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お嬢様は何度でも死亡フラグを折る  作者: 蓮葉
お嬢様は学園祭準備で巻き込まれる
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お嬢様は店に飛び込む


 「……!!」

 それはまさに一瞬のできごとだった。

 もしエリーゼとリヒャルトがヘレネに注目していなかったら、気づかなかっただろう。

 街行く人々も、まったく誰も気にすらしていない。

 二人はヘレネを追いかけようとしてーー。

 

 「やあ兄ちゃん。かわいい子を連れてるじゃねえか」

 「俺たちとも遊んでくれねぇか?」

 いつのまに近づいていたのだろう。体型のがっちりした、いかにも戦士然とした男たちが二人、前に現れた。

  服は、二人とも同じような庶民の着る簡素な服に、これまた同じく流行の赤いチョッキを来ている。にやにやと笑いながらごろつきの風を装っているが、その歩き方ーー足裁きが、やけに綺麗だった。

 学園の戦闘訓練の際に見たことがあるからわかる。この国の騎士階級の人間の動きだ。

 騎士くずれか? いやーーもしかしたら。


 リヒャルトはエリーゼをかばうように前へ出た。その顔に焦りが見える。

 「行ってください」

 リヒャルトに、押し殺した声で囁かれる。

 ここはまかせて、ヘレネを救いに行け、ということだろうとエリーゼは理解する。

 小さく頷くと、エリーゼは視線をあまり動かさないようにして周囲を探った。

 この二人以外、自分たちに注目している人間はーー多分いない。

 店までは障害物も遮る人も、前を遮る騎士くずれ?以外はいない。

 全速力で走れば、途中で止められなければ、すぐに店に飛び込めるだろう。

 「お願いします」

 小さな声で言うと、リヒャルトもわずかに頷いた。

 そのまま、ゆっくりとエリーゼをかばうように前へ出る。

 「あなたは逃げてください!」

 男たちに聞かせるようにリヒャルトが声を張り上げると同時に、エリーゼは長いスカートの裾をからげて走り出した。

 そのまま、店へとまっすぐに突き進む。


 「え?!」

 何故か、耳に、リヒャルトの焦ったような声が聞こえたような気がしたが、かまっている暇はない。

 ありがたいことに、エリーゼの行く手を阻むものはいない。そのまま、店への階段を三段かけあがり、扉を開けた。


 ガランガランと来客を告げる鐘の音が鳴る。

 そのまま、急いで後ろでに扉を閉めた。大きな音がなるため、ご令嬢の行儀としてはなっていないが、そんなことを気にしている場合ではなかった。


 「……なんだ? 店は今、閉まっとるんだ」

 店の中は窓からの陽差しだけで、どこか薄暗い。

 たくさんのくすんだ色の安そうな布が壁一面の陳列棚に積まれている。店員だろうか、眼鏡をかけた神経質そうな男が机の前で布と針を握っている。暗くてよくわからないが、白髪交じりの髪をしているところをみると、初老の男だろうか。

 多分、仕立て屋なのだろう。

 しかし、この薄暗さで針仕事などできるのだろうか?


 「し、失礼しましたわ」

 反射的にエリーゼは謝った。

 ヘレネが連れ込まれた現場を見たというのに、店の内側にはまったくそんな雰囲気がない。

 ヘレネも、ヘレネを引き込んだはずの人物の姿も見あたらない。


 外の喧噪が窓から小さく聞こえるが、まるで別世界のように静かで冷たい空気に満たされている。

 窓から差し込む光がキラキラと埃に反射している。しかし、その光が届かないところは、今は昼だというのに深い闇が淀んでいる。

 店にはいくつかランプが置かれているが、今は灯りが点されていない。

 客は誰もいない。初老の店員しかいないようだ。

 今、店が閉まっているというのは事実なのだろう。ヘレネが引き込まれたところを確かに見たエリーゼであっても、まるでその記憶が嘘であるかのように、自分が場違いな気がしてならなかった。


 エリーゼは手袋をはずした。平民は魔法について教育されていないためほとんど知らない。いざとなれば魔法だとごまかせるはず。力を使うつもりだった。


 「何か用かね」 

 「……この店に、さっき知り合いが入ったので……話をしようと追いかけてきたのですが……」

 「……客なんて誰も入って来なかったよ」

 「……しかし、ついさっき入ったところを見たのですが……」

 「いないよ! この店は今、閉まってるって言っただろ!」

 店員の声が甲高い悲鳴のような響きを帯びた。

 だからこそ、初めて、エリーゼは、この店にヘレネが隠されているのだと初めて確信を持った。

 暗くてよく見えないが、店員の肩がぶるぶると震えているように思える。


 隠し事が下手だ。


 エリーゼは店の奥へと視線を移した。

 店の奥は、深い緑色の分厚い布が重そうなカーテンで仕切られていた。

 試着スペース、もしくは店の裏というべきスペースなのかもしれない。誰かを隠すならば、見えないところに違いない。

 「おい! やめんか!」

 店員の声を無視して、そのカーテンへと歩く。手をかけると、長い間洗っていない布に特有なむせそうな埃っぽい臭いがした。


 しかし、エリーゼが開けるまでもなく、そのカーテンが内側から開けられた。

 「今日は、もう店は閉まっていると言ったろ。お嬢さん、何の用かは知らんが、帰りな」

 そこから、背が高く体の大きい男が出てきた

 エリーゼの1.5倍はありそうな背丈。ガラの悪そうな笑みをニヤリと浮かべる。

 この男も、さっきの二人と同じような赤いチョッキを着ていた。

 制服だろうか? と思うほど、同じコーデである。

 「それとも、遊んでほしいのか?」

 男は、エリーゼの体をなめ回すような視線で見た。

 不思議と、様になっていない行動だ、とエリーゼは感じた。おそらくは下卑た意味で言っているのだろうが、それにしては上品・・すぎる。

 へたくそな芝居を見ているようだった。

 ーーこの男は、見た目通り……いや、見せたい姿通りのごろつきではないのだろう。

 

 エリーゼは一瞬で覚悟を決めた。この体格差では、まともにやっては勝ち目はない。

 外のリヒャルトの様子も気になる。時間をかけている余裕はなかった。


 エリーゼは男の手をそっと握った。意表をつかれたのか、とまどいの表情を浮かべた男だが、エリーゼが能力ちからを使って男の魔力と生気を一瞬にして奪うと、あっさり意識を失ってその場に崩れ落ちた。

 エリーゼは自分にその男が寄りかからないように気をつけて避けると、床に鈍い音を立てて横たわった男から離れる。

 店主が音を立てて立ち上がった。しかし、その場所から動こうとはしないようだった。

 「な、なんだ?!」

 店主の悲鳴を無視して、エリーゼは無視してそのままカーテンを開けた。

 ただ四角の部屋をカーテンで区切っているだけで、どうやら店の裏のスペースとして使われていたらしい。


 ごちゃごちゃと色々な用具が雑多に置かれた店の隅、トルソーがいくつか置かれた中に、首のついた人間が一人、力なく倒れている。

 足早に駆け寄って抱き起こす。

 それは、縛られて猿ぐつわをされたヘレネだった。

 

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