お嬢様は今更気になる
ディールに応急処置を受け、リヒャルトは少なくとも見た目は問題なく歩けているようだった。
3人で街を歩くが、会話はまったくない。あんなにうさんくさく爽やかだったリヒャルトは、すっかり意気消沈したのか、エリーゼともディールとも目を合わせようとしない。
なんとなくリヒャルトが先に1人で歩き、ディールとエリーゼが並んで歩くという形になった。
リヒャルトがいるので、エリーゼとしてもディールに話をしにくい。
レブとは誰なのか。
家族のことについて今更質問してもいいものか。
というか弟って誰?
「知り合いなのか?」
「はい?」
突然、リヒャルトが質問をした。なんのことか一瞬わからず、エリーゼは聞き返す。
「さっきの、レブという男だ」
ディールに対する質問だったらしい。エリーゼとしても聞きたい話だったので、息を飲んだ。
是非とも追求してほしい。詳しく!
「昔、街で暮らしていた頃のご近所です。当時は自分の店を持っておらず、親方のもとで修行中だったはずですけど」
「そうなのか」
終わってしまった。エリーゼとしてはもっと追求してほしい。どこに住んでいたのかとか、家族のこととか。
「君の家族はまだ街にいるのか?」
そう、その話が聞きたかったのである。いいぞリヒャルト様! とエリーゼは心の中でガッツポーズをした。あくまでイメージである。
ディールはちらりとエリーゼを見た。お互いに真顔のまま、一瞬だけ目が合う。
「両親を早く亡くしたもので、伯父夫婦に育てられたんです。弟と言っても、実際には従弟ですね」
「そうだったのか。苦労したんだな」
「そうでもないですよ」
あっさりと、ディールは言う。
「弟と、仲が良かったの?」
エリーゼの質問に、ディールはひどく驚いた表情になったが、リヒャルトの前だからか、すぐにその表情を消した。
「まあ、普通ですね」
「そうか。とはいえ、ディールは養子縁組しているから、実家とは縁が切れているのかな」
「そうです」
「まあそっちの方が正しいな。能力を見込まれて平民から貴族の養子になることはよく聞く話だが、大抵うまくいかなくなるのは、元の家族のしがらみのせいだというのは、よく聞く話だからな」
リヒャルトは酷薄なことを、なんでもない風に言い放った。
エリーゼはさすがにギョッとしたが、ディールは少し肩をすくめただけだった。
「俺はよく知りませんが、師匠が俺を養子にする時に話に行ったらしいですし、特に何も言われなかったみたいですよ」
ーー親は死んだよ
ーー働きに出たんだけど、魔力が暴走して、何度か追い出されたんだ
やせ細った幼いディールの身体に残った怪我とアザ。明らかに日常的に殴られた跡。
このまま元いたところに戻したら、きっとディールは死んでしまうと、あの時のエリーゼは思ったのだ。
そんな状況に追いやった親……いや、親戚なんて、きっとまともな人間じゃない、とエリーゼは思っていたのだが、レブの言い方は、別に意地悪いものではなかった。
いったい、どんな家族で、どんな生活をしていたのだろう。
でも、今更、聞くのも遅すぎる気がした。




