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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター11:「Silent Search」
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11-7:「横っ腹目がけて」

「あれだな」


 鷹幅が路地から顔を出して、その先を覗いている。彼の視線の先には、これで四件目となる捜索対象の宿があった。


「これで四件目ですか。早いトコ見てきましょう、ここも望み薄な気がしますけど」


 一方の不知窪は、鷹幅の背後でめんどくさそうに言いながら、宿には一瞥もくれずに9mm機関けん銃の安全装置や弾を確認していた。


「……いや、それはどうだろうな」

「は?」

「見てみろ」


 不知窪は鷹幅の背中越しの宿を覗き見る。宿の入口前には二人分の人影が見えた。様子からして宿の周辺を見張っているようだ。


「あれは、ここの警備隊か?」

「そうらしいな。……待て、動きがある」


 宿の出入り口から、さらに複数の警備兵が慌しく出てくる。警備兵等は見張りの二人と何かを話し出す。


「様子がおかしいな」


 数十秒間の会話の後、両者は宿の四方へ走り去っていった。


「なんだあれは、どうなってるんだ?」

「さぁな、とにかく調べてみるしかない。十分警戒しろ、行くぞ」


 二人は路地を出て、建物の壁を伝って行き、宿に接近。宿の側面に駆け込み、そこにある窓から中の様子を伺う。

 廊下を覗き込むと、先のホールらしき場に複数の警備兵の姿が見えた。その場のリーダーらしき女が中央にいて、不機嫌そうな顔で何かを喚き散らしている。


「なーにをやってるんだアイツ等は?」


 どうにもリーダーの女は警備兵達を叱っているようだった。リーダー女の小言は途切れる気配が無く、警備兵達の顔にはうんざりとした表情を浮かべるものが散見された。


「しばらく捌けそうに無いな……一階は後回しだ。先に二階を調べよう。先に上がるからブーストしてくれ」


 鷹幅は不知窪の助けを受け、宿側面の壁を登り、二階の窓へと手をかけた。片手で機関けん銃を構えながら、中を覗き込む。窓の向こうは二階の廊下で、幸いにも廊下に警備兵は居なかった。窓を乗り越えて廊下に降り、後続の不知窪に手を貸し彼を引き上げた。


「二曹、そこの部屋」

「分かってる」


 両名の視線は、入ってきた窓から一番近くにある部屋に向いた。扉が開け放たれ、内部の明かりも灯されたままだったが、人の気配が無かった。二人は機関けん銃を手に、周囲を警戒しながら中へ入る。


「妙だな……」


 鷹幅は目線と銃口を常に同じ方向に向けながら、部屋内を見渡す。部屋の所々に荷物が置かれ、少し前まで人がいた形跡がいくつか見て取れた。


「二曹、これを」


 不知窪は壁に置かれた机に目を落としながら、鷹幅に呼びかけた。そしては机の上から何かを手に取り、鷹幅へ示してみせる。

 不知窪が手に取ったのはシャープペンシルだった。机の上にはボールペンやノートも置かれている。

 どれもこの世界の物とは到底思えない。

 いや、それ以前にボールペンやノートに書かれた日本語が、それらがこの世界のものでは無い事をはっきりと示していた。

 さらに机の脇には、アルファベットのロゴが入った鞄が置いてあった。


「邦人のものか」

「まず間違いないでしょう」


 不知窪は鞄の中身を机の上にひっくり返し、出てきた財布を開いて中を調べ出る。


「当たりです。見てください」


 財布の中から免許証や保険証などの身分証明証が出てきた。鷹幅は免許証を手に取り、顔写真と記述内容を確認する。


「水戸美 手編(てあみ)……写真も聞いた容姿と同じようだ。住所は都内になってるな……他には?」

「目ぼしい物はこれだけです」

「重要な物だが、これだけじゃダメだ。肝心の本人の居場所が分かるような……」


 その時、廊下から足音と話し声が聞こえてきた。おそらく一階にいた警備兵達だろう。話し声と足音はだんだんと近づいてくる。


「チッ、こっちに来るな」

「隠れろ」


 鷹幅等は部屋の隅、入口の死角へと隠れる。


「クソ、なんたる失態だ!」

「まだ遠くには行っていないはずです、すぐに見つかるはずです兵長」


 警備兵らしき二名は入口の少し前まで来ると、そこで立ち止まり話し出した。


「そんなのは当たり前だ!そもそもお前たちがカウンター内にすぐに注意を向けていれば、こんな面倒な事には……!まったく使えないッ!」


「ッ……はぁ」

「おい、聞いているのか!?」


 だが特に内容があるものでは無いらしい。兵長と呼ばれた女が、警備兵に失態を押し付け、文句を言っているだけのようだった。


「あの二人を捕まえて情報を聞き出そう。一人は俺が抑える。お前はもう一人を無力化しろ」

「殺しても?」

「……止む終えない限り、殺害はするな。情報源は多いほうがいい」

「了解」


 兵長の女の小言が終わったらしく、扉の前の二人が部屋内へと入って来る。

 すかさず鷹幅は、先に入口をくぐった女兵長に背後から襲い掛かった。


「ぐッ!?な……!?」

「動かないで」


 突然首に腕を回された女兵長は目を見開く。


「兵長ッ!?」


 警備兵は女兵長を助けようと剣を抜こうとするが、脇から不知窪が警備兵に襲い掛かり、それを押さえ込んだ。


「うッ……!?」


 もがく警備兵の喉元に、銃剣の切っ先を突きつける。


「抵抗せずいう事を聞いてくれ。そうすれば危害は加えない」


 同様に、鷹幅は女兵長の喉元で銃剣をちらつかせている。


「我々は――ごッ!?」


 前口上を終え、本題に入ろうとした鷹幅だったが、その直前、鷹幅の鳩尾に鈍痛が走った。

 女兵長が肘を繰り出したのだ。

 この女兵長という人物は想像以上に短気であるらしく、鷹幅の言葉を聴こうとすらせず抵抗してきたのだ。

 これは鷹幅も想定外だった。鷹幅が一瞬ひるんだ隙に、女兵長は身をよじり、鷹幅に掴みかかった。


「!」


 女兵長の抵抗により、不知窪の注意が逸れる。


「ッ!このッ!」


 それを見逃さなかった警備兵は、同様にもがき肘を振るい、不知窪の胸部を突いた。そして不知窪はあっさりと警備兵に突き飛ばされる。


「よしッ!」


 好機と見た警備兵は抜剣の体勢に入りながら振り向く。彼はこのまま背後の不知窪を切り裂けるはずだった。

 だが――


「ん?」


 振り向いた彼の目に飛び込んできたのは、不可解な黒い物体。中央には穴が開いている。それが何かを彼が理解する前に、バンッ、と炸裂音が響いた。


「ビャッ」


 同時に彼は眉間から血を、口から悲鳴ともつかない声を上げた。更に二回、三回と連続して炸裂音が響く。炸裂音に合わせて警備兵の顔面からは新たに血が噴出してゆく。そして彼は床に仰向けに倒れこんだ。


「……」


 倒れた体を不知窪がいつもと変わらぬ表情で見下ろす。伸ばされた彼の右腕の先には9mm機関けん銃が握られている。

 彼があっさり警備兵から離れたのは別に突き飛ばされたわけではなく、下手に抵抗を押さえつけて銃剣での攻撃を行うより、一度離れて機関けん銃による攻撃を行うほうが、安全かつ確実だと判断したからだった。


「よせ!おとなしくしろ!」


 一方の鷹幅は、即座に持ち直し女兵長に応戦したものの、両者は床に倒れこみ、銃剣の取り合いとなっていた。


「曲者風情が!この私に……!」

「よせ……!くそッ!」


 不知窪はそんな両名にツカツカと歩み寄ると、女兵長の横っ腹を思いっきり蹴飛ばした。


「ごぅッ……!?」


 女兵長の体が一瞬宙を舞う。

 そして内臓にまで達した衝撃に苦悶の声を漏らしながら、女兵長は床に放り出される。不知窪はすかさず女兵長との間合いを詰め、放り出された女兵長の左足を思いっきり踏みつけた。


「いぎぃッ!?」


 ボキリと、左足の頚骨が折れる音がし、女兵長は悲鳴を上げて体を仰け反らせた。


「大丈夫ですか、二曹?」


 女兵長の無力化を確認した不知窪は、鷹幅に目を向ける。


「ッ……ああ、すまん助かった」


 危機を脱した鷹幅は、息を若干荒げながらも起き上がって礼を言った。


「あの、兵長殿……!今の音は何事でしょうか?」


 その時、二階が騒がしい事を不審に思ったのか、階段の下から店主の声が聞こえて来た。


「大したことじゃない。兵長殿は部屋の捜査中だ、邪魔をするな!」


 不知窪は廊下の先に向けて高慢な口調で叫んで見せる。


「は、はい!分かりました……」


 すると店主は返事だけよこして、二階へ上がってくる事はなかった。


「高慢な態度のツケが回ったな」


 不知窪は痛みに悶えている女兵長を横目にそんなことを呟く。


「不知窪、彼女を拘束するぞ。ベッドのシーツを寄越してくれ」


 鷹幅はシーツを破いて紐状にし、女兵長の手足を拘束した。


「よし。不知窪、見張ってろ!」


 不知窪に見張りを任せ、鷹幅は拘束した女兵長を壁に押し付ける。そして彼女の銃剣を首筋に突きつけ、問いかけ出した。


「おい、話は出来るか?下手な動きはするな、質問にだけ答えてもらう」

「な……何……?」


 痛みに顔を歪ませつつも、女兵長はこちらの言葉に反応を見せた。


「この部屋に三人組の女性が泊まっていたはずだ。その人達はどこへいった?」

「な!?なんだと……?我々以外に……貴様等、一体何者だ!?」

「我々の質問にだけ答えてもらう。そちらの質問は受け付けない」


 鷹幅は冷淡な口調で言い、女兵長の喉元に銃剣を寄り強く押し付ける。

「ッ……!」

「素直に答えれば怪我を処置しよう。その後は少しの間どこかに閉じ込めさせてもらうが、命は保障する。だが答えなければ……」


 女兵長の首筋から、血がぷつりと一滴滲み出す。


「……あ……」


 女兵長の顔は青ざめてゆき、やがて恐怖と痛みで虚勢を張る気力も無くなったのか、彼女は口を開いた。


「……一人は我々が捕らえている。だが後の二人の行方は私も知らない。我々がここへ来た時にはすでに片方はいなかったようだし、もう一人にも逃げられてしまった……」

「その逃げていった人物の容姿は分かるか?」

「私は見てはいないけど、黒髪の異国の娘だと部下が言っていた。上からの通達でそんな娘がいる事は聞いていたし、間違いないと思う……」


 死への恐怖が勝りタガが外れたのか、女兵長は口調を弱々しくし、聞いていない情報まで口にし出した。


「通達ねぇ。本当に国ぐるみでその勇者一行を追いかけてるんだな」


 聞き出せたそれに、不知窪は呆れた口調で零す。


「それで、その娘はどっちに逃げた?」

「路地に入って南に逃げていった。今さっき同じ方向に部下を追わせたばかりよ……ねぇ、まだなの?早く足の怪我を……」

「落ち着け、あと一つだけだ。捕らえた人物がいると言ったな?それは誰で、今どこにいる?」

「魅光の王国の勇者に同行してきた騎士って聞いてる。だから、残りの一人がその勇者なんだと思うけど……監禁場所までは私達には通達されてないから……」


 女兵長の口調から、どうやら嘘は言っていないようだった。


「分かった……これくらいでいいだろう。不知窪、彼女の足を見てやってくれ。さて、拘束してしばらくどこかに……」


 女兵長から視線を外し、彼女の身を隠しておく、手頃な場所がないかと部屋内を見回す鷹幅。


「ごえッ!?」


 だが次の瞬間、奇妙な声が背後から聞こえた。


「!?」


 視線を戻すと、女兵長の喉には銃剣が深々と突き刺さっていた。


「あ……そん……」


 掠れた声を上げる女兵長。そしてその首に刺さる銃剣の柄を握るのは、他でもない不知窪だった。


「なッ……お前、なんてことをッ!?」


 目を見開き、声を荒げる鷹幅。


「は?」


 対して不知窪は、心底不思議そうな顔で鷹幅を見返しながら、女兵長の首に刺さった銃剣を引き抜く。彼女の首の切り口から鮮血が噴出したが、不知窪はそれを器用に避けた。


「なぜ殺した!?」


 鷹幅は責めるような口調で不知窪を問い詰める。


「なぜ?……なぜ……?もう情報は聞き出したでしょう?他に何かあったんですか?」

「何って……情報を吐けば命の保障はすると、彼女には言ってあったんだぞ!?」

「建前じゃなかったんですか?殺しておかないと、俺等の存在がこの女の口から警備隊に伝わりますよ」

「拘束して、閉じ込めておけばいい話だろう!彼女はすでに抵抗できなかった!それを殺すなんて……!」

「それじゃ、少し時間が延びるだけでどの道ばれるでしょう?このほうが確実です、死人に口なし」

「お前――」


 まったく表情を変えずに言う不知窪に、鷹幅は次に発する言葉を失った。


「鷹幅二曹、その手の議論は後にしませんか?警備隊が戻ってくるかもしれません、とっととここを離れましょう」

「ッ……」

「死体は片付けますんで、二曹は荷物の回収を」

「……血のついた物も一緒に隠して置け」

「了解」


 不知窪は女兵長の亡骸をベッドの下へと引きずってゆく。その途中で不知窪は思い出したように再び口を開いた。


「ああ、そうだ鷹幅二曹。相手が女だからか、手加減してたように見えましたけど?そういうの、危ないからやめた方がいいですよ」


 死体をベッドの下へ押し込みながら、そんな言葉を寄越した不知窪。


「……」


 口調こそ変わらないが、その台詞には鷹幅を非難する意図がはっきりと含まれていた。




 死体等の証拠を隠し、免許証など必要なものを回収した後、二人は宿を後にし、宿から少し離れたところで路地に入った。


「アルマジロ1-2、応答してくれ。ロングショット1だ」


 鷹幅は地図を取り出しながら無線を繋ぐ。


《アルマジル1-2です。どうぞ》

「厄介な事になった……4番の宿にて邦人の宿泊していた形跡を発見。免許証をはじめとする所持品を複数確保した」

《了解、邦人本人はいなかったんですか?》

「あぁ……それだけだ、一足遅かったらしい。どうやらこの町の警備隊が宿に乗り込んだらしい。邦人は警備隊に捕まる前に逃走したようだが、行方はわからない」

《それは……まずい事になりましたね》

「まだある。警備隊の分隊長らしき人間から情報を聞き出せたんだが、邦人に同行している二名の女性のうち、片方はすでに警備隊に捕らわれているらしい。もう一人は不明だが、追われていると見たほうがいいだろう」


 鷹幅は得られた情報を伝え終え一息ついてから、再び口を開く。


「両者の居場所も不明だ。こうなるとこの二名の同行者の回収は難しいかもしれない。向こうからしてみればその二人が本命だろうし、警備隊もこれから厳戒態勢に入るだろう。……ロングショット1は二名の捜索を断念し、邦人の発見のみに注力したいと考えている。ペンデュラムに指示を仰いでくれ」


 要請を送る鷹幅。ペンデュラムとは、草風の村に置かれた指揮所。もっと厳密にいえば、現在の隊の事実上の指揮官である、井神の事を示した。


《……了解。一度切ります》


 無線が切れ、周辺に静寂が戻る。

 二人は壁に背を預けて一息ついた。雨は少し前から強くなり、雨音が路地裏内で響き渡っている。


「〝レーベンホルム〟を要請すべきじゃないですか?」

「……まだ早い。我々の手で保護できる可能性は残ってる」

「だといいですが」


 その後、二人は返信が来るまでの数分間無言だった。


《――ロングショット1、アルマジロ1-2です。ペンデュラムは進言を許可。邦人の発見、保護が完了次第、回収を要請せよとの事です》

「了解した……捜索を続行する。ロングショット1通信終了」


 通信を切り、鷹幅は壁から背を離す。


「で、アテはあるんですか?」

「日本人の黒髪はこの町では目立つ。追われてる身なら大通り等は避ける可能性が高い。路地を縫いながら南へ向おう。途中の空き家等に隠れてる可能性もあるから、それらも調べながらな」


「先が思いやられますね」

「途中で警備隊との戦闘もありうる。よく警戒しろ」


 鷹幅と不知窪は院生を追い、南へと走り出した。

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