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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター11:「Silent Search」
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11-1:「危険言動指揮官、1名」

 時系列は正午過ぎ頃まで遡る。

 凪美の町と露草の町の二つの町を結ぶ轍を、三頭の馬が進む姿がある。そしてそれぞれの馬上には、勇者ファニール達と水戸美の姿があった。

 馬の内の一騎はクラライナの愛馬で、彼女が馬上に跨り愛馬を操っている。そして別の一頭には、ファニールと水戸美の姿が乗っている。


「あ、見えてきたよ」


 ファニールが声を上げ、進行方向の先を指し示す。

 轍の先、なだらかな丘の向こうに、目的地である凪美の町を囲む、城壁がその姿を現した。


「やはり馬を路程で活用できると早いな」

「だね。歩きなら途中で夜を越す必要があっただろうし。助かったよ、ヘリナンさん」


 ファニールはクラライナと言葉を交わした後に、視線を上げて発する。三頭の内、一番先頭を行く馬の馬上には、ファニール達一行とはまた別の、一人の女の姿があった。


「いやぁ、それはこっちも同じさ。急な小包移送の依頼を受けたんだけど、ちょうど受けてくれる護衛がいなくて困ってたんだ。そんなところで、まさか勇者様達に護衛してもらえる事になるとはね」


 ヘリナンと呼ばれた彼女は、馬上より振り返ると笑顔でそう返した。

 ――昨日の事だ。

 露草の町を出発としていた燐美の勇者達は、門のところでこのヘリナンに声をかけられた。運び屋を営む彼女は、凪美の町までの護衛を探しており、その護衛を引き受けてくれないかとの話をファニールらに持ちかけて来たのだ。引き受けてくれればその対価として、多くはないがその代金と、そして彼女の所有する馬を足として提供できるとの話であった。

 彼女の出発は翌朝であり、一日露草の町で泊らなければならなかったが、それでも徒歩よりは早く着けるだろうという判断から、ファニール達は護衛を引き受ける事としたのだ。

 ちなみにファニール達は馬の提供のみを対価として受け入れ、代金の受け取りは遠慮した。


「今は、昼をちょっと過ぎたくらいか……歩きだと日が暮れていただろうな」

「ミトミさん、大丈夫?」


 ファニールは自分の後ろに乗る水戸美に尋ねる。


「あ、はい」

「もう少しだから、辛抱してちょうだい」


 ヘリナンからはそんな言葉が掛けられる。

 彼女の言葉通り、一行は間もなくして凪美の町へと辿り着いた。

 ファニール達は門の詰め所で身分を証明。門をくぐった先で厩舎にクラライナの愛馬を預ける等、町へ入る各種手順手続きを踏んだ。


「ヘリナンさん。ありがとう、本当に助かったよ」


「それはこっちも同じさ。それに道中楽しかったよ」


諸々の手続きが済んだ後、ファニール達はヘリナンと別れる事と成り、礼と別れの言葉を交わす。


「じゃあ、名残惜しいけど、ボク達はここで」

「ありがとうございました」

「あぁ、元気でね」


 そして手を振りながら両者は分かれ、ファニール達はやがて町並みへと溶け込んで行った。


「……」


 ファニール達の姿が完全に見えなくなると、ヘリナンはその顔色を少し鋭い物に変えた。そして彼女は近くの家屋に走り扉を叩く。すると間を置かずに扉が開き、一人の男が顔を出した。


「行ったよ、尾行は?」

「すでに追わせてる、早く中に入れ」


 短いやり取りの後、ヘリナンと男は屋内へと姿を消した。




 時系列は戻り、夕方。場所は草風の村へ。


「……了解、手配します。終ワリ」


 村の中心部。立ち並ぶ天幕の一番端に停められた新型73式小型トラックに、帆櫛が半身を乗り入れ、無線を扱っている。

 82式指揮通信車が唯一の装輪装甲車として駆り出されている現在、無線付きの新小型トラックが、指揮通信車代わりとして運用されていた。

 帆櫛は無線通信を終えると新型小型トラックを離れ、パラパラと降る雨から逃れるように、隣に設営されている指揮所として使われている天幕の出入り口をくぐった。


「井神一曹、小千谷二尉」


 天幕内へ入ると、内部では長机上に視線を落とす、井神と小千谷の姿があった。

 井神に関しては、昼頃までは月詠湖の国のフォートスティートの隊宿営地に身を置いていたが、つい少し前にスティルエイト兄妹による転移魔法の設置が完了し、それを利用して現在は草風の村へと合流していた。


「帆櫛か。通信が来たのか?」

「はい、たった向こうの小隊から連絡がありました。目標人物の確保拘束に成功。加えて、証拠として有用と思われる、文書類を押収したそうです」


 井神の問いかけに、帆櫛はそう答える。

 先に帆櫛が無線通信で受け取っていたのは、商議会の議員の確保拘束に向かった部隊からの、作戦成功の報であった。


「マジか」


 帆櫛の報告に、小千谷が驚き混じりの感心の声を零す。


「最初に聞いた限りじゃ、面倒な事になりそうだと思っていたが――一気に重要人物に王手をかけられたようだな」

「あと何時間か遅れてたら、拘束は無理だったかもしれない。運も味方したようだ」


 そして小千谷は続け、事態が前進した事を微かにだが喜ぶ言葉を発し、そして井神は際どい作戦の成功に、肩の力を抜き息を吐く。

 先に拘束した商議会雇われの青年リーサーは、聴取によって商議会が秘密裏に行っている活動の内容、そしてそれに関係している人物を知っている限り暴露した。さらにリーサーからは、関係者の一人である議員の男ムエアが、露草の町から凪美の町へ本日中に移動するという情報が得られた。

 井神はその情報を元に、議員の確保拘束作戦を立案、実行を決断したのだ。


「その代わりなのか何なのか、こっちは厄介な事になったがな」


 確保拘束作戦の成功を歓迎する一方で、井神は少し眉を顰めながら、長机の上に置かれてい地図に目を落とす。

 リーサーの各種暴露は有益な情報と同時に、新たな問題を発覚させた。

 理由は不明だが、商議会は勇者一行を捕らえるための行動を起こしているらしい。そして邦人の身を寄せている勇者一行は、商議会の息の掛かり罠の張られた凪美の町に、すでに入っているというのだ。


「町に入る前に接触して、保護回収する手筈だったんだがな――困ったもんだ」


 邦人への接触、及び保護がその難しさを増した事に、井神はどこか面白くなさそうな様子を見せて呟く。


「今後もどうなるか分からんな。井神さん、俺はヘリに戻るよ。いつでも飛べるように備えておく」


 小千谷はそう井神に発しながら、視線を上げて長机を離れる。


「分かりました、何か変わりがあったらすぐに伝えます」


 天幕の出入り口に向かっていく小千谷に、そう伝える井神。小千谷はそれに手を翳して返し、そして天幕を後にした。


「次から次へと」


 小千谷の姿を見送った井神は、呟きながら再び長机上の地図へと視線を落とし、そして地図上を指でなぞる。そんな様子を見せる井神に、脇に立つ帆櫛は少し難しい表情を向けていた。


「――ん?どうした、帆櫛」


 彼女のそれに気付き、井神はチラと一度視線を起こして送り、尋ねる言葉を発する。


「井神一曹……お言葉ですが、今回の行動は問題ではないですか……?」


 井神からの問いかけに対して、引き続きの難しい表情で、そんな尋ねる言葉を返した。


「んー?まぁグレーゾーンと言った所か?俺等の立場は、この世界ではまだあやふやだ。向こうさん側もいずれこっちの存在を明確に掴むだろうが、それまでにはまだいくらか時間的猶予がある。それまでに、どこまで動けるかだな」


 井神は地図へと視線を戻して引き続き目を走らせながら、そんな言葉を帆櫛に向けて紡ぐ。それは隊のこの世界、この地域での立場現状に関してを説く物だ。


「そういう事を言ってるのではありません!ここまでの各地での武力行使に、ましてや他国の重要人物の拉致!すでに……国防行為の範疇を超えています!」


 しかし一方の帆櫛は、そこで声を大きくして訴えた。

 彼女が言及したのは、これまでの井神の指示の元での隊の行動が、元の世界――日本に置いて定められた各種防衛法及び規則に当てはめた上で、著しく逸脱した行為では無いかという事を問い尋ねる物であった。


「んん?超えちゃいないと考えるがな。邦人の身柄が危険に晒されようとしている。それを防ぐために必要な措置だと思っている」


「要人確保の強行もそうだと!?そうは思えません!確かにこの地域周辺は複雑な問題を抱え、平和や安全が脅かされているようですが……現状では私達と直接関与しない問題です!邦人を保護のためというには、ここまでの関与介入はあきらかに過剰と思います!」


 帆櫛は長机に身を乗り出し、井神に対して捲くし立てる。


「帆櫛。どこまでをもって保護とする?」


 しかしそんな帆櫛に、井神は顔を上げて一言そう尋ねた。


「は、はい?」


 怪訝な声を返した帆櫛に、井神は言葉を続ける。

 隊が今居るのは日本では――いや地球ではない異世界である。邦人を保護したとして、そのまま帰せるわけではない。隊で長期の保護が必要となるであろう。

 しかしそもそも現状では、井神を筆頭とする隊自体が、難民も同然の状況である。現状では邦人の長期保護はおろか、自分等の身の安全すら、先の保障は無いのが現実だ。


「それは、そうですが……」


 井神の説明に、戸惑いつつ零し返す帆櫛。


「だからこそ、安定した態勢を得ることは急務だ。それにはこの世界の国々に対する、発言権も重要になって来るだろう」

「な……!」


 そして井神の次の発言に、帆櫛は目を剥いた。そんな彼女に気付いては定かではないが、井神は続ける。


「まして俺等は現在、向こう国内で勝手に原油を採掘してる状況だ。場所が個人所有領である事や、この世界では原油が重要資源として見られてはいない様子から、今の所大きく問題とはなっていないが、この先それがどうなるかは分からない。見越しての発言権、他要素は、一つでも多く欲しい所だ」

「……」

「わかるだろう?すべては長期的な邦人の保護に繋がる。日本国隊は、国民と財産を何に変えても死守するのが任務だ」


 そこまでの説明の一切を、井神は涼しい表情のままに言ってのけた。

 長期的な活動や邦人の保護を考えれば、確かにわからない話ではない。だが見方を変えれば、邦人が危機やこの世界の緊迫した状況を、自分達の立場を盤石とするために利用するという風にも取れる。

 加えて、今回のほぼ拉致まがいの確保拘束作戦の実行指示。せめて、少しは躊躇するような姿を見せてもいいのではないか。そう思った帆櫛だが、井神にはそんな様子は微塵も感じられなかった。


(この人は……)


 その姿に、帆櫛は井神という人物についての人物像を思い返していた。

 井神は普段は物静かな人物だが、時折、不穏な面を見せることがあった。

 演習時には、陸曹の権限を越えるような指示で隊を運用する事が数度、さらには倫理観を疑うような意見を、幹部へ具申する事もあったと言う。

 結果的に良い方向に運んだため、それらの行為に目をつむられてきたが、それらの行為は当然、上層部から警戒される事となった。そしてそれが所以で、一曹が潜在的危険思想の持ち主として、合格基準を満たしているにもかかわらず、幹部への昇任から弾かれたという噂すら聞いていた。


(……この人は、危険だ……!)


 帆櫛自身も井神に対して少なからず疑念を抱いてはいたが、この瞬間、彼女のそれは確信に代わった。加えて、陸幹部不在の状況で、井神を止める人間はいないも同然。彼女は、微かな恐怖すら覚えていた。


「とにかく他に道は無い。これ以降も色々動かなければならない。各種調整も必要だろうな」


「……」


 だがそれを言葉にする事はできず、帆櫛はただ井神の姿を見つめた。

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