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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター12:「Battle of Wind Route」
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12-7:「Heavy Long Shot」

「ッ!二曹、これは……ッ!」

「分かってる、魔法攻撃だ」


 塹壕陣地内で身を屈め、言葉を交わす長沼と峨奈。

 塹壕周辺には鉱石の雨がツララ状の鉱石による攻撃は、以前にも幾度か目撃していたが、今回のそれは規模が違った。塹壕を中心とした広範囲に、ツララ状の鉱石が途切れることなく、無数に降り注ぎ続けている。


「舐めた真似を――痛ッ……野郎」

「ひッ!銃撃、いやこれじゃまるで砲撃だよ!」


 塹壕内に飛び込んできた鉱石が、香故の手の甲を傷つけ、補佐の女陸曹の鉄帽をガツンと叩く。斜め上空から降り注いで来る鉱石の群れは、塹壕内にもいくつも飛び込んで来て、隊員等を傷つけた。


「二曹、このままでは塹壕内も危険です!」

「焦るな。オペレーターに類する者が崖の下にいるはずだ。手榴弾を投げ込んでそれを処理しろ」

「了解!香故、易之(やすゆき)、手榴弾用意!」

「チィッ――」


 峨奈が重機関銃要員の二人に指示を飛ばす。香故と、易之とよばれた女陸曹、そして峨奈はそれぞれ手榴弾を手に取りピンを引き抜く。


「投擲!」


 合図と共に、三人は塹壕の中から手榴弾を放った。

 手榴弾は弧を描いて崖下へと落下して行き、数秒後に複数の爆発音が聞こえた。


「……どうだ?」


 祈るように発する峨奈。しかし炸裂音の後も、鉱石の雨は止む気配すら見せなかった。


「ダメか……!もう一度やりますか?」

「……いや、これは闇雲に攻撃しても無理なようだ。樫端、無線を貸せ」

「あ、はい」


 長沼は峨奈の進言を取り下げ、そして樫端から無線機のマイクを受け取る。


「スナップ11、ジャンカーL1だ。こちらは現在魔法と思わしき攻撃により、釘付けになっている。崖下に攻撃を行っているオペレーターがいると思われる、そちらから確認できないか?」

《L1、少しお待ちを。目標を捜索します》

「急いでくれ」


 やり取りの間も、鉱石の雨は容赦なく塹壕を襲い続ける。


「ッヅ!」


 飛び込んできた鉱石の一つが、版婆の右肩を掠め、肉を削いだ。


(………舐めた世界だ)


 版婆は傷口を押さえながら、忌々しげに呟いた。




 鋼の雨は、敵の潜む崖の上に降り注ぎ続けている。崖下では傭兵団の術師が詠唱を続けていた。


「鋼の切先は愚者の心臓を貫く裁きの刃!愚か者の行いに終止符を、我等の道は鋼の力で切り開かれる――!ッ、ハァ……」

「レイト、変わる!」

「あぁ、ヘシチ……頼む」


 今まで詠唱していた術師に変わり、別の術師が魔術所の前に座り、詠唱を始める。少し離れた所でも、同じく二人組の術者が詠唱を交代する様子が見られた。


「鋼よ、心をも貫く鋼よ!愚かなる者達の頭上に、冷徹な裁きを降らせたまえ!」


 今、降り注いでいる鋼の雨は、術師一人の力で発動出来る物ではない。術師一人が一度の詠唱で振らせられる鋼のツララは、限られた範囲に十数本が限度。さらに詠唱は、術者の魔力と体力を消費するため、連続で発動できる回数にも限りがあった。

 そこで、最初に魔法の効果を増加させる支援魔法を発動、これにより鉱石のツララは数倍に増加される。

 そして複数人による同時詠唱、術師の交代による詠唱の長時間の詠唱継続。これらの組み合わせにより、この強力な鋼鉄の雨の魔法"スティアレイナ"を実現させていた。


「親狼隊長、スティアレイナによる攻撃は有効のようです!敵は行動できない模様!」


 術師、ラミが報告を上げる。

 上空には再び赤い発光体が浮かび、崖の上の様子を伝えてきた。スティアレイナの攻撃により敵は釘付けになっているらしい。

 異質な鏃は吐き出されなくなり、崖の上からの攻撃は鳴りを潜めていた。一度だけ、爆炎攻撃があったものの、爆炎はすべて見当違いの場所で上がり、傭兵団側に致命傷はなかった。


「見ろ、攻撃が止んだぞ!」

「やったぜ、見たかこの野郎!」


 敵が沈黙した事により、傭兵達が湧く。


「間に合ってれば……」


 しかし、その脇でトイチナは苦々しく呟いた。

 スティアレイナは本来、前進する前衛の兵を支援するための物だ。しかし、支援するべき本隊は最初の爆炎攻撃で壊滅、生き残りも先ほどの突撃でほとんどが死亡。

 発動があまりにも遅すぎた。

 すでに戦術的な意味は無く、ただ一矢報いるために鋼の雨は降り続けていた。


「……撤退するぞ。敵が釘付けになっている今のうちにここから引き、衛狼隊に合流する」


 トイチナは撤退の命令を出した。

 今現在、親狼隊は魔法隊を含む少数の傭兵が残るのみ。撤退以外に選択肢はなかった。


「アイネ隊は魔法攻撃を継続。手空きのものは負傷者を……」


 バシュッ、と――トイチナの言葉を遮り、奇妙な音が一瞬聞こえた。

 そしてトイチナをはじめとする数名が、何かが通り過ぎたような感覚を覚えた。各々はその〝何か〟を感じた方向へ目を向ける。


「……え?」


 各々が目を向けた先は、詠唱を行っている術者の一人がいる場所。

 ――そこで詠唱を行っていた術師の、鼻より上が無くなっていた。



 長沼等のいる第1攻撃壕から、谷を挟んで対岸の丘の上。

 そこから望める崖下には、傭兵団の先鋒である瞬狼隊の傭兵達の亡骸が、散らばる光景が広がっている。

 さらに崖の上、少し離れた場所にも数名分の亡骸が横たわっている。これは先ほど自由等がやり過ごした斥候達のものだ。

 闇に包まれ、周囲を死体に囲まれた空間の一箇所で、一瞬だけ光が瞬いた。

 擬装を施したシートによって隠された小さな塹壕、第11観測壕。そこから銃身だけを突き出した12.7mm重機関銃が、火を吹いたのだ。


「最初の一人を無力化」


 塹壕内で、双眼鏡を覗いている隊員、威末が声を上げる。


「………」


 隣では、威末と同じく野砲科の所属である、田話(たばなし)と言う名の三曹の姿がある。田話は、重機関銃のグリップを握り、グリップの真上に取り付けられた長距離用照準機を覗いていた。


「三曹、次へ」

「ッ、あぁ……」




「……え?」


 詠唱を行っていた術師は、頭の半分を失っていた。


「ヘ、ヘシチッ!?」


 隣にいた相方の術師が彼の名を叫ぶ。それと同時に、ヘシチという名の術師の体はぐらりと傾き、地面へと倒れた。


「ヘシチが!ヘシチの頭がッ!?」

「なんだこれは……新手の魔法攻撃か!?」


 突然仲間の身に起こった事態に、若干の落ち着きを取り戻していた傭兵隊に、再び動揺が広がってゆく。


「違う、落ち着け!これも恐らく敵の鏃だ!」


 動揺し出した傭兵達をトイチナは怒鳴り飛ばした。


「この上からじゃない。別の方角から……対岸か」


 トイチナは谷の対岸の崖を睨んだ。


「アイネ隊は詠唱を続けろ!手空きの者、弓と盾をかき集めろ!」


 トイチナの命令を受け、傭兵達は再び対処のために動き出す。


「嘘………」


 そんな中で、未だに呆然としたままの少女がいた。彼女は術師の一人だったが、突然の惨劇に目を奪われ、詠唱も止めてしまっていた。


「ゼト、何してるの!」

「ひ!?……あ、アイネ隊長」


 呆然としていた少女へ、魔法隊の隊長から怒号が飛ぶ。


「聞かなかったの、詠唱を継続!上にもまだ敵はいるのよ!」

「は、はい!えっと……鋼は誇りと力の証。見よ、愚者共!我等の鋼鉄の――」


 魔法隊長に叱り飛ばされ、ようやく少女術師は詠唱を再開する。


「よし、ここは任せるわ。私はヘシチさんの代わりを――ビッ」


 魔法隊長の言葉が奇妙な途切れ方をした。


「?」


 そして少女術師は体になにかが降りかかる感覚を覚えた。少女は妙に思い顔を起こすと――魔法隊長の頭部が爆ぜていた。


「へ」


 素っ頓狂な声を上げる少女術師。そんな彼女の上半身は、血と肉片で塗れていた。少女の体に降りかかった物は、爆ぜた魔法隊長の頭部の血肉だった。


「あ?……あ……ひ、いやあああああああッ!?」


 数秒の間を置いた後に、少女術師は状況を理解。そして彼女は絶叫を上げた。


「ぜ、ゼトッ!?」

「い、嫌ぁッ!嫌ッ!やだぁぁぁッ!」


 目と鼻の先で魔法隊長の惨劇を目の当たりにした彼女は半狂乱に陥り、魔道書を捨ててあらぬ方向に駆け出した。


「ゼトッ!」


 付近にいた傭兵が、駆け出した彼女をあわてて押さえ込む。


「ゼトッ、落ち着いて!」

「嫌ぁッ!ま、ママッ!たすけてママぁッ!!」


 少女を押さえ込まれた傭兵達は彼女を落ち着かせようとしたが、彼女は地面を両手でガリガリと引っかきながら、絶叫を上げ続けた。




 長距離用照準期の先に、傭兵の姿が写っていた。

 おそらく女。軽装で目立った武器を所有していない所から見るに、魔法に関係する人物と思われる。

 その女の頭が、割られたスイカのように弾け飛んだ。

 彼が照準の中心にその女の頭を捉え、親指に少し力を込めた直後に。


「………」


 その直後、女の隣にいた少女が明後日の方向に駆け出した。半狂乱に陥ったらしい、すぐに周りの仲間に押さえつけられたが、それでもなお、逃げようともがいている様子が見えた。


「田話三曹、中央右端で別の敵に動きが」


 彼――田話の目には惨劇が写っていたが、反して彼の耳は、冷静で淡々とした報告を聞く。隣で観測手を務める威末の声だ。


「さっきの敵に変わって、魔法を使うつもりのようです。ヤツを狙って下さい」


 威末は田話に次の標的を示す。


「………」


 しかし重機関銃は次の標的を捉えようとしなかった。


「田話三曹?どうしました、次の標的は中央右端です」


 威末がもう一度標的の位置を伝える。しかし重機関銃が動く気配はなかった。


「――無理、だ……」


 代わりに一言だけ言葉を発した田話。

 彼の呼吸はひどく不安定だった。

 さらに指先は振るえており、グリップをしっかりと握れていない。そして暗闇のせいで威末には分からなかったが、田話の顔は真っ青に染まっていた。


「撃てない、無理だ……俺にはこれ以上撃てない!」


 声を震わせながらも、今度ははっきりと言葉を発した田話。彼は敵に向けて発砲することを拒絶した。


《どうしたスナップ11?こちらへの敵の攻撃は未だに継続中!敵、オペレーターの排除を急いでくれ!》


 田話が叫んだ直後、脇に置かれた無線機から長沼の声が響いた。


「長沼二曹、それが……田話三曹が目標への発砲を拒否しています」

《何?田話三曹、どうした?敵の脅威は未だに健在、早急に排除して欲しい》

「私には――撃てません……ッ!若い子を二人も殺した!今も子供が怯えて逃げ惑っている!私にはこれ以上彼等を撃てないッ!」


 田話は震えた声で、無線の向こうの長沼に向けて叫んだ。


《田話三曹、気持ちは分かるが今は――》

《寝言をほざくなッ!こちらも一人死んだんだぞッ!》


 田話を説こうとした長沼の言葉は、しかし途中で途絶える。そして一瞬無線に雑音が入り、長沼の声に変わって怒声が飛び込んできた。声の主は香故だ。


《これ以上味方殺させる気かお前はッ!四の五の言わずに、全て残らず始末しろォッ!》

「………無理だ……無理だ、無理だッ!」


 捲し立てられ、聞こえ来る怒号。

 しかし田話は震える手でグリップを握り、血走った目で照準機を覗き続けていたが、押し鉄に置かれた指に力を込める事はできなかった。


《いい加減に――》


 そこで香故の言葉は途切れる。再び無線に雑音が入り、無線からの声は長沼の物に戻った。


《仕方がない、田話三曹を射手から外せ。威末陸士長、代わりに50口径について目標を排除しろ》

「了解……三曹、代わります」


 田話に代わって、威末が12.7mm重機関銃の射手に着く。


「ッ……ハァ……ァ、ツァ……」


 12.7mm重機関銃を離れた田話は、塹壕の端に座り込み、額を押さえて荒い呼吸を続ける。


「殺した……この手で、二人も……ッ」

「……無理もねぇや」


 横で塹壕の外を警戒していた門試が、田話の様子を横目で見ながら一言呟いた。

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