お嬢様は店の中で追い詰められる
倒れているヘレネをエリーゼは抱き起こそうとしたが、上半身を持ち上げるだけでずっしりとした重さに驚く。
意識を失った人間は単なる重量だ。ヘレネは細身だが背が高く、エリーゼの細腕では、抱き上げるのは容易ではない。ましては背負って逃げることは無理だ。
「ヘレネさん? ヘレネさん、しっかりしてください!」
ヘレネはガクガクと体を揺らすだけで気がつく様子はない。ぴくりとも動かないのは、もしかして魔法でも使われているのだろうか?
残念ながらエリーゼの能力では、失神させることはできても、失神した人間を起こすことはできない。
「なんなんだあんた! なにやってるんだあんた!」
パニックを起こしているのか、店主が叫ぶ意味のないような言葉を延々と叫んでいる。
エリーゼへの文句なのだろうが、言うだけで、こちらにやってくる気配はない。
「うるさいわねあなた。あなたはあの男の仲間なの?」
平民であろう店主(仮)に強く問いかけると、男はさらに甲高い声を上げた。
「し、知るか! 関係ない! 俺はこの店を貸せと言われただけだ!」
声が恐怖で震えている。
そうか、とエリーゼは気づいた。エリーゼはこの店にいた男を一瞬で倒しているのである。店主(仮)にとってはエリーゼもまた、恐怖の対象なのだろう。
「そう、ならば、私たちに力を貸しなさい」
「……そ、そういうわけには……」
怯えながらも逃げない店主。ここから離れられない事情があるのだろうか? とエリーゼは考える。
「私たちに力を貸してくれれば、悪いようにはしないわ。もし、この男たちに脅されているのならば……この男たちの素性を教えてくれれば、こちらでなんとかすることもできる」
「なんとか……ってあんたにそんなことが」
「できるわ」
エリーゼは、背筋を伸ばし、凛として言った。
「この格好では説得力がないかもしれないけど、私と、私ともう一人一緒にいる男は、王室に連なる家柄の貴族よ。……わかるかしら?」
男は、目を見開き、押し黙ってしまった。
いきなり身分を明かしたのは、高圧的で失敗だったかとエリーゼは後悔したが、仕方がない。ショックを受けているのなら畳み掛けて交渉を続けるしか--
ドガァン!
大きな音とともに、店の玄関扉が蹴破られたのはその時だった。
エリーゼが振り向くと、開けられた扉から倒れてきたのだろう男が店の中に倒れていた。扉には別の男たち2人が門番のように立ちはだかっている。
倒れている男がリヒャルトであると遅れて気づく。
店主の顔色がさっと紅潮したのがわかった。血の気が戻ったのだ……つまり、正気に戻ってしまった。
男たちの方が優勢であり、エリーゼたちが不利である。店主の手助けはもう望めない。エリーゼだけでは男2人をどうにかすることはできない。
能力を使わない限りは。
さっきとは違う。男2人に店主、何よりもリヒャルトの目がある。
しかし、この場を切り抜けるにはーー




