14-1:「真剣勝負Ⅰ」
再び草風の村。
無線付きの新型73式小型トラックが、業務用天幕の入り口前まで乗り付けられ、開け放たれたドライバー席の扉から、井神が身を乗り入れている。井神は備え付けられている無線のマイクを手に、通信を開こうとしている所で、小千谷と帆櫛は天幕の入り口で雨をしのぎながら、その様子を眺めていた。
「ジャンカーL1、応答してくれ。こちらペンデュラム、井神一曹」
呼びかける先は、谷に展開する部隊だ。一度の呼びかけでは応答は無く、二度、三度繰り返し呼びかけた所で、ようやく返信が返って来た。
《――L1、長沼です。失礼しました、少々立て込んでいまして》
「分かっている、こちらこそすまない。だが、そちらから受けた報告について、もう少し詳しく聞きたくてな。時間はあるか?」
《少しなら大丈夫です》
「よし、まず現状を教えてくれ。前方の観測壕が脅威存在と接敵し、以降音信が途絶したというのは聞いた」
《ではそこから先を――観測壕が最悪の事態にある事を想定し、まず同攻撃線上の第2攻撃壕を放棄後退させました。現在体制を再構築中です。同時に増援分隊を編成して観測壕への救援に派遣。先程、分隊は施設作業車の支援を受け第21観測壕跡へ突入。周辺を確保したとの事です》
「それで、第21観測壕の被害は?」
《……先の報告で、第21観測壕にいた6名の隊員全員の戦死が確認されたと》
「ッ………そうか」
指揮所には、先の施設科の宇桐の死亡の報が、先んじて上げられていた。
しかし、それを大きく上回るその報告。
最悪の事態を覚悟していたとはいえ、告げられたそれに井神は表情を曇らせる。
「了解。それで肝心の脅威存在はどうなった?ヘリの増援をキャンセルし、別手段を講じるとは聞いたが。突入の際に、脅威との接敵は無かったのか?」
《いえ。脅威存在は現在、別働の班が引き付けています》
「別働の班?」
《増援分隊に先行して、放棄した第2攻撃壕から先行班が観測壕へ向かい、第21観測壕跡に留まる脅威存在の気を引き、壕から引き剥がしました。先行班は増援分隊の回収作業、並びに陣地転換の完了まで、引きまわし続けて時間を稼ぐ手はずです》
その説明に、戦死者の報告で曇っていた井神の顔が、険しいものに変わる。
「それは……言うほど簡単な話ではないんじゃないか?その危険な役割の班、誰が率いてる?面子は?」
《制刻士長です。L2からの通信では鳳藤士長と、1中隊の多気投一士、竹泉二士を抽出し、4名で先行したそうです》
「あぁ――あいつ等か」
先行班の人員を聞いた井神は、何かに納得、もしくは脱力したように呟き、表情から険しさを消す。
《先行し、脅威を引き回す事を発案したのも制刻士長です。具体案を聞く余裕はありませんでしたが、勝算はあると言って――》
「な、長沼二曹ッ!そんな……あの問題隊員等の言葉を真に受けたんですか!」
そこへ長沼の声を遮り荒い声が上がる。声の主は、井神の隣で通信を聞いていた帆櫛だ。彼女は井神の持つ無線マイクの前へと顔を近づけ、凄まじい剣幕で喚きたてる。
「あいつ等、事の重大性を分かってるの!?遊びじゃないのよ!長沼二曹、今すぐ止めさせてください!そんな大事な役割、とてもあの問題隊員等に務まるとは思えま――」
「分かった。それで長沼さん、その後そちらはどう動く?」
しかし帆櫛の言葉の途中で、井神は無線機の前から彼女どかした。彼女の叫び声を遮ると、無線の向こうの長沼に尋ねる。
《現在、陣地転換と同時に迫撃砲の再照準を行っています。重火器の火力を集中できる地点を設け、その場に脅威存在を誘い込み、集中砲火による殲滅を試みるつもりです》
「今取れる一番現実的な手段はそんな所か――了解だ。だが長沼さん、決して無理はするな。これ以上状況が悪化するようなら、撤退をためらうなよ。こちらからも、待機部隊の一部を割いて増援を送れるようにしておく」
《お願いします。L1交信終了》
通信を終えて無線機のマイクを置く井神。それと同時に、顔を青くした帆櫛が彼へと食って掛かった。
「ちょっ……井神一曹!なぜあいつ等の勝手を止めないんです!?」
「現場の長沼二曹がゴーサインを出したんだ。後方の俺等がどうこう言うより、向こうの判断を信じよう」
「だからって……今、名前の挙がったヤツ等がどんなのか一曹もご存知でしょう!?礼儀を欠き、服務違反も茶飯事。怠け者で、碌な功績を持たず、精鋭と真逆にいるようなヤツ等ですよ!?それに誰一人としてレンジャー資格保有者でもなく、まして特殊作戦の心得などまるで望めない!それどころか鳳藤士長はまだしも、多気投一士と竹泉二士は入隊して半年の未熟者で、おまけにどちらも問題隊員!制刻士長に至っては、過去に降任処分された経歴のある危険分子ですッ!責任も考えずに、軽率で安直な考えで発案したに決まってます!長沼二曹はともかく、あいつらはとても信用に値する存在では……!」
「相手はバケモノだ。経歴や資格も大事だが、それだけでどうこうなる相手でもない。それよか規格外の相手には、よりぶっ飛んだのをぶつけるのが最善だ――と、少なくとも俺は思ってるが」
捲し立てた帆櫛に対して、井神はそう説く言葉を返す。
「それがヤツ等だと……?」
「そうなってくれる事を願う。なんにしろ、遺体の回収と体制の立て直しが完了するまで、誰かが脅威を引き付けなけりゃならない状況みたいだ。それをヤツ等が引き受けると言ったなら、任せようじゃないの」
若干軽薄さを覚える口調で言ってのけた井神。しかしその表情は、終始冷淡さを感じさせる真顔であり、それを崩すことはなかった。
「それよりも重要な事は、その後に脅威存在を迎え撃つ本隊の火力だ。谷に展開させた部隊には結構な火力を持たせたが、脅威存在を相手にそれが十分かは分からん。待機部隊から一部割いて、増援分隊を編成するぞ。陸曹クラスを呼んでくれ」
「……分かりました」
「井神さん、一応俺もCHの準備をしておく」
傍らでやり取りを聞いていた小千谷が、帆櫛が引き下がったのと入れ替わりに、井神に向けて発する。
「頼みます。状況次第では出動をお願いするかもしれません」
「あぁ、了解」
小千谷と帆櫛はそれぞれの役目を全うするため、各々の方向へ駆け出してゆく。
「バケモノ相手に定石通りとはいかねぇだろうしな――いい意味でふざけた報告が聞けると良いな」
井神はそれを見送った後に、呟きながら天幕へと戻った。
脅威存在らしき人物を盛大におちょくり、注意を引き付けた制刻等は、脅威存在を少しでも増援部隊から遠ざけるべく、崖際から離れるように北東方向へと逃げていた。
「多気投、この超絶メガのパーがッ!とんでもねぇ事してくれやがってッ!」
「そんな怒るなってぇ!なんかやべぇ感じだったんだろぉ?」
「俺等がやべぇ事になってんだろが!もちっとなんか利口な手段があっただろがよ!?」
竹泉は逃走しながらも、先の多気投の挑発行為を咎め、文句を吐き続けている。
「よけいな口を叩くな。それより前に崖がある、そこに飛び込んで行ったん止まれ」
「あぁ!?」
そこへ発される制刻の指示。そして進行方向に小さな崖になっている場所があり、制刻等はそこへ飛び込み、一度身を隠した。
「なんで止まんだよ!?敵が近づいてんだぞ!」
「近づけるんだ、距離が離れすぎた。奴を引きずり回すのが目的だ、こっちを見失われて観測壕に引き返されるとまずい」
荒げる竹泉に、答える制刻。
「途中でスモークやらフラッシュやらばら撒いたからなぁ。ゲリ便ちゃん迷子になってねぇか心配だぁ!」
「投、背後を見張れ。奴の姿が見えたら教えろ」
ふざけた口調で発した多気投に背後の監視を命じてから、制刻は鳳藤と竹泉の方へ向き直る。
「お前ぇら、プランは頭に入ってんな?」
「あ、ああ……北東方向へ脅威存在を引っ張って行って、回収と陣地転換、火点の準備完了まで、そこで時間を稼ぐ……」
制刻の質問に対して、鳳藤が戸惑いながらも計画を口にする。
「なぁにがプランだ、笑わせんな!無茶な上、フワットロし過ぎだろが!大体、敵が何やらかして来んのかも分かんねぇのに、どうしろってぇ――」
《ジャンカー1ヘッドよりエピック。聞こえるか、応答できるか?》
竹泉の喚き声を遮るかのように、インカムに声が飛び込んで来た。その声は、古参三曹の峨奈の物だ。
「エピックヘッドだ、問題無い」
《緊急連絡だ、判明した脅威存在の能力を伝達する。奴は驚異的な攻撃能力や身体能力の他に、巨大な鉱石の柱を地中から生成し、それを攻撃手段として来るそうだ!》
「そんくらい、遠目に見て大体想像ついたわッ!」
先程観測壕の周辺を目にした時点で、すでに予測していた事の今更の報告に、竹泉は悪態を無線の向こうへと返す。
《ここからが重要なんだ。脅威となる存在がもう一体確認された。そいつは遠隔で人の首を切断し、さらには人を洗脳して無力化する能力まで持っているらしい!》
「な!?」
さらなる伝達内容に、今度は鳳藤が顔を青くして声を上げた。
《その個体自体は先ほど後退したようだが、再接敵の可能性もある。それにそちらが交戦中の個体も、同じ能力を持っている可能性は捨てきれない。いいか、誉士長によれば、連中は能力を使う前に呪文を唱えるそうだ。奴らに喋らせるな!それが今の所確認できた対応手段だ!》
「了解、参考にする。エピック終ワリ」
伝達内容を聞いた後も、変わらぬ態度で制刻は通信を切る。一方の竹泉は、凄まじく渋い表情を浮かべていた。
「ありがたくも何やらかして来んのかは分かったけどよ、知らねぇ方が気は楽だったかもしんねぇなぁ――おい!マジでどうすんだ!?」
「落ち着け、アテはある。それにヤツと直接ぶつかるのは俺がやる。お前らは、まず自分の安全を最優先しろ」
「そんでぇ、お前の頭が弾けんのをポップコーン片手にゲラゲラ笑ってりゃいいのか?」
「そんときゃ、代わりにお前ぇの体を乗っ取ってやるから覚悟しとけ」
竹泉の煽る言葉に、端的に返す制刻。
「お前等!今はそんな場合じゃ――」
こんな時にも関わらず、品を疑う応酬をする制刻等に、抗議の声を上げかける鳳藤。
「ヘェイ!ゲリ便ちゃんが来たぜぇッ!」
しかし、鳳藤の台詞は多気投の上げた声に遮られた。制刻等が来た方向の上空に、件の脅威存在である女の影があった。
「うぇッ、来やがった!」
「チィッ――とにかくだ。俺がヤツとぶつかって、なんとか隙を作る。その隙にお前ぇらは、方法は何でもいい、あの女を横から殴れ」
「あぁ、ずいぶん簡単に言ってくれる」
「行け、早く行け」
制刻は愚痴を止めない竹泉を、続いて鳳藤と多気投を追い出すように行かせ、最後に自身も崖の影を飛び出し、北東の方向へと駆け出す。
脅威存在を挑発しながらの逃走劇が、再び始まった。
「そこにいたか」
高い空中へ身を置くクラレティエの目が、逃走を再開した敵の姿を捉える。
突如姿を現し、挑発行為を行って来た敵を追跡して来たクラレティエ。初動は先制を打った敵の方が早く、加えてに敵の繰り出してきた煙幕や閃光により、彼女は道中少しだけ足止めを食らう羽目になった。しかしそれらの妨害を掻い潜り、敵に追いつくことは彼女にとって造作も無い事だった。
「野良犬ならば躾け直すこともできるが……害虫ともなれば駆除するしかあるまい」
冷たい目はそのままに、口許だけを微かに歪めて呟くクラレティエ。そして彼女は魔法詠唱を開始する。
「大地に眠りし時と命の現れよ。猛々しい姿を愚者の前へと見せよ――」
「お?――オメェら、足元気ぃ付けろッ!」
逃走の最中、制刻は地面が発する違和感に感付き、警告の怒号を発する。
「は?……う、うわぁッ!?」
突然の警告の意味を理解できずに、呆けた返事を返した鳳藤だったが、次の瞬間に彼女は言葉の意味を身をもって理解した。
地響きと共に周辺の地面のあちこちが盛り上がり、巨大な鉱石の柱がいくつも突き出して来る。数秒後には、先ほどまで平坦だった周辺が、一変して鉱石柱の林と化した。
「ッ、危ねぇ……これが〝ぶっとい柱が出来上がるシクミ〟ってかぁ!?最ッ高にふざけてやがるッ!」
「こぉーんな命がけのレクリエーションはゴメンだぜぇッ!」
声を荒げ叫ぶ竹泉と、ふざけた口調で発し上げる多気投。
かろうじて串刺しになるのを回避した制刻等は、鉱石柱の林を掻い潜り、駆け抜ける。しかしその途中、今度は制刻の耳が、風を切り接近する何かの音を捉える。
「飛べぇッ!」
「わぁッ!?」
制刻は叫ぶと共に、横を走っていた鳳藤の首根っこを掴んで跳躍した。竹泉と多気投も、制刻に倣って同様に跳躍。その次の瞬間、彼等の足元を何かが掻き切るような音を立てて通り過ぎた。
「ウワーォッ!?今のはホワァーッツッ!?」
正体こそ分からないが、音と勢いから危険な何かが襲い掛かって来た事を察し、多気投は困惑の声を上げる。
「刃かなんかかッ!?よくわかんねぇが、当たればタダじゃ済まねぇぞ!?」
「勘を研ぎ澄ませェ!よく見てよく聞いて回避しろ!」
動揺する竹泉や多気投に、制刻は怒号を飛ばした。
彼等を襲ったのは物の正体、それは三枚のブーメランだ。それもただのブーメランではなく、翼の部分に刃を仕込み、より凶悪な殺傷武器とした代物であった。そしてその凶悪なブーメランを放ったのは他でもないクラレティエであり、彼女の愛用する大剣から打ち出された物だった。
クラレティエの大剣は、正確には飛び道具の射出機構が組み込まれた機械剣であった。剣の中心部分には空洞が作られ、そこに折りたたまれたブーメランが複数収められるようになっている。機構を作動させるながら剣を振るうことで、ブーメランは射出されて翼を広げ、獲物へと牙を剥くのだ。
「ほう。ただ喚くだけの害虫というわけでもないようだな」
乱立した鉱石柱を足場に跳躍を続けながら、眼下の様子を観察していたクラレティエは、ブーメランの襲撃を回避した制刻等の動きに、感嘆の声を漏らす。彼女は舞い戻って来た三枚のブーメランを、大剣に備え付けられた回収用の張り出しでキャッチ。そして鉱石柱を伝って、制刻等の進行方向へ先回りする様に跳躍して行く。
「お、おい!前方上空!」
鳳藤が進行方向上空を指し示しながら声を上げる。一同が上空に目をやると、曇天の夜空を背景に、優雅に舞うクラレティエの姿があった。
「思ったよりも、悪くない動きを見せてくれるな。時が許せば、紡ぎ合いを楽しめたかもしれないな――しかし、今の私は少し怒っている」
地上の制刻等を見つめながらも、独白でもするかのようにクラレティエは話し始める。
「貴様等から向けられた愚行と罵倒。私に対するそれは、すなわち私の配下の忠犬たちに対する侮辱。主として、忠犬たちの侮辱を許すことはできないのでな……貴様等には、それ相応の無惨な最期を迎えてもらおう!」
独白染みていた彼女の言葉は、最後には明確に制刻等へと向けられる。凛と通る声に静かな怒気が込められ、その言葉は審判を下すように言い放たれた。
「よぉおい、なにぞアイツ宣い始めてっぞ」
クラレティエの言葉を聞きつけた竹泉が、上空の彼女を指差しながら、嫌そうな声で言う。そして汚い物でも目にしたかのような表情を浮かべ、嫌悪感を隠そうともせず露骨に表していた。
「たいした事は、言ってねぇな」
クラレティエから向けられた言葉に、有益な情報が含まれていないと分かると、制刻は耳を貸すのを辞める。
「それより前だ、柱の群れを抜けるぞ」
制刻等は鉱石柱の林を潜り抜け、元の平坦な空間へと飛び出す。しかし――
「ちぃッ、まただ」
「え――ひわぁッ!?」
彼等が飛び出した瞬間、平坦だった空間に再び鉱石柱が乱立。再度の鉱石柱の強襲に、制刻が舌打ちし、鳳藤はおかしな悲鳴を上げる。
「でーぇッ!?カスったれぇッ!」
「まぁーたコレかいッ!?」
鉱石柱の林を抜けたと思ったのも束の間、再び同じ手で進路を妨害され、竹泉と多気投は声を荒げる。だが脅威のラッシュはさらに続く。彼等の耳に、先のブーメランの襲来時に聞こえたものと同じ、風を切り裂くような音が届く。
「前からだ!高いぞ、滑り込めぇッ!」
「そんな――ひッ!?」
制刻は警告の怒号を発すると同時にスライディング。同時に、対応の遅れた鳳藤の上衣を掴んで引きずり倒した。後続の竹泉と多気投も、制刻に続いてスライディングに入る。
「ファオッ!?」
その直後、鉱石柱の間を掻い潜って来たブーメランの群れが、彼等の頭上を通り過ぎた。
「ぶぽぉッ!?」
そして引きずり倒された鳳藤は、攻撃回避の代償に、地面に顔から突っ込む羽目になった。
「ぺッ……クソ!こんなのメチャクチャだ!一歩間違えば死んでしまうッ!」
半身を起こした鳳藤は、口内に入り込んだ草を吐き出すと、涙目になりながら捲し立てる。
「落ち着け。よく観察しろ、そうすりゃ回避できる」
「そんな事言ったってなぁ!?」
「まず、おめぇはビビるな。お家で武道を、あれやこれや嗜んで来たんだろ?それとも、お稽古じゃ結局なんも身に着かなかったか?」
「ッ――分かったよ、畜生ッ!」
制刻にほとんど煽るように説かれ、鳳藤は吐き捨てながら立ち上がった。そして一同は逃走を再開する。
「ははっ、良いもがきぶりだぞ。あまりすぐに死んではくれるな。侮辱に対する報いとして、貴様らには恐怖に怯えてもらわねばな」
逃走する制刻等の上空を、クラレティエは獲物を狙うハゲタカのように空を舞いながら、挑発の言葉を投げかけてくる。
「あぁ、合点が行った――剱。あの女、昔のおめぇとキャラがダダ被りだ」
「なんて事言うんだお前ッ!?」
制刻の突然の発言に、鳳藤は目を剥いて悲鳴に近い声を上げた。
「ヤツのキモさが、なんかに似てると思ったんだが、学生の頃の痛いキャラしたおめぇにそっくりだ」
「あんな気色悪いのがこの場に二人も集結かよ!いらねぇ奇跡が起きたもんだぜ!」
竹泉は、クラレティエに向けていた嫌悪感丸出しの顔を、鳳藤の方へと移す。
「ふざけるなよ!なんでこんな状況で自分の過去をつつかれなきゃならないんだ!?大体当時の私はだな、生徒達の道標とならなければならない立場だったのであって……」
「まぁ、どうでもいい。それよりこのフェアじゃねぇ環境から脱するのが先だ!」
「聞けよッ!」
鳳藤の捲し立てる弁明をバッサリと切り捨てた制刻に、今度は竹泉が話しかける。
「つってもよぉ、自由。こいつぁ潜り抜けた所で、またこのトゲトゲが襲ってくる来るパターンだぜ!あいつの呪文を黙らせねぇとジリ貧だ!」
「要はゲリちゃんに、ウンジャラ言わせなきゃいいんだろぉッ?」
言うと、多気投は肩から下げていたMINIMI軽機を軽やかに繰り出し構え、上空にクラレティエに向けて発砲した。
「――ふんっ」
しかし、撃ち放たれた弾頭の群れは、クラレティが薙いだ大剣によって弾かれた。
「フォウ!?マジかい!?」
そしてそのお返しと言わんばかりに、クラレティエの大剣からブーメランが放たれる。
「うぁッ!?」
「ワァオッ!」
三度目のブーメランの襲来を、今度は鳳藤を含め各人が自力で回避し、事なきを得る。
「おっうぇ、狭い中をウネウネ気色悪く飛んで来やがる!」
幅が狭く見通しの悪い鉱石柱の林の中を、独特の軌道で優々と掻い潜って来るブーメランの群れに、竹泉は舌打ちする。
「多気投ェ、ヘタに刺激するんじゃないッ!」
「悪ぃ悪ぃ!しかしゲリちゃん、マージで超人みてぇだなッ!」
鳳藤は涙目になりながら多気投を叱責したが、多気投は悪びれた様子も無く、笑いながら感想を述べた。
「やぁだやだ!兵器も通用しないチョー強女ってかぁ?あーんなゲロカス不快な存在にマジでお目にかかれるとは、自分の強運を呪うねぇッ!」
そして今度は、ウンザリした口調で愚痴や嫌味を垂れ流す竹泉。そうこうしている内に、鉱石柱の林の出口が目前まで迫っていた。
「どうするんだ自由!?このまま策も無しに飛び出しても、またこの巨大なトゲに襲われるぞ!」
「そんであの女の、脳内ワールド独白劇場が頼んでねぇのに開催すんだろ!?こっちの感想は一切受け付けずによぉ!」
「ヴェハハッ!そりゃ竹泉の嫌味と全くおんなじだぁっ」
鳳藤、竹泉、多気投はそれぞれ好き勝手に捲し立てる。
「そんじゃぁ続編公開前に、ヤツの顔面に直接低評価を叩き付けに行くとするか」
「だから、どうやってだよッ!?」
「ヤツのトゲを利用する。突き出て来た瞬間のトゲが飛び乗れば、伸び上がる勢いを利用してヤツの鼻先まで飛べるはずだ!」
「あぁ!?」
制刻の発した言葉に対して、竹泉は険しい表情で荒い声を上げた。
「おっ前、真面目に考えてんのか!?んなガキの妄想みてぇな事、できるわきゃねぇだろが!」
「俺がやる。お前らは、別方向に退避しろ」
捲し立てる竹泉をあしらい、制刻は進行方向右側を指差して退避を指示する。
「んな事言ったって――」
制刻に対して、なおも食い下がろうとする竹泉。しかしその時、彼等の足元に走った違和感がそれを遮った。
「――チィッ!」
走った違和感の正体を即座に察し、竹泉は舌を打つ。その瞬間、トゲの林に残るわずかな足場を埋め潰さんとするように、鉱石柱の頭頂部が地表を突き破って姿を現した。
「しゃぁねぇ、飛べ!」
「え――わぁぁッ!?」
制刻はその瞬間を見逃さなかった。叫ぶと同時に鳳藤の首根っこを掴み、近場に出現した鉱石柱の頭頂部付近へと飛び乗った。
「あぁ――知らねーぞッ!」
竹泉と多気投も制刻に続き、突き出した鉱石柱を捕まえる。そして――
「カスッタレーーッ!」
「イィーーーヤッフォーーーウッッッ!!」
鉱石柱は傾斜した角度で上空へと急上昇を開始。まるでカタパルトのような勢いで、制刻等を曇天の夜空へと打ち上げた。




