44 それに昨日はホントに体が軽かった!
夜が明ける。
テント越しに日の明るさを感じる中、若干汗ばむ熱気に目を開けるが、両側から抱きつかれている現状、僕の体温は上昇している。
僕の方を向き寝息を立てている2人にドキドキしてしまう。もう何度こうして目覚めたか分からないのに未だに慣れない。というか慣れる慣れないの問題では無いのではと思っている。
抜け出そうと腕を動かすと、その腕にしがみつく力が強くなる。
「2人とも…起きてるよね?」
僕の声と共に僕の腕は解放される。
「ん?アレク、朝ー?」
「もう、朝でしたか?」
今目覚めました。という2人の演技がかった声と共に…
大体いつもと同じような朝を迎え、気を取り直して身支度をする。朝食を食べ、いよいよ今日は魔の森へと足を踏み入れる。
さて、まずは情報だよね。
クラウに説明を求めると、「では」と咳ばらいをしてから事前情報が提供される。
「魔の森は、中心部に入るほど強い魔物がいるようです。魔の森は王都と北のカダノス男爵領、そして北西のベイリン子爵領をまたぐ大きな森です。中心地は小山があり岩場にグリーンドラゴンが多数生息しています」
「ドラゴン!」
クラウの説明にリーゼが興奮している。
「リーゼ?分かってると思いますが、現行の私たちでは絶対に無理ですよ?というか今の装備では傷一つつけられません。私の[火炎]を魔力切れまで全部まとめて打ったとしても無理でしょう」
「でも、いずれは目指せドラゴンスレイヤーに!それに昨日はホントに体が軽かった!」
「ああ、[統率]がレベルアップしたからかな?」
2人がうんうんとうなずいている。
「話を戻しますね。比較的浅い層では森ゴブリンという潜伏能力の高いゴブリンと弓ゴブリンが出ます。あとはグリーンスネークとか、グリーンスライムとか…それぐらいでしょうか」
「弓ゴブリン以外は初めてになるかな?少し楽しみかも…」
特に森ゴブリンとか沢山倒せそうだし、[隠蔽]のようなスキルが増えることを期待してしまう。でも蛇も出るのか…やっぱり森は少し苦手だ。
「少し奥に入ると、石投げ猿に飛びつき猿というのもいるようです。上からくるので注意してください。後は湿地帯が点在しており、沼スライムと発砲アリゲーター、ビッグビーという大型の蜂もいるようです」
「なんだかいっぱいだね…」
魔物の種類にリーゼはそろそろ限界のようだった。でも今日入れるのはこの程度だろう。僕としては種類が多ければスキルも増えるので大歓迎だけどね。
「このぐらいの層ならDランク冒険者でも狩れるそうなので、私たちなら全然問題は無いかと思います。毒関係もありませんし…ただ、中層あたりからたまに強いのが出てくるので、その場合は少し梃子摺りそうです」
「まあそれぐらいなら、何とかなるよねきっと」
とりあえず名前でなんとなく分かる魔物も多いし、初見殺しはなさそうなので早速行こうかな?逸る気持ちで落ち着かない。
「それと、もう一つ、別の問題があります」
「別の問題?」
早く森に入りたいが、クラウが少し深刻そうな顔をするので心配になる。
「空振りならいいのですが、現在のスキル玉の総数が99になっているはずです」
「えっ?ホントに?」
「はい。昨日能力板を見せてもらった時に計算してみました」
「じゃあ昨日言ってくれても良かったんじゃない?」
僕の言葉に「もう眠たかったので」と答えるクラウ。
「じゃあ、もしかしたら100個目で何かスキルが出るかもしれないよね」
「そうなれば嬉しいのですが、その時は一旦検証が必要なのではと…そうなれば一旦狩りを休止する必要もあるでしょう」
「きっと何かが起こるよね!」
僕とクラウはどうしようかと考える。リーゼはワクワクして落ち着かなそうだ。
「じゃあ、ちょっと突撃してくるよ。何か獲って戻ってくるから待ってて!」
「まあ、それが一番でしょうね」
「えー?私も行くー!」
不満の声を上げるリーゼに「すぐに戻るからー」と声を掛け森まで走った。もちろん[疾風]を2度ほど使う。魔力全快だしね。
そして森に足を踏み入れると、迷宮なんかに入った時と同じように、ちょっとだけ不安が込み上げる感覚を覚える。もしかしたらこの森も同じような異空間?そう思った。
「いたー!」
目の前にはグリーンスネークが見えた。2mほどの緑の蛇だから多分そうだろうと思い[カマイタチ]を放つ。周りの木々に傷を付けつつも命中し、体を切り刻んでいった。そして浮かぶスキル玉に頬を緩ませる。
周りを警戒しつつもつんすると…
―――スキル[噛みつく]を覚えました。
―――スキル[譲渡]を覚えました。
New [噛みつく/Lv1/鋭い牙で噛み砕く]
New [譲渡/親愛なる者へ力の一部を譲渡する力]
「おわっ」
蛇から奪った力であろう噛みつくに驚くが、その驚きは後から出現した譲渡という分かりやすいスキルに打ち消される。
そういう事だよね?
一応予想はしていたが本当に予想通りなら凄いスキルなのだろう。
そして[噛みつく]は多分死蔵することになるだろう。なんたよ鋭い牙って…思わず舌を動かし確認しホッとする。どうやら牙は生えていないようだ。
すぐさま[疾風]を使いつつ、2人の元まで軽い足取りで戻ることになった。
そして戻るなり2人に詰め寄られ、さらに人目を避けて少し離れるように手を引かれる。僕の表情で何かがあったことはすぐにバレたのだろう。仕方ないよね。ずっと頬が緩みっぱなしなのは自分も感じている。
「で!どうでした!新しいスキルが出たのですよね!」
「早く!吐くんだ!」
こうして2人の尋問タイムが始まった。
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王都北西部・魔の森
中心部に入るほど強い魔物がいる。王都と北のカダノス男爵領、そして北西のベイリン子爵領をまたぐ大きな森。
王都北西部・魔の森・外周 木々が生い茂った森エリア
森ゴブリン、弓ゴブリン、グリーンスネーク、グリーンスライム。
王都北西部・魔の森・浅い層 ※湿地帯あり
石投げ猿、飛びつき猿、沼スライム、発砲アリゲーター、ビッグビー。
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