9-6:「押し上げと衝撃」
廊下に出て、対面の開け放たれた扉から隣室へ踏み込み、その一室の奥に窓を見止める制刻。制刻は窓に駆け寄ると、小銃の銃床を繰り出し振るい、窓を破る。
そしてその破られた窓を何の躊躇も無く乗り越え、家屋の二階から飛び降りた。
飛び降り着地し、家屋の反対側へと出た制刻は、そのまま壁伝いに家屋の角に移動し、カバーする。続き鳳藤が、ややおっかなびっくりと言った様子で二階から飛び降り足を着き、制刻の後ろに同様にカバーする。
制刻はカバーした箇所より、その先に点在する家屋の群れを見止める。その内の一つの窓から火球が飛び出し、こちら側へ飛び来る様子が丁度見えた。飛び来た火球はこちらの家屋の死角へ消え、炎の燃え上がる音だけが聞こえ来る。さらに続いて、鉱石針が飛来し、家屋の壁や窓を破る音が聞こえ来た。
「まだ上の狙ってやがるみてぇだな」
その様子から、相対する傭兵達が未だ家屋上階に注意を向けている事を、制刻は察しを付ける。
「剱。次、奴等の攻撃が来た瞬間に、飛び出すぞ」
「あぁ――」
促す制刻とそれに返す鳳藤。両名は備え、敵の次の攻撃を待つ。
一拍の間を置いた後に、制刻等の耳は、再び飛来した鉱石針の群れが、家屋を叩き貫く音を捉えた。
「行くぞ」
瞬間、制刻が発し、そして両名はカバーしていた家屋の影を飛び出した。
「見ろ」
「あっちもか」
道を挟んだ向こうの家屋に視線を向ければ、その家屋の影から丁度飛び出した竹泉と多気投の姿が見えた。向こうも同様の手段を取ったのであろう。
そう考え零しながら、先に建つ次の家屋を眼に収め、そこに向かって駆ける制刻と鳳藤。しかし両家屋の中程まで駆けた所で、両名の足元に鉱石針が飛び来て突き刺さる。
「ッ!攻撃の間隔が短い!」
「再装填が早いか、あるいはウジャウジャいるのか」
先の攻撃から今の攻撃までのスパンの短さに、鳳藤は苦い声を上げ、制刻は推測の言葉を呟く。そんな制刻等にさらなる鉱石針の群れが飛来し襲い、肌を掠めそして足元に突き刺さる。
「ッ!」
「うぜぇな」
顔を顰めながらも、しかし両名は足を止めず駆ける。そして制刻等は家屋間を駆け切り、次の家屋の壁際へと踏み込む。
その瞬間、制刻は地面を踏み切り飛んだ。そして壁際に設けられていた窓に飛び蹴りをかまし、破り、その勢いのまま窓を潜って家屋内へと押し込んだ。
「ッ!?」
押し入った家屋一階の一室には、二名程の傭兵の姿があった。どちらも窓を割り飛び押し入って来た制刻の姿に目を剥く姿を見せたが、直後にはそれぞれの得物を繰り出し、応戦の姿勢を見せる。
「――ごッ!?」
だが次の瞬間には、内の片割れがのけ反りそして濁った悲鳴を上げた。その傭兵の額には鉈が深々と突き刺さっている。そして一方には腕を翳し伸ばした状態で、床に脚を着けた制刻の姿。
制刻は窓を蹴破り飛び込んだ瞬間に、同時に弾帯に挟んでいた鉈を抜き、傭兵にむけて投擲したのであった。
「な――!?ごぅッ!?」
仲間の仰け反り崩れる姿にもう一人の傭兵が驚愕の様子を見せたが、その直後に彼からも悲鳴が上がり、その体は打ち倒されるようにして崩れる。
制刻の背後には、続き窓を越えながらも、小銃を構えた鳳藤の姿がある。彼女の発砲が、もう一人の傭兵を無力化したのであった。
「――クリア!」
「あぁ、クリア」
窓を越え切り床に足を着いた鳳藤が、引き続き小銃を構えたまま視線を走らせ、そして声を上げる。
さらに鳳藤の声に制刻が呼応。
飛び込んだ家屋の一室に、それ以上の敵の姿は無かった。
「おし、次」
「あぁ」
鉈を傭兵の体から引っこ抜き回収しながら発する制刻。鳳藤がそれに返事を返し、そして部屋を駆け出て廊下に出る。
廊下に並ぶ各扉は、荒された後なのか全て乱雑に開け放たれており、制刻等その各部屋を流れるように手早く確認してゆく。そして廊下の端に上階への階段を見止め、制刻はそこに踏み込み駆け上がる。駆け上がった先の廊下の壁には、設けられたいくつかの扉が見える。両名は先に扉の開け放たれた部屋を覗き攫え、最後に一つだけ閉じられていた扉を見止め、その両端に張り付く。
「いいか?」
「あぁ」
「やれ」
両名は言葉を交わし、そして制刻の合図で鳳藤が扉を後ろ蹴りで蹴破った。
同時に制刻がこじ開けられた扉から、手榴弾を内部に放り込む。扉の向こうから炸裂音が響き、同時に制刻が、続いて鳳藤が小銃を構えて突入した。
突入した先には、四名程の傭兵の姿。いずれも手榴弾の炸裂を諸に浴びたのであろう、彼等は皆炸裂により上がった煙の向こうで、吹き飛ばされて身を打ち、あるいは崩れる瞬間であった。
「――クリア」
「クリアー!」
炸裂を逃れた傭兵の姿は無く、制刻と鳳藤は引き金を引くことなく室内の無力化を確認。それぞれ言葉を上げた。
「……二軒目、完了だ……!」
「あぁ――4-2より4ヘッド。こちらは二軒目を攫えた」
最後の部屋の安全化、そしてその二軒目の家屋の制圧無力化を完了。鳳藤はそれを言葉にして発し上げ、制刻はそれに一言返してから、インカムを寄せて報告の言葉を発報する。
《4-3、同じく。こっちも二軒目叩き終わった》
直後続けて、竹泉等の方からも二軒目制圧完了の報告が上がり聞こえて来た。
《了解、各ユニット。だが敵からの攻撃は以前継続中、おそらく正面奥に見える家屋が、最大火点と思われる!》
報告に対して河義から返答が返されると同時に、続けて外の状況と敵配置の推測が齎される。
「了解、叩きます――行くぞ」
それに対して制刻は端的に、無力化に掛かる旨を返す。そして鳳藤に向けて促し、両名は行動を再開する。部屋を出て廊下を渡り、開け放たれた扉を潜って隣室に踏み込む。そして室内の窓際に滑り込み、身を低くしてカバー。そこから最低限視線を覗かせ、先に建つ一軒の家屋を視認する。
「あの建物か――」
家屋を確認し、呟く言葉を零す鳳藤。
――両名のカバーした窓際のガラス窓が、音を立てて割れ飛び散ったのはその瞬間であった。
「うぁッ!?」
「チッ」
突然割れ、降り注ぎ襲ったガラスの破片の雨に、鳳藤は驚き顔を伏せ、制刻は腕を翳しながら舌打ちを打つ。
そんな両名の頭上を、さらに続けて無数の鉱石針が風を切り飛来し飛び抜け、部屋の反対側の壁に突き刺さる。その上、家屋外部から無数の何かを叩くような音が聞こえ来る。おそらく家屋外部を鉱石針の雨が叩く音だと推測できた。
「ッ……まるで銃撃だ……!」
「あぁ、面白れぇな」
制刻と鳳藤はそれぞれ、降り注いだガラスの破片を払い、あるいは身を振るって退けながら言葉を交わす。
しかしそんな所へ、さらなる攻撃が両名のいる家屋へ襲い来た。
先に見える家屋から火球が飛来。火球はこちら側の家屋の窓縁に当たり拡散し、熱が両名を襲う。さらには相手側には弓手あるいはクロスボウ持ちも居るのであろう、複数の矢が放たれ飛来し、こちらの家屋の壁に突き立ち、あるいは窓を越えて内部へと飛び込んでくる。
「ぅッ!……なんて攻撃だ……!」
立て続けの攻撃に、困惑の声を零す鳳藤。
《ざけてやがる――おいどうすんだよ自由。こっから先、ダッシュで抜けんのは自殺行為だ》
そしてインカム越しに、向こうも同じ状況なのであろう竹泉からの、悪態と訴え尋ねる言葉が寄越され聞こえて来る。
竹泉の言葉通り、敵傭兵からの攻撃はここに来て勢いを激しくし、この中をこれまでの様に潜り抜けて突破するのは危険であった。
「あぁ、このまま踏み込みに行くのは、利口じゃねぇ。まずこっちからも、派手にぶち込む必要があるな」
竹泉からの言葉に、制刻はそんな言葉を返す。
「竹泉、あの家に向けて榴弾をぶち込め」
そして制刻は、竹泉に向けてそんな指示の言葉を送り発した。
《ちょい待ち――ハチヨンは屋内からじゃ撃てねぇぞ、俺に外に出てファンタジーの雨あられの餌食になれってか?》
「俺等で奴等に向けて撃ちまくって、極力抑え込む。その隙を狙え」
指示に対して竹泉は懸念の言葉を寄越したが、制刻はそれに対して援護を行う旨を発する。
「4ヘッド。可能であればそちらからも、火力支援を」
そして制刻は、後方の河義等に向けて要請を発報する。
《了解4-2。可能な限りの火力を正面に注ぐ》
「頼みます――おぉし、オメェ等いいか?」
河義からの了承の言葉をインカムから聞いた制刻は、隣の鳳藤やインカムの向こうの竹泉や多気投に向けて促し発する。
「ッ、了解」
《はぁ、やりゃいいんだろ!》
《オーダー一丁ォ!》
各々からはそれぞれの形で了解の言葉が返って来る。
「おし――始めろ」
そして制刻の言葉と同時に、各々は一斉に行動を開始した。
制刻と鳳藤は最低限身を出して小銃を構え、先に見える家屋の各窓を狙い、発砲を開始。同時に道を挟んだ向こうの家屋からは、多気投のMINIMI軽機の物であろう連続した射撃音が聞こえ響き始める。
さらに後方からは、偵察捜索隊本隊各員の装備火器や、指揮通信車の12.7㎜重機関銃の物であろう発砲音が聞こえ来る。
各方から撃ち放たれた各種口径の弾頭は、その全てが一帯の正面奥に立つ家屋に向けて注がれ始めた。
火力投射により暗がりの中でも、先の建物のガラスが次々に割れ落ち、至る所に穴が開きみるみるうちに損壊して行く様子が見て取れる。
しかしそんな中で、先の建物からも魔法攻撃や矢撃による応射が来る。
飛来した鉱石の針や矢は、家屋の壁を叩き、窓から飛び込み制刻等の頭上を飛び抜け、すぐ傍を掠める。
「く……!」
「怯むな、火力を絶やすな」
「あぁ、分かっている……!」
傍を飛び抜けてゆく数々のそれに、表情を歪め声を零す鳳藤。しかし制刻はそんな彼女に促す。
先の敵の籠る家屋と、各隊の位置する地点の間を、それぞれの攻撃が激しく飛び交う。
敵の籠る家屋からは鉱石の針や矢が無数に放たれ、そして火球が飛来直撃し各所を焼く。
対する偵察捜索隊側も激しい火力投射を続ける。指揮通信車の12.7㎜重機関銃の火線は曳光弾により可視化され、先の家屋に注がれる様子が暗闇の中で一際目立ち、さらに各火器からも容赦のない射撃が続く。
「こんなにも抵抗を見せるか……ッ!」
鳳藤は懸命に小銃の引き金を引き続けながらも、狼狽に近い声を零す。
偵察捜索隊の家屋に向けての投射火力は相当な物に達している。しかしにも関わらず籠る敵からの魔法や矢の応射もまた、多少の衰えこそ見せど、途絶える様子は無く続いていた。
「ゴロツキとは違ぇようだ――竹泉、まだか?」
かなりの抵抗を見せる敵傭兵に、制刻は呟き発する。そしてインカム向けて発し、竹泉に対戦車火器――84㎜無反動砲の準備状況を尋ねる。
《竹しゃん、ハリーだずぇ!》
《もちっとだ、急かすな!》
続き通信に流れる多気投からの急かす声。それに対して、竹泉からの荒い返答が返り聞こえて来る。
《――ヨシ!――ホレ、お待ちかねだぁッ!》
竹泉等の陣取る家屋は、制刻等の居る家屋より少し前に位置しており、そこでの動きは制刻等から良く見える。インカムから声が響くと同時に、竹泉等の家屋の玄関口から、姿を現し84㎜無反動砲を構える竹泉の姿が見える。
瞬間、彼の背後に無反動砲の後部から吐き出されたバックブラストが広がる。そして同時に撃ち出された多目的榴弾が、先の傭兵達の籠る家屋の、上階の窓に飛び込む。
――そして炸裂。
炸裂した多目的榴弾は、炸裂音を上げて家屋の上階を内側から吹き飛ばした。窓からは多目的榴弾の炸裂より発生した煙が噴き出し上り、そして各種破片が外部へと飛散した。
《どうよ?》
「……どうなった……?」
インカムから竹泉の声が届き、続け鳳藤が声を零す。
制刻等は、上階正面が崩落し、煙を上げる家屋を凝視する。
「あぁ、静かんなったみてぇだ」
そして制刻が呟く。
家屋からの矢や火球、鉱石針による攻撃は、多目的榴弾の着弾炸裂を境に止み、火点となっていた家屋の沈黙が確認された。
その家屋の沈黙を最後に、周辺一帯に敵傭兵からの攻撃の様子は見えなくなり、それを確認した事により、偵察捜索隊も攻撃を中止。散発的に聞こえていた銃声が鳴り止み、一帯に静寂が戻る。
「4-2より4ヘッド。火点は沈黙した模様、これから中を抑えに行く」
《了解、十分注意しろ》
制刻は後方の河義に、家屋を制圧に向かう旨を発報。それに河義は警告の言葉を返す。
「竹泉、投。そっから援護しろ」
《へぇへぇ》
「剱、行くぞ」
制刻は竹泉と多気投に支援を要請。
そして制刻と鳳藤はカバーを解いて一室を出て、階段を下りて玄関口より屋外へと飛び出る。
竹泉と多気投等の援護支援の元、家屋間を掛ける制刻と鳳藤。しかしこれまでと違い、敵からの攻撃が襲い来る事な無く、両名は一帯最奥の家屋へと辿り着き駆け込んだ。
そして窓を破り内部に突入。
「クリア」
「あぁ、クリア」
突入先の一室は無人であった。さらに両名は一階の各部屋を周り、全ての部屋のクリアリングを早々に完了。上階に繋がる階段を見つけ、駆け上がる。
「うわッ――」
上階へと踏み込んだ瞬間に、鳳藤は思わず声を上げた。
家屋上階は、各部屋を隔てていた壁のほとんどが破損し破られ、残った部位にも大小無数の穴が開き、蜂の巣となっている。全ては撃ち込まれた銃火、そして無反動砲の多目的榴弾による物であった。
そして制刻と鳳藤は、もはや扉の役割を成していないそれの一片を蹴り除け、一室へと踏み込む。
「ぅ……」
そこで目に飛び込んで来た物に、鳳藤は再び声を零す。
一室内に広がっていたのは、多目的榴弾の炸裂によりあらゆる物が破損し散乱した光景。そして死体となり散らばる、7~8名程の傭兵と思しき者達であった。
「派手に吹っ飛んだな。――4ヘッド、家屋内を抑えた」
一方の制刻はインカムに向けて発しながら、視線を起こす。
一室の正面の壁は、投射された火力の影響で完全に崩落して開け、そこから、ここまで自分達が押し上げて来た一帯の光景がよく見えた。
《了解、周辺からの攻撃も治まったようだ。再編成しよう――各員、奥の家屋で合流だ》
インカム越しに、河義から各員へ合流の指示が伝えられる。
そして道の向こうから、待機していた指揮通信車と各隊が。そして隣接の家屋からも、竹泉と多気投が外へと繰り出て、制刻等の居る家屋へ駆けて来る姿が見えた。
「制刻、鳳藤。よくやってくれた」
指揮通信車を中心に、各隊各員は最奥の家屋の元で合流。
その中から河義が、家屋上階の制刻と鳳藤に言葉を投げかけた。
「えぇ、どうも」
それに対して、端的に返す制刻。
「しかし――苛烈な攻撃だったな……」
「この場を俺等に見られちゃ、都合が悪いんでしょう」
続け河義の呟いた言葉に、制刻はそう推測の言葉を返す。そして制刻は、傭兵達が各家屋内を漁り返し、何かを探している様子があった事を説明した。
「あの人は、〝口封じ〟と言っていた。詳細は分からないが、やはり彼等の狙いは村人達なんだろう」
河義は先程保護したイノリアの発した言葉を思い返し、そして傭兵達の狙いを推測する。
「各家屋に、村の人の姿は無かったんだな?」
「えぇ。出くわしたのは、外の奴等と同じ装備の人間だけです」
河義の問いかける言葉に、制刻は内部の様子を見て返す。
「まさか、皆やられちまったのか?」
「いや――見る所、この村は襲撃されてまだ時間が浅い。生存者がいる可能性はまだある」
指揮通信車上の矢万が懸念の言葉を発するが、河義はそれを否定。可能性の言葉を発する。
「もっとよく村の内部を捜索する必要があるな」
「そんじゃあ、二手に分かれますか。俺等は、村を外周沿いに漁ります」
そして河義の続け発した言葉に対して、制刻が進言の言葉を上げた。
「いいだろう。なら私達は、集落の中心部に行ってみる」
「おぉし。剱、竹泉、投、行こうぜ」
河義は許可の言葉を聞き、制刻は鳳藤等に向けて声を発し、壁の崩落し開けた所から地上へ飛び降りる。
「お、おい待てよ」
「まーた勝手に決めやがって」
「ラインにボールを決めにいこうぜぇッ!」
鳳藤は困惑しながら制刻を追って飛び降りる。そして地上では竹泉が悪態を吐き、多気投が揚々と発する。
「偵察捜索隊本隊は、集落の中心部を目指す。かかれ――」
その様子を横目に見ながら、河義はその他の各員に向けて指示を発する。そして偵察捜索隊は二手に分かれ、それぞれの行動を開始した。




