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怪奇見聞録  作者: 那智
9/11

ひとりかくれんぼ 3

予想に反して二人の噂が立つことはなかった。

幸いにもあの女子生徒たちは屋上で見たことを言いふらしはしなかったようだ。

あまり目立つことが好きでない浩一と香也乃は胸を撫で下ろす。

もっとも香也乃はもともと有名人なのでこのまま二人が一緒にいれば自然と噂になってしまうのだろう。

だが二人とも目先の危機を回避したことでそこまで頭が回っていなかった。


それはともかく浩一の協力を得た香也乃は早速準備を始めることにした。

今日は金曜日。明日は学校がないのでひとりかくれんぼをやるにはもってこいの日だ。

放課後、香也乃は浩一に今夜ひとりかくれんぼをすると伝えた。


「まずは道具を揃えなければいけないな」


「必要なものは?」


「ええと、とりあえずこれを読んでくれ」


香也乃は浩一にフャイルを渡した。

浩一はそれに見覚えがあった。屋上でも見たひとりかくれんぼと書かれたファイルだ。

ページを一枚捲るとそこにはひとりかくれんぼに必要な道具と儀式の手順が書かれていた。




――ひとりかくれんぼに必要な道具――


手足のついた人形

人形に詰められるだけの米

縫い針

赤い糸

刃物

爪切り

コップ一杯の塩水



「どれも手に入れようと思えば簡単に手に入る物ばかりだね」


「それがひとりかくれんぼの怖いところさ。 必要な物が簡単に手に入るから安易な気持ちで儀式を行う人が多いんだ。

 ひとりかくれんぼという名前もそれを助長する原因の一つだろう」


「まんま遊びっぽいし、遊び感覚でやるにはちょうどいいってわけか。

 そんでもって使う物も入手が容易な割に効果は高いってとこが厄介だね。 人形なんてこういう類の儀式じゃ常連だし」


人形はヒトガタとも呼ばれ、昔から人間の身代わりとして使用されてきた。

人形は人の形をしているが中身はからっぽなので霊が入り込むなんてのは誰もが一度は聞いたことがある話だろう。

そのほかにも人形にまつわる怪談は数多くある。それだけ人形はそういう現象を引き寄せやすいのだ。

ゆえに最近できた都市伝説であるひとりかくれんぼでも怪奇現象が起こったなんて話がでるのだろう。


「とにかくやるならやるで準備をしっかりしないと。 準備不足で大変な目に遭うなんて嫌だし」


「そうだね。 えーと、たしか人形と赤い糸以外は私の家にあったはず。 足りないものを買いに行こうか」


「金は?」


「割り勘で頼む」


「わかった。 じゃあ準備してくるから一時間後にまた」


一旦浩一は香也乃と別れ家に帰った。

まだ中学生なので学校にお金なんて持ってきてないのだ。


「母さんにも今日は友達の家に泊まるって言っとかないと」






――――





玩具売り場で人形を探すことにした浩一と香也乃はデパートに来た。

浩一たちの目の前には人形の山。

在庫処分なのか大きめの人形から小さい人形まで格安で売られている。

ここならばひとりかくれんぼで使うのにちょうどいい人形が手に入る


「これなんてどうだろう?」


そう言って香也乃が人形売り場にあった値札が付いたままの人形を浩一に見せた。


「駄目。 大きすぎる」


浩一はそれを一瞥しただけで却下した。

香也乃が持っているのは大きさ40センチほどの一抱えほどもある熊のぬいぐるみだ。

ひとりかくれんぼで使うにはさすがに大きすぎる。


「大きいほうがいいと思ったんだけどな」


「それに米何キロ入ると思う?」


「やめておくか」


すぐさま人形は元の場所に戻された。

結局浩一たちは15センチほどの可愛らしい服を着た小さな女の子のぬいぐるみを買った。

続いて赤い糸も買い、これで準備は整った。






――――







買い物のあと二人はひとりかくれんぼの準備をするために香也乃の家に向かった。

ちなみに浩一は一度着替えを取りに自宅に戻った。

なぜ香也乃の家で行うのかというと香也乃の家には誰もいないというのが理由だ。


ひとりかくれんぼという儀式は同居人や家族がいる場合はしてはいけないとされている。

呼び出された霊が同居人に危害を加えることがあると言われているからだ。

香也乃の両親は海外で仕事をしており年に何回も帰ってこないらしくひとりかくれんぼをする環境としては申し分ない。

普段なら女の子の家に行くことは浩一にとって緊張することだが今回は目的が目的なのでそれどころではなかった。


香也乃の家に着いた二人は早速事前準備を始めた。

浩一は再びファイルに目を通す。

用意するものと書かれた項目の下に視線を移した。


――――ひとりかくれんぼの事前準備――――


1、ぬいぐるみから綿をすべて抜き、代わりに米を入れる。

2、続いて爪を切り、その切った爪をぬいぐるみの中に入れぬいぐるみの穴を縫って閉じる。

3、縫い終わったらそのまま糸をぬいぐるみに巻きつけ、ある程度巻いたら括る。

4、風呂桶に水を張っておく。

5、隠れる場所を決め、そこに塩水を用意しておく。


「ぬいぐるみの準備は今できるからやっちゃおうか」


「そうだな。 なあ、人形は人の身代わりとして使われていたってことは知ってるか?」


「知ってる。 そういうのは『ヒトガタ』って呼ばれるんだよね」


「たぶんこの事前準備はそのままでも人の変わりになる人形をさらにヒトに近づけるためだと思うんだ。

 もっとも私がした考察でしかないがな」


はさみでぬいぐるみの腹に穴を開け、綿を引きずりだす。


「ぬいぐるみは身体を」


次にその穴に米を入れていく。


「米は内臓を」


小さい人形といえどもそれなりの量が入っていった。

人形がぱんぱんになったあたりで先に切っておいた二人の爪を入れる。

そして赤い糸でぬいぐるみの穴を縫っていく。


「そして赤い糸は血管を表しているんだ」


しっかりと縫い合わせるとそのまま赤い糸に巻きつけていく。

ある程度巻いたところで解けないように念入りに括った。


「そして爪だがこれは本物の人の一部を入れることによってより人に近づけているんだと思う。

 一説では髪の毛や皮膚、血液でも同様の効果があるとされているな」


「そういえば髪の毛や血なんて呪いなんかでもよく使われるよね。 丑の刻参りなんていい例じゃないか。 

 そう考えるとなんだか自分を呪ってるとも考えられるね」


「どちらにしろ気持ちの良いものではないな」


「だね。 自分を呪うかヒトモドキを使った降霊術をするかの違いしかないんだし」


浩一と香也乃は口々に考察を言い合いながら作業を終えた。

あと準備するものは風呂桶か塩水だけなのだが二人は作業の手を止める。

香也乃は時計を見た。時計の針は5時半を過ぎたあたりを指している。


「今から準備するのは微妙だな。 風呂には後で入るし塩水もなぁ・・・」


「1,2時間ぐらいならともかく・・・数時間放置した塩水を口に含むのは嫌なんだけど」


「私もだ。 まぁ、それは後回しでいいだろう。 その前に隠れ場所も決めておかないとな」


そう言うと香也乃は立ち上がった。


「ついて来てくれ」



浩一が香也乃に案内されたのは玄関からもっとも遠いところにあった部屋だった。

中に入るとそこは強い畳の匂いに包まれた。

どうやら和室らしい。

和室といっても部屋はそこそこ広く小型のテレビもある部屋だった。


「ここの押入れなんてどうだろう? それなりに広いから二人で隠れても窮屈ではないぞ」


「二人って・・・同じ所に隠れるの?」


「ああ、そっちのほうが何かが起こった場合対処しやすいし、それにこれは普通のかくれんぼじゃないんだ。 固まっていたほうがいいだろう」


「それはそうだけど・・・気にならないの?」


「なにがだ?」


「あー、気にしてないんならいい」


どうやら本気で気にしてないらしく首を傾げる香也乃を見て浩一はため息を吐いた。

自分だけが気にするのもバカみたいだと感じたので浩一も押入れに隠れることに同意した。

それから浩一が部屋の中を見回していると部屋に備え付けてある時計の針が3時の時点で止まっていることに気づいた。


「この部屋の時計って壊れてるの?」


「ん? いやそんなはずは・・・・・・止まってるな。

 電池切れか? まいったな・・・今電池は家にないんだが」


「一応俺、腕時計持ってるけど。 デジタルのやつ」


「なら問題はないな。 電池は後で買ってくればいいか」


時計の問題も解決し必要なものもあるこの部屋に隠れることに決まった。

これで今できる準備はすべてこなしたことになる。

あとは時間が経つのを待つだけだった。






――――







出前で夕飯済ませた後、浩一と香也乃は再びファイルを開き手順の確認をした。

フャイルの2ページ目にその項目はあった。


―――ひとりかくれんぼの手順――――


1、ぬいぐるみに名前を付ける。自分の名前以外ならなんでもいい。

2、3時になったら「最初の鬼は○○(自分の名前)」とぬいぐるみに向かって三回言う。

3、風呂場に行き、ぬいぐるみを風呂桶に入れる

4、家中の明かりを消して、テレビをつける。チャンネルは砂嵐の画面にしておく。

5、目をつぶり10数えたら、用意した刃物を持って風呂場に行く。

6、ぬいぐるみのとこへ来たら、「××(ぬいぐるみの名前)見つけた」と言ってぬいぐるみを刺す。

7、「次は○○(ぬいぐるみ)が鬼」と言いながら風呂桶に戻す。

8、予め決めておいた隠れ場所に隠れる。


その項目のすぐ下には終わらせ方も書いてある。


――――ひとりかくれんぼの終わらせ方――――


1、塩水を口に含んでから隠れ場所から出てぬいぐるみを探す。この時絶対に塩水を吐き出してはいけない。

2、ぬいぐるみを見つけたら、コップの中の水をぬいぐるみにかけ、それから口の中の塩水を吹き掛ける。

3、「私の勝ち」とぬいぐるみに向かって三回言う。これで儀式は終了となる。

4、儀式に使ったぬいぐるみを燃やす。


これでひとりかくれんぼのすべての手順を確認したことになる。

だが浩一には気になることがあった。


「これって一人でやるための手順だよね?」


「ああ、そうだ」


「俺たちは二人でやるわけだけどこの手順でいいの?」


「・・・・・・・・・・」


今気づいた、といった表情で香也乃は固まった。

どうやらそのことに関しては何も考えていなかったようだ。


「ネットに複数人数でのやり方は書いてないの?」


「ないわけではないんだが・・・」


香也乃は一度口ごもったが改めて口を開く。


「ただでさえひとりかくれんぼは別説が多い。 正規のやり方じゃない多人数での儀式の方法なんてそれこそやった人の数だけある」


「確証を持てる情報がないってことか・・・」


どうするべきか頭を抱えるが悩んでも取れる手は少ないことは明白だった。

そこで浩一と香也乃はその多くの儀式の方法のなかで共通する点を探すことにした。

正確な情報がないならどうやっても結果は同じと割り切り自分たちでアレンジするのだ。


二人は一時間ほど複数人数でやった体験談を集め共通点を見つけた。


それは


・塩水を人数分用意すること

・かくれんぼの際参加者全員が一度鬼になること


の二つ。


そもそも誰が言い出したかもわからない都市伝説だ。

少しぐらい曖昧でも大筋が整っていればおかしなことにはならない。

二人はそう判断した。


「さて、後は待つだけだな。 そろそろ風呂にでも入るか。

 浩一君は先と後どっちがいい?」


「レディファーストで」


「ん。 ではお先に」


香也乃が部屋から出て行ったあとしばらくぼぅっとしていた浩一だったが突然頭を抱え呟いた。


「今まであえて気にしてなかったけど俺なんで出会って一週間も経ってない女の子の家にいるんだろう・・・」


今更のことだった。

浩一は香也乃が戻ってくるまでずっとそのまま頭を抱え続けた。。

というわけで準備のお話でした。

さて次はようやく怪奇パートです。


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