「じゃあ、まずはそれなりに良い宿の紹介をお願いします」
そう言ってそのお姉さん、猫耳が魅力的なフニャンソワさんに紹介を頼んだ。
手頃な宿として紹介されたのは冒険者ホテル・トーキュオイーンという東の国の文化が入り混じった安らぎある宿だという。ギルドのすぐ近くで利便性も高い。
さらに雑貨店、武具店、薬屋さんに食事処をいくつか確認した、冒険者ギルド内にも食堂はもちろんの事、基本的な雑貨や武具、魔道具から薬の数々まであるという。
そして僕たちはフニャンソワさんにお礼を伝え、紹介された宿へと向かった。
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ベイリン領・主街地、冒険者ギルド・ベイリンシティ本部
食堂に雑貨店、武具と魔道具店、理髪店や治療院、図書室に談話室など設備も充実している4階建ての大規模ギルド。森の近場などにも買取施設があるという。
クライフ
ベイリン子爵家の五男。冒険者ギルド・ベイリンシティ本部のギルドマスター。緑のさらさらウェービングヘアの爽やかイケメン。伯爵令嬢を妻に持ち1児のパパ。昔は冒険者もやっていたが、クラスが会計士の為、雑用担当だったとか。
フニャンソワ
冒険者ギルド・ベイリンシティ本部の受付をする猫人族のお姉さん。茶色い癖っ毛がキュートだと冒険者たちからの人気も高い。特定の彼氏は作ってはいないようだが…他にも4人いる受付嬢は皆美人さんなのは、ひとえにクライフの尽力の賜物だろう。
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