68、ゴツマス窓口 1
監視していた冒険者が窓口を離れてから、アンはいつも空いているゴツマス窓口に向かった。
「ご苦労さん」
「トトツ通りで馬車が暴走しかけた」
「ああ、さっき話は聞いた。被害がなくて何よりだ。御したのは学園の生徒だぞ」
「奇特なやつがいるんだな、貴族だろうに」
「いや、そいつはこの町の平民だ。おお、そう言えば、息子から聞いたんだが、誰かのおかげでこの辺りの子供が学園に入学しやすくなったらしいぞ」
おお、とわざとらしく感嘆上げてくるゴツマスに平然と返した。
「へぇー」
「……誰かが広めた魔法や職業訓練所の向上で、ここいらの子供の上達ぶりが話題になって、学園の門戸が広くなったとか言ってたな」
「そっ」
「誰だろうな」
ニタニタと笑みを浮かべて少しそう小声で言ってくるが、そんなことをしてもただただゴツいだけ。
「アンタの功績が上がって何よりだ」
「俺のじゃねぇし、還元したくても報酬に色付けたら拒むやつがいるからなー」
「ギルド名義の色付けなんて不要だろ、新参に回せ」
金銭に困っている訳でもないから、断るのは当然。
そんな返答にゴツマスは息を吐いてから、思い出したとばかりに片眉が動いた。
「そうだ。先日の依頼主から後付で来た上乗せ報酬も回すか?」
「ああ、そろそろ溜まっただろ」
「お陰様でな、今日のはどうする?」
「今日のも全額」
「あいよ」
依頼達成時に受け取っていた報酬だが、使う場面はない。
経済を回すわけでもない無意味な金が貯まっていく。
ならいっそのことと、水魔法のマージンの行き先を決めた段階で自分の貯金もそちらへと回してみた。
既にこの町の孤児院、職業訓練所の改築修繕は済んでいる。
次はと、ギルド管轄病院の改築にまで広がっていた。
「なあ、やっぱりどこにもダメか?」
「ああ、ダメだ」
寄付者を知りたがる有象無象の処理は、ゴツマスと奥様に丸投げである。
「そろそろ断れない輩も出てきそうなんだが」
「アンタが断れないはないだろ」
「いるんだなこれが……」
星で名高いこのゴツマスにでも、断れない輩。
王族も不可侵とか噂もあるのに、そんな言葉を吐いてくるゴツマスに、アンは考えた。
だが、これを一存では応えられない。
すぐに通信機を操作して、シェルに伝言を送っておいた。
「対策を講じた。相手の返答次第だが、どうにかなるはずだ」
「相手って、まさか、元あの館主人とかいわないよな」
ゴツマスにアンの出自は承知の上。
「違う。もうあれはないぞ」
「違ったか、じゃあ誰だ?」
久方ぶりに黒い館を思い出した。
今では白亜の別館として祝祭などに貸し出されている。
「承諾を得たらな」




