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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター11:「Silent Search」
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11-2:「迷い人への疑い」

 運び屋のヘリナンと別れた水戸美達は、ひとまず落ち着くべく手頃な宿屋を見つけていた。


「はぁ……」


 あてがわれた部屋に入ると、水戸美は声を零しつつベッドに腰を下ろした。


「院生さん、疲れちゃった?」

「ちょ、ちょっと。馬に乗るなんてあんまりなかったもので……」


 心配し尋ねるファニールに、水戸美は遠慮がちにしかし肯定する。


「今夜はゆっくり休んでくれ。この町を出たら、次の町までしばらくかかるからな」


 クラライナは言いながら部屋の窓を開け放つ。


「所でさクラライナ。門の警備、見た?」

「嫌でも目に付く。城壁周りの警備が異様に物々しかったからな」

「そもそもさ、この町全体がなんだが異様に物々しいよね」


 言葉を交わしながら、ファニールはクラライナが開けた窓から外を見る。

 この凪美の町はそこまで大きな町ではない。しかし窓から見えるこの町を囲う城壁は、町の規模とは不釣合いなほどに堅牢な物だった。


「この国に入る前に、この紅の国の成り立ちは聞いたろう?」

「うん、三つの国の緩衝地帯として生まれたんだっけ?珍しいよね」

「かつてこの町は三大国の国境の境目にあったらしい。保有していたのは雲翔の王国で、当時は大事な城塞だったそうだ。ただ国境が変わってからは、その役目も無くなったそうだが」


 この紅の国の歴史を語って見せるクラライナ。


「それなのにあの物々しさ?なんかあったのかな?」

「分からないな。もしかしたら先の噂がらみかもしれないが……あまり長い居はしないほうがいいかもな」

「そっかー……じゃ、聞き込みも先送りだね」


 クラライナの言葉を受け、ファニールは残念そうにそんな言葉を零す。


「聞き込みって、燐美さん達の探してる武器や道具についてですか?」


 それを聞き留めた水戸美は、尋ねる声をファニールに掛ける。


「うん、それもあるんだけど……できればね、院生さんの帰る方法についても詳しく調べたかったんだ」

「え……私の?」


 しかし次に返された言葉に、水戸美は疑問の色を浮かべた。


「言っていただろう?院生さんは異世界から飛ばされて来たと。もしかしたらその原因は転移魔法に関わるものかもしれない。それに関してどこかで調べようと思っていたんだ」

「転移魔法……そんなのもあるんですね」


 クラライナが説明の言葉を発し、水戸美はその言葉中のワードを聞き留め、感心の言葉を零す。


「うん、ある場所から別の場所まで一瞬で移動できる能力。……といっても、あくまで〝この世界の中で〟での話あって、異世界に行ける魔法ってのは、ボク達も聞いた事ないんだけどね。あはは……」


 クラライナからの説明を引き継ぎ発し発したファニールは、しかし最後に付け加えて困り笑いを浮かべて見せる。


「だが無いと決まったわけでもない。とにかく調べてみない事には始まらない……と思ったんだが……ミトミさんにも話したとおり、この国は国勢が不安定だ。腰を据えて調べるには向かない」

「実際、昨日の町もここもそんな雰囲気じゃないもんね。昨日の町でそれとなく聞いてみたけど、相手にされないわ、鼻で笑われちゃうわで……。あ、ミトミさんの名前は出さなかったから安心して」

「え?」


 ファニールの最後の言葉に、水戸美の顔に疑問が浮かぶ。


「町で行方不明が起こっているという噂は聞いただろう?そんなよくない噂が飛び交う国内で、ミトミさんの話を下手に出して、君の存在を変に目立たせる事は、避けるに越したことは無い」

「あ、そうか……ごめんなさい、私そんな所まで気が回ってなかった……」

「ミトミさんが謝ることではないさ。普通に生活している分には、本来気にするような事ではないからな」


 説明を聞いての水戸美の申し訳なさそうな言葉に、クラライナはフォローの言葉を入れる。


「そうそう……それにそう言うボク自身達は、魅光の国の勇者だって各町で名乗っちゃって、いっつも目立ってるんだけどね」

「私達はしょうがないだろう。身分の提示、証明は全ての国の勇者に共通する義務だ。勇者の名を偽り、不貞を働く輩もいると聞くからな、まったく……」


 呟き、溜息を吐くクラライナ。


「まぁ、私達が身分を明かす分には、大丈夫だと思う。私達が自ら名乗るのは抑止の意味もあるから」

「抑止ですか?」


 そして続けてのクラライナの言葉。それに水戸美は、再び疑問の声を上げる。それに対してクラライナは説明を紡ぐ。

 ファニール達を含め各国の勇者には、対魔王軍連合に参加している数十カ国からの後押し、支援があるのだという。その後ろ盾を持つ勇者に手を出せば、連合加盟国を全て敵に回す事になる。クラライナはその事を説明し、その事から勇者に手を出してくる輩はまずいないだろうと、水戸美を安心させる言葉を発した。


「そうなんだ……」


 感心した様子の水戸美を前に、クラライナは何か少し得意げな表情を見せる。しかし一方で、ファニールは少し呆れの混じった表情で、麗氷の騎士を見ていた。


「……なーんか麗氷、組織の大きさを盾にする小悪党みたい」

「なッ!?そ、そんなつもりはない!院生さんを安心させようとしただけだ!」

「へぇー」


 慌て弁明の言葉を並べるクラライナを、ファニールは意地悪そうなジト目で見ている。


「わ、私は分かってますよ……!?ありがとうございますクラライナさん」


 そこへ、水戸美は戸惑いつつもフォローの言葉を入れた。


「と、とにかく!そういう事だし、私達もついている。ミトミさんが心配するような事はないから、安心してくれ。……ただ、いった通りミトミさんの転移の原因調査については、少し先になりそうなんだ」

「わかりました、それはしょうがないですよね」


 クラライナは仕切り直して水戸美に安心するよう告げ、そして同時に少し申し訳なさそうに断りの言葉を紡ぐ。対して水戸美は、別段気にした様子はないように、了承の言葉を返した。


「じゃあ、ちょっと休憩したら買出しに行くけど、それまでは休んでて。ボク達は下でちょっと聞き込みをしてくるから」


 そしてファニールは水戸美に断り、ファニールとクラライナは部屋を出て行った。




 部屋を出たファニール達は、廊下を歩きながら言葉を交わす。


「ねぇクラライナ。ミトミさんには少し先って言ったけど、具体的にはどれくらいかかると思う?」

「そうだな……この国を出て、笑癒の公国のどこかの町で腰を据えて調べられればと思っているが……少なくとも10日20日程度では無理だろうな」


 ファニールの言葉に、クラライナはそう推測の言葉を返す。


「だよね。それに隣の国がまともな国ならいいけど、ここみたいだったらどうする?」

「そうでないと祈りたいが……どうだろうな。栄と結束の王国を出た時点ではまだ穏やかだったのに、大陸を東に行く程にきな臭さが酷くなってゆくからな。各町の空気は重くなり、よろしくない輩を見かける率も増える」

「院生さんの時含めて、四回も盗賊みたいなのと出くわしたからねー……正直ボク達の国って、このご時勢ではかなり平和なほうだったよね」

「私達の心与の大陸は、魔王軍の拠点から一番遠い大陸だからな。むしろ今は、この大陸の状況のほうが普通なんだろう……」


 いくらかの言葉を交わした後に、少しの間押し黙る二人。


「……もしさぁ、笑癒の公国でもゆっくりできないようなら、ミトミさんを連れて魅光の王国に戻ろうかと考えてるんだ」

「ッ!なんだって……?」


 しかし次に発されたファニールの提案の言葉に、クラライナは驚く様子を見せた。


「だってそれしかないじゃん。このままミトミさんを連れて対魔王戦線に合流するなんてできないし、かといってミトミさんを見知らぬ土地に置いてくなんて論外だし」

「それはそうだが……勇者としての使命はどうなる!?」

「その時は院生さんの件が終わってから再出発すればいいじゃない。ほら、道中調べ切れなかった宝具の情報とかもあったしさ」

「そんな悠長な事を……!だいたい、何もそこまでする事は……!」


 ファニールのそれ等の提案に対して、声を少し大きくして訴えかけるクラライナ。


「ひょっとしてさぁ……クラライナってミトミさんの事疑ってる?」

「!」


 しかしそこへのファニールからの問いかけに、クラライナは言葉を詰まらせた。


「……正直、疑問に思っている所はある。確かに不思議なものをいくつも見せられたが、異世界だなんて……ミトミさんの手前はっきりとは言わなかったが、正直鵜呑みにはできない」

「まぁ、ボクもそのへんはピンと来てないよ。でもさ、いちばん今の事態を信じられてないのはミトミさんだと思うんだよね。ミトミさんの不安な表情は何度か見たでしょ?あれは本当にどうしたらいいか分からないって顔だったよ」

「確かにそうだが……」


 ファニールの説く言葉に、しかしクラライナは納得し切れないといった様子を見せる。


「それにさ。ナイトウルフを相手にした時、危険を顧みずに助けに来てくれたじゃない?ボク達だって恩があるし、そんな人一人助けられないようじゃ、ボク達に世界なんて救えないよ?」


 そんなクラライナに向けて、ファニールは続け言葉を紡ぐ。


「そうだな……どうにも私は、先の事しか見えていなかったようだ」


 その言葉に、クラライナは少し考えた後に、ファニールに同意する言葉を紡ぐ。そして彼女は、自分の顔を両手で軽く叩いた。


「しかし、いきなり帰国はさすがに話が飛びすぎだ。もし笑癒の公国で目処が立たない様なら、月詠湖の国まで引き返し、そこで院生さんの転移について調べてはどうだ?」

「あ、それいいね」

「はぁ、まったく……」


 クラライナの考えを改めての提案に、軽い口調で答えるファニール。そんな彼女に、クラライナは少し呆れた様子で零した。

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