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―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟 その異世界を巡る叙事詩――  作者: EPIC
チャプター9:「草と風の村、燃ゆる」
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9-12:「展開・制圧・撤収」

 時系列は少し戻る。

 納屋にて、接近するエンジンと履帯の音を、そして無線通信にて増援到着の報を聞いた制刻等。そして各員は間もなく、煙の立ち込める納屋の前を駆け抜けてゆく、装甲戦闘車の姿を見た。同時に随伴の普通科3分隊各員が煙を抜けて展開して行く様子も微かに見え、やがて各種火器装備の発砲音が響き出した。


「おでましのようだな」

「小隊が到着していたのか……!」


 到着し展開を始めた装甲戦闘車と3分隊の姿に、制刻等はそれぞれ言葉を零す。

 そんな所へさらに続けて納屋に、追走していた車輛と部隊も到着した。

 旧型小型トラックがそのまま納屋の仲間で走り込んできて乗り付け、納屋の前には高機動車が停車。


「火災が酷いな――1組は周囲へ展開、2組は消火作業に当たれ!」


 乗り込んで来た小型トラック上で、2分隊指揮官の陸曹が、納屋の状況を見て指示を張り上げる。各車輛には普通科2分隊の隊員が分乗しており、各員は陸曹の指示を受け、降車展開して各役割に当たって行く。


「制刻、鳳藤!それに威末士長達も、無事だったか!」


 小型トラック上には2分隊の各隊員の他に、便乗して来たのだろう河義の姿もあった。

 河義は制刻等や威末等の姿を見止めると、声を上げながら車上より飛び降りて来る。


「えぇ、まだ生きてました」


 河義に対して制刻は、威末等の姿を一瞥し示しながら端的に返す。


「三曹、状況は依然芳しくありません。早急に対応する必要があります――」


 一方、示された威末当人は、納屋は前後から敵の攻撃を受けており、これを無力化する必要がある事。火災の拡大が広く、早急な鎮火、あるいは地下にいる住民達を避難させる必要がある事を、河義に訴える。


「了解だ。――浦澤三曹」

「あぁ、聞いてた」


 訴えを聞いた河義は、近くで配下分隊の指揮を行っていた、2分隊指揮官の陸曹に声を掛ける。対する浦澤と呼ばれた2分隊指揮官は、指揮の片手間に返事を返す。


「優先は裏の敵だな――50口径に着け。準備できたら扉を開け」


 そして浦澤は新たな指示を分隊各員に向けて発する。

 指示を受け、数名の隊員が納屋裏手の大扉に取りつき、そして一人の隊員が納屋内に乗り込んだ小型トラックの荷台に、再び飛び乗る。

 小型トラックの荷台上には12.7㎜重機関銃が搭載据え付けられており、飛び乗った隊員は重機関銃に着き、その握把を握る。

 それが確認され、大扉に取りついた隊員等は、すでに捻じ開けられ隙間の空いていた大扉に手を掛け、そしてそれを大きく開き放った。

 開け放たれた大扉の向こうには、そこに控え突入を試みようとしていたのだろう、多数の傭兵達の姿が露わになる。

 ――その傭兵達に向けて銃口が向けられ押し鉄が押され、12.7㎜重機関銃は咆哮を上げた。


「――きぇッ?」


 最初に撃ち放たれた12.7㎜弾が一人の傭兵に命中し、その彼の頭をまるで果実の様に砕く。そして掠れた悲鳴とも取れない声が聞こえ来る。

 ――そこからは、傭兵達にとって阿鼻叫喚の光景が広がった。

 12.7㎜重機関銃からの銃火は、その場にいた傭兵達を一切の容赦なく攫えていった。傭兵達は起こった事態を理解する間も無く、文字道理爆ぜ飛び、粉砕されてゆく。

 さらに奇跡的に掃射を間逃れた傭兵も、2分隊各員の各個射撃が襲い、無力化されてゆく。


「――うぉッ!」


 そこへ隊の側へと傭兵側からの応射が襲来。

 襲い来たのは、これまでも散々目にしてきた巨大な鉱石の柱。鉱石柱は飛び来て納屋の側面、屋根に近い部分へと突き刺さり、崩れ落ちて来た壁の破片が2分隊の隊員等に降り注ぎ、隊員等から声が上がる。


「――これが噂の魔法攻撃か」


 浦澤は納屋の上部壁面を貫通した鉱石柱を、しげしげと見上げながら呟き零す。

 そして視線を開け放たれた裏手大扉から外へと向ければ、その先正面に一件の家屋が見える。鉱石柱は、そこから放たれた物と思われた。


「あそこからか――てき弾!」

「了」


 家屋を見止めた浦澤は、分隊員に命ずる。

 それを受けて、小銃てき弾の取り扱いを担当する一人の隊員が行動を始める。隊員は装備から小銃てき弾を取り出し、自身の小銃に装填装着。そして他の隊員の援護を受ける中、小銃を地面に立てて構える。

 そして先の家屋を狙い、引き金を引き、てき弾が発射。

 小銃てき弾は放物線を描いて家屋へと飛び、そして家屋の上階一角に飛び込み――炸裂。家屋の一角を大きく吹き飛ばした。

 小銃てき弾の炸裂に続けて、12.7㎜重機関銃の掃射が家屋へと向けられ襲う。同時に各隊員の銃火器の銃火も家屋へと向き、家屋のそこかしこに穴を開け、損壊させていった。




《ジャンカー3-1、北東方向建物の無力化を確認》

《3-2、これより家屋に向かい突入する。エンブリーへ支援要請》

《2-1。北西方向家屋クリア》

《3ヘッド――》


 納屋の内外各所に到着した呼応展開小隊の各隊が展開配置。傭兵を相手に本格的な戦闘が開始されて少し経過し、各隊からの無力化完了や制圧行動に掛かる旨の報告が、無線上に上がり始める。

 一方で、各所からは納屋に広がり上がる炎は、隊員の消火活動にも関わらず、収まる気配を見せずにいた。


「浦澤三曹。私達の消化装備だけでの鎮火は困難です」


 消化活動に当たっていた2分隊の隊員の一人が、空になった消火器を片手に、浦澤や河義の元へ来て報告を上げる。


「火の手が強すぎるか」

「やはり、ここからの避難撤収が必要ですね……」


 報告を聞き、呟き言葉を交わし合う浦澤と河義。そして河義は納屋の片隅へ視線を送る。


「信じられない……」

「一体なんなの……」


 片隅にある地下階段への開口部。そこには、そこから身を乗り出し、驚き呆気に取られた様子を見せる、村人のケルケとゼリクスの姿があった。

 二人は、現れ乗り込んで来た増援の呼応展開小隊の隊員等や車輛。そして何より隊員等が、納屋を囲い迫っていた傭兵達を、得体の知れない力で瞬く間に押し返し、無力化して見せた事に驚いていた。


「あの人達が?」

「えぇ、ここの住民です。地下にも大勢確認しています」

「了解――皆さん」


 その姿を見止めた河義は、傍らに立つ威末に尋ねる。そして威末の回答を聞いた河義は、村人の二人に近寄り声を掛けた。


「!」


 唐突に掛けられた声に、また驚いた様子のケルケとゼリクスの視線が、河義に向く。

そこには未だ、若干の警戒の色が含まれている様子が見る。


「この建物は火災が酷く、大変危険です。皆さんには、ここから避難していただきたいです」


 しかし切迫した事態を鑑み、河義は彼等に今求める行動だけを、簡潔に述べる。


「避難を……!?しかし、外の傭兵達は大丈夫なのか……!?ここにいるのは戦えない女子供がほとんどだ……!」

「それに、怪我で動けない人間もいるわ……!」


 彼等もこの延焼を続ける納屋に留まり続ける事の危険性は理解していた。しかし同時に、村人達は外に避難する上でも懸念事項を抱えており、二人はその事を訴える。


「大丈夫です、外の相手勢力は間もなく無力化されます。避難中は私達が守り、怪我をした方も私達の車輛で搬送します」


 そんな二人に対して、河義はその懸念を解消するべく説明の言葉を告げる。


「時間が無い、この建物は長くは持たない。難しい事とは思うが、私達を信じて下さい」


 そこへ河義の背後から別の言葉が飛ぶ。そこには威末が立つ姿があり、彼の口から村人の二人に、訴え返す言葉が発せられた。


「……あぁ、分かったよ」


 その言葉を受け、ケルケは一瞬の沈黙の後に、承諾の言葉を紡いだ。

 懇願にも似た威末からの説得の言葉。ケルケは村人達の代わりに決死の戦いを見せた威末の姿を思い返し、その威末からの言葉が、ケルケに要請を受け入れる選択を決断させた。




 呼応展開小隊を始め展開した各隊の戦闘行動により、敵傭兵部隊は処理されるあるいは逃走を始める者が多発し出し、大きく勢いを減少。さらに各隊による押し上げ、周辺家屋の制圧が開始され、やがて周辺一帯の安全化が完了した。

 そしてケルケやゼリクスを通じて、納屋の地下にいる村人達に説得が成され、程なくして延焼を続ける納屋からの、村人達の避難が開始された。

 女子供を主とする村人達は、順番に地上に出て、避難誘導に当たる各隊員の案内指示の元、納屋を脱出してゆく。偵察捜索隊と呼応展開小隊はここまでの行程の最中に、火の放たれていない比較的損傷の軽微な家屋を確認しており、そこを避難場所と定めて、村人達を誘導避難させる事となった。


「皆、気を付けるのよ」


 そんな中に、村人の女ゼリクスの姿もある。彼女は小さな子供達を伴い、そしてその腕に抱え、注意を促しながらその手を引いている。


「ねぇ、ゼリクス……本当に大丈夫なのかな……?」


 そんな彼女に、隣にいる別の村の娘が声を掛ける。ゼリクスと同様に小さな子供達の手を引くその娘は、隠しきれない不安の浮かんだ表情を見せていた。


「さぁね、分からないわ。あの人達は、本当に得体が知れない。何が狙いなのかも……」


 問われたゼリクスは、周辺に展開した隊員の姿をチラと見て、そして呟くように発する。


「――でも、何にせよここで膝を抱えながら、死を待つつもりはないわ」


 しかし直後にゼリクスは毅然とした顔を作り、発する。それはこの状況下で、彼女自身の心を強く保つために発された言葉であった。


「行くわよ。子供達の手を離さないで」


 そしてゼリクスは娘に促し、子供達の手を引き、避難の歩みを再開した。




 自らの脚で歩ける村人達の避難が進む一方、同時に隊員等の手により、負傷している村人達を地下より搬出する作業が並行して行われていた。地下空間に数名匿われていた怪我を負った村人達は、隊員に肩を貸され、あるいは担架に乗せられて搬出され、納屋に乗り付けた高機動車と小型トラックに乗せられてゆく。


「ラストです」


 隊員の言葉と共に、最後の一人である負傷者が担架で運ばれて来る。それはこの村の村長、セノイであった。


「まさか……本当に傭兵達を退けたというのか……!」


 担架の上で横たわるセノイは、そこから見えた納屋の裏手の光景。そこに横たわる無数の傭兵達の死体を垣間見、驚愕の声を上げる。


「えぇ。信じられませんが、そのようです」


 セノイのその言葉に、彼に付き添い担架の脇に立っていたケルケが、言葉を加える。


「驚きだ……あなた方は本当に何者なのだ……?」


 そして周辺の隊員に向けて問う声を上げるセノイ。しかしその身の怪我のせいか、その口調はどこかか細い物だ。


「村長さん。疑問はもっともですが、あまりしゃべらないほうがいい。傷に触ります」


 しかしそこへ、傍にいた威末が促し発する。

 村長達とファーストコンタクトを取った威末は、なし崩し的に村長達に付き添う流れとなっていた。


「後ほど詳しく説明させていただきます。そして私達からもお聞きしたい事がたくさんある――ですが、今は自分の体を労わって下さい」


 セノイに向けて諭すように言う威末。


「あぁ……そうだな」


 威末のその言葉を聞き、セノイは小さく息を吐き、驚きに満ちていた顔に少しの安堵を浮かべて返した。


「――出してくれ」


 そして威末はセノイ達が高機動車に収容される様子を見届け、高機動車のドライバーに向けて合図の声を上げる。それを合図に高機動車は、そして小型トラックはエンジン音を唸らせ発進。驚く村人達を乗せて、先だって避難先を目指しその場を後にした。


「これで完了です」

「了解。4ヘッドよりエンブリー、負傷者の搬送は完了」


 威末は近くに居た河義に、負傷者収容搬送が完了した旨を告げ、それを受けた河義は、この場の先任者である装甲戦闘車の穏原に、その旨を取り次ぐ。


《了解4ヘッド。各ユニット、徒歩の民間人の避難行動が完了次第、私達もこの場より離脱する》


 河義の報告を受け、装甲戦闘車の穏原からは次の行動の指示が、全ての隊に向けて発せられる。


《殿は当車とジャンカー3。他ユニットは順に離脱せよ》


 続け穏原から来る指示。


「聞いたな、竹泉、投。ズラかるからこっちに合流しろ」


 納屋の一角には警戒の姿勢を取る制刻と鳳藤の姿がある。

 そして制刻は聞こえた離脱の指示から、それに備えて合流するよう、正面の家屋に未だ陣取っている竹泉や多気投に投げ掛ける。


《やぁれやれ、やっと終わりかよ》


 そんな要請に、竹泉からは変わらずのダルそうな返答が返って来た。

 その一方で、納屋の上階足場で警戒に当たっていた門試が、梯子を降りて威末の元に合流する姿がある。


「しんどい戦いでしたね」


 門試は威末の元に近寄り、深いため息混じりにそんな言葉を投げかける。


「あぁ……」


 対して威末も、同様の様子で返事を返す。

 そして未だ燃え盛る納屋の内部を、さらに内外に散らばる傭兵達の死体を見渡し、渋い顔を作る。苛烈で凄惨な戦いに、二人の心身は大きく疲弊していた。

 それから程なくして、村人達の避難は全て完了。

 それに伴い、隊も戦闘が行われたその一帯より、撤収した。

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