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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター12:「Battle of Wind Route」
136/224

12-6:「襲来。そして――」

「ぐげッ!」


 一人の傭兵が小銃弾を身に受け、悲鳴を上げて崖の上から落下してゆく。


「糞ッ……!」

「まだ来るぞ!宇桐、右だ!右から上ってくる!」

「分ぁってる!今やる!」


 塹壕陣地の一角で、若い隊員である、普通科の町湖場や施設科の宇桐が、声を張り上げ飛ばし合い、そして戦闘行動を行う姿がある。

 崖下に潜り込んだ生き残りの傭兵達は、崖を上り、塹壕へと肉薄攻撃を仕掛けてきた。

 塹壕陣地の隊員等はそれを阻止するべく応戦する。接近戦のため、手榴弾やてき弾などの炸裂兵器の使用はもちろん、重機関銃も有効な運用は出来ず、各員は手持ちの火器での応戦を強いられた。


「クソ!なんなんだ!」


 MINIMI軽機射手である町湖場は、接近する傭兵に軽機を撃ち対応しながら悪態を吐く。


「ぐぶッ!」

「三人目、いい加減に――!」


 目前に迫った傭兵を射殺し、町湖場は次の目標を探そうとする。


「町湖場、まだいるぞ!」


 だが彼に警告の声が投げかけられた。


「ッ!」


 倒した傭兵の背後から、もう一人の傭兵が姿を現れる。そしての手に握られた斧が、町湖場へと振り下ろされた。


「ヅッ!」


 町湖場とっさにMINIMI軽機を両手で掲げ、傭兵の斧を受け止めた。


「おおおおおおッ!」

「あああッ……!」


 初撃を凌いだ町湖場だったが、傭兵の込める力にジリジリと押される。町湖場自身も決して貧弱ではない体躯の持ち主だが、眼の前の屈強な傭兵の腕力は、それのさらに上を行っていた。


「――ぎゅべッ!?」


 だが、その屈強な傭兵が叫び声と共に真横へ吹っ飛んだ。


「大丈夫か?」


 町湖場の窮地を救ったのは、ショットガンを手にした香故であった。


「はぁッ……!すいません!」

「視界を広く保て。崖の上に頭を見せた奴は即座に撃て、攻撃の隙を与えるな」


 町湖場に端的に告げる香故。

 その間も、次々に崖の上へと上ってくる傭兵達。しかし、塹壕への肉薄を成し得た傭兵は決して多くは無く、ほとんどの傭兵は、崖を上り切った直後の無防備な瞬間を狙われ、火器の餌食となっていった。


「怯むな食らいつけぇ!」

「うぁぁぁぁッ!」


 それでも傭兵達が怯む事は無かった。

 彼等は仲間が倒される瞬間の、隊員側の注意が逸れるわずかな隙を突いて、塹壕への肉薄攻撃を試みてきた。


「はぁッ……!イカレてんのかこいつ等!?」


 そんな傭兵達を迎え撃ちながら、叫び声を上げる隊員がいる。

 施設科の宇桐だ。

 死を恐れず肉発攻撃を仕掛けてくる傭兵達に向けて、目を血走らせながら小銃の引き金を引いている。


「あれだけ仲間を殺されたんだ、そりゃ頭に血も上るだろうさ」


 そんな彼に、横で再装填中の樫端が返す。宇桐に対して彼のそれは、こんな状況下にもかかわらず、どこか緊張感の欠けた口調だった。


「何冷静に言ってやがる、早く撃てよ!」

「分かってる!」


 捨て身の肉薄攻撃を仕掛けてくる傭兵達。対して塹壕陣地の隊員等も、小銃や散弾銃を手に必死の迎撃を続ける。


「冷静に対応しろ、問題が発生したらすぐに援護を頼め」


 長沼は隊員等に逐一指示を出しながら、自身も小銃を手にし、冷静に襲い来る傭兵に対応していた。――直後、そんな長沼の耳に、谷を挟んだ対岸の第11観測壕からの通信が届いた。


《L1聞こえるか?こちらスナップ11、そちらの様子が見えてる。現在重機にてそちらの崖際を照準してる、援護が必要か?》

「いや、待機しろスナップ11。こちらはすでに白兵距離だ、誤射の危険が大きい。敵の残存はそう多くないはず、この攻撃は長続きしないはずだ」

《了解》


 長沼の予測は正しかった。

 傭兵達の攻撃は熾烈な物だったが、それは一過性のものであり、そう長くない時間の後に衰えを見せ出した。


「ぎゃぎッ!?」


 そして塹壕陣地の一角で、発砲音と悲鳴が同時に上がる。

 香故がショットガンを撃ち放ち、重機関銃の間近に迫った傭兵が散弾を全身に受けた。そして撃たれた傭兵は崖から落下して行く。


「――収まったか」


 静かな声で発する香故。

 それを最後に塹壕からの発砲音は収まり、崖を上って肉薄攻撃を仕掛けてくる傭兵の姿も無くなった。




「万物の命に祝福を、来たりしこの時に光を、在りし力にさらなる雄々さを纏わせ、意志をより高みへ導きたまえ――」


 一人の女傭兵が、魔法発動のための呪文を詠唱している。地面には分厚い魔道書を置かれ、そこに綴られた文を目で追いながら、少しでも早く詠唱を完了させるべく口を動かしている。


「まだかかるか?」

「もう少し、後1ページです!」


 トイチナの問いかけに、女傭兵の隣にいる相方の傭兵が答える。


「急げ」


 術師を急かし、トイチナは崖を見上げる。

 先ほどまで崖の上から聞こえていた戦闘の音が消えた。そして上っていった傭兵達が戻って来る事はなかった。いや、正しくは数人が亡骸となって戻ってきたのだが。


「全滅か……」


 呟き、トイチナは視線を降ろす。彼の脇には、崖の上の敵に殺され、落下してきた傭兵の亡骸が横たわっている。


「……このままでは終わらさんぞ……!」


 トイチナは亡骸に手を置き、小さく声を漏らした。


「できた!」


 その直後、術師の女傭兵が詠唱を終えた。


「お願い!」

「任せろ!」


 彼女は隣にいた相方に視線を送り、相方は彼女に代わって詠唱を始めた。


「鋼よ、心をも貫く鋼よ!愚かなる者達の頭上に、冷徹な裁きを降らせたまえ!」




「収まった……今ので全滅したのか?」


 峨奈が訝しげな表情で呟き声を発する。

 塹壕の隊員等は敵の攻撃が収まった後も、武器を構えたまま警戒を続けている。彼等の目前には、肉薄攻撃の末に息絶えた傭兵達の体が、いくつも横たわっていた。


「スナップ11、こちらジャンカーL1長沼。そちらから、こっちの崖下の様子を確認できるか?」

《待って下さい……崖下に十数名ほど確認できます。崖を上ろうとする人影はありませんが、未だに動きがあります。注意してください》


 長沼の呼びかけに対岸の第11観測壕から報告が返される。


「了解――各員、まだ敵に動きがあるぞ。次の攻撃を企てているのかもしれない、警戒を怠――」

「チクショウ!なんなんだよ!」


 長沼の声を遮り、荒い声が上がったのはその時であった。そして塹壕陣地の各員の視線が、そちらを向く。


「いい加減あきらめろよ、突っ込んできても死ぬだけだってわかんねぇのかよ!」


 声の主は施設科の宇桐だ。

 先ほどの傭兵達の勇敢とも無謀とも言える突撃、そして今、目の前に広がる亡骸の山。地獄のような光景が宇桐の感情を揺さぶり、激昂という形で表に現われたのだ。


「宇桐、落ち着けよ……」


 隣にいた町湖場が宇桐を宥める。しかし宇桐の感情が収まりを見せることはなかった。


「チクショウ……そんなに死にたいなら、止めを刺してやる!」


 そして彼は叫び声を上げると同時に、武器を手に塹壕から飛び出した。


「宇桐一士!」

「宇桐!おいッ!」


 長沼や町湖場が制止の声を掛けるも、彼に聞く耳は無い。

 宇桐は塹壕と崖の縁の間の、2メートルもない空間へと乗り出すと、サスペンダーにぶら下げた手榴弾を掴む。先に崖下に手榴弾を投げ落とし、その後に小銃で掃射をする算段だ。掴んだ手榴弾を引っ張り、サスペンダーの金具に繋がっているピンが抜け、安全レバーがはじけ飛ぶ。


「終わりだァッ!」


 手にした手榴弾を崖下へ投げつけるべく、叫び声と共に腕を大きく振り上げた。そして――


「――ァ」


 ドスッ――と、彼の喉元に鈍い衝撃が走った。


「ぇ」


 唐突に自分の体に生じた違和感。口からは掠れた声が漏れる。


「な、ぁ?」


 自分の体に目を落とす宇桐。彼の喉仏の下、胸骨の真上には、鋭いツララ状の鉱石が深々と突き刺さっていた――。


「宇桐ッ!」


 背後から彼の名を呼ぶ声。その声を合図とするかのように、〝それ〟は始まった。

 大小無数のツララ状の鉱石が、今もなお降り続けている雨に同調するかのように、周囲に降り注ぎ出したのだ。


「――身を隠せ、壕に潜れッ!」


 長沼は即座に声を張り上げ、退避の指示を出す。それを受けた隊員等は、塹壕へと身を隠す。ただ一人を覗いては――


「宇桐ーッ!」


 倒れた宇桐の元へ向けて、町湖場が塹壕から飛び出した。


「町湖場一士!危険だ、やめろ!」


 長沼が冷淡な声で制止を命じたが、町湖場は聞かなかった。

 宇桐の体へ這いよった町湖場は、まず真っ先に、宇桐の手から零れ落ちた手榴弾を拾い上げて投げ捨てる。一瞬の間の後に、手榴弾は空中で爆発した。


「宇桐!」


 そして宇桐の体に手を回し、彼の体を塹壕へ引きずり込もうとする。


「がぁッ!」


 だがそんな彼に鉱石の雨は容赦なく降り注ぎ、その内の一本が町湖場の右腕に突き刺さる。


「ッ……!」


 激痛が走るも、町湖場は手を離さず、宇桐の体を引っ張り続けた。


「ヅッ!……あぁッ!」


 鉱石はさらに左足を貫き、わき腹を抉る。

 十秒にも満たない時間、わずかな幅を移動する間に、身を晒した町湖場の体は酷く傷ついてゆく。しかし傷を負いながらも、町湖場は宇桐の体を塹壕に引きずり塹壕へと戻って来た。


「町湖場!無茶を」


 戻って来た町湖場へ香故が手を借し、塹壕内へ二人を引きずり込む。


「ッ、衛生隊員、来い」

「分かってます!」


 香故の上げた言葉に、待機していた衛生隊員の着郷が呼応。狭い塹壕を縫って二人の元へ駆け寄る。


「!」


 二人の様子を目の当たりにして、着郷は一瞬息を呑む。しかしすぐさま意識を切り替え、手前にいた町湖場の応急処置に掛かった。


「俺は、いい……宇桐を見てやってくれ……!」


 手当てを始めた着郷に向けて、町湖場が苦痛交じりの声でそう発した。


「……」


 しかし着郷はそれを無視して町湖場手当てを続ける。


「おい!聞いてるのか……!宇桐の手当てを……!」

「もう話すな。大人しく手当てを受けていろ」


 自分の要求を無視した着郷に対して、町湖場は言葉を荒げて、再度要求しようとした。だが香故の静かで、しかし有無を言わさぬ声がそれを遮り、制した。

 そして香故が視線を落とした先には、宇桐の体が横たわっている。彼の体には、喉元に刺さった鉱石を始め、体中に大小いくつもの鉱石が痛々しく突き刺さり、血が流れ出ている。

 しかし、今最も大事なのはそこではなかった。宇桐のその瞳は、開いたまま虚空を見つめていた。

 瞬き一つすらすることなく。


「―――ふざけやがって」

「………」


 香故は一言だけそう零す。

 そして宇桐の身の反対側にいたウラジアが、宇桐の開いたままの目を静かに閉じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怒涛の連続投稿( ゜д゜)ポカーン [一言] 遂に死者が出てしまった。 いつか来るだろうと予想していましたが・・・
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