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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター10:「Intrigue&Irregular」
108/224

10-1:「戦闘後処理/邦人の行方」

 村の外での傭兵側からの襲撃を皮切りに始まり、苛烈さを見せた草風の村での戦闘は、納屋の一帯での攻防を最後に収まりを見せ始めた。

 合流した偵察捜索隊と呼応展開小隊は、村の中心部より少し外れた所にある、比較的損傷の軽微であった家屋とその周辺を避難区画と定めた。そしてそこを拠点として負傷者や村人達を収容、周辺の防護態勢を構築し、救護等各種活動を開始。

 さらに、集落の被害規模から偵察捜索隊と小隊だけでの対応は困難と判断され、さらなる増援、支援の要請が、月詠湖の国のスティルエイト・フォートスティートの宿営地へと発された。

 ――それから数時間が経過し、時刻が日にちを跨いだ頃に、増援部隊の車輛群が到着。

 それに伴い、草風の村では本格的な救護活動が開始された。




 避難区画とされた一帯の一角には病院天幕が設置されている。

 その内部には並んだ簡易ベッドにそれぞれ負傷者が寝かされ、そしてその間を、招集された衛生隊員等が急かしく動き回っていた。


「3番寝台の患者、血液検査終わったか?」


 その中で尋ねる声を発し上げる一人の衛生隊員の姿。

 一般入隊の身でありながら医師免許を持つ変わり者の隊員――峰だ。

 これまでその身分立場の貴重性から、五森の公国の分屯地で軟禁にも似た待機を命ぜられていた彼。しかしそんな彼も、隊の主たる活動の地が月詠湖の国側へ移ると予想された上で、つい昨日フォートスティートの宿営地へと移動して来ていた。

 そして今回の一件で息つく間もなく増援部隊の一員、そして貴重な医官代理としてこの草風の村に呼び寄せられ、負傷者の救護、治療処置等の活動の主導を取り、それ等に当たっていた。


「終わってます。今輸血準備中です」


 峰の呼び掛ける声に返したのは出蔵だ。


「峰、こっち――5番の消毒処理は終わったぞ」


 さらに衛生隊員、着郷が峰を呼ぶ姿がある。

 二人も峰同様、呼び寄せられ駆け付け、各種活動に追われている身であった。


「よし、縫合にかかる。君は次の患者の事前処置を」

「了解」

「出蔵。5番の追加の輸血パックも頼む――A型だ、間違えるなよ」

「A型了解」


 一つの処置や作業が終わればまた、すぐさま飛びつく様に衛生隊員等は次の手順に掛かって行く。


「――次、また一名搬送来るぞ」


 そこへ天幕内に陸曹が飛び込んで来て、声を発し上げる。新たな負傷者が運び込まれて来る報告だ。


「了解、10番寝台へ願います。着郷」

「10番、用意しとく」


 病院天幕内は展開以来この状況が続き、まさに修羅場といった様相を呈していた。




 病院天幕内で衛生隊員等が治療処置に追われている一方。外部――避難区画と定められた一帯も、喧騒に包まれていた。各種作業のために隊員が行き交い、そして車輛が出入りを繰り返している。

 その避難区画の一角に、指揮所として設営された業務用天幕があり、その中には数名の隊員の姿がある。

 その中心にいるのは長沼。増援部隊に同伴し草風の村へと到着した長沼は、穏原より引継ぎ先任者となり、この場の指導指揮を取っていた。そして今は神妙な面持ちで、傍に立つ隊員の報告の言葉を聞いている。


「――村の人口は60名程だそうですが、発見保護できたのは40名程。内12名が重症者です」


 隊員は手にしたメモ帳に視線を落とし、その内容――村人達の安否状況を長沼に伝えてゆく。


「犠牲者は?」

「今の所、住民の物と思しき遺体を10名分、回収しています。状況を鑑みるに、まだ増えると思われます」

「そうか……」


 痛ましい報告の内容に、長沼はその顔を険しくする。


「敵性勢力との接触は?」

「4度程、少数の敵との交戦報告がありましたが、一時間前に上がった報告が最後になります。それと、数名の生存者を確保拘束しています」


 長沼に告げられる各種報告。

 集結合流した隊は、その上で集落内の残敵の索敵掃討、及び生存者の発見保護のために、複数の分隊及び組を編成し、集落の各方へと発していた。

 内、残敵の索敵掃討に関しては、先の納屋での戦闘以降は大規模な戦闘は起こっておらず、傭兵残党との小競り合いのみが数軒発生したのみ。そしてそれも一時間前の報告を最後に鳴りを潜め、その事から集落の制圧安全化はほぼ成されたと見えた。

 一方、捜索の上での村人の生存者の発見はごく稀で、見つかり搬送されて来るのはほとんどがすでに息絶えた村人の体。

 身内、近しい人の変わり果てた姿に、生き残った村人達は哀しみ泣き崩れ、その光景が隊員等の心内を苦い物にしていた。


「……邦人の確認はできたのか?」


 心苦しい光景を思い返しながらも、長沼は次の言葉を隊員に発し尋ねる。

 肝心の隊の目的である、邦人の所在安否についてだ。


「現在の所、それらしき人物は確認されていません」


 隊員の口からは邦人の所在安否は確認されていない旨の言葉が返される。

 それを聞いた長沼は、邦人の発見保護に至れなかった事にうなだれるべきか、あるいは犠牲者の中に邦人の姿が無かった事を安堵するべきか、複雑な心境を浮かべていた。


「失礼します。長沼二曹、よろしいですか」


 そこへ天幕の出入り口を一人の隊員が潜り踏み入って来て、長沼に声が掛けられる。

 入って来た隊員は威末であった。


「大丈夫だ。どうした」

「村の村長さんの処置が終わったそうです。容態も少し回復し、いくらかは話ができるそうです」

「了解。行こう」


 威末の報告を受けた長沼は、その場を他の立ち会っていた陸曹に任せ、天幕を発った。




 先の負傷者の治療処置のために展開された病院天幕の横には、隣接して処置の終わった負傷者達を収容しておくための大型天幕が併設されていた。

 長沼は主要な陸曹に声を掛けて伴い、その収容用天幕を訪れ、入り口を潜る。

 内部には簡易ベッドが等間隔で並び、それ等には村長セノイを始め、治療処置の終わった村人達が寝かされていた。そして負傷者達の傍にはそれぞれ、身内や知り合いらしき者達の付き添う姿も見て取れる。


「失礼。通ります」


 長沼等はそんな村人達の合間を縫って通り、奥側に寝かされる村長セノイの元へと辿り着く。セノイは長沼等の到着を待っていたのか、簡易ベッドの上で半身を起こして、会釈をし長沼等を迎える様子を見せた。


「村長さん、ウチの上長を連れて来ました。この人と話をしてください」


 そのセノイに、まず面識のある威末がその横に立ち、声を掛け告げる。そして威末は横に立っていた長沼と場所を変わる。


「はじめまして。私はこの場の指揮官を代行しています、長沼と申します」

「こちらこそ。私はこの草風の村で村長をやらせてもらっている、セノイです」


 紹介長沼は威末と変わりその場に立ち、セノイと対面。まず自身の姓と身分を名乗った。それに対してセノイも己の身分と名を名乗る。


「経緯はお伺いしてます。お体の方は、大丈夫ですか?」


 続け長沼はセノイに向けて、容態を尋ねる言葉を投げかける。


「えぇ、正直まだ傷は痛むが……しかし、少しだけホッとしています」


 それに対してセノイは、まだ少し衰弱の見られる言葉で、しかし笑みを浮かべて返して見せた。


「お怪我を負われている身の所へ申し訳ありません。少しでもいいので、お話をさせていただけないかと思いまして」

「構いません、私からも望んだ事です。あなた方とは、お話をしたいと思っていた」


 一命は取り留めたとはいえ、傷は浅くなく衰弱の見られるセノイに、長沼は謝罪の言葉を述べ、それから対話を要望する旨を告げる。それに対してセノイは自身も対話を望む姿勢である事を返した。


「ありがとうございます。――さて、ではどこから話すべきか……」

「ならまずは、あなた達について教えて欲しいのだけれど」


 何を最初に話すべきか考えようとした長沼の元へ、端から声が飛び掛けられた。長沼始め各員が視線を声の方向へ向ければ、そこには村人の女、ゼリクスの姿があった。

 天幕内の端にある簡易ベッドの傍に立つ彼女。簡易ベッドには村人の男性ケルケの寝かされた姿もあり、ゼリクスがケルケに付き添っていた様子が伺える。

 そのゼリクスのキリっと釣り上がった目が、今は長沼等へと向けられていた。


「ゼリクス」


 ゼリクスから長沼等に向けて発せられた要求の言葉は、少し不躾さを感じさせる物であり、セノイは彼女のそれに対して、少し咎めるように言葉を送る。


「あぁ、その辺りの説明はまだだったのか?」


 対する長沼はさして気にした様子は見せず、そして傍にいた威末に尋ねるように言葉を発する。


「えぇ。名乗る事はしたんですが、切羽詰まってましたから、詳しい説明は後回しになってました」


 それに威末は、先の戦闘時の状況を思い返しながら、説明の言葉を告げる。


「成程。それではまず、私達の事をご説明しなければなりませんね」


 それを聞き、長沼は最初に自分等の身分正体の説明の必要がある事を理解し、言葉にする。


「私達は日本国隊。日本という国の、有事組織です」


 そして長沼はセノイ始め村人達に向けて、改めて自分等の組織名を名乗って見せた。


「ニホン……の部隊……。さっきもそう言っていたわね」


 長沼の改めての名乗りを聞いたゼリクスは、その名称を反芻。先に地下空間で威末が名乗った名称を思い返しながら呟く。


「傭兵――いや、ここまでの規模な所を見ると、どこかの軍隊なのか?」


 それに続け、声が上がる。ゼリクスに付き添われ簡易ベッドに横たわっていたケルケが、半身を起こす様子を見せ、そして尋ねる声を投げかけて来た。


「厳密には私達は軍を名乗ってはいないのですが――説明が難しいのですが、それに類する組織と考えて頂ければと思います」


 村人達からの投げかけに対して、そう説明して求める長沼。

 その何か特異さ、及び漠然とした物を感じさせる説明に、セノイ始め村人達は少し疑問を感じるような表情を見せる。

 長沼はその反応も無理は無いと考えたが、しかし日本及び日本国隊の抱える、特異で複雑な事情を今、事細かく説明する事はさすがに憚られた。


「とにかく、軍隊のような物なんだな……?でも、ニホンなんて国は聞いた事が無いな……」


 幸い村人達はそこに少しの異質さを抱きつつも、深く追求する事はせずに、受け入れてくれたようであった。そして村人達の中からケルケが、次の疑問の言葉を発する。


「それも無理はありません。私達の国は、遠く離れた所にあるものですから」


 対して長沼はそう説明する。必要以上の混乱を招かないため、あえて日本が別世界に存在する国である事の説明は、この場では控える事とした。

 一連の説明は少し漠然とした物であったが、村人達はとりあえずそれを受け入れる様子を見せた。


「――それで、そのニホンって国の軍隊が、どうしてこの村に?何が目的?」


 そしてその上で、ゼリクスが次の疑問を投げかけて来た。その彼女の眼には、まだ若干の警戒の色が見て取れる。


「そう警戒しないで――まぁ、無理も無いかもしれないが」


 そんなゼリクスを見止め、威末は宥め求める言葉を投げかける。


「私達は人の――国民の捜索の最中なんです――」


 長沼は村人達に、邦人――自分等の国の国民が、この紅の国に迷い込んでいるらしき情報を得ている事。状況から、その邦人を発見保護する必要性があると判断し、そのためにこの紅の国へと入り、各町や村を巡り捜索活動を行っている事を説明。

 そしてその途中で偵察捜索隊がこの村に、そして襲撃の現場に遭遇。邦人が村に存在する可能性、そして村そのものへの救援。各観点から介入に必要性を見止め、そして介入し現在に至る事を告げて見せた。


「成程、そういう事でしたか」


 長沼の説明に、セノイはこの場に日本国隊が居る理由について、納得した様子を見せる。


「その上でお尋ねしたいのですが、皆さんは次の人物に心当たりはありませんか?」


 そのセノイ達村人に向けて長沼は発しながら、手元に用意していたメモ帳に視線を落とす。そしてそこに記された、チナーチよりもたらされた邦人――水戸美の名前、及び外見的特徴。そしてその邦人が勇者一行に身を寄せているらしい事などを、村人達に伝えた。


「ミトミ……黒髪で背が高めの女の子。それに勇者一行……」

「間違いなく、あの子だな」


 その邦人の特徴を聞いた村人達の中から、二つの声が上がる。声の元は、天幕内の中程でそれぞれ簡易ベッドに座り、あるいは横たわる二人の男女。傭兵達に囲われて窮地に陥っていた所を、偵察捜索隊に救われた、ネイとネウフの二人だ。

 勇者ファニール達のナイトウルフ討伐の際に、水戸美の危機の訴えを受けて、その元に駆け付けた身である二人。その二人は長沼からその尋ね人の詳細や勇者の名を聞き、すぐにそれが水戸美やファニール達を示す物である事に察しを付けた。


「ご存じで?」

「はい。おそらく彼女達の事でしょう――」


 長沼の尋ねる声。それに対してネイ達同様に、その探し人が水戸美達であると気付いたセノイ。そしてセノイ達村人は説明を始める。

 まず彼等は、村が数日前にはナイトウルフの騒動に見舞われていた事を軽く説明。その最中に、魅光の王国の勇者ファニール達が数日前にこの村を訪問、そしてナイトウルフの討伐を買って出、成し遂げて見せた事。その中には珍しい道具を使い一役買った、不思議な女の存在もあった事。そしてそれが、長沼が述べた名前、特徴がそれと合致する事を述べて見せた。


「当たりだ」


 セノイ達村人の説明を聞き、長沼の横で威末が呟く。


「その方たちは、今もこの村に?」

「いえ。ナイトウルフ討伐を成し遂げたその日には、村を発たれました」

「そうですか……」


 邦人がすでに村を発ち、追いつき保護する事が叶わなかった事に、少し落胆の色を見せる長沼。しかし今回の集落襲撃に巻き込まれたという、最悪の事態は避けられた事に、同時に安堵した。


「ちなみに、その人達がここからどういう行路を辿るか等は、分かりますか?」

「えぇ、聞いております。確か、露草の町と凪美の町を経由して、隣国の笑癒の公国に向かうと」


 続けて、その邦人達一行の行く先を尋ねる長沼。セノイはそれに応え、この地域に存在するのであろう、各町や国の名を上げて見せる。


「地図は?」

「あります」


 長沼は背後に立つ隊員等に尋ねる。それに一人の陸曹が答え、この世界で調達された地図を取り出して広げ、長沼に見せる。


「露草――凪美――」


 広げ差し出された地図に視線を落とし、聞いた町の名を口に出しつつ、その名を地図の中に探す。そしてそれぞれの町の名と位置を見つけ、長沼は地図上に指先を走らせて、それらを結ぶ。


「予測と同じだな――その彼女達は、今どのあたりか予想は付きますか?」


 邦人達のその行路は、隊が予測した物と同じであった。その事を呟き、そして長沼は再びセノイ達に尋ねる。


「そうですな。彼女達は歩きの旅のようでしたから……今は露草の町と、凪美の町の間当たりでしょう」


 長沼の質問に、セノイは推測の言葉を上げる。


「この二つの町の間か」

「追いつけそうですかね?」

「先回りすればいい。この、凪美の町の先で網を張ろう」


 陸曹が疑問の声を上げ、長沼は地図に視線を落としながら答える。

 邦人の現在位置、辿ると思われる行路が判明し、それを元に長沼等は、邦人を回収するための算段を交わす。


「――接触できそうだな」


 邦人の所在が判明し、接触への光明が見えた事から、長沼は言葉と共に小さく息を吐いた。

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