22 恥ずかしいから、一旦離れようか?
無心になり睾丸の回収を終えた僕。
「その、た、玉々?何に使うんだろう」
その様子を見ていたであろうリーゼが少し赤くなった顔で質問されるが、その言い方はずるい。ドキドキしてしまう。
「その、それは精力剤などの原料になったり、その他多数の薬にも使われています。その、た…ソレ、が滋養強壮に良いと言われています」
「へー」
リーゼと同じように少し赤くなったクラウの説明に、なんとなく納得した様子のリーゼ。
「僕も聞いたことがあるよ。精力剤に使う以外にも色々使われているけど、知らない方が身のためだって言われたから…ほんと知らない方が良いんだと思う」
それは以前ニックさんに聞いた話。
気になるけど、もしいつも食べてるものとかに使われてたら…と思うと詳しく聞く気が起きなかった。世の中には知らない方が良いことは多いんだと思う。
そして休憩がてら各自が能力板を出して確認をする。
――――――
アレス クラス:大盗賊 Lv40
体力80 魔力120(68) 外殻70
力29 硬9 速9 魔14
――――――
Up [物理耐性/Lv3+1/殴られてもへこたれない]
New [短剣術/Lv2/短剣の扱いがうまくなる]
New [弓術/Lv2+1/弓術の扱いがうまくなる]
New [投擲/Lv1/投擲の扱いがうまくなる]
New [親愛の絆/親愛なる絆により繋がり奪い取る力]
「何これ…」
僕は、いつの間にか出ている新しいスキルに戸惑う。
確かにさっき[弓術]を得た時に、何か一緒に何か言ってた気がするけど…ハイゴブリンを前に、あまり覚えていない…
「この、[親愛の絆]って物騒な説明のスキル、ハイゴブリンから出たんですか?」
あまりの説明分に自分でも引いている。
「いや、ハイゴブリンを倒す前なんだよね。多分だけど、弓術を奪った後にこんな感じのスキルがーって聞こえたんだけど、それどころじゃなかったからさ…」
そう言いながら、なんとなく2人を見ながら、このスキルで力を分け与えられる気がするのを感じた。
「たしかに!説明文から犯罪の匂いがする!」
リーゼにもそう言われてしまうが、いつもの様になんとなくスキルについては理解できている。
「そんな犯罪めいたスキルじゃないよ?」
「いや危険だ香りが…」
リーゼが自分の体を抱くようにして警戒するそぶりを見せているが、多分揶揄っているのだろう。
そんな中、クラウが僕の能力板をジッと見て何かを考えている。そして…
「アレス、スキルってレベル分の個数を集めたらレベルが上がるんですよね?」
「そうだと思うよ。今まではそうだったし…」
そしてまた黙って何かを考えるクラウ。
「これ、多分ですけど50個目で解放されたスキルなのかも」
「50個目?」
「はい。今計算してみたら、丁度50個スキル玉を獲得したことになるはずです。だから、これは大盗賊のクラスの固有のスキルなのかと…」
「固有の…」
確かに…って言われても数をすぐに計算できないな。
「それと、何となくだけどスキルの使い方わかりませんか?」
「多分、だけどね」
僕の言葉にクラウと一緒にリーゼも期待をこめた目で見てくるので、スキルについて感じたことを説明する。
「本当に多分だよ?」
「いいから話してください!」
「そうそう!早く話すといい!」
いつも以上に語尾が強いクラウと、いつもの調子なリーゼに急かされる。
「信頼してる仲間も、同じように魔物から力を奪える?」
僕の言葉に2人の沈黙が続く…
「狩ろう!今すぐ狩ろう!」
リーゼが立ち上がり周りを見渡して魔物を探している。
「ちょっと…待ってください。その、親愛というのは、私とリーゼということで良いのでしょうか?」
少し顔を赤くしながら、真剣に目を向けてくるクラウに、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
「多分だけど、まだ…かも」
「ひどい!私は真の仲間じゃないってこと!」
リーゼが面白半分であろうが地団駄を踏んでいる。
「僕は、2人は本当に仲間だと思っているよ。でも、何となくまだこのスキルの対象ではないような…気がして…」
そう言うとまた何か考えた様子のクラウ。
そして「よし!」と小さくつぶやき、僕の前まで歩いてくると…
「ふわっ」
クラウに抱きしめられ変な声がでた。
「ちょ!クラウ!何してるの!」
「そ、そうだよ。その、恥ずかしいから、一旦離れようか?」
クラウを引きはがそうとリーゼが軽く腕を引っ張っているようで、強く抱きつかれている僕もぐらぐらとゆすぶられている。
「私は!アレスが!好き!」
クラウが僕の胸に顔をうずめて叫んだ一言に、僕も、リーゼも、一瞬呼吸も忘れてしまうぐらい驚いてしまう。
「ふぅ」
クラウが僕から離れ、すぐさま自分の能力板を出し、ガッツポーズをした後、僕たちにスキルの下の部分を指差していた。その顔は真っ赤に染まっている。
そこには、『称号 [大盗賊からの親愛]』と記載があった。
「な…ぐえっ!」
僕が驚く間もなく、リーゼに強く抱きしめられた。苦しいけど気持ち良い柔らかさと香り…
「わわわたしも!アレスが、が、が…好き―!」
「いたたた!」
真っ赤なリーゼの宣言とともに強烈に締め上げられ、外殻が全損した。死んじゃう!
そして無言で離れ、能力板を出し確認するリーゼ。その後、少しにやけた顔をしている。
僕も自分の能力板を確認すると、同じように称号の項目が出現し、『称号 [2人からの親愛]』と表記されている。これで、2人も同じようにスキルと奪えるようになったようだ。
「よし!狩ろう!今すぐ敵を討ち滅ぼそう!」
「異論はありませんね!」
2人のテンションは高い。まあ気持ちは分かる。
僕に今できるのは、ゴブリン村を離れ、魔物を探し駆けて行く2人の後を、只々そっと付いて行くことだけだった。
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ゴブリン村
モレノの森の17階層、19階層にはゴブリンの集落、ゴブリン村が存在する。ハイゴブリンの1匹をトップとし、迷宮ゴブリン、火炎ゴブリン、弓ゴブリンが出現する。掘っ立て小屋のような建物が並び、建物も含め3日でリポップ、修復される謎仕様。
ハイゴブリン
村の一番優れた個体が進化すると言われている。※そもそもリポップするのでそう言う設定なのだろう。
その3mほどある巨大な体は、アレスの鉄槍での[突く]が刺さり切らないほどの固さを誇る。『硬』の能力玉を持つ。素材は中程度の魔石と睾丸。睾丸は精力剤等々に使われているのでそれなりに高価買取。
迷宮ゴブリン
村では最弱のゴブリン。朽ちかけたナイフを腰みのに装着し[短剣術]スキルを持っているが、石臼を運んだり他の様々な準備をしたりの雑用係。素材は中程度の魔石。
火炎ゴブリン
木で作られた炸裂弾のようなものを投擲してくるゴブリン。[投擲]スキル持ち。赤い草臥れた布を頭に巻いているのがチャームポイント。素材は中程度の魔石。
弓ゴブリン
木の弓矢で矢を放つゴブリン。[弓術]スキルでその連射速度はかなりのもの。背中に矢箇を背負い弓手の左手には緑の蔦をおしゃれに巻き付けているのが自慢。素材は中程度の魔石。
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