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フローレンス

フローレンスは幼い頃から身体が弱く、そんなフローレンスの事を義母は義妹ばかりを可愛がり、面倒見る訳は無かった。


家のお婆ちゃまがフローレンスを看病し育て上げた。


時が経ちフローレンスは普通の生活が送れる様になるのだが。お婆ちゃまがこの世を去ってしまう。フローレンスに小さな箱庭を残して。


・・・・メイドのマリーが淹れてくれたお茶は今日も逸品だわ。




大好きな土の鼻腔をくすぐる暖かな香り、頬に感じる冷たい秋風。

もうすぐ冬が来る事を告げる落ち葉たち。

この箱庭の片隅に植えられたリンゴの実が赤く色付き食べ頃を迎えている。



お茶を飲むカップを支えるその手は、日に焼けよく使いこまれていて伯爵令嬢の手ではない。


すぐに汚れるので着飾った姿ではなく、洗いざらしの仕事着と動きやすい服装で過ごすので知らない人が見るとメイドか何かだと思うだろう。




この大きな屋敷の片隅の小さなガゼホで、箱庭の手入れ後の一服が至上のひと時だ。


日常の嫌なことも煩わしいことも全て忘れられる。


雑草をむしっている時が一番好き。色とりどりの庭の色彩に思いを寄せ苗を植えるひと時が心躍る。

唯一与えられたこの箱庭をデザインした上で花々を種から育てて植えて咲かせていくのも楽しい。


花の背丈や色や咲く時期を考え他の花と組み合わせて植えていくのだ。その花々の足元には・・・考え出すとキリがないわね。



常にこの箱庭に花が咲いている。



そんな庭にしておきたい。こまめに手をかけて気を配っておかないとすぐに虫がついてしまうからそこは大変気を使う。


   


「フローレンス、ここにいたのか?」

午後のひと時の楽しい時間が終わりを告げた。


「はい、お父様。いかがされましたでしょうか?」とカップを置き父親に向き合うフローレンス。 この父親はこのフローレンスの趣味をとがめたりしない大切な人だった。




「フローレンス、今週の日曜日に知人であるクリス侯爵をお招きするんだ。

造園に造脂が深い方でこの屋敷の庭園をご覧になられる。

クリス侯爵はお一人ではなくご子息のハインツ様もご一緒だそうだ。フローレンス、お前も心しておくようになさい。」



「お父様、すいませんがその日は私は居ないといけませんでしょうか?あまり私は人にお会いするのは得意ではないので出来れば失礼したく存じます。」



「お前ならそう言うだろうと思ったよ。仕方ない好きにしなさい。ただ部屋からは1歩も出ないように。」



「わかりました。お父様。我儘をお聞入れ下さりありがとうございます。」



去っていく父親を見送ると、再び庭に目を向け咲き誇る花々を眺めた。

今はコスモスが見頃を迎えている。

尖った心がほぐされ癒されるようだ。

フローレンスは深呼吸すると作業の跡片付けを終え自分が住む離れへと戻った。



フローレンスが住むこの離れはかつてお婆ちゃまが暮らしていた場所だ。

小さな箱庭があり、畑も作れ、何不自由なく暮らせる様になっている。先ほどのガゼホも庭師と力を合わせてお婆ちゃまが作ってくれた物だ。


数年前、お婆ちゃまが亡くなる時に「離れはフローレンスに。」と言い残してこの世を去られた。




離れの玄関のドアを開け部屋を見回すとまず目を引くのがフローレンスの大きな机だ。通常の机よりひと回り大きい。


「うーん。」と背伸びをし机の側まで行き、イスに腰掛けた。


「さあ、仕事、仕事。今日は書き上げてしまいましょう。もうすぐクリスマスね、締切に間に合わせないといけないわ。この絵本も子供たちが楽しんでくれるといいけど。」


机に向かうと沢山の絵の具があり、ゆっくりと丁寧に挿絵を描いてゆく。サンタさんの表情は明るくその頬は赤らみ、吐息の白さでお話の中の寒さを物語っている。


このお話のサンタさんはとてもユニークな所があり、子どもたちのプレゼントが入った袋とは違うやや小さな赤い袋を持っている。

お菓子をその赤い袋に入れると、何とそのお菓子が増えているのだ。



この絵本を読んで子供たちがクリスマスの日を心待ちになるように。

最初は辛くても最後には明るく楽しい話に持ってゆく。




今でこそ庭作りなどをしたりしているが、フローレンスは幼い頃から体が丈夫ではなく何度も生死の境をさ迷った。

ほんの数年前までは一日のほとんどをベッドの上で過ごさねばならなかった程だ。


そんなフローレンスをお婆ちゃまがよく看病をしてくれた。

フローレンスは幼い時から明るくお茶目なお婆ちゃまが大好きだった。



そんなフローレンスの僅かな楽しみが、ベッドの窓から見えるこの小さな箱庭の四季折々の時間の流れを感じる事と、生命力あふれる草花の姿を色鮮やかにスケッチする事だった。

時にはお婆ちゃまも隣で一緒にスケッチしていた。



フローレンスの絵の才能はそのころからずば抜けており、フローレンスの傍で見守っていたメイドのマリーがお婆ちゃまと相談して、本人には内緒で新聞のスケッチのコーナーに応募したのだ。



その作品のモデルはフローレンスの箱庭の隅に生えていた1本の古びたリンゴの木だった。


余りにも古かった為、庭師のトムから引き抜いて処分することを勧められていた。

すでに葉っぱに力はなく最後の力を振り絞ったかのように幾つかの実を付けたリンゴの木。



新聞社を通じてまずメイドのマリーに連絡が入り、マリーの報告からフローレンスの知る所となった。


そのコーナーで一番大きな賞を貰ったので賞金と副賞が出た。賞金は両親に報告がてら進呈し、副賞の絵の具セットを今でも絵の具を買い足しながら大切に使っている。



その賞を取ってから2週間ほど経ったある日の事、国を代表する大手出版社からフローレンス宛に絵本作家のオファーを貰った。


賞を取ったフローレンスの作品に命を吹き込んでみないか?とそのオファーには殺し文句が付いていた。


「命を繋いだリンゴの木」と題名が付けられたその絵本は貴族を始め、国民が知らない人がいない大ベストセラーになった。



当時のナニーが持っている人気ナンバーワンの読み聞かせ絵本になった。







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