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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター10:「Intrigue&Irregular」
119/224

10-12:「Armored Block」

 同時刻。現れた商議会の隊列より、さらに1km以上先。

 通る轍を少し外れた所に茂る、木立と草木。その影を利用して、他の各隊の各車同様にその身を隠す、82式指揮通信車の車体がある。


《――チャプター開始、チャプター開始》

「来たな」


 その車上のキューポラ上で、車長の矢万が作戦開始の合図を、身に着けるインターカムより聞いた。


「作戦開始だ――82操縦手、出せ」

《了解》


 作戦開始の報を聞いた矢万は、操縦手である鬼奈落にインカム越しに指示を送る。操縦席の鬼奈落からの返答とともに、アイドリング状態にあった指揮通信車のエンジンは、一層の唸り声を上げる。そして指揮通信車は動き出した。

 身を隠していた木立草木を押し退け踏み倒し、その先へと出る指揮通信車。そして少し走り轍に乗ると、方向を変えて轍に沿って走り出した。

 走り出した指揮通信車はその正面先は、轍に沿いこちらに向かってくる商議会の隊列が見える。指揮通信車により、商議会の隊列を真正面より迎え撃ち、その進路を封鎖。隊列を強制停止させる――これが隊の腹積もりであった。


「真正面、轍上に目視」


 対象の隊列を目視し、それを声に出す矢万。

 さらに彼の眼は、隊列の両サイド後方より追いかけ上げて来る、高機動車と小型トラックの姿を向こうに見る。


「よし、一度停車しろ」


 一定の距離を詰めた所で、矢万が指示の声を発して指揮通信車は一度停車する。


《――こちらは、ニホンコクリクタイです。ただちにその場で停止し、こちらの指示に従いなさい》


 そのタイミングで高機動車の方向から、拡声器を通した物であろう効果の効いた、停止命令の音声が聞こえ来る。


《素直に止まりますかね》

「さぁな、期待はするなよ」


 その音声を遠くに聞いた上での、鬼奈落からの疑念の言葉が、インカム越しに矢万に届く。それに対して、キューポラ上で先の隊列を観察しながら、返す矢万。


「矢万三曹」


 そこへ別の声が矢万に掛けられる。

 声を辿り、矢万はキューポラの隙間より、指揮通信車の車内に視線を降ろす。その向こう、指揮通信車の後部隊員用スペース内に、座席を立ちこちらを見上げる威末の姿があった。さらに奥には、武器科の門試の姿もある。両名は、指揮通信車の随伴及び展開要員として、同車に同乗していた。


「俺達は、まだ展開しなくてもいいんですか?」

「まだ待つんだ。向こうさんがどう動くかわからん、出方を見る」


 こちらを見上げ尋ねて来た威末に、いましばらくの待機を指示する矢万。


「了解。門試、まだだそうだ」


 その指示に了解の返答を返した威末は、門試に伝えつつ、再び着席する様子を見せた。




「お、おい……!なんなんだあれは!?」

「反対側からも、追ってくるぞ!」


 一方の商議会の隊列側。

 議員の乗る馬車の護衛に着く警備兵達は、混乱の渦中にあった。


「ま、前を見ろ!前にも何か、大きい物がいるぞ……!?」

「と、止まれとか言ってたぞ……ど、どうするんだ……!」

「どうするって……」


 突如として周辺より姿を現し、そして自分達を追いかけて来る異質な物体の数々に。そして得体の知れぬ異質な音声での停止命令。一度に立て続いた異質な出来事の数々に、警備兵達の狼狽は大きく、適切な判断を下せずにいた。


「バカモンッ!狼狽えるな!」


 しかしそこへ、戸惑う警備兵達に怒号が降りかかった。

 その主は、隊列の先頭に位置する馬に跨る、中年の男。男は、この隊列の護衛隊の指揮官であった。


「得体の知れぬ輩の言う事に、正直に従う奴があるか!あれが何であろうと関係ない!議員殿を守るのが我々の仕事だ!」


 声を張り上げ、警備兵達に檄を飛ばす中年の警備兵。


「ラニス、重装警騎の者達は馬車の守りを固めるのだ!」

「わ、分かりました!」


 そして中年の警備兵は、隊伍の中にいた一名を名指しして命令。該当の重装警騎の者は飛び上がるように返事を返す。


「よし、任せたぞ!ニルとミリノンは私と来るのだ、進路を塞ぐあの得体の知れぬ物を排除する!」

「え!?し、しかし……!」


 続き、隊伍の中の軽騎警備兵達に追従の指示を発する中年の警備兵。しかしそれを受けた警備兵達は、その指示内容に再び狼狽える声を発し、さらには顔を青くする。


「ええい、狼狽えるなと言ったろう!役目を果たすのだ!行くぞ、続けぇ!」

「は……は!」


 中年の警備兵が勇ましい掛け声を共に、手綱を操り愛馬と共に駆け出す。そして他の指名を受けた二名の警備兵も、戸惑いつつもそれに追従。三騎は、その先に鎮座する異質な物体目がけて、吶喊を開始した。




「――先頭配置の内の三体、こっちに向かってくる。――武器も抜いた、攻撃行動だ」


 指揮通信車のキューポラ上で、双眼鏡を覗いて先の隊列の様子を観察していた矢万。その隊列より一部の騎兵が、攻撃行動であろう動きを見せた事に、その事を苦い口調でインカムに発する。


《困りましたね。こちらからも、停止の要請を呼び掛けますか?》


 発信に対して、操縦席の鬼奈落からそんな進言の言葉が返される。


「いや、言葉じゃ止まらないだろう――警告射撃をやる」


 しかし矢万は進言に対してそう返す。そして警告射撃を行う判断を取り、同時に避けてあった12.7㎜重機関銃の握把を握り、引っ張りターレットを旋回させて寄せる。


「後続の馬車を射線から外したい。鬼奈落、少し位置を変えてくれ」

「了解です」


矢万は、拘束対象の乗る馬車にまで流れ弾が行く可能性を鑑み、射線を変えるべく指揮通信車の移動を鬼奈落に指示。指示はすかさず鬼奈落の手で動きとして反映され、指揮通信車は轍の上を外れて、少しだけ位置を変える。


「素直に止まってくれるか」


 再び停止した車上で、矢万は12.7㎜重機関銃を再度旋回させ、細かな照準動作を行う。狙うは、接近する軽騎警備兵達の、その馬の足元側面。

 矢万は照準が確かである事を確認し、押し鉄に置いた両親指に力を込めた。

 火薬の炸裂音と、重々しく金を撃つ音。それ等からなる数発分の発砲音が響き、銃口から12.7㎜口径弾が複数発撃ち出される。

 その12.7㎜口径弾の群れは、瞬間に迫る軽騎警備兵達の元へ到達。彼等の馬の足元に着弾し、衝撃を起こして土を微かに巻き上げた。


「――止まらないか」


 しかし先の光景に、矢万は再び苦い声を零す。

 身の近くを襲った射撃に、警備兵達は微かに動揺の色こそ見せたが、しかしその吶喊の勢いを減退させる様子は見せなかった。


《こちらへの排除意識が強いようです。生半可な警告では、無理そうですね》


 操縦席より同様の光景を見ているであろう鬼奈落より、冷静な声での分析の言葉が寄越される。


「――仕方がない。直接の処理行動を行う」


 鬼奈落の言葉を聞き、少しの考えの後に矢万は決断の声を零す。

 そして、再び12.7㎜重機関銃を操作し、再照準を行う。今度狙うは、迫る軽騎警備兵達の先頭を来る一騎。その馬上の人間。

 照準の先にその姿を収め、一呼吸置いた後に、矢万は押し鉄に置く親指に力を込めた――




 現れた前方を塞いだ異質な物体に対して、陣形を組み突撃行動を行う中年の警備兵達。

 そんな彼等の眼は、その異質な物体が轍の上から移動する様子を見る。そして少しの間の直後、何かが破裂するような音が、複数回に渡り響き聞こえ来た。


「ッ!?」


 そしてほぼ同時に、彼等の跨り操る愛馬の足元で、何かが弾けそして土が微かに舞う。


「け、警備兵長!今、何かが……!」


 突然の現象に、警備兵達はその正体こそ掴めぬ物の、それが何らかの自分達を狙った攻撃行動である事に漠然と察しを付け、困惑の声を発する。


「矢……!?いや魔法か……!?」

「落ち着け!狙いは甘いようだ。このまま踏み込み、射手ないし術師を討つ!」


 しかし中年の警備兵は、そんな警備兵達に対して張り上げ宥める。そして手綱を握る力を強くし、前方に鎮座する謎の物体を睨む。

 再びの異質な破裂音が響き聞こえたのは、その直後――


「また――」


険しい顔を作り、忌々しく吐き零そうとした中年の警備兵。――その顔の上半分が爆ぜ飛んだの、その瞬間であった。


「――は?」


 追従する警備兵の一人が、先を行く長のその変貌に、素っ頓狂な声を上げる。

 その視線の先の中年の警備兵は、頭の上半分を失い、次には残った下半分から血を思い切り噴き出す様子を見せる。

 そして中年の警備兵の体はやがて支える力を失ったのか、走る愛馬の上でぐらりと揺れ、そして地面に投げ出された。


「――え?」


 突然進路上に落下する様子を見せた長に、後続の警備兵達は、理解が及ばぬまま反射で手綱を引き、それぞれの愛馬を急停止させる。

 中年の警備兵の愛馬は主を失ったまま明後日の方向に走り去ってしまい、その場に残されたのは中年の警備兵の体のみ。

 顔の上半分を失ったその体は、地面に力なく放り出され、おびただしい量の血を地面に流している。そして見渡せば、中年の警備兵の頭部を構成していた〝パーツ〟が周囲に散らばっている様子も見えた。




「――先頭一体排除。後続は止まった」


 矢万は12.7㎜重機関銃の照準の向こうに、接近する軽騎警備兵の内の一体の無力化を確認。そこからさらに、動きを止めた後続の警備兵に照準を合わせようとする。

 しかしインカムに通信が飛び込んだのは、その時であった。


《アルマジロ1-1よりハシント。対象の乗る馬車が、道を外れての逃走を図っている》

「はい?」


 聞こえ来たのは、高機動車の長沼からの状況を知らせる声。

 それを頼りに視線を動かせば、拘束対象の乗る馬車が轍を外れて草原には入り、逃走を図ろうとしている様子が確かに確認できた。


「ッ――面倒な事を」


 その光景に、顔を顰め悪態を吐く矢万。


《抑えてくれ。こちらからも向うが、君等からの方が早い》


 そこへ続けて、長沼より馬車を抑えるよう要請の言葉が届く。


「ハシント、了解――聞いたな鬼奈落?アレを追いかけろ!」

「前方の、残った彼等はどうします?」


 要請に了解の返答の声を返した矢万は、そしてただちに鬼奈落に向けて指示を発する。

 しかしそれを受けた一方の鬼奈落は、指揮通信車を発進させながらも、残る警備兵達への対応をいかにするべきかを尋ね返す。

先に見える軽騎警備兵達は、地面に落下した先頭の警備兵を前に、馬を止めてそこから動きを見せる様子は無い。


「後回しだ、それより拘束対象の馬車を優先する。他、各員は戦闘展開に備えろ!」


 鬼奈落の尋ねる言葉に、矢万は馬車を優先する旨を発し返す。そして同時に、指揮通信車に搭乗している各員に、備えるよう告げる。


「了解」


 その指示に、鬼奈落は端的に返してアクセルを踏み込む。エンジンを再び吹かし、指揮通信車は拘束対象の馬車を抑えるべく、動き出して速度を上げた。




「……」


警備兵達は、それぞれの愛馬の上から、地面に視線を落としていた。

 地面には彼等の長である中年の警備兵の、頭の破裂部から流れ出した血液が、ドス黒い水溜まりを作っている。


「な、なんだこりゃ……何が起こったんだ……?」


 状況を未だ呑み込み切れずに、警備兵の内の片割れが、そんな困惑の声を零す。一方、もう一人の警備兵は、地面の血溜まりをただ呆然と見つめている。


「……あ……あ……うわ、うわぁぁぁッ!?」


 だが次の瞬間、その彼は叫び声を上げる。そして彼は愛馬の手綱を考えなく引き、そのばから駆け出し、いや逃げ出した。


「ニル!?おい!?」


 突然逃走を図った同僚の姿に、もう一人の警備兵は彼の名を呼び叫ぶ。しかし錯乱した彼がそれに応じる事は無く、彼と愛馬は轍を外れて逃げてゆく。

 その先が、馬車を追いかける指揮通信車とぶつかる進路だとも知らずに。




 轍を外れ逃走を始めた馬車。それを正面より迎え抑えるべく、指揮通信車は速度を上げる。


「際まで近づけて、奴さんの進路を塞ぎ強制停止させるんだ。頼むぞ、うまくやれ」

《えぇ、了解》


 不整地を走るために揺れる指揮通信車の上で、先に見える馬車を視線で追いながら発する矢万。ハンドルを預かる鬼奈落からは返事が返され、指揮通信車は細かく進路を変えながら、馬車との距離を詰める。

 このまま行けば、うまく馬車の進路を塞ぐ事ができると思われた。


『ハシント、後ろを見ろ!そちらの右側後方、一騎突っ込んでくるぞ!』


 しかしインカムより、長沼の声で警告の報が寄越され聞こえ来たのはその時であった。


「はい――!?」


 飛び込んで来た報に、矢万は声を零しながらも、示された方向へと半身を捻り振り返る。

 指揮通信車の右側やや後方、ギリギリ矢万等の視界の死角となっていた方向。矢万はそこに、かなりの速度を出し、そして目と鼻の先まで迫った一騎の軽騎警備兵の姿を見る。

 先に、取り乱し走り出した軽騎警備兵だ。

 そしてその軽騎警備兵は次の瞬間、指揮通信車の進路上に割り入るように、その身を飛び出した。


「――ッ!回避ッ――」

《ダメです――》


 それを見止めた瞬間、矢万は目を剥き、そして張り上げる。だがほとんど同時に鬼奈落から返される、それがすでに間に合わない事を告げる一言。

 そして指揮通信車はそのまま、進路を遮った軽騎警備兵と衝突した。


「――ヅッ!」


 指揮通信車はその正面を馬の胴に激突させた。 衝突により鈍い音が響き、そして指揮通信車と搭乗する各員に衝撃が走る。


「ギェッ!?」


 一方、軽騎警備兵の側からは、人と馬それぞれの、鈍くしかし痛々しい悲鳴が聞こえ来た。

 馬は平均して300㎏近い体重と60㎞/hの速度を誇る。それを武器とする騎兵の走りを止める事は、並大抵の事ではないはずであった。しかし、13t以上の重量を持つ指揮通信車を前に、そのはずは容易く突き崩された。

 指揮通信車に激突された馬は、そのまままるで空き缶のように宙を飛び、その先の地面に叩き付けられ倒れる。

 かたや馬上にあった警備兵は、衝突により馬上より掬われ投げ出され、指揮通信車の車上へとその身を落した。


「おわッ!?」


 そのまま勢いで指揮通信車の上を転ってきた警備兵の体に、矢万は思わず声を上げる。しかし幸い、警備兵の揺れる車上でその姿勢を変え、矢万の脇を抜けて、側面から地面へと落下して行った。


「ヅッ!?」


 所が、直後に車体は大きく跳ねあがり、そして何か気色の悪い歪な間隔が、指揮通信車の各員を襲った。直感的に不快さを感じ取り、顔を歪め声を零す矢万。

 指揮通信車は、進路変更が間に合わずに、先に跳ね飛ばした馬の亡骸に乗り上げたのだ。コンバットタイヤが生き物の亡骸を轢いて潰したその感触が、各員へ伝わりその不快感を煽ったのだ。


《――まずいな》


 そこで零れ聞こえたのは、インカム越しの鬼奈落の微かな呟き。

 82式指揮通信車は車高が高く、バランスが悪い。

 そして馬車の前に回り込み抑えるために、それなりの速度を出していた指揮通信車は、その状態で馬の亡骸に乗り上げた事により、その体勢を崩した。

さらに間の悪いことに、馬の亡骸を乗り越えた指揮通信車の着地先には、地面から剥き出しになった岩の塊が待ち構えていた。指揮通信車は回避もままならずにそれを踏んで乗り上げ、車体は再び揺れて跳ねる。


「ごッ――!?何事ですッ!?」

「ッ――つかまってろッ!」


 突然車体が激しく揺れ出した事に、後部隊員用スペースで備えていた、威末からの状況を尋ねる声が聞こえ届く。しかし車上の矢万にも説明の余裕は無く、彼はキューポラにしがみ付きながら、身構えるよう要請する言葉だけを発する。

 二度の異物への乗り上げで酷くバランスを崩した指揮通信車は、鬼奈落の操縦でどうにかその状態を脱する。

 しかし揺れが収まった時には、指揮通信車はまた別の問題に踏み込んでいた。

 轍を外れた周辺一帯は、なだらかな斜面になっている。そして一帯を覆う、湿り気を含んだ草原。それ等の地形の影響で、揺れから回復した頃には指揮通信車の車体は、横滑りを始めていた。


「滑り出してる!?――鬼奈落、停止しろッ!」

《ダメです。今ブレーキをかけたら、横転の危険があります》


 矢万は指揮通信車の停止を命じるが、鬼奈落は今の状態での急停止は、横転の可能性がある旨を返す。

 その間にも、指揮通信車は危うい体勢と速度のまま草原の上を滑るように進み続ける。


「――ッ!前方!」


 そこで、矢万は進行方向の先に、目標である逃走中の馬車を見る。

 ここまでの一連の事態の間に、両者の距離は詰まり、今はすでに目と鼻の先。しかし、予定では馬車の進路を遮り停止させるはずであったが、今の指揮通信車の速度体勢は、それを成すには過剰過ぎる。


「ああ、畜生――」


 矢万の、視線の先に迫る馬車の姿。その上には、目を見開き恐怖の色を見せる、御者の姿までもがはっきりと見える。

 最早停止も回避もままならない。その事に、悪態を吐き零す矢万。

 ――そして指揮通信車は馬車に激突。その鋼鉄でできた強固な鼻っ面を、馬車の側面横腹へと叩き込んだ――

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