82 兄からの電話
その日、夜の9時すぎになって、兄の洋から電話がありました。あちらでは、朝の7時頃、彼から連絡があるというのは、とても珍しいことです。
「お兄ちゃん、何かあった?」
またとんでもないことをしでかしたのかと、めぐみは焦ってしまい、明けましておめでとうのを言うのを忘れました。
「生まれたんだよ、元旦に」と洋が言いました。
「何が」
「子供が」
奥さんのホープに二番目の子供が生まれるのはひと月先のはずです。
「それが、記録的な雪の最中に、シティで、生まれたんだ」
シティというのはニューヨーク市のことで、今、兄が住んでいるのはニューヨーク州の北です。シティと兄のところは、かなり離れています。
洋の住んでいるところがすごい雪で、停電になったので、ホープは娘のプレシアを連れてシティのホテルに移動したのです。ホープはマンハッタンで長く暮らしていたので、そのあたりのことにはくわしいのです。
水道管が凍ったら困るので、洋は家にひとり残り、暖炉に薪をくべ続けました。冷蔵庫のものは全部バケツにいれて、地下へ運びました。
ホープがホテルに着いた翌日、生まれそうな気配がしたので、両親に来てもらい長女のプレシァをあずけて病院に行ったら、なんと3時間で生まれたのだそうです。
洋はその場に立ち会うことはできませんでしたが、家のほうにいたら大変なことになっていたかもしれません。とても運がよかったと喜びあいました。長男の名前をラッキーにしようかと考えています。
「おめでとう。みんな、無事なの?」
「ホープも、子供も元気だよ。早産なのに、平均より大きい男の子だそうだ。まだ会っていないんだ」
「プレシアは喜んでいる?」
「まだ興味がないみたいだ」
家の電気がようやく回復したので、ホープの両親の運転で、ホープ、プレシアと赤ちゃんは今日帰ってくるそうです。洋は部屋をあたたかくして待っているところです。
でも、やはりうれしすぎて、何も手につかず、めぐみに電話をかけたのでした。
めぐみはエドウィンと暮れに登山を計画したけれど、途中であきらめた話をしました。
「彼はげんき?」
「元気だけど、すごく忙しい」
「彼とは夏に会ったよ。ホープが子育て休みをくれたから、ニューヨークに行って、彼のアパートに泊まってさ、ふたりで映画館に行って、日本のアニメを見た」
「男ふたりでアニメ」
とめぐみが笑いました。
「アニメクラブの元部長ふたりだ」
アニメといえば、めぐみはエドウィンが歌おうとしていた歌のことを思い出しました。
「そのアニメに、歌がでてきた?」
「いろいろあったよ。彼はその中で、Ocean Breeze(海の風)というのをよく歌っていた」
「どんな歌」
「覚えてないけど、Youtubeにあると思う」
えっちゃんが好きなのは、どんな歌なのでしょうか。
めぐみは知りたくなりました。




