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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター21:「Interval and――」
223/224

21-2:「弔い。そして――」

 紅の国の、凪美の町で行われた、邦人回収作戦。

 そしてその最中に起こった、航空隊豊原基地の新たな転移。

 これ等の大きな出来事が巻き起こったその日から、二日の日数が経過した。



 紅の国内で戦いの舞台となった、草風の村及び凪美の町。両町村が負った傷は、わずか数日で癒える物では到底なく、今もそれぞれの町村では、戦いの処理作業が続いている。そして隊もそれ等を支援するため、引き続き草風の村への駐留。及び凪美の町への人員装備の派出を続けていた。

 そして同時に、スティルエイト・フォートスティート敷地内に新たに出現した、豊原基地の掌握も未だ完全ではなく、航空隊隊員を中心に各種作業が行われている。



 そんなように、各地各所は未だ必要とされる行動作業に追われている。

 しかしその一方。その日、豊原基地ではある祭儀が行われた――




「――捧げーー、銃ッ!」


 豊原基地の滑走路に隣接する駐機場(エプロン)区画。

 そこに陸隊の各隊、及び航空隊の各部署各隊が、部隊ごとに整列してる。

 その内の、小銃をその手に保持し、〝立て銃〟の姿勢を取っていた各隊員が、掛けられた号令に呼応。一斉に銃剣の着剣された小銃を、各々の身体の前に持ち上げ、捧げる姿勢を取った。

 彼らが小銃を捧げる対象。

 それは――駐機場に並べられた、8つの棺。

 その棺に収まるは、ここまでの戦いで命を落とした、8名の隊員の亡骸であった。



・第54普通科連隊

 穏原(おだわら) 応功(おうこう) 三等陸曹

 崖胃(がけい) 登遠(とおん) 三等陸曹


・第21施設大隊

 麻掬(あさすくい) 早道(さみち) 三等陸曹

 (ほまれ) 青地(せいち) 陸士長

 宇桐(うきり) 来奈(らいな) 一等陸士

 鈴暮(すずくれ) 琴人(ことと) 一等陸士


・第21後方支援連隊

 美斗知(みとち) 翠星(すいせい) 陸士長

 祝詞(のりと) (よみ) 陸士長



 以上、8名の殉職者。

 彼らの亡骸を収めた棺が、配置していた隊員等の手により、控えていた車輛へと乗せられてゆく。

 今この場で執り行われているのは、彼らの棺の出棺式――葬儀であった。

 彼らの亡骸はこれより、この世界で火葬を行っている葬儀屋の元へと運ばれ、荼毘に付される。そして隊の元で、遺骨は厳重な管理下に置かれる予定だ。

 元の世界へと戻り、亡くなった彼らの家族、あるいは親しい者の元へと返されるその時まで――




 豊原基地で殉職者の葬儀が行われた日を境に、これまで日本国隊が巡って来た各地で、葬儀が行われた。



 月詠湖の国、月流州。星橋の町。

 町にある教会で葬儀が行われ、教会内の葬儀堂には、複数の遺体が棺に納められ並んだ。

 亡骸は、野盗に襲われ犠牲となった、狼娘チナーチの仲間。エルコー、ニナム、セート。

 他、野盗の犠牲となった人々のものであった。


「エルコー、ニナム……セート……」


 棺の前には、泣き腫らした顔でその場に佇む、チナーチの姿がある。


「……」

「チナーチさん……」


 その背後には、水戸美。そしてファニールとクラライナの見守る姿があった。

 彼女等は、戦いの舞台となった凪美の町を後にし、隊の手でフォートスティートまで後送されて来た所で、チナーチと再会した。始めは再開を喜びかけた水戸美達であったが、彼女達はすぐにチナーチの様子が何か変わっている事に気付く。

 そして隊からチナーチと一行に起こった事態を告げられ、水戸美達は驚愕。そしてファニールとクラライナは、その下手人に対して激高した。

 しかしその下手人である野盗達は、すでに隊の手により亡き者となっている事を同時に知らされ、彼女達は自分達にできる残された事が、チナーチに同情し寄り添う事だけだと知る。

 そして今日この日、行われた葬儀に参列した水戸美達は、チナーチの深い悲しみに囚われた姿を、見守るしかない事に歯がゆい思いを感じていたのであった。




 先日、月歌狼の傭兵団との戦いが行われた、草風の村~凪美の町を繋ぐルート上の谷。

 そこでは、隊と傭兵団の代表が再び接触。隊側が回収収容し救護手当を行った傭兵の、引き渡しが実施された。


「バンクスさん。再び出向いていただき、ありがとうございます」

「いや」


 隊側の代表は長沼。傭兵団側の代表は、衛狼隊長バンクス。

 両社は相対。長沼は敬礼動作をし、バンクスもそれに会釈で返し、そして二人は言葉を交わす。

 長沼の背後では、大型トラックより生存者である傭兵達が。そして一名分の亡骸を乗せた担架が、隊員の手により降ろされている様子が見えた。


「申し訳ない。一名、戦いのあった日の内に、息を引き取られました」

「そうか……」


 長沼の重々しい口調での言葉に、バンクスは短く返し、少しの間沈黙が空間を支配する。


「バンクス隊長」


 そんな所へ、バンクスを呼ぶ声が掛かる。その主は生存者の一人、エスティルという女傭兵だ。


「彼等は最後まで、アレナの命を救おうと懸命になってくれたわ」


 エスティルは、隊員の手により傭兵達側の馬車に乗せられる遺体を見ながら、バンクスにそう告げる。


「そうか――」


 その言葉に、バンクスは静かに答える。


「……犠牲になった仲間の事を置いて、アンタ等と和解する事は、おそらくこの先も難しいだろう」


 バンクスは、長沼に向けて言葉を紡ぐ。


「――だが、アンタ等が最後には、散っていった仲間に敬意を払い、尽くしてくれた事に――その事には、感謝したい」


 そう紡ぎ切ると、バンクスは長沼に向けて敬礼動作を行った。それは、かつて彼が出身の国で属していた、軍の礼式に基づく物であった。


「我々は、できる事をしたまでです」


 それに対して長沼も、一言と共に敬礼の動作を返した。




 凪美の町では、隊と警備隊との戦闘。そしてエルフの操るグルフィ軍団の襲撃により、多くの犠牲者が出た。

 その葬儀、追悼が、警備隊と町の人々の手により、その日行われた。


「気を付けーッ!」


 警備隊本部古城の敷地内の、正面玄関前の広場で、号令の声が木霊する。それに呼応し、整列していた警備隊の一隊が、一斉に姿勢を正す。

 整列した一隊の前には、数十にのぼる棺が並び置かれていた。


「敬礼ッ!」


 そして敬礼の号令が掛かり、警備兵達は一斉に敬礼を動作を取り、並ぶ棺に向けて捧げた。


「……」


 整列した一隊の傍には、ポプラノステクやヒュリリ。ヴェイノの姿もあった。彼等は、それぞれの面持ちで、葬儀の進行を見守っていた。

 やがて警備兵達の敬礼は解かれ、警備兵達はそこから出棺の準備へと取り掛かってゆく。


「――ここまでだ。行こう」


 その様子を少し見守った後に、ポプラノステクは他二人に発し、身を翻す。彼等には、まだやらねばならない仕事が山ほどあった。


「あぁ」


 ヴェイノもそれに答え、二人はその場を発とうとする。しかし、ヒュリリだけは動く様子を見せず、出棺の様子を頑なに見守っていた。棺の中には、彼女の父であり町長の、ルデラの亡骸もあったからだ。


「ヒュリリ」

「――!、すみません」


 ポプラノステクに呼びかけられ、ヒュリリは慌て身を翻してポプラノステクに続こうとする。


「そうじゃない――町長の元にいてやれ」


 しかしポプラノステクは彼女の行動を差し止める。そして、そう促す言葉を発した。


「!――すみません、ありがとうございます」


 その言葉を受けたヒュリリは、少し申し訳なさそうに返すと、出棺の始まった棺の方向へ、走って行った。


「ヴェイノ、行こう。あいつの分の仕事もしてやらないと」

「あぁ」


 ヒュリリの背中を見送った後に、ポプラノステクとヴェイノは、警備隊本部古城へと戻っていった。




 草風の村でも、襲撃により亡くなった村の人々の葬儀が行われた。

 村のはずれに埋葬地が設けられ、これから埋葬される犠牲となった人々の亡骸に、近しい人々が花を手向けている。

 そんな中に、井神の姿があった。彼は隊を代表して葬儀埋葬に参加。亡骸の一つ一つに花を一凛づつ手向けて回り、今しがたそれを終えた所であった。

 そして井神は埋葬地を一望できる地点から、亡くなった人々に向けて敬礼を向けた。


「――」


 それから少しの間、神妙な表情で一帯を眺めていた井神。


「イノカミさん」


 そんな井神に、背後から声が掛けられた。

 振り向けば、そこにこの草風の村の村長、セノイの姿があった。


「村を救っていただいたばかりか、亡き者達の弔いにまで手を貸していただき、本当に感謝しております」


 セノイは感謝の言葉を紡ぎながら、井神の横に並び立ち、埋葬地を眺める。


「いえ。私たちは、できる事をしたに過ぎません」


 対する井神は、最早決まり文句となっている言葉を紡ぐ。


「それに――まだ、終わっていないのでしょう?」


 そして続き井神は、セノイに向けてそんな言葉を発した。


「えぇ――」


 それにセノイも静かに返す。

 村に差し向けられた傭兵団が撃退され、そして紅の国商議会の企みの活動拠点であった凪美の町が、商議会の方針より離反した事により、草風の村の当面の脅威は去った。

 しかし、中央府商議会は依然として健在であり、中央府が今後もこの村、及び存在の発覚した隊に向けて、何らかの対応策を差し向けてくる事は明確であった。


「相手の行動の前に、先んじて何らかの手を打ちたい所です」

「まだ、手を貸していただけると?」


 井神の発したその言葉に、セノイは少しの驚きの様子を見せて返す。


「私達は訳あって、隣国――月詠湖の国の領地内の拠点から、容易に動くことができなくなりました。そうなった以上、私達にとってもこの国の政府の企みは、対応しなければならない脅威なのです」


 井神は、そのセノイに対してそう説明の言葉を紡いだ。


「事情がおありなのですね――分かりました。助けてばかりの我々が何をと思われるでしょうが、微力ながらご協力させていただきます」

「とんでもありません、ありがとうございます」


 セノイからの協力の申し出を、感謝と共に井神は受け入れた。


「井神一曹ッ!」


 そんな所へ、張り上げられた声が割り込んだ。

 井神とセノイが声に振り向けば、村の方より一人の陸曹が駆けてくる姿が見えた。


「どうした?」


 息を切らして駆けこんで来た陸曹に、井神は尋ねる声を掛ける。


「て、定時巡回に出た2分隊が……!えらいモン見つけて連れ返ってきました……!」


 問いかけに、陸曹は荒んだ息を答えながら、そんな言葉を発して寄越す。


「えらいモン?」

「と、とにかく来てください!」


 陸曹に促され、井神は訝しみつつもその場を発った。




「あれは――!」


 村内を抜け、村の反対側へと到着した井神。

 その周辺には複数名の隊員の姿があり、彼等は一様に、何やら驚く様子でから延びる轍の先を眺めている。

 そして井神も、その隊員等同様に、驚き目を剥く事となった。

 視線の先、轍の向こうに見えた物。それが、〝装甲車輛〟の隊列であったから。それ等はもちろん、先に転移して来た井神の保有する物とは、また別の一隊であった。


「あの編成、まさか――」


 見えたその編成から、井神は現れた装甲車輛隊列の正体に思い当たるフシがあった。


「ウチの中隊(54普連、2中隊)の、装甲車隊かと」


 そして追いついてきた陸曹が、その正体を発する。

 現れた装甲車輛の隊列は、井神等の所属である第2中隊の編成下にある、装甲車輛を一括して運用する〝装甲車隊〟の可能性が極めて高かった。その装甲車輛の隊列は、程なくして先導の小型トラックに導かれ、村の元へと走り込んで来た。

 井神はその内訳を掌握すべく、目を凝らす。

 隊列の先頭に位置し、最初に走り込んで来た装甲車輛は〝93式装甲戦闘車〟。

 これは89式装甲戦闘車の簡易型であり、誘導弾発射機を撤去し、代わりに主砲として90㎜低圧法を搭載した物だ。これが1輌。

 続き姿を見せたのは、〝76式装甲戦闘車〟。

 73式装甲車の発展型で、車上に巨大なターレットリングを増設。そこに30㎜リヴォリヴァーカノンを主砲として搭載した車輛だ。これが1輌。

 さらに73式装甲車が1輌。

 装甲車隊の支援車両である、旧型73式小型トラックや、73式中型トラック等が数輌づつ、続き姿を現した。


「井神一曹ですか!」


 そんな現れた装甲車輛隊列を視線で追っていた井神に、頭上より彼を呼ぶ声が聞こえ来た。声を追いかけ視線を上げれば、先頭で走り込んで来た93式装甲戦闘車の砲塔上より、いままさに飛び降りんとする隊員の姿が見えた。


芹滝(せりたき)三曹か!?」


 その隊員は、井神も知る人物であり、井神はその名を呼んで返す。

 芹滝と呼ばれた隊員は93式装甲戦闘車より飛び降りると、戸惑う様子で周囲を見渡しながら、駆け寄って来た。

 相対、互いに軽く敬礼を交わし合う井神と芹滝。


「一体どうなってんです……?突然上空に閃光が瞬いたかと思ったら、周りの景色が一変してて……第2分隊と合流できたと思ったら、ヤツらはここが異世界だなんて言う――」


 そして芹滝は、そこから堰を切ったように、困惑の様子で言葉を捲し立てた。


「落ち着け――と言っても苦な話か……」


 そんな芹滝の気持ちを汲み取り、そして井神は新たに現れた彼らに、どこから説明すべきかと思考する。


「井神一曹ッ!」


 しかしそんな所へ、またも井神を呼ぶ声が、背後より聞こえ来た。振り向けば、一人の陸士が駆けてくる姿が見える。


「今度はどうした?」

「指揮所に来てください!基地から――小千谷二尉から急ぎの連絡が入っています!」

「ッ!すまない芹滝三曹、少し待っていてくれ!」


 井神は芹滝に断り、そして身を翻して指揮所へと駆けた。




 指揮所として用いられている、村の空き倉庫へと戻った井神。

 開け放たれていた扉より内部に駆け込めば、長机に置かれた大型無線機の周りに、本部要員の算域を中心に、数名の隊員が集っている姿が見えた。


「――あぁ、井神一曹が見えられました。代わります――井神一曹」


 算域は手にしていた無線機のマイクに向けて発すると、視線を起こして井神に促す言葉を寄越し、そして無線を差し出してきた。


「すまん――代わりました、井神です」


 井神は差し出されたマイクを受け取り、大型無線機の前に立つと、マイクに向けて発し送った。


《井神さん、小千谷だ。偵察に飛ばしたT-4が、大変な物を見つけて来た……!》


 無線機からは、少し急いた様子がらしい、小千谷からの声が流れ聞こえてくる。

 その日、新たに転移してきた豊原基地からは、周辺の偵察掌握のために、連絡機として基地に配備されていたT-4が飛んでいた。


《護衛艦だ!この土地から東にある内海で、護衛艦が見つかった!》

「護衛艦――ですって?」

《そうだ!T-4からの通信に応じ、第64護衛隊、CG-211〝かまくら〟を名乗っているそうだッ!》


 驚きのその報に、井神は返す言葉がすぐには浮かばず、一瞬沈黙してしまう。


《……井神さん?》

「ッ――いえ、すみません。では、その護衛艦の正確な位置を特定し、接触を――」


 呼びかけの声に意識を取り直し、無線に向けて発そうとした井神。


「井神一曹!」


 しかしそれを遮るように、背後から井神を呼ぶ声が飛んだ。


「ッ――小千谷さん、待ってください――今度はなんだッ?」


 それを受け、小千谷に断りの言葉を送ってから、振り向き尋ねる井神。先程から数えて三度目の呼びかけに、流石にその顔は少し険しくなっていた。


「無線から、通信が……!」


 井神に呼びかけたのは、別の長机でまた別の無線機に着く陸曹。

 耳を澄ましてみれば、確かにその無線機からは、雑音とそして音声が流れ聞こえていた。井神はその無線機の方へと向かい、そして注意深く聞き耳を立てる。


《――応答せよ……ちらは……77戦闘団……》

「!」


 そして次に井神が捉えたのは、そんな音声であった。


《繰り返す……こち……第77戦闘団。どこ……聞こえてい……か……!》


 続き聞こえた音声。それは、雑音混じりの掠れた物ながらも、はっきりと無線の向こうの存在の、正体を告げて来た。


「77戦闘団……77普連か!?」


 その通信音声に、井神の隣で陸曹が驚きの声を上げる。

 そして立て続いたそれまでの報に、指揮所内にいた各員が騒めき始める。


「ッ――」


 そんな各々の声を背後に聞きながら、立て続いた驚愕の事態に、井神は思わず天を仰ぐ。


「これが、〝ウェーヴ2〟か――!」


 そして、間違いなくこれ等の事態の元凶であろう、件の作業服と白衣の人物の姿を思い返しながら、そう言葉を零した――

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